なのはは頭を抱えて困惑した。
いや、この状況はある程度予測は出来ていた。昨晩の父と母の言葉。その節々にある程度、思考の片隅に可能性の芽が出るには問題ないくらいに。
だがどこかで『まさか』『そんなはずは』という言葉で掻き消していたのかもしれない。しかし…
「本日より暫く、貴官らと勉学を共にする事になった、ハル・エルトリア准尉だ。よろしくお願いする。」
転入は大歓迎だが、誤解と招きかねないのと、異世界からの居候かもしれないことがバレるかもしれないような発言は頭を抱えるしかなかった。そんななのはを露知らず、彼女は昨日見せてくれた見事な姿勢で自己紹介している。
(ハルちゃん!)
耐えかねずなのはは、件の少女に思念通話を飛ばす。いきなりの魔法技術の行使に一瞬ピクリとしてなのはの方を見やる。
(どうした?高町。)
(どうした?じゃないよ。ここは士官学校とかとは違うの!いきなり貴官、とか准尉、とか言われても皆困惑しちゃうよ!)
言われてみれば、ハルに集まる視線はというと、奇怪そうな視線。困惑した視線。あと、若干一名、興味津々といった視線が1人いたが…誰とは言わない。
(確かに、インパクトが強すぎたな。さすがに尉官という階級を暴露するのはマズかったか…。)
(そう言う問題じゃなくて!!)
念話で大きな声を出した瞬間、隣の席の男子生徒に引きつった目で見られてしまった。どうやら顔に出ていたみたいで、マルチタスクで鍛えた以上に感情が表に出てしまったらしい。余程険しい顔をしていたのだろうか?その後、愛想笑いをしておくと、更に引きつられてしまった。
(コホン、ここでは管理局とかは全く関係ないの。だからそういった単語全て禁句!)
(し、しかし、私のアイデンティティはそれくらいしかないぞ。)
(だ、大丈夫。私の言うとおりにして。)
先生がおおまかなハルの紹介をしている間に一通りの段取りを済ませてしまう。続いて質問タイム。アドリブ一切無し、なのはによるカンペでの討議だ。
「失礼した。准尉、というのは忘れてくれ。質疑に応えよう。」
「はいはーい!」
「はい、佐藤さん」
「ハルちゃんの休日の過ごし方は?」
「散歩と…そうだな。それを兼ねた甘味巡りだ。」
おぉ~、と感嘆の声が教室に響いた。
「はいっ!」
「じゃあ、田中さん。」
「好きなスイーツはなんですか?」
「そうだな。私は基本的に甘い物は好きだが、以前はザッハトルテなどが気に入っていた。季節の物で秋にはモンブランをよく食べる。最近では翠屋のケーキに感銘を受けたな。最近は和菓子という物も捨てがたい。」
再び感心の声が漏れた。特に女子。男子も一部共感しているようだが。
そして自分で言っているのに、よだれが出て来そうな表情なのは、未知の甘味を想像しているからだろう。
「はいっ!!」
「じゃあ…如月君。」
勢いよく手を上げたヒカリは、未だ慣れないのか一瞬ダメージを喰らうが、何とか立て直して立ち上がる。
瞬間、ハルは少し目を鋭くした。
魔力反応。集中しないと分からないが、僅かながらに常に気を張っているからこそ感じる力がある。この如月という男子のポケットから感じる異質な感じが気になってしまう。どうにもしがたい、妙にざらついた感触がハルの脳裏にこびりついて仕方がない。それは雰囲気にも出ていたのか、クラスメイト全員がハルのプレッシャーに吞まれ掛けていた。
(は、ハルちゃん!どうしたの?)
