詩乃が警察から解放されたのは、まる一日が経った後だった
一日目は明久と共に警察病院に搬送されて、そこで検査をしてから警察から事情聴取された
ただ途中で、医師がドクターストップを出した
『今彼女は、酷く衰弱しています。今日、これ以上の事情聴取は許可出来ません』
と
確かに、色々と予想外の事態が重なって、酷く疲れていたのは事実だった
だから詩乃は、宛がわれた部屋で眠りに着いた
そして起きると、朝食を食べた後に事情聴取が再開された。
その後は自宅に行き検分に立ち会った
それが終ると、念の為にと警官寮に案内された
そして翌日、詩乃は覆面パトカーで学校近くに送られた
その時に警察が
『念の為に、しばらくは我々が周囲を警備します』
と言っていた
それが、今朝のことだった
その後は何事もなかったかのように、一日を過ごした
驚いたことに、新川恭二が逮捕されたことを殆どが興味ないと言った様子だった
どうやら、ここ最近不登校だったようだ
そして詩乃は今、一人で校舎裏に来ていて背中を壁に預けていた
そんな場所に居る理由は、呼び出されたからだ
呼び出した相手は、何時もの三人組
詩乃がマフラーを少し上げた時、ようやくその三人の声が聞こえた
視線を向ければ、三人が喧しく会話しながら来ていた
「呼び出しておいて、遅いわよ」
「ああ? 調子に乗ってんなよ、朝田」
詩乃の言葉に、一人がそう言った
そして、詩乃に一歩近づくと
「ほら、金出せよ。アタシら、これからカラオケ行きたいからさ」
と言って、詩乃に向けて手を出した
それを見て、詩乃は心中で
(さて、ここからね)
と自らを鼓舞した
そして、何時も通りの目と口調
「貴女達に渡すお金なんて、無いわよ」
と言った
すると、相手の女子は青筋を浮かべて
「朝田如ぎが、調子に乗ってんじゃねぇ!」
と言って、バックに右手を突っ込んだ
そして取り出したのは、黒光りする一丁の銃
モデルガンだった
その女子は、そのモデルガンを詩乃に突き付けて
「兄貴には、絶対に人には向けるなって言われたけどな! てめぇには関係ねえだろ、朝田!」
と喚くと、引き金を引こうとした
だが、引き金は引けなかった
ガチリと言って、引き金は止まった
その女子は驚きで目を見開いた
次の瞬間、詩乃は大きく踏み込んで肉薄
そして、銃を握っている手を掴むと、軽く捻り、銃を奪った
「な、あ、あ……」
「ガバメントね……お兄さん、いい趣味してるわ。私の趣味じゃないけど」
詩乃はそう言うと、見えやすいように側面を見せて
「銃って言うのはね、安全装置が組み込まれてるのよ」
と言って、側面のレバーを下げた
それが、安全装置だ
「更に言えば、一回コッキングしないと撃てないわ」
詩乃はそう言うと、スライドを引いた
これで、薬室に弾が装填された
そして詩乃は、少し離れた位置にある花壇
そのレンガの上に置いてある空き缶に、狙いを定めた
GGOで慣れ親しんだ、スタイルだ
詩乃は目を細めた
現実世界では、照準サークルは出ない
しかし、詩乃には当たるという確信があった
引き金を引くと、拍子抜けするような音と共にBB弾が弾き出された
放たれたBB弾は、空き缶の上部に命中
空き缶は軽い音を建てて、花壇から落ちた
詩乃はそれを見ると、銃口を下ろした
そしてゆっくりと、三人に視線を向けた
すると、先ほどで意気がっていた女子は
「や、やめ……撃たないで」
と、狼狽えていた
詩乃は溜め息混じりに、手早く安全装置を掛けた
そして、グリップの方を差し出して
「お兄さんの言う通り、人に向けないほうがいいわ」
と言った
女子はモデルガンと詩乃を、数回交互に見た後、恐る恐るといった様子でモデルガンを持った
