取り敢えずどうぞ。
「やれやれ、昨日もまた散々な目に遭ったッピ…」
森の中のテント。
その近くで、一体のアキンドナッツが商売用のアイテムである武器を磨き上げていた。彼の後ろには、既に磨き終わっているであろう武器が複数置かれている。
「お嬢さんに抱きつかれた結果、また氷付けにされる羽目になって……少しはこっちの身にもなって欲しいッピ!! 何でオイラだけいつもこんな目に遭うッピ!!」
アキンドナッツは愚痴を零しつつ、手に持った武器を丁寧に磨いていく。
「そもそも、数年前にこの世界にやって来てしまったのが始まりだったッピ。到着した先で突然あのお嬢さんに「うるさい安眠妨害」とか言っていきなり氷付けにされ、そしてやっと氷の中から解放されたと思ったら所持していた商品が次々と持ってかれ、挙句の果てには売る商品が役立つからって強制的に同行させられる羽目になるし………オイラは便利屋じゃないんだッピ!! これ以上あのお嬢さんの無茶振りに付き合わされるのはもう散々なんだッピ!!!」
「ピィィィィィィィィィ!!」とアキンドナッツが叫ぶも、誰も返事を返してくれる者はおらず、代わりに周りの木に止まっていた鳥達が一斉に羽ばたいていく。
「幸い、あのお嬢さんにもちゃんと代金は支払って貰ってるからまだ良い方だッピ。でもこのままだといつか、本当にツケという名目で商品を何もかも持っていかれそうだッピ…」
トホホと嘆きながら、アキンドナッツは手に持った武器を磨き終え、次に大型のハンマーに手を伸ばすのだった。
「どうだ? 美味かろう」
「…ふむ、確かに」
現在はアヴェルと二人で、近くの喫茶店でスイーツを味わっているところだった。ミスティアはイチゴの乗ったショートケーキと紅茶、アヴェルはチョコケーキとコーヒーである。アヴェル曰く、「紅茶は自分の口には合わない」という理由でコーヒーにしたとの事。
「気になってたんだが、お前よくこういう店で金を払えるな。この世界での通貨はルピーとは違うだろうし、金は何処で手に入れたんだ?」
「ほぅ……知りたいか?」
「…いや、やっぱ良い」
所持金はどうしてるのか聞こうとしたアヴェルだが、ミスティアが黒い笑みを浮かべたのを見て前言を撤回する。
「…それで、この後はどうすんだ? もうさっきから色々と付き合わされているが」
「そうだな……食後の運動という事で、少し散歩にでも付き合って貰おうかな。どうせ六課とやらでは休みも出ているのだろう? 二人だけの時間なんだ、今更、嫌だとか言わないだろうな」
「正確には、緊急招集かかったらすぐに休み終了って形だがな……まぁ何事も無ければ、一応付き合えるところまでは付き合ってやるよ」
「ほぅ、それは楽しみだな」
「はいはい」
ニヤついた表情をするミスティアに、アヴェルは適当に返しつつコーヒーを飲む。
そんな二人から、少し離れた席で…
「へぇ~、結構シャレた店だね」
「…スバルあんた、その服装どうした訳よ」
スバルとティアナが小声で離しながら、こっそりとアヴェル達の様子を窺っていた。スバルは何故か探偵っぽい服装にサングラスをかけるというおかしな変装をしており、ティアナは別に変装はせず新聞を使って上手く顔を隠している。ちなみに二人の頼んだ注文はスバルがショートケーキ、ティアナがモンブランである。
「そりゃまぁ、尾行してる訳だし? 怪しまれないように別人になり切らないと」
「明らかに怪しいわよ、この店に来るまでの間も周りから変な目で見られてたでしょうが。おかげで一緒にいるこっちまで恥ずかしいわ」
「えぇ~ティアだってさぁ。様子が気になるからって一緒に尾行してるのに、その言い方はあんまりじゃない?」
「あんたが無理やり引っ張ったんでしょうに…!! そりゃ、まぁ……確かに気になるとは思ってはいるけど…」
「いやぁ~、ティアってやっぱりツンデレだねぇ~」
「誰の所為でこう言ってると思ってんのよ、この馬鹿スバル!!」
「痛い痛い!! 痛いよティア~ッ!!」
言い方にカチンときたティアナによって頬を抓られるスバル。もちろん、二人の会話は小声で行われている。
しかしこの二人、ちゃんと隠れているつもりではあるのだが…
(…あいつ等、何やってんだか)
アヴェルには既にバレていたりする。
「どうした?」
「…いや、何でもない」
「?」
