暗闇から一気に光が目に入り、その眩さに椎奈は目を閉じる。
「ここは・・・」
国王に連れられて辿り着いた場所は蒼色に発光する石に囲まれた広い部屋だった。
「ここは始まりの間だ。ここから城外へ通じる道、秘密文書の詰まった書庫、古代の技術で作られた装備の置かれた宝庫、そして、伝説の剣が置かれた勇者の間、等がある。城の地下に備えられたこの場は私とラフレしか知らない」
国王は一通り伝えると、また歩き出した。
そして一つの扉を開け、椎奈に先に入るように手を送った。
そこは蒼ではなく白く光り、神聖な場であることを椎奈は感じた。
奥の壁には一枚の写真、そしてその前には一本の剣が地に突き刺さっていた。
「ここが先ほど言った勇者の間だ。私が知らない程過去、伝説の勇者としてこの国を救ったとされる勇者を祀った場所である。そしてそこにある剣はかつて勇者が使っていたとされる武器だ」
椎奈は進み、勇者の写真を眺めた。
「しいなとにてるよね」
ずっと黙っていたラフレが口を開いた。
(言われてみれば・・・少しは似てるかもしれないな・・・)
「ああ、そうかもな」
椎奈はラフレに微笑みながら言って、それから剣の前に立った。
「椎奈君なら抜ける筈だ」
国王の言葉に、椎奈は躊躇うことなく柄を握った。
そして手元に寄せるようにして抜き去った。
剣は西洋の両刃ではなく、どちらかと言えば日本刀の様な形状をしていた。
ずっしりとした重みがあるにも関わらず、椎奈の手によく馴染む感じがあり、重いのに軽い、と言う矛盾を抱えた謎の感じを椎奈は覚えた。
「無事に抜けたようだな」
「しいなすごいねっ」
「まるで、抜けない可能性もあったみたいですね、さっきのはテキトーだったんすか?」
椎奈は苦笑しながら、国王とラフレに向きかえりながら言った。
「まぁ、なんだ。信じてはいたが、一応な」
国王は歯切れの悪いような言葉を残した。
「椎奈君、君を呼んだのにはちゃんと理由があるのだよ」
勇者の間とは違う場所に移動し、椅子に座りながら話すことになった。
国王はその言葉から話を始めた。
「キノコスキーとかってやつっすか?別に嫌いじゃないけど、特別好きってわけでは・・・」
国王は少し笑う。
「わかっているよ、そんな理由で呼んだりはしないさ。ラフレのアドリブだろう」
「しいなはそうかな~っておもったのっ」
ラフレは元気にそう言い、国王はラフレの頭を撫でながら続けた。
「私がラフレに椎奈君を呼ぶように命じたのは別の理由だ。椎奈君は剣道と言う武道に強いことを私は知った。伝説の剣を奮うのだ、それなりの実力が欲しい。・・・だが、もちろんそこだけではない、椎奈君には他の人間よりも聡明であり、寛容な精神を持ち合わせていることも理由だ」
「別に聡明でも寛容でもないっすけどね・・・」
椎奈はまた困った様にして、頭を掻いた。
「そうめい?かんよう?」
ラフレはボケーっとした感じで口にする。
「頭が良くて、優しい、と言う意味だよ」
国王の言葉にラフレははしゃいだ。
「しいなはやさしいよっ」
「そうだな、ラフレ」
(なんか恥ずかしいな・・・)
椎奈はため息を吐いた。
(だが・・・まあ、確かに剣道には少し自信がある。流石に、全国だと負けるが、それなりの実力はあるつもりだ。もちろん、それが実戦で使えるかは別だが、困っているこの人たちを放ってはおけない)
椎奈は二人に気づかれないように決意し、柄を握る力を少し強くした。
「戦争が起きれば勇者として前線で戦ってもらうことになるだろう。それなりどころではなく危険だと思う。・・・しかし、我が国はそれ程までに戦力がないのだ。もちろん、これから急速に戦力は上げ、椎奈君のカバーも行えるようになるまで鍛えるつもりだ。だが・・・やはり、椎奈君の助力は必要になる。頼まれてはくれないだろうか?」
国王の必死の頼み、だが、椎奈の意思は既に決まっている。
国王とラフレの不安気な顔を安心させるように笑みを浮かべて告げた。
「気にしないでください。俺も、この国が守りたいと思っているんですから」
椎奈は城までこの国を見てきた。
この世界の人々の平和さを、幸福さを見てきた。
羨ましいと素直に思った。
そして守りたいと思った。
だから椎奈は立つ、勇者としてこの世界に貢献するために。
了
第八話番外編『訪れ』
キノコの世界の端、辺境の地の岩陰に一つの影が潜んでいた。
影の様に存在感を感じさせぬその黒い姿は某国の侵入者。
侵入者は通信機を片手に何かに声を掛ける。
「ええ、首尾よく進んでおります」
岩陰から少しだけ身を乗り出す。
「そうですね、この国は大変豊かです」
自然に溢れた平和さをじっくりと感じた。
「ええ、平和そのものでしょう」
侵入者は確信したように頷いた。
「はい、これならば、容易に攻め落とせるでしょう」
その言葉に満足したのか通信がプツリと切れた。
侵入者は通信機をしまい、笑みを浮かべて言葉を残す。
“Glory Bamboo shoot”
跡形もなくスッと姿は消えた。
足音もなく、足跡もなく、ほんの少しの匂いさえ残さない徹底ぶり。
しかし、侵入者は致命的なミスをしていた。
これほどの平和ぶりならば、国もどうせ何の備えは無いだろう、と慢心してしまっていた。
容易に忍び込み、ある程度自由に動けども、不審がられることは無かった。
村においてもあるのは最低限の防備のみ。
迷い込んだ獣を追い払う程度しかない。
だから、侵入者は確信した。
この国には戦争に備えた力は無い、と。
ひっそりと、しかし着実にこの国は力を付けている。
タイムスリップをした国王と、人間界の知識を持つ椎奈、この国は二人の影響を受け、確実に変わっていっている。
侵入者は平和さに影響を受け過ぎた。
徹底的な侵入者は・・・徹底的に失敗していた・・・。。
国王は庭でそっと顔を上げた。
枯れ葉と共に風が流れた
冷たい風は冬の訪れを見せる。
平和さに溢れたこの国も新たな時代を迎えようとしている。
キノコの繁栄する秋は終わった。
戦火に燃える寒い冬が・・・すぐ先に迫ってきていた。
了
どうも、皆笠です。
今回は椎奈の決意回です。
今までは単なる放浪者、そしてこれからは勇者として過ごすことになる。
戦争ともなれば命も危うくなる。
けれど、それでも戦うと椎奈君は決めました。
あと、番外編は冒頭で書いた通り文字数の都合で強引にねじ込みました。
番外編と言うよりも、第二部の予告っぽいですね。
今回で敵とは何なのかも出しました。
キノコの敵と言ったら、やっぱりアレでしょう?
安直ですみません。
さて、今回で第一部『異界放浪編』は終了となります。
次回から第二部『椎奈成長編(仮)』に入ります。
なお、仮題なので、変わるかもしれないっす。
拙い話ですが、よろしければ、またよろしくお願いします。
ではでは。