アスナ
否、明日奈は視界が暗闇に変わった理由をすぐに察した
それを確認するために明日奈は、アミュスフィアを外した
すると明日奈が寝ていたベッドの隣に、明日奈の母親
結城京子が居たのだが、アミュスフィアの電源コードを引き抜いた姿で立っていた
「母さん!」
「明日奈、私は言ったはずですよ? 六時半までに食卓に着いてないと、コードを引き抜くと」
明日奈が非難がましく睨むと、京子は淡々とそう告げて、握っていたコードを手放した
そして、ドアを開けて廊下に出ると
「直ぐに来なさい。夕食にしますよ」
と言って、ドアを閉めた
それを見送ると明日奈は、深々と溜め息を吐いてから電源コードを差し直してから部屋から出た
そして一階に降りて、食卓のある居間に向かった
そこには既に、京子が座って食べ始めていた
そして明日奈め席に座り、小さく
「いただきます」
と言って、食べ始めた
実を言えば明日奈は、実家での食事が嫌いだった
その理由は、まるで食事が作業のように楽しくなかったのだ
会話は無く、黙々とただ料理を口に運ぶだけ
それが、明日奈には苦痛だった
結城京子
彼女は大学で講師をしているらしく、理路整然としている
しかし、最大限に効率を求めており、更には自分が正しいと信じて疑わない
それが、明日奈は嫌いだった
すると、京子が
「明日奈、後で渡す書類に目を通してサインしときなさい……転校させるから」
と言った
それを聞いて、明日奈は
「どういうこと!?」
と声を上げた
すると京子は
「あの学校では、明日奈の未来は活かしきれないわ……あんな学校、ただの寄せ集めじゃない。教師だって、本来だったら引退間際の人材ばかり……だから、知り合いの校長に頼んで私立の編入の手筈を整えたわ。一応試験をやるけど、明日奈なら大丈夫なはずよ」
と言った
確かに、今行っているSAO帰還者専用の学校は元々統廃合により廃校になったある学校の校舎を再利用
そして教師は、本来だったら引退するはずだった教師や有志の教師によって作られた学校である
京子の言葉は、そんな学校に通う明日奈を心配する母親らしい言葉だろう
しかしそれは、明日奈の意思を無視していた
そして明日奈は、京子の話を聞いてあることを思い出していた
それは、今から少し前
京都の結城家宗家に親戚一同が集まった日、突如として明日奈の下に裕也が来たのだ
なんと裕也は、結城家に連なる者だったのだ
すると裕也は、まず形式的な挨拶の後にある話題を出した
それは
「私と裕也君の婚姻……まさか、母さんが?」
「そうよ」
裕也との婚約だった
裕也も突如、最近は見舞いにすら来なくなった父親から言われたらしい
いきなり、明日奈に良い印象を与えておけと
その理由が、京子だったのだ
「まさか、キリト君のことを……」
「ええ、調べさせてもらったわ……彼、平凡じゃない。確かに解放の英雄だなんて言われてるけど……ただのゲーマーとやらね」
明日奈の問い掛けに、京子は淡々と答えた
その言葉を聞いて、明日奈は必死に怒りを堪えた
まだ、懲りていなかったのかと
以前の婚約者
須郷は、京子と父親
彰三が選んだのである
経歴と須郷が見せていた表向きの人柄に騙されて
「母さん、懲りてないのね……そうやって選んだ須郷さんは、どうだったかしら」
「その名前を出さないで……」
明日奈にそう反論しながら、京子は明日奈を睨んだ
そして、続けて
「何が不満なのかしら……彼病弱みたいだけど、人柄もいいわよ……」
と言った
確かに、裕也の人柄は明日奈もよく知っている
真面目で優しく、仲間思いである
しかし
「母さん、知らないのね……彼、彼女さんが居るのよ?」
「え? 向こうの家からは聞いてないわよ?」
そう裕也は、結華と付き合っている
しかし、知らないのは無理からぬこと
なにせ裕也の家族の殆どは、最近は裕也と向き合っていなかったのだから
「向こう、家族仲は悪いみたいね……裕也君、最近は家から出ることも考えてるみたいよ?」
明日奈の話を聞いて、京子は
「なんてこと……聞いてないわよ、そんなこと……」
と呟いた
そして明日奈は
「母さん、先に言っておきます……私は、転校する気はありません」
と告げて、立ち上がった
「明日奈、座りなさい」
と京子は静止するが、明日奈は無視
居間から出た
ドアを開けた時に京子が再び明日奈を呼んだが、明日奈は部屋に戻った
そして明日奈は、ベッドに寝転がって
「キリト君……」
と泣きそうな声を漏らした