それではどうぞ。
「気配は何処からだ、と…」
アヴェルは僅かに感じられるモンスターの気配を辿り、猛スピードで地下1階の通路を走り抜けていた。その後ろからはノースが同じくらいのスピードで飛び、ヴァルは頑張ってその背中にしがみ付いている。
そのまま一人と二匹は、地下駐車場へと到達しようとしていたが…
「…ッ!!」
「キキッ!」
「クワァ~ッ!?」
近くまで来た事で気配がハッキリしてきたからか、アヴェルはその場で急停止。ノースもその場で急ブレーキをかけ、ヴァルはその勢いで危うく吹っ飛ばされそうになる。
「…チッ、よりによって奴等かよ」
「アヴェルさん!」
アヴェルの後方から、バリアジャケットを纏ったフェイトが追いついて来た。
「も~う、何の説明もせずに先々行かないで下さい! はやても怒ってましたよ!」
「悪い悪い。モンスターの気配感じたもんだからつい……っと」
アヴェルはフェイトに軽く謝罪した後、ホルスターからクロスボウを取り出す。
「地下駐車場…?」
「お前も構えとけ。間違い無くこの先にいる」
アヴェルが地下駐車場の中へと進み、フェイトも息を呑みながらそれに続く。
ゥゥゥゥゥゥゥ…
「ひっ…!?」
地下駐車場の奥から怪しい呻き声が聞こえ、フェイトは思わず後退りする。
「…まぁ、最初は誰だってびびるだろうな」
アヴェルも苦笑するが、すぐに表情を切り替え、自分達の前方にいるモンスター達を睨み付ける。
「ウゥゥゥゥゥゥ…」
「ゥゥゥゥ…」
「ウウウウゥゥゥゥゥゥ…」
全身が茶色で人間の形をしている、複数の“何か”。棒立ちのまま下を俯いている個体もいれば、しゃがみ込んでいる個体もおり、どの個体も怪しい呻き声を上げている。それ以外に分かっているとすれば、このモンスター達の放つ不気味さが尋常でないという事であろう。
「何ですか、これ…!?」
あまりの気味の悪さに、フェイトは思わず手で口元を押さえる。
「リーデット」
「え…?」
「目の前にいる、あの屍共の名前さ」
アヴェルのクロスボウに矢が装填される。
「死体の埋められている墓地の他に、日光の届かない場所にも出没する。今ここに現れているのも、この日がちょうど曇りで太陽が出ていなかったからだろうな」
説明しながら、クロスボウを一体の棒立ちしているリーデットに向ける。
「アヴェルさん、何を…?」
「まぁ見てろ」
ゆっくりと狙いを定め…
-バシュッ!!-
矢を発射、見事リーデットの頭部に命中する。
「やった!」
「…チッ、やっぱ効かねぇか」
「え?」
フェイトが喜ぶも、アヴェルは舌打ちする。
よく見ると、頭に矢が刺さっているにも関わらずリーデットは平然と立っていた。おまけに矢が少しずつ頭をすり抜けて地面に落ち、矢の刺さっていた頭は元通りに直っていく。
「嘘、効いてない…!?」
「リーデットには二つの厄介な点がある。一つ目は、普通の飛び道具では効果が薄い事。体が土で構成されているから、普通に撃っても体をすり抜けて再生してしまう」
アヴェルがそう説明する中、矢で撃たれた個体も含めリーデット達は二人に対し、全く見向きをしていない。
「…そういえば、私達に気付いてないんでしょうか?」
「視界から外れてさえいれば、近くにいても意外と気付かれにくいのさ。ただし…」
アヴェルはクロスボウを納め、別のリーデットの下まで歩き出す。
「視界に入ると、大変な事になるがな」
そう言って、リーデットの前に立つ。
その瞬間…
「キェェェェェェェェェッ!!!」
「キャッ…!!?」
アヴェルの目の前にいるリーデットが突然大きな奇声を上げ、フェイトは思わずビクッと反応する。
リーデットはアヴェルに狙いを定め、ノロノロと近付き始める。それに対しアヴェルは何もせず、ただその場に突っ立っている。
「アヴェルさん、危ないですよ!?」
フェイトが叫ぶも、アヴェルはその場から動かず、自身に迫り来るリーデットを睨む。
そして間近まで近付いたリーデットは、思いきりアヴェルに抱きついた。
「アヴェルさん!!」
フェイトがすぐにバルディッシュを構え、リーデットに攻撃を仕掛けようとしたその時…
「―――獄炎“大輪火山”!!」
-ボォォォォォンッ!!-
「!?」
アヴェルに抱きついていたリーデットが全身火達磨になり、アヴェルから引き離される。
「ゥゥゥ…」
燃えるリーデットはその場に倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「…へ?」
