「いや・・・なんでもない、木山」
サクラは咳払いをした。
「そ、そうか。話、続けて良いか?」
椎奈の問いは頷くだけの反応だった。
「普段は感じたこともないだろうけど、火事場の力ってあるだろ?ここぞというときに自分の持てる以上の力が発揮されたりとか、サクラにも経験はあるだろ?」
椎奈の言葉に、サクラは頷く。
「確か・・・木山との戦闘の最後になんとなく感じたような気がする」
椎奈はだろ?とサクラに言う。
「無意識でもあの強力さだ。意識することでコントロール出来ればその力は更に強力な物になる。とりあえず意識させるために俺の氣を流してみたけど、どう?わかりそうか?」
「なんとなくだがな・・・」
「ヒラから聞いたとは思うけど、氣は体内のみにあるわけじゃない。氣はそこらじゅうにあるんだ。体内にあるだけでは氣は賄いきれなくなる。だからこそ、氣功術は己だけじゃなく、周りの自然をも理解しなくちゃならない難しい術なんだよ。まぁ、とりあえず、体内にある氣だけでもコントロール出来るようになろうか」
「あ、ああ。分かった」
サクラは瞳を閉じ、強い集中状態に陥った。
先ほど椎奈に流された物を自分の中で模索する。
「・・・!!」
椎奈と同じものではない、だが、似た何かをサクラは発見した。
「木山、なんとなく見えた」
椎奈はフッと笑った。
「よし、それが氣だ。こんなに早く認識するとは思わなかったよ。けど、認識するだけじゃまだ足りない。コントロールはずっと難しいからな?」
「大丈夫だ、必ず習得してみせるさ」
(頼りがいのあるお言葉だ)
椎奈はそう思いながら、講義を続けていった。
サクラに氣を教え始めてから三日が経とうとしていた。
勉強熱心だからか、夕方になるとサクラは毎日椎奈の元を訪れ教えを乞いていた。
椎奈もそれには真剣に取り組み、午前は国王たちと議論を交わし、午後は基礎能力向上の鍛錬を行い、夕方になるとサクラと共に氣の鍛錬をする、と言う生活を送っていた。
(はっきり言って充実してるな。ここに来る前よりよっぽど)
椎奈はそう思い、だが、その気持ちをすぐに振り払って、サクラへの教えを続けた。
「はあぁっ!!」
サクラへ氣を教え始めてから五日が経過した。
順調な成長を見せるサクラは、体内の氣をコントロールするどころか、刀身に氣を纏うことも習得。氣を斬撃の形に集束させて飛ばす氣円斬までも習得していた。
椎奈はサクラの放つ紅色の氣が消えたのを確認してから、よし、と言った。
「サクラ、大成功だ。よくやったじゃないか」
「木山の教えが上手いからだろう。私は従っただけだ」
「謙遜はよくないぞ。自意識過剰は身を滅ぼすだろうが、自分のブランド性を下げ、ダメなやつだ、と貶めるのは自意識過剰であるよりもいただけないことだ」
椎奈の説教じみた言葉に、サクラはふむ、と悩み始めた。
こうなるとサクラは長い自己問答をする。
椎奈は話を変えるべく、口を開いた。
「それにしても、サクラの氣は紅色なんだな。髪にも似て綺麗だ」
「それを言うならば木山の白い氣も美しいものだろう。濁りが見えない」
「氣はその人の本質を見せる物だったっけかな。白は勇気、赤は情熱、黄は元気、青は冷静、緑は平和・・・とか色々あるらしい」
椎奈はうろ覚えながらもサクラに説明した。
「私は情熱か・・・ふむ、だが木山」
サクラは気になるところがあったようで椎奈に語り掛ける。
「幾ら本質とは言っても、変わってしまうことはあるのではないか?元気な者が力を失い、非力な者に変化するように」
椎奈は首を振った。
「本質は変わらないし、変われないよ。色自体は変わらない。ただ濁っていくだけだ」
「では、木山。本質はどこで決定するんだ?生まれたときに決まるとでも言うのか?」
「そんなまさか、生まれたときは黒だよ。あらゆる色が混在しているらしい。そこから次々と要素が外されて、その者の本質が決まり、氣の色も決まる、とかなんとか」
「ふむ、なるほど・・・」
サクラは納得したように首を軽く縦に振った。
「さて、そろそろ帰るか」
椎奈はサクラの背を軽く叩いて促す。
「あ、ああ。そうだな、もう夕飯時だ」
二人は横並びに城へと戻って行った。
椎奈の白とサクラの紅、その二人の澄んだ美しい氣は、晩秋に咲く夜桜と呼ばれ始めていることを二人は知る由もない。
了