ではどうぞ。
ホテル・アグスタでの任務終了後。
アヴェルはひとまずフリザドも退治し、一同と合流。
シャマルやリイン達の話によると、謎の召喚虫が出現した直後にガジェットの動きが大きく変化していたらしく、一同は破壊したガジェットの残骸調査も行う事にした。
今回は特にこれといった変化は見られなかったので、一通り調査を終えてから六課へと帰還する事となった。
そして、時間帯は夕方に近い夜…
「はてさて、どうっすかねぇ…」
六課の外で散歩していたアヴェルは、ある事に困り果てていた。
「…あと五本かぁ」
アヴェルはクロスボウを構えながら呟く。
実は今回の戦闘で、クロスボウの矢がほとんど尽きかけてしまっており、何十発かはあったのが残り五本までしか残っていなかった。このミッドチルダではデバイス以外の武器を使用する事は禁止されている為、矢の補充などとても出来そうにない。その事でアヴェルは頭を悩ませていた。
「躊躇なく使ってたのが裏目に出たか……はぁ」
クロスボウを納め、アヴェルは溜め息をつく。
そんな時だ。
「…ん?」
アヴェルの歩こうとする先から、僅かに魔力を感じ取る。
「これは…」
魔力反応を辿って、木々の中を踏み入っていく。
「…お?」
進んでいく内に、アヴェルはティアナを発見した。
周囲に浮かびながらランダムに光るマーカーに狙いを定め、マーカーが光ってはそれを狙い、また別のマーカーが光ってはそちらに狙いを定めると、ティアナはただそれを繰り返していた。
「お~い」
「!? アヴェルさん…」
アヴェルに声をかけられ、ティアナは驚いて振り返る。
「何してんだ? こんな所で」
「…トレーニングです。二度とあんな失敗をしないように」
「ふぅん」
アヴェルは周囲に浮かぶマーカーを見渡す。
「練習するのは別に良いんだが、それで身体を壊したんじゃ元も子も無ぇぞ」
「…詰め込んででも練習しないと、上手くならないんです。私は凡人ですから…」
「凡人、ねぇ……っと」
アヴェルは何かに気付き、クロスボウを取り出す。
「!?」
「動くな」
-バシュッ!!-
矢が発射され、ティアナの顔の真横を通過して一本の木に突き刺さる。
「ハチ」
「え、あ…」
木に刺さった矢は、よく見ると一匹のハチを貫いていた。ティアナはそれを見て驚嘆する。
「ハチの飛ぶ音はさっきから聞こえてた。それにすら気付けないんだ、お前も少し休んだらどうだ?」
「…ありがとうございます。けど大丈夫です。私は今よりも、もっともっと強くならないといけませんから。今のアヴェルさんみたいに、狙った目標をちゃんと狙えるくらいには…」
「…そうかよ。まぁ俺もこれ以上は言わんけど、あんまり無茶するなよ?」
「はい、すみません…」
アヴェルはティアナの表情を見て何となく察したのか、それ以上は何も言わず、その場を立ち去る事にした。
ティアナはアヴェルが立ち去っていくのを見届けた後、トレーニングを再開するのだった。
(強くならないといけない、か…)
去り際に、アヴェルはティアナがトレーニングしていた方向をもう一度振り返る。
「…赤の他人である俺が、首を突っ込んで良い話じゃないか」
アヴェルは小さく呟き、また歩き出した。
「―――あ、しまった!? また一本使っちまったよ!?」
矢の本数、あと四本。
「それじゃ、まずはスターズからやろうか」
「「はい!」」
数日後、スターズとライトニングに分かれて模擬戦を行う事になった。
まずはなのはとスターズの二人が模擬戦を始める事になり、ヴィータ、エリオ、キャロ、そしてアヴェルは離れた場所で見学する事になった。フリードとノース、ヴァルはそこらでじゃれ合っている。
そして模擬戦が始まって少し経ってから、フェイトがやって来る。
「ごめん。もう始まっちゃってる?」
「いや、さっき始まったばかりだ」
「もう……本来は私がやる事なのに…」
「なのはの奴、最近あんま寝てねぇんだよな。昨日も夜中までデータ整理してたし」
「「そうなんですか!?」」
「…熱心だな」
ヴィータの話を聞いたエリオとキャロは驚き、アヴェルは呑気に関心している。
それから更に模擬戦は続き、ティアナが魔力弾を発射する。
「ん? なんかキレが無ぇような…」
「コントロールは良いのに」
ヴィータとフェイトは首を傾げる。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ウィングロードからスバルが迫る。なのはは自分に向かって来るスバルはフェイクだと考える。
しかし、実際は違った。
「フェイクじゃない、本物!?」
「あらら」
スバルが本物である事に、なのはだけでなく見学していたフェイト達も驚く(アヴェルの反応はかなり薄いが)。
「レイジングハート!!」
なのはが複数の魔力弾を放つも、スバルは回避をする事無く、プロテクションを張りながら真っ直ぐ突っ込んでいく。
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
なのはのラウンドシールドとスバルのリボルバーナックルが激突し、なのはが押し返す。弾かれたスバルは体勢を立て直し、ウィングロードへと着地する。
「こら、そんな軌道は駄目だよスバル!」
「すいません!! でもちゃんと防ぎますから!!」
「もう……ティアナは?」
スバルに注意するなのは。しかし途中からティアナの姿が見当たらない事に気付く。
「!? ティアナが砲撃だと!?」
ヴィータ達はティアナとスバルの行動に驚かされてばかりだが、アヴェルだけはあまり驚く反応を見せていない。
(面倒な事になる気がするな…)
「ノース」
「キキッ?」
何となく不審に思い始めたアヴェルは、ノースをマントに擬態させ、背中に纏う。
『クロスシフトC、行くわよスバル!!』
『うん、ティア!!』
スバルはカートリッジを二発ロードし、なのはに攻撃を仕掛ける。
(よし、これならいける…!!)