「まずは一体」
フェイトはポカンと口を開け、アヴェルは手でタキシードをポンポンと払う。
「もう一つの厄介な点は、睨まれると金縛りみたいに動けなくなる事。ただし、動けなくなるのはあくまで一時的な上に、抱きつかれた場合は割とすぐに金縛りも解ける。今回は敢えて引っかかる事で、抱きつかれた瞬間に攻撃する事にした」
「そういう事は早く言って下さい!! 見てるこっちが怖いじゃないですか!!」
目の前でモンスターに襲われそうになっていたのだから、フェイトが焦るのも無理は無い。
「悪い悪い。口で言うより、実際に試して見せた方が早いと思ってな……さて、次は」
アヴェルが振り返ると、他のリーデット達が一斉に二人の下まで歩き始めていた。
「ッ!?」
「安心しろ、今は問題無い」
怯えるフェイトをアヴェルが落ち着かせる。
何故かリーデット達は二人を無視しており、ゆっくりと横を通り過ぎていく。
「あれ……襲って、来ない…?」
「こいつが原因さ」
アヴェルは先程倒したリーデットを指差す。今も燃えているリーデットの周りに、他のリーデット達が集まり始めている。
「何故かは知らんが、複数いるリーデットの内一体でも倒されると、他の連中が一斉に集まり出す習性がある。その間は、俺達が視界に入っても見向きはしない。そしてそれは…」
アヴェルが剣を抜き、黒い炎を纏わせ…
-ズバァァァァンッ!!-
「…複数のリーデットを、まとめて倒すチャンスでもある」
そのままリーデット達を斬り裂く。リーデット達は呻き声を上げ、そのまま跡形も無く燃え尽きる。
「凄い…」
「対策は二つ。刃物で体を切断するか、火で丸ごと燃やすか、だ。視界に入らないようにな。という訳でフェイト」
「へ…あ、はい!! 何ですか!?」
アヴェルに呼びかけられ、フェイトはハッと我に返る。
「リーデットについて、他の皆にも連絡して伝えておいてくれ。もしリーデットがここ以外にもいるとなると、スバル辺りが何も知らずに突っ込んで逆にやられてしまう可能性があるからな。一応、俺もすぐにサポートに向かうが」
「は、はい、分かりました!」
「頼むぞ。ノース、ヴァル」
「キキッ!」
「クワァ~ッ!」
リーデットに関する情報伝達はフェイトに任せ、アヴェルはノースとヴァルを連れてその場を後にした。
『ケケケケケ…』
オークション会場の裏側にある倉庫。
骨董品やロストロギアなどの荷物が積んである場所に、透明になっていたビッグポウが姿を現す。
『役に立ちそうな物、さっさと回収……ケッケッケッ』
不気味な声で笑いながら、ビッグポウの物色が開始される。
『ケケケ……む?』
ビッグポウの視界に…
「すぅ、すぅ…」
荷物の上に乗り掛かったまま、深い眠りについている女性の姿が映る。
『何だ、こいつ…?』
ビッグポウは首を傾げる。
群青色に靡く長髪に、幼さの残る顔立ち。胸の膨らみはそれなりに大きく、水色のノースリーブに黒のショートパンツといった、露出度の高い服を着ている為に色気がかなり増している。
これが人間の男性なら、そのあまりの色っぽさに食いついているかもしれないだろう。しかしビッグポウは幽霊の姿をした魔物、あいにく人間の女性に欲情するような感性は持ち合わせていない。
『誰だか知らんが、荷物の上に乗られては邪魔だ…ケケッ』
ビッグポウは宙に浮いて、ぐるぐる回転し始める。
「んむ、ぅ……うにゅ?」
女性の目がパチリと開く。
『そこをどいて貰うぞ、ケケケケケケ…!!』
ビッグポウは回転したまま、女性に突撃する。
しかし…
「凍て付け“スノウマン”」
攻撃が、女性に当たる事は無かった。
『何、ピギャァァァッ!!?』
女性が右手をかざすと同時に、ビッグポウの真下に青色の魔法陣が出現。そこから噴き出される白い冷気に、ビッグポウは一瞬にして氷付けにされてしまった。
「全く、うるさい奴め…」
女性は体を起こし、周りをキョロキョロと見渡す。
「…まだ眠い。場所を変えて寝るとしよう」
女性は「ふぁぁ」と欠伸をしつつ、立ち上がって移動を開始するのだった。
という訳で、リーデット登場で~す。
今回はアッサリ倒されましたが、出番はこれで終わりじゃありません。更に次回は、“みんなのトラウマ”と言えるモンスターが他にも登場します。
え?
だから最後の女は誰なんだって?
それはまた後ほど。
え?
ビッグポウの扱いが酷過ぎる?
それは聞かない約束だ!←