べ、別にネタが尽きたとか、そう言うんじゃ無いんだからねっ!勘違いしないでよねっ!
遡り1時間
なのはとはやてはハラオウン宅に来ていた。…というのも、クロノとエイミィから伝えたいことがある、と招集を掛けられたからだ。
はやての方は、夕飯の下ごしらえ、なのはは宿題を丁度終えたところにクロノからメールが届き、それに従って現在に至る。
「そう言えば珍しいね。私達2人が揃ってクロノ君に招集を掛けられるなんて。」
上階に上るエレベーターの中で、マンション入り口で丁度一緒になったはやてに、なのはは話題を繰り出す。
「ん~、確かにそやなぁ。遊びに行く、って言うんやったらフェイトちゃんとやけど、クロノ君に呼び出しは……出会ってからは無かったんちゃうかな。」
「魔法関係かな?」
「…どうやろ?もしかしたら…そうかもしれへんな。まさかクロノ君が呼び出して、『ポケ○ンの通信バトルで駆け引きの特訓だ!』という訳ないし…」
なのはは想像した。西部の保安官が縄を回すみたいに通信ケーブルを振り回し、ゲームボーイ片手に迫るクロノ。
いやしかし、今の時期ゲームボーイに通信ケーブルか?
バージョンは赤?
それとも緑?
そんな想像が出来てしまうのは、クロノのイメージだろうか?
それとも、なのはの脳内が古臭いだけなのか?
考えながらも、目的の場所にやってきた2人は、当然の如く呼び鈴を鳴らす。
チープな『ピンポーン』というコールに反応して、中から慌ただしくスリッパが床を鳴らす音が聞こえる。
開け放たれたドアからは、フェイトが顔を出した。
「あ、いらっしゃい。はやて、なのは。お義兄ちゃんが待ってるよ。」
「待たせてもたか。それは堪忍や。」
「と、とりあえずお邪魔しま~す。」
宛がわれた来客用スリッパに足を通し、はやては松葉杖の足にあたる先端のゴムの汚れを、手持ちのウエットティッシュで拭き取る。さすがに、こうしておかないと汚してしまうので、はやてが外出、お邪魔するときはいつも持ち歩いている。
「あぁ、来たか2人とも。」
「いらっしゃ~い、なのはちゃん、はやてちゃん。」
「待ってたよ2人とも。」
広々としたリビングに設けられたL字型のソファに座り、端末を操作していた茶髪の女性『エイミィ』と、その隣で、そのデータを横目で見ていたクロノは視線を客人2人に移す。ソファの横には、子犬フォームになったアルフが、尻尾を振ってお出迎え。
「「お邪魔します。」」
「2人とも座ってて、今飲み物を入れるから。」
「ありがとう、フェイトちゃん。」
誘われるままに、ソファに2人は腰掛ける。
丁度夕日が沈む頃合いなのだが、余り気にもならない物の、窓から見えるオレンジの光は中々に目を見張る物があった。
眼を細めていると、目的の話の準備が整ったのか、クロノが口を開いた。
「今日は呼び出してしまって済まない。予定とかは問題ないか?」
「私は宿題終わったところだったから。あとはお店を手伝おうかなって思っていたくらい、かな」
「私も夕飯の準備をしてきたくらいやから。他の皆は任務や勤務やし、遅くなりそうなら連絡しとくから問題あらへんよ。」
「そうか、それを聞いて安心した。無理に呼び出したのでは無いかと心配してね。」
フェイトは手際よく、カチャリとコーヒーを入れられたカップがソーサーに乗せて、人数分テーブルに置いていく。
それぞれの好みによって、シュガーやミルクを入れられるよう、市販のスティックタイプの砂糖、カップタイプのミルクをテーブル中央に、これまた小洒落た朱塗りで木製の容器にそれぞれ入れて置いておく。
クロノとエイミィは、というと、来客用カップではなく、各々が日常から使用しているマイカップだ。2人の好みは把握しているのか、クロノは見た目通りにブラック、エイミィはミルクを混ぜてある。
アルフには犬用の餌入れに、ペット用ミルクを注いだ。なみなみと注がれた白い液体を、尻尾を振りながら舐めていく。
空いているクロノの隣に座ったフェイトを確認すると、それを機に話の口火を切った。
「では、今回集まって貰った理由を説明する。エイミィ。」
「了解~っと。」
