魔法少女リリカルなのは 未来への系譜   作:ロシアよ永遠に

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今回はちょっとした裏話になります。
だいたいサイドストーリーは本編を読んでいれば理解できるタイミングで入れていきますので、読みやすければ幸いです。


Side Mission1『金髪幼女、再誕』

4月も中ば。転校してきた二人も徐々にクラスを含めて学校に慣れ始めてきていた。

基本的に仲が悪いメンバーもおらず、端から見れば和気藹々とした平和なクラス。

しかしその中には、仲の悪い相手はいないが、仲のよい相手もいない、そんな人物が一人いた。

クラスの端の、窓際の席で、休み時間に何をするでも無くボーッと外を眺め、昼食も一人で購買で購入したパンをかじり、下校も誰と連れ立つわけでもなく一人で帰る。

彼、『緋村 悠』はそんな毎日を送っていた。単にいじめられているわけでは無い。クラスのメンバーも、無視しているわけでは無く、有用なら話し掛けるし、悠もそれに受け答えもする。しかしその会話も必要最小限なのだ。

取っつきにくい、というのもあるのか。意図せずして彼は見えない壁、と言う物を周囲に築いてしまったらしい。

この年頃の子供というのは大抵仲のよいグループが複数成立するもので、何某かのイベントではそのグループが活かされることが多いものだ。そう言った中で彼は大抵余ることになる。そうなると少ない人数の中に自動的に入る。そのグループのメンバーは嫌な顔はしない物の、やはり少し孤立しがちなのは否めない。

 

「……Zzz…」

 

今日の昼休み、彼は机に伏して眠っていた。勿論誰も気にもとめないが、珍しいものだ。

四月の心地良い風が窓から吹き抜け、まばらに切られた悠の髪を靡く。成る程確かに、昼寝にはもってこいなシチュエーションだ。

 

「緋村君、次、体育だよ?」

 

なのはが心配して肩を揺する。既に彼女は体操着に着替え、準備していた。クラスの大半は校庭でたむろしている姿が窓から覗える。

教室には彼女と仲の良いグループが待っている状態だ。

 

「……わかった。」

 

ボソリとなのはに聞こえるかぐらいの声で呟くと、おもむろに服を脱ぎだした。脱いだ制服を綺麗にたたんで机に置く。いきなりの行動になのはを含めた女子は唖然としていた。言い表すなら、目が点。体操着のシャツを着用したタイミングで、正気を取り戻したなのはは急いで教室から走り出す。

 

「ひ、緋村君!?先に行ってるねっ!!」

 

飛び出した彼女を追うように、グループの女子も、ある者はなのはと悠に対して苦笑し、ある者は慌てて教室から出て行った。そんな彼女らを見ながら、彼は首をかしげるしかなかった。

 

「……行くか」

 

誰に聞こえるようにとも無く呟き、下も着替えた彼は下駄箱を目指して教室を後にした。

…その道中、始業式に転校してきた一人の人物と出会った。どうやら用を足してきたようで、トイレから出てきた。しかし、入っていたであろう場所が悠に疑問を抱かせた。

 

「あ、緋村。急がないとチコクするよ!かく言うボクも、だけどね。」

 

苦笑しながら手を洗うヒカリ。

…悠にとって、二週間という期間で彼に疑問を抱くことがあった。

一つ、男子のグループよりも、先程のなのはのグループとの仲が良いこと。

二つ、今日は見なかったが、以前の体育の授業の更衣時、やたらと恥ずかしがっていた。

三つ。

 

「…如月、今女子トイレから出てきた?」

 

「はうっ!?」

 

ビクッと体をこわばらせた。緊張感が髪に伝わっているのか何なのか分からないが、ポニーテールが天を衝くように逆立っていてとても面白い状態になっている。

ダラダラと滲み出る気持ちの悪い汗がヒカリの背を伝う。

 

「あぅ、えっと…。」

 

「……そう言うのが許されるのは、今だけだ。」

 

…なにやら妙ちくりんな勘違いをされたようで。ちょっとやばい趣味を持っている、と思われたようだ。

さぁ…っとヒカリの顔が青ざめる。そんな噂が口外されては、これからの学校生活に『変態』のレッテルが貼られるのは目に見えている。冗談じゃ無い!なんとか、何とか彼を納得出来る言い訳を考えなければ!