ハッと我を取り戻したなのはの声が脳内に木霊した。それに釣られてハルも雰囲気を戻し、教室の空気も治まる。先生と不安そうにしていたし、なによりも質問を掛けていたヒカリも戸惑っていた。
「済まない、何でもないんだ。続けてくれ。」
「う、うん。それじゃ…」
当たり障りのない質問をして、HRは何とか終わりを告げた。
「しっかし不思議な子ね。准尉とか…」
「もしかしたら隠れた趣味にミリタリーな所があるのかもしれないね~。」
休み時間。アリサの席周辺に集まってきているいつものメンバー。自席の周辺で質問攻めにあっている件の転校生について話し合っていた。
ただ気になるのは、教室に入ってきたとき、なのはが驚きと喜びの表情が皆よりも大きく感じたのが見えた。何か知ってるんじゃないか?とアリサは勘ぐる。
なのははと言うと、質問攻めしている生徒に詫びを入れつつ、メンバーの所にハルを引っ張ってきていた。
「ごめんみんな。ちゃんと紹介するね。この子はハルちゃん。暫く私の家に居候することになったんだ。」
「…なるほど。君達がなのはが昨日話していた学友か。…アリサ・バニングスに月村すずか。八神はやてにフェイト・テスタロッサ…。加えて、ヒカリ・如月。」
「へぇ…。スゴいじゃない。一日でアタシ達の名前丸覚え?」
「記憶力には些か自信がある。…まぁあそこまでに学友を自慢されれば、自然と脳に焼き付くものだ。」
どれだけの自慢をされたのか?彼女がそこまで言うからには、嫌と言うほどなのだろう。遅くまで話したのか、若干彼女の目元に隈が…。
比べてなのはの目元は全く問題なく、見ていると、何のことか分からずに首を傾げるくらいだ。
(ねぇなのは。このハルって子…。)
(ん、管理局の人だよ。療養と有休消化だって。)
(そ、そうなんだ。実は義兄ちゃんも昨日から療養と有休消化で帰ってきてるんだけど…。)
(ハルちゃんも昨日からだよ…もしかして、関係性あるのかな?あうっ!?)
念話の中でなのはが妙な悲鳴を挙げた。アリサがなのはの脇腹に肘打ちしていたのだ。ジト目で2人を無言で睨む彼女の後ろには、ヒカリが首を傾げて見ていた。どうやら横目で無言に見つめ合っているのが気になったらしい。
「えっとな、なのはちゃんとフェイトちゃんはアイコンタクトで分かり合える位に深い繋がりがあるんよ。言うなれば、長年付き添った夫婦、みたいな?」
「違うよはやてちゃん。2人は時間の長さよりも、短くても濃厚濃密な愛を育んでるんだから。」
「ふむふむ、確かに仲良いのはここ最近でわかったけど、そこまでLOVEな関係とは…。」
「は、はやて、すずか!間違ってないけど間違ってる…のかな?でもヒカリに変なこと言わないで~!」
何やらはやてとすずかが当たらずも遠からずな説明をヒカリにしているのを、フェイトは必死に弁解する。しかし端から見れば、2人のスキンシップはそう勘違いされてもおかしくないような、そこまで親密と思わせる物ばかりなのだが。
「高町。この中で我々の力について知るものは?」
「えっとね。ヒカリち…君以外は説明してる。ヒカリ君はこの月の始めに転入してきたばかりだから。」
「…そうか。」
しかし、魔法技術を知らない人間が、あの妙な反応を持っているのはどうなのだろうか?何かしら事件性のあるものか、はたまた別の物なのか。
だがここでなのはらフェイトらに相談、調査をしてしまえば、ヒカリとの関係に支障を来すかもしれない。…となれば、
「どうかしたの?ハルちゃん。」
「いや、気にするな。単に事情を知る人間がどれだけ周囲にいるか、知りたかっただけでな。」
(…独自に調べるか。)
新参者の自分なら、バレてもその傷は少ない。なのは以外初対面なのに、彼女たちの交友関係を気懸けている自分に意外性を感じながらも、有休消化中にやるべき事を決めたハルだった。
「よし…、これで何とか完成、だな。」
管理局本局の第5研究室。新機軸のデバイスの研究を成されるただっ広い空間。白を基調とした床や壁にはコンピュータのサーバーや機材で埋め尽くされ、そこから伸びる様々な色のコードが、部屋に固定されている机の上にある機器に伸びており、悪く言えば乱雑、よく言えば熱心さが伝わる部屋の奥。中空に展開されたコントロールパネルを叩いていた男性は、額の汗を拭った。昨日、バルガスのテストで得られたデータを、手早く試作機にフィードバックしようと躍起になって、結局徹夜してしまった。
