椎奈は医務室の白いベッドの上で目を覚ました。
「お、起きたようだな」
寝起きに言葉を掛けたのはヒラ。
「えと、どのくらい寝てました?」
「大体半日くらいだな・・・氣功術は疲れるものだ、仕方ないだろう」
(半日・・・思ったよりも少なかったな)
椎奈はそんなことを考えたが、先読みしたかの様にヒラは告げた。
「思ったよりも寝ていた時間が少ない、そう思っているだろう?」
ヒラの白い目に椎奈は少し肩を震わせた。
「達人は更に長時間の使用を可能にしているし、その後倒れて半日寝込んだりもしないらしい。勇者殿はまだ経験と実力が足りていない、その事実は正確に受け止めておくべきだ」
ヒラの厳しい言葉に、椎奈は了解、と返した。
「さて、次は俺の番だぜ?椎奈」
ヒラとの話が終わると、隣のベッドとの間を仕切るカーテンが開け放たれ、タモギが姿を現した。
「いやぁ、負けた負けた。椎奈はスゲェ力を隠してたんだな」
ガハハと笑ってさえいるタモギに椎奈は答えた。
「本当はもっと精度を高めてからにしたかったんだが、使わなきゃ勝てそうになかったからなぁ。本当はもっと凄い力なんだぞ?アレは」
「あー、そうそう。そんで、それってもしかしたら俺も使えんのか?」
「それって・・・氣のことだよな?」
タモギは頷く。
それに答えたのは椎奈ではなく、まだ残っていたヒラだった。
「それは難しいかもしれないな。タモギ殿程の者であれば使える筈だが、氣は多大な集中力を必要とする。極短時間の解放なら出来ても、恐らく模擬戦で椎奈が見せた時間ほども維持は出来んだろう。それに・・・そもそも必要とする機会は少ないだろう。コツならば教えるが、無理に習得することでもない」
タモギの問いはそんな形でヒラは結論付けた。
「ん~、なら、時間があったら教えてくれ。極短時間であっても、覚えておいて悪いもんじゃねぇしな。ってか、氣ってのを教えたのはヒラ将軍だったんだな」
「ああ、勇者殿が必要としていたようだったからな。それで、氣功術についてだが、まぁ、極短時間であるのもあるだろうが、タモギ殿であれば少しの疲労感も持たないだろうしな。よかろう、時間を作って私のところに来い」
ヒラはそう言うと、タモギの返事を背中で聞きながら部屋を去って行った。
去る背中を見て、さてと、とタモギは言った。
「俺もそろそろ行かないとな」
「将軍ってのも大変だな」
椎奈の言葉に、タモギは笑って答えた。
「おう、そりゃ大変よ。だが・・・まぁ、俺には力があるし、それが国に役立つんだからな。文句はねぇよ、むしろありがてぇくらいだ」
タモギの言葉は純粋に嘘偽りがなく語られる。
だからこそ椎奈は一言で返すしかなかった。
「そうか」
「おう、そうだ。椎奈も勇者なりに頑張ってくれや。あと、もし良かったらまた模擬戦やろうぜ?」
椎奈は笑顔で親指を立てて見せてくるタモギに親指を立てて返す。
「ああ、また頼む」
(今回は意表を突き続けたから勝てたようなもの、サクラの話じゃないが、次はそんなことは無いだろうし、今度は負けるかもな・・・)
椎奈がそんなことを考えているうちに、タモギは部屋を去って行った。
入れ替わりに元気な姿が入ってきた。
「おはよう、しいなっ」
「おう、おはよう、ラフレ」
片手だけ挙げての挨拶、ラフ過ぎる流れだった。
「しいなっ、みててっ」
無邪気にはしゃぐラフレに何事かと思った椎奈だったが、一瞬後には剣を抜いていた。
「ふぁいあぼーるっ!!」
気の抜けるような声から放たれたのは下級魔術の火球。
しかし、それも術者の能力に応じて威力が変わる。ヒラ程の術師ならばコントロールも出来るだろう、しかし、ラフレはコントロールが出来ない。そして、魔力もずば抜けて高い。
そこから導き出される答えはとても簡単だった。
椎奈が模擬戦で見せた火球は豪炎球となって椎奈に襲い掛かった。
「ぬうっ!!」
椎奈が剣を抜いたのにはそういう経緯があり、放たれた剣は刀身に白い光を纏わせ、豪炎を切り裂いた。魔法をある程度無効化させる氣功術の応用で生み出した技。
「ラフレ・・・?魔術を使えるようになってはしゃいでるのは分かるが、加減はしてくれ」
「しいな・・・ごめんなさい。あぶなかったよね?」
ラフレの反省した様子に、椎奈も少し悪い気持ちになり、
「ま、成長したのは良いことだと思うぞ。もっと力を付けて行ってくれ」
いつも通りに椎奈はラフレを甘やかしてしまうのだった。
了