 

「ち、ちがうよ!だ、男子トイレが一杯で仕方なく、仕方なく女子トイレに入ったんだよぅ!」

 

そこに丁度良く何人かの上級生がトイレから出てきた。わらわらと雑談をしながら、彼らの教室である上の階へ昇っていく。それをじっと見ながら、二人は無言の時間を過ごしていた。

 

「…成る程。なら仕方ない。」

 

言うだけ言うと、悠はすたすたと下駄箱へと歩いて行った。一人残されたヒカリは、我を取り戻してわたわたと追い掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後四時。

住宅街の一角に家を構える緋村家。広くは無いが狭くも無い、そんな閑静な場所に建つ一戸建て。

鉄製の門をくぐり、郵便受けを確認したら家屋の中へ。…一通の絵葉書が届いていた。

悠の住所に宛てられたそれの裏面には、私服姿ながらもテレビで見かける外人の隣で写されている男女の写真があった。

 

「……次は政治家の護衛か。」

 

何を隠そう、彼の両親は要人警護という死と隣り合わせの仕事。年内のほとんど家を空けることなどザラで、参観日は勿論、運動会とかそう言った父兄参加型のイベントに出ることなど稀。いや、小学校に入学してからは無かった気がする。さすがにそれまでは母の方は長期の育児休暇、と言うことで面倒を見てくれていたが。

そんな父母がいない家庭の中で彼が性格が歪まずに無口なだけの少年に育ったのは、一重に一つの存在だった。

 

「…ただいま、エル」

 

家の玄関で、悠が帰ってくるのを寝そべって待っていた黒と白が特徴の大型犬。オオカミと見間違うような風貌をもつシベリアンハスキーだ。悠が帰宅したのを確認し、ぱたぱたと尻尾を振るわせる。抱きしめるように首に手を添え、背中を優しく撫でてやる。少し固めで、でも悠がお気に入りの毛並みの感触が、掌を通して伝わる。

小学校入学の際、寂しくないようにと両親が飼ってきたのがエルだ。まだ子犬の段階でも、小型の成犬に匹敵する体躯を持つが、その頃からの付き合いの悠は物怖じする事無く、無口ながらもエルと共に大きくなった。それはまるで兄弟とも言えるように。

荷物を降ろして、玄関に設けたフックに引っかけている長くて太いリードを手に取る。望んだ展開になったのか、先程よりも更に速く尻尾を、まるで錘を一番下にしたメトロノームみたいに高速で振る。

 

「…行くか。」

 

首輪とリードの金具をつなぎ合わせ、ビニール袋とスコップを片手に、悠は夕暮れの街を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…緋村君や。」

 

丁度海鳴臨海公園に差し掛かったときだった。後ろから自分の名前を呼ばれたので、条件反射で振り向いた。

そこにいたのは、青の大型犬を引き連れ、赤毛の三つ編みの少女と共にいた、同じクラスの八神はやてだった。恐らく愛犬の散歩だろう。松葉杖をついているところから見ると、リハビリも兼ねた運動にも見える。

 

「へぇ~、緋村君、犬飼うてたんや~。シベリアンハスキー?」

 

はやての問いにコクリと頷く悠。そんな彼を見て、「相変わらずの黙りさんやなぁ~」と苦笑する。

対し彼女の愛犬と思しき犬はというと、青い毛並みに、額の宝石?のようなものと、初めて見るような犬種だった。

 

「な~な~はやて~、こいつ誰?」

 

赤毛の少女は微かながらも敵対心を感じるようにしながら、連れ添っていたはやてに尋ねた。その様子はまるで、自分からすれば初見の男がはやてと親しく話をしているのが気にくわない、と言ったように感じられた。

 

「こら、ヴィータ。初めて会う人にこいつ呼ばわりはアカンやろ?…おんなじクラスの、緋村悠君や。この子は私の家族のヴィータ。」

 

「ん……よろしく。」

 

ボソッと、シンプルながらも握手の手を差し出す悠。こいつ呼ばわりしたのにもかかわらず、好意的にも感じられる。そんな彼にヴィータは戸惑いながらも握手に答えた。

 

「よ、よろしく…。」

 