ドカッと自分に宛がわれた椅子に身を預ける。
目の前の作業台には、一つのブレスレットが鎮座していた。ここ数年掛かりで仕上げた研究の結晶。白銀に輝く光沢が、今までの努力も相まって神々しい美しさすら感じられる。
…長かった。コレを完成させるために子供には寂しい思いもさせた。妻にも付き合わせてしまった。ただ、コレが完成したことで大きな節目を迎えることが出来た。
「お疲れ様でした、主任。」
苦みすら感じる香ばしい香りと共に、お気に入りの青いマグカップへと注がれたコーヒーが机に置かれた。見上げれば、腰まで伸びた金髪の女性が、盆を左手に、そして彼女のマグカップ、たぶんコーヒーが入っているのであろうそれを持ってにこやかに頬笑んでいた。真鍮の眼鏡が知的で大人な雰囲気を表している。
「いやはや、本当に達成感にうちひしがれているよ。コレだから開発は止められないから恐ろしい。…ま、のめり込んだら周りが見えなくなるのは私の悪い癖だが。」
一服、と言う意味で、コーヒーを口に含む。苦々しい味が口に広がる。だがそれがいい。濃さもバッチリである。よく自分の好みを理解してくれている証拠だ。
「本当にそうですよ。昨日から飲まず食わずでよくここまでやりますね。」
「いや、昨日のアレで大分良いデータが取れたし、バルガス二尉からは『特定人物用に調整されているなら』って言う評価も下りた。だから一気に仕上げたいって…な。」
「だからって、根を詰めすぎるのは良くありませんからね。…全く。貴方1人の身ではないんですから。」
怒っているのか困っているのか…。眉を顰めながらもへの字口にしながら、女性は腰に手を当ててため息を一つ。長年彼の下で研究、開発をしてきてはいたが、慣れないものだ。
「いや、すまないな。しかし、どうしても仕上げねばならんかったのだ。…なにせ」
「私物だから…でしょう?しかも材料費まで私財で…。」
「…あぁ、バルガス二尉にも私事で付き合わせたのだ。蔑ろに出来ないからな。だからデータを無駄にしないためにも少しでも早く完成させたかったのだ。」
自分の好奇心と趣味で作り上げたこのブレスレット。いや、厳密に言えば、ブレスレットに入れられている物。今まで培った技術と知識を詰め込んだ逸品。集大成。これを渡す日が来た。
「パーソナルデータは?」
「もう問題はない。完全にワンオフのデバイスだ。あの子以外に御しきれる自信はないよ。」
「余程の自信作なのか、じゃじゃ馬なのか…わかりませんね。」
「じゃじゃ馬も御しきれたなら名馬となるさ。……これが、私達の仕事をあの子が知る第一歩。」
「そうですね…。もう少し先になると思ってましたが…。」
感慨深げにブレスレットを見る2人。その向こうに見えるのは、1人の少女。
「私の故郷で暮らしたいと言ったときから、完成と同時に渡すと決めた。…それに、我々の仕事で寂しい思いもさせたが、…しっかりした子になってくれた。だから、信じよう。ティナ。」
「…そうですね。私達の娘を。」
『あ、ヒカリ。欠片を発見しました~。』
海鳴市に面した山と住宅地の境にある道路脇。その草むらに光る紫の結晶の欠片を拾い上げる。そこら辺にある、犬の排泄物(注:飼い犬の糞は持ち帰りましょう)を踏まないように回避しつつ、何とか回収までこぎ着けた。
「ユーリ、これで全体の何割くらい?」
『そうですね~…大体3割くらいかと。』
2~3週間で3割。このペースは早いのだろうか?このまま行けば、大体6月に入るかどうかくらいに終わりそうだが、
「出来ればツユ、っていうのに入る前に終わらせたいなぁ。」
『ツユ…ですか?』
「うん。6月に入ったらね、良く雨が降るようになるんだって。理由はよく分からないけど、そう言った時期のことをニホンゴでツユって言うらしいよ。」
『へぇ~…』
本当は昔、父から日本について教わっていたことだ。
季節の節目の風物詩。
