どうぞ。
「「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ…」」
「や、やっと処理完了や…」
あれからかなり時間が経ち、ようやくアヴェルの持っていたロストロギアの封印処理が完了された。はやて達は疲れ切った状態でソファーにもたれ掛かっている。
「…なぁ。封印処理しないと危険だっていう事くらい、早めに言って欲しかったんだけど」
「「「だったら何故逃げる!?」」」
「いや、あんな怖い顔で追い詰められりゃ誰だって逃げるっての…」
そもそも、ここまで時間がかかってしまったのにはアヴェルに原因がある。彼女達のあまりに必死な形相を見て若干の恐怖を感じたのか、アヴェルは彼女達が連続で繰り出すバインドを一つ一つ華麗にかわしまくり、狭い部屋の中を逃げ回っていたのだ。
「…まぁ、封印処理は完了出来たからそれはそれで良ぇとして」
はやてはソファーに座り直す。
「ところで、結局俺は元の世界には帰れるのか?」
「う~ん…アヴェルさんが言うその“ハイラル”という国は私達は聞いた事もあらへん。それに、その国が一体どの世界の国かも確定出来ん状態じゃ、元の世界に帰れるかどうかも難しいんや」
そもそも、今いるこのミッドチルダとアヴェルのいた世界では、世界観という物が全く違う。彼のいた世界にはヘリコプターすら無いのだ、そう考えると碌な通信手段も期待出来ない。今の時点で、彼がハイラルに帰れる可能性はゼロに等しいのだ。
「…そうか」
現実を突き付けられながらも、先程と違って表情から焦りはほとんどなくなっている。
「ヤケに冷静になっとるな。さっきはあれだけ動揺しとったのに」
「いやまぁ…いくら否定しようが、現実は変わりようが無いしな。焦っても仕方ないと思って、受け入れるしかないと思ってな……それに」
「それに?」
「…この世界にモンスターがいるのが、多少気になってる」
アヴェルはまた真剣な表情になる。
「スバル…と言ったか? あいつを襲っていたモンスター、俺の世界にいたのと全く一緒なんだ」
「何やって!?」
それを聞いたはやて達は驚き、顔を見合わせる。
「ハヤテ達の説明が本当なら、そのロス…何とかやらでこの世界に飛ばされたのは俺だけの筈。なのに何故この世界にモンスターまでいるんだ?」
「…そのモンスターの事なんですが」
はやては右手をかざし、目の前にいくつかの映像を出現させる。
「!? ウルフォスだと…!!」
アヴェルは映像に写っているウルフォスの姿を見て驚愕する。しかし写っていたのはウルフォスだけではない。
「スタルチュラにフロアマスター……テクタイト、グエー、それにドドンゴまでいやがる…!?」
アヴェルにとって、どれも見た事のあるモンスターばかりである。
「実はこの怪物達…アヴェルさんがこの世界にやって来る前から、ミッドチルダ中のいろんな場所に出没しているんです」
「今まではどれも被害の小さい怪物ばかりで、私達もそんなに危険視はしていなかったんだけど…」
「無視の出来ない状況になった、という事か」
「「…はい」」
アヴェルに言われ、なのはとフェイトは素直に頷く事しか出来ない。
それもそうである。今回現れたゴーマによって、部下が危うく殺されかけたのだ。流石にこれ以上モンスター達を放っておく訳にはいかない。
(俺が来る前から、か…)
アヴェルは考え始める。ロスロトギアが原因でミッドチルダに飛ばされたのはアヴェルだけ。しかしこのミッドチルダには彼が飛ばされて来る前から既にモンスターが出没している。彼と一緒に飛ばされて来たとは思えない。そうなると、考えられる可能性は一つ。
(俺の他にも、ハイラルから来た奴がいる…?)