エイミィが投影型モニターを操作すると、皆が見える前方にテーブルと同じくらいの大きさで、半透明のスクリーンが出現する。
が、
「ふむ、西日が差して見えにくいな。コレは配慮不足だった。」
クロノは立ち上がると、カーテンを閉める。季節に合わせた色合いなのか、青い布地のそれが窓を覆い尽くすように広げられた。
「すまない、話を戻そう。」
「この映し出されているのって…海鳴市?」
「そうだ。そしてこれが…」
次にエイミィが端末を操作すると、赤い点があらゆる場所に点在して表示される。
「…これは?」
「ここ数週間で微弱ながらも反応した魔力反応だ。…念の為、闇の書事件以来、この海鳴市を中心として半径百キロ圏内を探知できるサーチャーを以前から設置して置いたんだ。」
「まぁ闇の書ほどのロストロギアの余波被害って言うのも想定しててね。何らかの兆候があるなら先手を打てればって意味で。」
エイミィによれば、僅かながら。それも機械で継続的に探知していないと感知できないような微々たる反応だそうだが、さらにそれが不定期に反応を示す物なので中々その尻尾がつかめないでいるそうだ。魔導師ですら集中してようやくわかるほどの微弱さ。それが不定期にともなれば、仕方が無いのかもしれない。
「平均的な魔力反応は本当に少ない、が、1カ所だけ他とは違う。それも一瞬だけ大きな物があった所が…ここだ。」
示された点がクローズアップされ、とある場所を示す。その場所は、彼女にとっては思い出深い場所であった。
「ここって…海鳴森林公園?」
「確かなのはちゃんとユーノ君が出会ったって言うてたとこか?」
「そう、そして今日、僕はこの森林公園に何らかの痕跡が無いのか調べに行ってみた。すると、だ。」
クロノがカードの待機状態になっていたS2Uからデータリストを投射する。映し出された映像の中には、今までの事件に関する映像データや、自身の訓練や、模擬戦の戦果、提出する書類データ等々。仕事関係の物ばかりの色気のカケラも無い内容だった。
その中で、クロノは今日撮影した写真データを取り出し、地図のモニターの上に映し出す。
「こんな物が見つかった。」
「こ、これって…!」
二つに割られたガラス状の容器。そしてそれは元々一つであったことを示唆するかのように同じデザイン。その下の形は、丸みを帯びた円柱のような、…例えるならそう、カプセルと言えるだろう。その残骸が、周囲の森林や茶色の土で覆われた地面の中で一層浮いた存在である。
自然物と人工物。その中での違和感はどうしても拭いきれない。
「…試験管ポッド、とも言えるか。何かの研究対象がここに漂着した可能性がある。まだ魔法関係とは断言しきれない部分もある、が、関係ないとも言い切れない。」
「一応、回収して、本局の方で調べて貰ってるんだ。もしかしたら何か…」
「クロノ…。」
カプセルが映し出されてから、じっとその映像に釘付けになっていたフェイトが口を開いた。その眼は何処か、鋭くも少し遠くを見ているかのような印象。
「どうしたんだ?」
「このカプセル…私…見覚えがある…」
「そーなのかい?…思えばアタシもどっかで見たような…。…あっ!?」
どうやら2人揃って答えに行き着いたようだ。顔を見合わせ、精神リンクを通さずとも確信に至る。
「ど、どないなん?もし良かったら2人だけやなくって、私らにも教えてくれへんかな?」
少し表情を曇らせながらも、フェイトは意を決して、口を開いた。その様子を、アルフは少し不安げな、そんな表情で見つめる。
「あれは…時の庭園…、それが崩壊したときに、母さん…プレシア・テスタロッサと一緒に、虚数空間に落ちた…私のお姉ちゃん、アリシア・テスタロッサの入っていたものと似てるんだ。」
「言われてみれば…確かにそうだったかも。」
なのはもモニター越しとはいえ、アリシアの遺体が入っていたカプセルを見ていた。娘を愛するが故に狂気的なまでに蘇生の秘術を求めてしまったプレシア。彼女が唯一のよりどころと言わんばかりに縋り付いていた一人の悲しい母親の姿は未だ記憶に新しい。
「で、でももしそうだったとして、アリシアちゃんの体はどこに行ったんだろう?カプセルがこの世界に何かの理由で流れ着いたのなら、アリシアちゃんも…」