日本では米を育てるのに、昔は雨がありがたいものであったから、実りの雨ともいうらしいが。
「ただ、髪のお手入れが大変なんだよね、ジメジメすると。」
『あ、それ分かりますよ~。ぐちゃぐちゃになっちゃって、セットに時間が…。』
やはり精神体といえど、髪は女の命なのだろう。こう言った話題でも共感できるのはお互い嬉しいようで、心なしか声も弾んでいた。
「…独り言を大声で言うとは、変わった趣味だな如月。」
突然背後からの声に、ハッとなって振り向いた。誰かは分からないが、それでも聞いたことのある声だ。
家宅の陰から出て来たのは、今日であったばかりのプラチナの髪の少女だった。
「キミは確か…エルトリアさん…?」
「そうだ。単刀直入に聞こう。…お前は誰と話していた?」
「え?ど、どういうこと?」
「質問を質問で返すな。誰と話していたのか聞いているのだ。」
二度目は言葉の節々に威圧を感じるように発してきた。
…どうにも彼女は、ユーリと話していたことを感付いている?いやしかし、どうやって感付くのか?自分の話し声が聞こえたのはわかる。だがそれは独り言で終わらせて判断するくらいなものだ。それを、『誰か』と話していた、と言う質疑に結びつくのは…彼女が特殊な力でも持っているのか。
「…べ、別に誰とも…。」
「…そうか。ならばポケットの中にあるものは何なのだ?見せて貰おうか?」
やはり感付いていると確信が持てた。ポケットに忍ばせていたエグザミアの欠片。それが放つ微弱な魔力を、ハルは嗅ぎ付けていたようだ。
しかし、素直に見せてしまってどうなる?
エグザミアを元に戻すとユーリと約束した。ここで仮にもハルに渡してそれでオシマイだとしても、ヒカリ自身は納得がいかない。約束した以上は…。
「ニホンにはこう言うコトワザがある!」
「ほう?」
「三十六計、逃げるが勝ち!」
踵を返し、全速力で走り出した。
「意味としては間違ってはいないが、それをいうなら、三十六計逃げるに如かず、だ。」
ヒカリの間違った諺に対して、律儀にツッコミと訂正を入れるが、その間にも彼女は離れていく。
ハッとなって駆け出す。魔法を使って身体強化しても良かったが、一応高町家の面々と魔法は使わない約束はしている。それを破るわけにもいかず、全速力で追いかける。
…よくよく考えれば、激しい運動もダメなのではなかったか?いや、訓練が禁止されているだけで、問題はないはずだ。
速度は歴然だった。
幼少より前線で戦い、特査官としてのキャリアもあり、更には中毒症状と言わんばかりに休日はトレーニングをこなしてきているハルの脚力は、同年代の身体能力を遙かに上回っていた。見る見る内に縮まる2人の距離。彼女が走り出したときには十数メートル離れていた距離が、時間を追う毎に狭まってきていた。
一方、ヒカリにとって感じていたのは、恐怖。迫り来るハルに対して恐れを抱いていた。突如として現れ、エグザミアを見せろと迫り、追い掛けてくる。恐怖により、心拍数が上がる。息も荒くなる。足元も全速で走ってはいるものの、震えが来ているのかいつもよりも遅い。
追いつかれる。
そうなればここまで強引に迫られるのだからどうされるかも分からない恐怖。
それでも市街地に逃げ込んでコーナーを巧みに使い、辛うじて追い付かれないように努力。少しではあるが、切迫されつつも追い付かれないでいた。道行く人々は何事かと見やるが、小学生同士とあって余り気にもとめないでいた。これがもし追い掛けているのが大の大人ならば、誘拐か何かと思い引き留めるであろう。しかし、ヒカリの心境はそれとは謙遜無いほどなのに誰も気付かない。
「…チェックメイト、だな。」
逃げ回っていたが、とうとう袋小路に追い詰められてしまった。市街地の路地の突き当たり。周囲にはくたびれたビルの壁や、それに備え付けられた室外機があるだけ。苔掛けた壁が人での付かない場所であることを示唆し、階段やそう言った抜け道は無く、文字通り八方ふさがり、と表現できる。
「大人しくソレを渡すならば害は与えない。調べて危険性が無いのなら返却すると約束しよう。…しかし、渡さないのであれば…。」
「…わ、渡さない。ボクは約束したんだ。…約束を守るのが…友達の役目なんだ…!」