もはや、そうとしか考えられないのだ。
「…ハヤテ、モンスターの退治についてはどうするつもりなんだ?」
「え? まぁ、本来は私達が関わる仕事やないけど……被害が出る可能性がある以上、放置しておく訳にもいかへん」
「よし。その大仕事、俺にも手伝わせろ」
「「「えぇっ!?」」」
あまりに突然過ぎる提案に、はやて達は困惑する。
「い、いやでも、アヴェルさんは次元漂流者……いわゆる迷子の状態やで? 流石にそんな人にまで苦労させる訳には…」
「残念だが、お前等が駄目だと言っても引き下がるつもりは無いぞ。何で奴等がこの世界にいるのか原因を確かめないといけねぇし、それに…何か妙だしな」
「? どういう事なん?」
「その気になればモンスターはいつでも人を襲えるんだ。なのに一片に来ないという事は……裏でモンスターを管理している、黒幕がいるという事だ」
「「「!!」」」
黒幕。その言葉を聞いてはやて達は戦慄する。
「まぁとにかく、さっさと仕事を終わらせたいなら、俺にも手伝わせろ。化け物退治は俺の十八番でもあるし」
「へ…? どういう事?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
なのはの疑問に、アヴェルは平然と答える。
「俺は傭兵なんだ。戦いなんて慣れたもんさ」
そう言って、ホルスターから抜いたクロスボウを構えて見せた。
それから数時間後…
「―――どうしてこうなった?」
アヴェルは一人、何故かビルの屋上に立っていた。とは言え、今彼が立っているビルが本物という訳でもない。
「どうや~、アヴェルさ~ん。気分はどうや~?」
少し離れた別のビルから、はやての声が聞こえてくる。取り敢えずアヴェルはこう返事を返す。
「…謎だらけだ」
アヴェルがモンスター退治への参加を強引に決めた後、はやて達は彼がスバルを助けた事や、ゴーマを倒したというのもあって、渋々承諾。訓練場で模擬戦を行い、実力を測らせて欲しいという事が条件だった為、アヴェルは指示通り訓練場へとやって来た。
しかし当然…
「何じゃこりゃ」
こう喋らざるを得なくなるのである。本物そっくりの街が目の前にあり、しかもここで訓練を行うと言うのだから、アヴェルは頭にクエスチョンマークが浮かびっぱなし。
そういった状況の中で、模擬戦が行われる事になったのである。
「ハヤテの奴め、こりゃまた面倒な条件突きつけてきやがったな…」
アヴェルはハァと溜め息をつきながら呟く。
そこへ…
「次元漂流者というのは貴様だな?」
「…ん?」
ピンク髪をポニーテールに結んだ、剣士の風格を纏った女性がアヴェルの前に現れる。
「えぇっと…お前が相手って事?」
「そうだ。私の名はシグナム。貴様、名を名乗れ」
「…アヴェルだ。取り敢えずよろしく」
アヴェルはそう名乗るも、何故かシグナムは彼を睨み続けており、敵意剥き出しである。
「…何、俺の事がそんなに怪しいか?」
「あぁそうだ。主から話は聞いているが、私はまだ貴様の事が信用出来ない。貴様からは何か妙な魔力を感じるのでな」
「!?」
シグナムの言葉に、アヴェルは目を見張り、小さく笑みを浮かべる。
「へぇ、驚いた。俺の力について一発で見破られたのは久しぶりだ。だったら…」
アヴェルは鞘から剣を抜く。
「―――隠す必要も無ぇよな」
「ッ!!?」
そしてシグナムに向かって強大な威圧感を放つ。シグナムは一瞬怯むが、すぐに持ち堪える。
「…フッ」
そしてシグナムも僅かながらに笑みを浮かべ、自身のデバイス“レヴァンテイン”を抜く。
「面白い。貴様の実力、この私に見せてみろ」
「その期待、出来る限りなら答えてやるよ」
二人は剣を構える。
「烈火の将、シグナム」
「怪刃のアヴェル」
「「いざ…」」
「「―――参る!!!」」
そして同時に駆け出し、お互いの剣をぶつけ合うのだった。
シグナムとの模擬戦、スタートです。
感想待ってます。