ティアナも同じようにカートリッジをロードする事でクロスミラージュに魔力刃を生成し、なのはに向かって突撃する。
「おりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「でりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「レイジングハート、モードリリース」
-ズドォォォォォォンッ!!!-
スバルとティアナの二人がなのはとぶつかり合い、大爆発が起こった。
「くっ、凄ぇ爆発だ!!」
「煙で見えない…!!」
「こうするのが手っ取り早い。ノース!」
「キキィッ!!」
アヴェルの指示でノースが翼を出現させ、羽ばたく形で煙を吹き飛ばす。
煙があっという間に吹き飛び、煙の中から姿が見え出した。
「!! …あれは」
「ねぇ、二人共。どうしちゃったのかな…?」
「「!?」」
なのはは素手でリボルバーナックルとクロスミラージュの魔力刃を受け止めており、スバルとティアナはこれを見て驚愕する。
「二人で頑張るのは良いけど……模擬戦は喧嘩じゃないんだよ?」
「あ、ぁ…」
なのはの低く冷たい声と、魔力刃を受け止めている手から流れる血を見て、ティアナは少しずつ顔が青ざめていく。
「練習の時だけ言う事聞いて、本番でこんな無茶するんじゃ……練習の意味、まるで無いじゃない」
なのはは二人を見据える。
そこには、いつもなのはが見せる笑顔は無く、とても暗い顔だった。
「ねぇ、私の指導………そんなに間違ってる?」
「…ッ!!」
ティアナはクロスミラージュの魔力刃を解除し、後方に下がる。
「私は……誰も傷つけたくないから、誰も失いたくないから!!」
ティアナの目からは涙がこぼれる。
「だから…強くなりたいんです!!!」
「…少し、頭冷やそうか」
なのははティアナに指を向ける。
「クロスファイアー…」
「ッ……うああああああああああああああっ!!! ファントムブレイ―――」
「シュート」
-ドォォォォォォンッ!!-
無情にもなのはは、ティアナに攻撃を命中させた。
「ティアァァァァァァァァッ!!!」
スバルの叫び声が響き渡る。
「予想外だったな。まさか、あそこまでやるとは…」
普段呑気なアヴェルでも、なのはが激怒している事くらいはすぐに理解出来た。しかし思っていた以上に過激な展開になってしまったので、流石のアヴェルも驚きを隠せないでいた。
「…まぁ、それはさておき」
アヴェルが鞘から剣を抜く。
「どうする? 流石にあれ以上はまずいだろうし、止めた方が良いんじゃないか? 何だったら、俺が止めに行っても良いんだが」
「いや、行くな!」
「!?」
「「ヴィータ副隊長!?」」
ヴィータの発言に、エリオとキャロが驚いて振り返る。
「これはあいつ等の問題なんだ。あたし等が、首を突っ込んで良い問題じゃねぇんだ…!!」
「…あぁそう」
それを聞いたアヴェルはアッサリ了承し、剣を鞘に納める。
「な、アヴェルさん!!」
「止めないんですか!?」
「今の俺に決定権は無い。止めるなと言われりゃ、俺はそれに従う事しか出来ない」
そう言って、アヴェルは再びなのは達の方に目を向ける。
「ティアッ!!」
ティアナに攻撃が命中したのを見て、スバルが駆け出そうとする。
しかし…
「ッ!? バインド!?」
スバルの身体を、なのはのバインドが縛り付ける。
「スバル、そこでよく見ていなさい…」
なのはが瀕死寸前のティアナに再び指を向け、魔力弾を生成する。
「やめて下さい!! なのはさん!!」
スバルが泣き叫ぶも、なのはの耳には届かない。
そして…
-ドォォォォォォォンッ!!-
ティアナに、二発目の攻撃が命中した。
「ティアァァァァァァァァッ!!!」
撃墜されたティアナが、ウィングロードの上に落下する。
「スターズの模擬戦は終わり。スバルもそこで、じっくり頭を冷やしてなさい…」
なのははそう言って、スバルに対して振り向く事も無くその場を飛び去っていった。
なのはが飛び去った後、バインドに縛られたままのスバルはその場で俯く。
「やれやれ、何とも重苦しい空気だな」
なのはと入れ違いで、ノースの翼で飛来したアヴェルがウィングロードに降り立つ。
「心配するな。ナノハもいくらか加減くらいはしてるだろうし。ティアナは俺がシャマルの所まで運んでやるよ」
アヴェルはスバルを縛るバインドを引き千切った後、気絶しているティアナを担ぎ上げる。
「…私達」
「ん?」
スバルが顔を上げる。
「私達……一体、どうしたら良かったんですか?」
彼女の目からは、涙が溢れ出ていた。
「…さぁな。俺からは、何とも言えんよ」
アヴェルはそれだけ言い残し、ティアナを運ぶ為にその場を飛び去った。
今回は白い魔王が出現したものの、アヴェルの介入はありませんでした。
彼はあくまで傭兵ですから、必要以上に首を突っ込む事は出来ないのです。
あのシーンは見ているこっちも精神的に参るので、次回か次々回辺りでどうにか仲直りをさせたい所です。