それを見た詩乃は、掴んでいた手を離して、地面に置いてあった鞄を背負った
そして、三人の横を通り過ぎ様に
「それじゃあ、さようなら」
と言って、足早に去った
詩乃は少し離れた場所に来ると、膝に両手を置いて荒く呼吸した
今回のは、詩乃にとって大きな一歩だった
もう一度やれ、と言われても、簡単には出来ないだろう
「でも、立ち向かわないとね……過去に」
詩乃はそう言うと、大きく深呼吸して立ち上がった
そして、校門目掛けて歩き出した
そして校門付近に来ると、何や騒がしかった
なんだろ、と思っていると、その中の一人にクラスメイトを見つけた
それも、三人が流布した詩乃の過去を知っても態度を変えなかった数少ない一人だった
「近藤さん、どうしたの?」
詩乃が問い掛けると、その女子
近藤は振り返り
「あ、朝田さん。それがね、校門向こうに知らない男子が居るの。しかも、バイクで来たみたい」
と言って、校門向こうを指差した
嫌な予感がした詩乃は、そっと近藤が指差した方を見た
するとそこには、青いライダースーツを着た少年が居た
ヨシアキこと、吉井明久だ
明久はバイクに寄り掛かるような形で空をボーっと見上げていた
詩乃は、思わず叫ばなかった自分を誉めた
そして、ゆっくりと振り向くと
「ごめんなさい、あれ……私の知り合いみたい」
と言った
すると、近藤は目を見開き
「朝田さんの連れ!?」
と叫んだ
すると、周囲に居た他の女子達が口々に
「嘘っ!? 朝田さんの彼氏!?」
「うあぁぁぁぁ! 大穴じゃんか!?」
「ちくしょう、当てた人居るの!?」
と言い始めた
どうやら、トトカルチョしていたらしい
すると、近藤が詩乃に詰め寄り
「朝田さん、どういう知り合い!?」
と問い掛けてきた
その問い掛けに、詩乃は答えられず
「ご、ごめんなさい!」
と言って、一気に走り出した
すると背後からは
「あー! 逃げた!!」
「朝田さーん! 明日、覚悟しなさいよー!」
と、聞こえた
そんな声に、詩乃は心中で明日はどうしよう
と悩みながらも、明久に近寄り
「ちょっと、ヨシアキ!」
と明久に声を掛けた
すると、空を見上げていた明久が詩乃に顔を向けて
「やっほ」
と気楽に片手を上げた
そんな明久に、詩乃は深々と溜め息を吐いて
「あんたね……少しは考えなさいよ。そんなバイクで来たら、注目されるに決まってるでしょ!?」
と怒った
すると明久は、校門の方に視線を向けて
「ああ、通りで視線が凄いわけだ」
と納得していた
そして、少し考えると
「もしかして、生活指導の先生とか来るかな?」
と首を傾げた
それを聞いて、詩乃は
「じ、冗談じゃないわよ!?」
と言って、校門に視線を向けた
幸いにも、今のところはそう言った姿は見えない
しかし、何時来るかは分からない
だから詩乃は
「ほら、さっさと行くわよ!」
と明久に言った
すると明久は、ハンドルに掛けてあったもう一個のヘルメットを詩乃に差し出した
詩乃は受け取ると、装着しようとした
だが、上手く着けられない
すると、手早くヘルメットを着けた明久が
「ちょっと、ごめんね」
と言って、詩乃のヘルメットをロックした
すると、校門の方から黄色い声が聞こえた
それを聞いて、詩乃は
(今度、GGOでヘルメット式プロテクターの着け方を練習しよう)
と心に決めた
そして明久は、詩乃のヘルメットがちゃんと装着されたのを確認すると
「それじゃあ、行こうか」
と言って、バイクに股がった
そして詩乃は、その後ろに座り
「安全運転でお願いね」
と念押しした
「任せてよ」
明久はそう言うと、バイクを進ませた