ハルの忠告にも、震える声ながらも意志を貫くヒカリ。その意気込みは眼差しからも感じられるように、鋭く、硬いものであると察することが出来る。一歩、また一歩と迫るハルに、恐れを抱きつつも、視線を逸らしはしなかった。
「ならば…拘束を…」
後数歩と言った距離になった瞬間。ものの1秒とも無かったはずだ。
「あ、危ない!!」
気付けばヒカリに抱き留められ、横っ飛びしていた。次の瞬間、2人が先程まで立っていた場所へ青い閃光が走り、爆発が巻き起こった。
巻き起こる爆風。
巻き上がる瓦礫。
赤々と穿つ、叩き付けられたエネルギーの密度を表す炎の柱。
ヒカリが庇わなければ、怪我では済まなかったのがありありと想像できる。
「か…っ…!」
爆風により2人は吹き飛ばされ、ハルを庇ったヒカリはしたたかに背を打ち付け、肺の空気が無理矢理吐き出される。
そのままゴロゴロと路地を数メートル転がっていた。
「コホッコホッ…!」
吐き出された空気を体内に戻し、咳き込む。パラパラと降りかかる小さな瓦礫が、容赦なく2人の身体を打つ。
「あ、あら?照準がズレちゃってたのかしら?」
2人の前方5メートルほどの上空から、間の抜けた声がする。桃色の少しウェーブが掛かった腰までの髪を揺らし、その髪の色に合わせて服装もピンクを基調とした白い服装。目は垂れ目で、少し気怠さすら感じられる。手に持って構えているのは、俗に言う拳銃で、これまた桃色。バレルの下部にはブレードのような物が装着されている。恐らく、先程の爆発の大本はこれだろう。
「…何者だ。魔導師か?ここは管轄外世界だ。魔法行使の許可は得ているのか?」
「あらん?気を失っているのかと思えば、案外タフなのね。」
「質問に答えろ。違法魔導師ならば…」
「いやいや、そっちの金髪の男の子を追っかけ回して追い詰めてたから、助けようとしただけなんですけどぉ?」
男の子、と言われた瞬間に、ヒカリの体がまるで内部からダメージを受けたかのようにビクリと一度だけ跳ねたが2人は気付かない。
しかし人目から見れば、自分は悪人に見えていたようだ。確かに追い回していたのは認める。しかしそれは捜査の為であって、決して害を加えようとしたわけでは無い。拘束しようとしたくらいな物だ。
「でも、助けようとした子が貴女を庇うとは思ってもみなかったケドね。でもま、その子の持ってるものを欲しがってるのは、貴女だけじゃなくてよ?」
「…どういうことだ?」
「私もってことよ~?ここは大人しく手を引いてくれたら、キリエ、助かるんだけどなぁ?」
猫口のように口元をつり上げつつ、ハルに譲歩するキリエと名乗った少女。だがしかし、その手に持っている銃の口は、ハルを射貫かんと構えられていた。
明らかなる脅迫とも言える。しかし、ハルが件の物を求めたのは、危険がないのか調べるためであり、危害を加えることを第一とはしていない。しかも一個人でそれを保有しようなどとは思ってもいない。あくまでも一局員としての判断を下しただけだ。
「そうか。ならば仕方ない。」
「お、分かってくれたかしら?聞き分けの良い子は、お姉さん大好きよん。」
「何を勘違いしている?」
ガシャコン!と言う金属のスライド音。ハルの左手からは無機質な漆黒のデバイス。その黒いボディはただただ砕くことを意識し、加えて無骨さをも表したもの。
アームドデバイス
近代ベルカを主流とした、デバイスそのものを武具と出来る部類。その剛性は、ミッド式のインテリジェントデバイスとは比類にならないものだ。
「結果として管轄外世界の一般市民を巻き込んだ魔法行使。管理局員として見逃すわけにはいかんな。」
「え~と、つまり拘束されちゃう的な?」
「察しが良くて助かる。…ならば投降しろ。」
『戦闘モード、展開不可。リミッター施錠アリ』
無機質な機械音が、ハルの警告を遮った。声の大本はハルのデバイス『ガルム』のコアだ。チカチカとモールス信号のように打診している。
「り、リミッターだと!?なぜだ!?だれに!?いつだ!?」
『14日と3時間と52分前。施錠主リンディ・ハラオウン提督。リミッター施錠期間は…』