小休止握手を済ませると、どちらからとも無く公園を海沿いに歩き出す。基本的にはやてから、珍しい散歩の付添人が出来たことで話しかける。時折ヴィータも悠に話し掛け、対して彼はそれに最低限の返事をする。無駄な装飾は無い。飾りっ気の無い会話だが、普段話さない悠との会話は、はやてにとって中々に新鮮な物だった。

 

「…でな、アリサちゃんの家には大きい犬が沢山おってな。もふもふやねん。もう病み付きになりそうや!」

 

「…そうか、一度お目に掛かりたくもあるな。」

 

そんな悠の言葉に、エルは顔を向け、キュンキュンと鳴き始めた。…催してきたのだろうか?

 

「…大丈夫だ。別に新しい犬を飼おうってわけじゃ無い。…だからそんな声出すな。」

 

しゃがんで、優しくエルの頭を撫でてやる。心地良さそうに眼を細め、されるがままとなった。

 

「…へぇ、その子の言うてること、わかるん?」

 

「…ある程度は。…なんだかんだで3年、ずっと一緒だ。」

 

ひとしきり撫で終えると、立ち上がって再び歩を進める。そんな彼の背中を見ながら、ヴィータは一言、連れている犬『ザフィーラ』に尋ねた。

 

「…なぁ、ホントにそう言ってたのか?」

 

「…うむ、ニュアンスは間違ってはいない。…どうやらあの少年、エルとやらによほど好かれているようだな。先程のは嫉妬していたようだ。」

 

「嫉妬?アリサちゃんの犬にか?」

 

「はい、そのように感じられました。少年が他の犬にあまり興味を持って欲しくない、と。」

 

「…なかなかに深い愛やな…」

 

エルの少しドロついたように感じなくも無い感情に苦笑しながら、悠の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はやてとは各々の散歩道に分かれた後。…今日はつくづくと変なことご起きるものだと思った。

森林公園。その林道を歩いていた最中。傍らに見えるボート乗り場付近には、未だ残る桜かはらはらと花弁を舞わせるそんな風景。

その中で、突如エルが凄い勢いで林の方へと歩を進める。さすが大型犬。いくら悠が男子とはいえ、まだまだかなわないもので、そのまま為すがままに連行されていった。

 

「ウォン!」

 

一声吠えた。…その先にあったのは…、人だった。うつぶせに倒れてぴくりともしない。しかも背丈は悠より低く、6歳くらいだろうか?長い金髪がとあるクラスメイトに酷似しているのが印象的だった。…そして極めつけは全裸、と言うところだ。

ひすひすと臭いを嗅ぐエル。何を思ったかペロリと人なめする。…微動だにしない。…行き倒れだろうか?近くには人一人がすっぽり入るカプセルの様な物が割れて転がっているのと、何か関係があるのだろうか?

安否を確認するため、そっと手を握ってみた。……氷のように冷たかった。…まるで血が循環していないかのようにも感じられるほどに。

…そう思ったとき。悠は自分の体に違和感を覚えた。触れた掌を通して倒れている少女に、暖かい何かが流れ込んでいるように、そんな今までに無かった感触を味わう。

…ドクン。

…何かの躍動を感じた。…何某かの違和感は未だ拭いきれないが、兎にも角にもこの少女をこのままにしておくのはマズい。こんな年端のいかない、しかも全裸の女子がいたら、警察に通報されるか、極めて特殊な変態に…。いや、想像しただけでも虫酸が走るし、なにより悠自身にとって後味が悪い。

この時、彼は夕暮れ時でも未だ肌寒いだろうと、羽織ってきた聖祥のコートに感謝した。おもむろにそのコートで少女を包む。

 

「……エル、悪いが散歩はここまでみたいだ。」

 

「ウォン!」

 

問題ない、と言うように悠の顔を見て家への順路を先導する。金髪の少女を背負い、少し重いかもと失礼なことを考えつつ家路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緋村悠の家は広くも無く狭くも無い、と前述したが、そのままに不自由することは無かった。一階はダイニングキッチンとリビングが一間となっており、他にも浴室、トイレ、和室に仏間まである。二階に至っては、悠の部屋に、両親の共有する部屋、客室まである。