アヴェルは溜め息をつき、ミスティアは何の事か分からずクエスチョンマークを浮かべる。
(存在を知られちゃミスティアにとっても迷惑だろうし……あの二人には悪いが、後で俺から口封じでもさせて貰うとしようかね)
アヴェルはそう考えつつ、チョコケーキを最後の一口まで食べ終える。
「ふぅ、食った食った」
「む? アヴェル、口が少し汚れてるぞ」
ミスティアの言う通り、アヴェルの口の周りがチョコで汚れてしまっている。
「どれ、私が拭いてやろう」
「良い、自分で拭ける」
「つべこべ言わずに。ほら、動かないで」
「む…」
口を拭かれる事を渋るアヴェルだったがミスティアは有無を言わさず、ハンカチで彼の口周りを丁寧に拭いていく。
「ほら。綺麗になったぞ」
「たく、自分で拭けるってのに…」
「ふふふ♪」
「…ねぇねぇティア、あれってどう見てもカップルにしか見えないんだけど」
「確かに……本当にやってる事がカップルでしかないわね」
スバルとティアナも、素顔を隠しつつマジマジとその光景を見ていた。
「アヴェルさんも妙に抵抗しないわね。普通は恥ずかしがる所だとは思うんだけど」
「もしかして、既にされ慣れてるとか?」
スバル、どうでも良い所で正解である。
「でも、もうちょっとラブラブ展開が欲しいところだよね~。アヴェルさんって、普段そういう所は全く見せないし」
「…あんたは一体何を期待してるわけよ」
「一緒に見てるティアがそれを言っちゃう?」
「うぐっ…」
どうやら図星だったようである。
一応言っておくが、この会話はもちろん小声で行われている。
「…さて、そろそろ行くか?」
「うむ、そうするとしよう」
アヴェルとミスティアは席を立ち、レジまで向かって行く。
「あ、ヤバい、何処か行っちゃう! ティア、会計よろしく!」
「え、ちょ、これ私が払うの!?」
スバルが慌てて後を追いかけ、ティアナが支払いを済ませる羽目になった。
どんまいティアナ。
「全く、お前はまた…」
「~♪」
そのれから喫茶店を出た二人は、食後の散歩として街中を歩き始めた。
しかしミスティアがまた右腕に抱きついている為に、アヴェルは非常に歩きにくそうにしている。
「なぁ、歩く時くらい離れてくれないか? 逃げはしねぇから」
「私は今こうしていたい気分なんだ。出来る限り付き合うと言ったのはお前だろう?」
「それはそうだがよ…」
「分かってるなら、文句言わずに付き合、え……ふぁぁ…」
ミスティアが欠伸したのを見て、アヴェルが呆れた表情になる。
「…お前、そういうのも変わっちゃいねぇな」
「悪かったな、寝坊助で………ふむ、そうだ」
「?」
ミスティアが腕から離れ、アヴェルの後ろに立つ。
「アヴェル、おぶってくれ」
「…はい?」
いきなりの発言に、アヴェルが呆気に取られる。
「おいおい、突然何だ」
「少しだけ寝る。その間だけで構わないから」
「あのなぁ…」
「出来る限り付き合うんだろう?」
「…はぁ、仕方ない」
渋々了承したアヴェルはその場でしゃがみ込み、ミスティアを背中におぶってから再び歩き始める。
「ん~…こういうのも久しぶりだなぁ」
「あぁそうかい。てか寝るんじゃなかったのかよ」
「もちろん。少し寝させても、ら……」
ミスティアの言葉が途中で途切れる。
「ミスティア?」
「…すぅ、すぅ」
「…寝ちまったか。全く、世話の焼ける」
そうは言いつつも、アヴェルは特に嫌そうな顔もせず、彼女をおぶった状態で歩き続けるのだった。
「う~わ~、中々良い光景だねぇ~」
「…ねぇスバル。この尾行、いい加減バレそうで怖いんだけど」
「大丈夫だって。バレないと思うよ……多分」
「ちょ、多分って!! 多分って何よ!? 何よこれ、もしかして既に相手にバレてるって状況じゃないでしょうね!?」
ティアナ、残念ながらその通りである。
「大丈夫、自信を持とう!」
「その余裕は一体何処から出てくるのよ馬鹿スバル!!」
しつこく言うが、これはあくまで小声による会話である。
場所は変わって、地下水路…
「はぁ、はぁ、はぁ…」
スーツケースを持った少女が、自身を追う“何か”から逃げ続けていた。
どうでも良いけど、デートシーンなんて書いた事も無いから書くのが凄い苦労する…。
ひとまずこの鬱憤、スバルとティアナにアヴェルの口封じを食らって貰う事で晴らそうと思ってます←