「有給休暇が終わるまで、ということか!」
『肯定。』
なんということだ。魔法行使しないように釘を刺されてはいたが、万が一のために保険を掛けられていた。デバイスの使用権限に制限を掛けていたとは…。これでは出来ることといえば整備くらいな物だ。
「何だかよく分かんないけど、これっていわゆる貴女がピンチじゃないの?」
「………。」
ぎりっと歯軋りをした。否定できない事実に。このままではアレを奪われてしまう。せめて安全な物かどうかを確認しなければ、取り返しの付かない事態を招きかねない。
「ま、大人しくしてて頂戴ね~。私だって戦わないに越したことないって思ってるんだから。」
銃口を向けてきたと思えば、ピンクの魔力の帯がハルを拘束した。ガッチリと腕を背中で固定し、動けるといえば足くらいである。
「なっ!?」
「はいは~い、それじゃ、お宝さんとご対面~。」
気を失っているヒカリに近づき、ポケットに手を入れようとした瞬間。キリエの手は、掴まれた。まるでプロレスラー同士が手を組み合って力比べをしている形で。ただし、それが『人の手』ならば驚きはしなかっただろう。掴んでいたのは『赤黒い魔法陣から生えた、赤黒い人成らざる巨大な手』だった。
「な、なんなのよコレ…」
振り解こうにもガッチリとホールドされている。ギチギチと締め上げられているのを感じ、それがこの手の強大さを表すには十分なほどだ。
「魄翼…、問題なく動いてる…」
ずるり…と、ヒカリのポケットあたりに展開された魔法陣から這い出してきたのは、ユーリその人である。初めて出会ったときのように、袴姿を思わせるような服装で、金の髪を揺らしながらコツンと靴音を鳴らして着地する。
「あ、あら?砕け得ぬ闇の主ってこんな女の子なの?」
砕け得ぬ闇…?
ただならぬキーワードが、ピクリとハルの眉を跳ねさせる。
「ヒカリなら人目にさらすのを止められてたけど…、ヒカリを守るためなら仕方ないです。」
右の魄翼が身体1個分後ろに下がる。ユーリもそれに合わせて左半身を前にさらす。獣が歯を噛み合わせるかのような、軋む音が響いた。
「魄翼必殺…右ストレート!…です!」
「え″っ!?ちょっ!」
咄嗟に発動させた防御魔法。放たれた赤黒い右の拳が唸ってキリエの防御に打ち込まれる。
ビキッとひび割れる音と共にキリエの踏ん張りは利かずに押されていく。
(ちょっ…何なのコレ…!?)
予想以上の力に驚愕しながらも、今この状況を打破せねばと策を練る。…ふと思った。今展開されているこれだけの力なら、
「その分、防御も薄いはず…!」
左手で防御魔法を維持しつつ、左手に持っていた拳銃『ヴァリアント・ザッパー』のトリガーに指を添えた。狙うは…
「一点!ファイネスト…カノン!!」
引き金を引いた。防御と拮抗する一点。ソレを目掛けて圧縮された魔力が解き放たれる。
「くっ!!」
衝撃で魄翼が弾かれると、ユーリの身体も弾かれた。どうやら身体の一部のように繋がっているとも見える。
「もしかして…やれちゃったりするのかしら?」
殴られた衝撃はかなりの物だったが、先程防御魔法を展開した様子は見られなかった。ただ不得手なのか、それとも展開できない何かしらの理由があるのか…。なんにせよ、キリエにはチャンスと思えた。
一方、ユーリにとっては計算外だった。
今日見付けた欠片のインプットを完了し、戻った魄翼のデータをひっさげて、ヒカリのピンチに颯爽現れたまでは良かった。
だが、魄翼を出せても、それを使用した魔法のための術式が未だ思い出せない。そのデータが入った欠片は未だないようで、ただただ魄翼を振り回しての肉弾戦しか出来なかった。
まるでボクシングスタイルのように魄翼を前面に出して防御する。打ち込まれる魔力の弾丸を防ぎながら、何とかこの状況を打破しなければと思案する。しかし、どうにも術式を思い出せないこの状況は、対空砲火を持たない戦艦に等しい。このままではガリガリと削られて終わってしまう。
「ユー…リ……。」
意識を取り戻したヒカリは、目の前で文字通りサンドバッグのように防戦一方を強いられている少女の名を呟く。
どうにかしないと。
でも、あんな銃を持つ人にどう立ち向かう?