基本的に悠の部屋で、彼とエルは眠っており、結果として他の部屋が手持ちぶさたになっている状態だ。

閑話休題。

帰宅した悠は、エルを玄関で待たせて(足を拭いて上がら無いといけない)女子を二階の客室に運ぶ。内装としては必要最低限のものは揃っているので、物置から取り出した布団をベッドに敷いて、その上に寝かせた。…如何せん、コート1着で寝かせるのもアレなので、自室に引っ込んでパジャマを1着持ってくる。…デザインや大きさが合わないのはご愛敬だ。

…流石に全裸の女子、と言うのには耐性がない悠で、しどろもどろになりつつも何とか更衣を済ませることが出来た。

…ここで少し悠は違和感を感じた。先程触ったときの彼女の手はとても冷たく感じた。冷え性だとか、水遊びをしていたとか、そんなチャチなもんじゃ断じてないくらいに。…そう、まるて死んでいるかと見間違うかもしれない。

しかし、先程更衣する際に触れた肌は、普通の人肌のように暖かみを帯びていたのだ。

…世の中不思議な体質があるのだろうか?とまた一つ世界の不思議をかみしめつつ、エルの足を拭くために部屋を後にした。

 

エルを部屋に上げてから、すぐに眠っている少女の部屋に直行した。じぃっと彼女の方を伏せて見守る。看病してくれているようなので、悠は夕食の準備に取りかかった。

昨日は豚肉のロースが安く買えたので、生姜焼きにするとしよう。そう意気込んでキッチンに向かう。…エルと二人で暮らし始め、三年の間に中々の腕前になったと自負している。レパートリーもだいぶ増えたし、料理の本も軽く20冊は読破していた。ともすれば、独自のアレンジも加えてオリジナル性を出すことも出来た。味も悪くない、と思う。

と、自分の料理に対しての思い出に浸っていたら、大方完成していた。

味噌汁にご飯、生姜焼きにキャベツ千切り、トマトのサラダと漬け物と、中々に豪勢な物だ。

 

「エル…ご飯だぞ…。」

 

階段下から客室にいる犬に呼びかける。普段ならもの凄い速度で走ってきて、自分の餌を皿まで食らわんばかりに平らげるものだ。

…しかし、呼びかけに答えて下りてこない…。

おかしい…。明日は季節はずれの大雪だろうか?

不審に思い、階段を上っていく。客室の前まで来ると、エルが出られるように開けておいた扉の隙間から、聞こえるはずの無い人の声が聞こえる。

 

(きゃはは…くすぐったいよ~!)

 

………。

意を決して扉を全開にする。そこには、さっき寝かせた少女とエルが、ベッドの上で戯れている、何とも微笑ましく感じる光景だった。

 

 

 

 

 

「えっと、じゃあお兄さんが公園に倒れていた私を介抱してくれたんだ?」

 

「…まぁ見付けたのはエルだがな。俺は流れでやったに過ぎない。」

 

「ウォン!」

 

そうだ、と言わんばかりに自己主張と取れるように吼える。

ちょうど彼女が目覚めたのは夕飯が出来る直前のようで。目覚めたのに気づいたエルが喜びの余り、嘗め回したという。かく言う少女も目覚めていきなりでかい犬が嘗め回してくるものだから仰天しただろう。

…しかし改めて彼女を見ていると、益々クラスメイトの少女に似ていた。髪色といい、ルビーのような瞳といい…。

 

「えと…ありがとう。」

 

「…気にするな。……緋村悠。こっちはエルだ。」

 

パタパタと尻尾を振る。よろしく、と表現しているように感じた。

 

「悠お兄さんに、エルだね。私は…」

 

その名前は…

 

「アリシア…アリシア・テスタロッサだよ。」

 

悠の中で何となくと思っていたことが、もしかしたら、という疑惑に変化しつつあった。




こんな感じで。


因みに悠に魔力はほぼありません。ただ、特殊技能はあります。唯それだけです。一般ピーポーです。

名前 緋村悠
家族構成 父 母 犬

なのは達のクラスメイト。
自分から話し掛けることは無く、必要以上に馴れ合おうとしない。



のは表向き。本当は口下手で寂しがり屋。友達を望んではいるものの、その自分の本心に気付かないで居る。今回、アリシアと出会ったことで、彼のあり方というものが大きく変わってくることになる。
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