引っ越してきたときの立ち回りは、あくまで相手が丸腰だったからに過ぎない。しかし、銃を持つ相手となれば話は別。射程の差はどうにも埋められないし、さっきみたいに空中に逃げられては打つ手もない。
ぎりっと歯軋りをした口の中に鉄の味が広がった。先程の攻撃で吹き飛んだときにでも口の中を切ったのか。見れば、所々擦り傷もあるし、制服も路地裏わ転がっただけあって、苔がこびり付き、ドロで黒くも成っている。
でも怪我自体はたいしたことはない。身体を打ったことで、一時的に痛みがある程度。
手を着き、膝を立て、ゆっくりと立ち上がる。足に体重が掛かった瞬間、鈍い痛みもあったが、力が入らないわけではない。
「お、おい。」
見やれば、バインドによって動きを封じられたハル。その目は敵意よりも驚愕。額には汗が滲んでおり、バインドの解析に集中しているのが見て取れる。
「武器も持たずにどうするんだ!?」
「ボクは…ユーリを助ける…!」
「無謀だ!今の状況を見ろ!どうこうできる物では…」
「それでも!何もしないままでいるよりは…!」
刹那。
ヒカリの右腕が輝きだした。いや、右の手首が、だ。見ていたハルも、戦っていた2人も、そして何よりもヒカリ本人が一番驚いていた。
一方…時空管理局本局
けたたましいまでの警報が、主任の個人研究端末から鳴り響いていた。ディスプレイには赤くミッド文字で『ALERT』と表示されている。飲んでいたコーヒーをぶちまけかねない勢いで机に置くと、すぐさま状況把握するために、コンピュータにかじりついた。
一応、研究室、ひいては本局に警報が鳴らないのは、あくまで私物の研究なので、非常時に本局を揺るがさないように回線を私物のパソコンにのみ接続している。
「何だ!?何が起こっている!?」
「わかりません!機体が…独りでに起動しています!!」
「なんだと!?まだ火は入れていないはずだ!」
何とか外部からの切断を試みるが、操作を受け付けず、コンピュータのみがその異常事態を告げているだけ。もしAIに異常があるならば、何かしらの対応を起こすはずなのだが、その気配が全くない。
「…まさか!」
「今度は何だ!?」
「機体が…転移を…!術式!顕現します!!」
台座に固定されたブレスレットを中心として、ミッド式のテンプレートが、半径1メートルの大きさで展開される。その所々で白銀の魔力光が漏れ出し、ブレスレットは転移のために量子化し始める。
「転移先を割り出せ!」
「現在解析しています!」
カタカタとコンソールを打つ手も焦りがあるのか、若干震えもある。…なんせ私事に作り上げた物だ。最新鋭の技術もあるし、下手をすれば一兵器として扱われかねない。
「解析!出ました!転移先…97管轄外世界…地球!それもニホン!」
「なん…だと……!?」
そう言い終わるのと、ブレスレットの転移が終わるのとが同時だった。
アニメVividもインターミドル編スタートですね(何を今更)
先日放送された内容で死にかけました。
悶えて。
ティオが…可愛すぎる件について。
ゲームのCGでも可愛かったけど、動きが付くとこうまで変わるものなのか!?
もうVividのヒロインはティオでいいy…(アクセルスマッシュ