「あぁ…その件に関してだが…」
クロノはフェイトにアイコンタクトを送る。フェイトはその意図に気付いたのか、しばし考えた後、コクリと頷いた。
「…わかった…、とりあえず今から言うことは、基本的に箝口令を出す。…エイミィも、いいな?」
「…何やら神妙な話みたいだね。…話してくれるって事は、私を含めて、なのはちゃんとはやてちゃんを信頼してくれてる、ってとっても良いのかな?」
「ゴシップ関係以外の重要機密に関しての君の口の堅さを信用しているだけだけどね。」
「あ、それひどいなー、士官学校以来の仲でしょ~?」
「さて、話題が逸れてしまったな、戻そう。」
無視するな~、とエイミィの抗議が隣であるが、気にせずに話を続ける。そんな二人を見て三人と一匹は、見慣れた光景にも関わらず苦笑いを隠せない。
「件のカプセルに入っていたアリシア・テスタロッサ……彼女の生存がつい先日確認されたんだ。」
…
……
………
「「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?!?」」」
しばし沈黙の後、耳をつんざき、壁を振るわせるかのような三人の驚愕の声がリビングを支配した。クロノとアルフはある程度予想していたからか、耳を塞いで防御している。
彼女らが驚くのもそのはず。クロノの口から飛び出したのは、
『死者が生き返った。』
と言うことを意味しているのだから。
魔法がいかに優れた技術であるとは言え、死者蘇生などという、自然の摂理にも背くような力は確認されてはいない。使い魔という存在はあれこそすれ、あれは主人の魂の一部を分け与えられて生を受ける、と言うものであって、生物学上では明確に生前と同じように
『生き返った』
という意味は成さない。
使い魔として
『生まれ変わった』
と解釈するべきか。
「そそそそそそれって、一体どういう…」
「文字通りだ。アリシアは生きていた。バイタルチェックをしても、使い魔と同じような反応は見受けられなかったし、ちゃんとした検査自体はまだ受けてはいないが、今の見解では普通に生きている。」
「私も昨日、出会ってきた。…ホントに生きてたし、笑いあって、一緒にお風呂に入って、寝ても来たんだ。私の記憶の中でのお姉ちゃん、そのものだった。」
「なるほどや、それでも今朝はフェイトちゃん、遅れそうになってたんやな。」
「そ、そういうことになる、かな…」
一応は運動神経が良い方のフェイトだから問題は無かった。でも真面目な彼女としては、ギリギリの登校、と言うのは好まないから、気にしてしまう過去となった。その上で魔法に関してのあの誤魔化しは、やっぱり苦しかった事も、フェイトとしては忘れたい物だ。
「こほん、話を戻そう。カプセルが落ちていた位置。そこにあった反応、他にあった反応。それぞれの魔力波長が酷似している。しかし、それは同時では無く、数日毎に反応している。小さい反応だけに、躍起になるのも空回りしそうな物だが、それでも先の事件のこともある。やはり、情報共有しておく必要性が大切だと思ってね。…何か知ってることはないか?何かしら感じた、とか…」
なのは、フェイト、はやて、三人は互いに顔を見合わせ、各々が顎に指を添えたり、腕を組んだり、目を閉じたりして、自分の記憶に語りかける。
ややあって、なのはがおずおずと左手を挙げる。
「あの…もしかしたら関係ないことなのかもしれないんだけど…」
「どうした?何か思い当たることが?」
「うん、今日の帰りにね、ハルちゃんが『寄るところがある』って途中で別れたの。その時は気にならなかったんだけど、今思ったら変だなぁって。」
「変って…どういうことだい?別段寄り道なんて…」
「いや、そのハルという人物が僕の知る人物と同一人物ならば、ある程度合点がいく。」
クロノは新たなウィンドウを開くと、プラチナセミロングの髪と赤い瞳。陸の管理局制服に身を包み、仏頂面で映った少女の写真が現れる。
「ハル・エルトリア准尉。とある事情により、昨日から有休消化で高町家に居候している。」
「それがなんか変なとこでも…あ!」
「そう。昨日、初めて地球に来た人物が、学校帰りに『寄り道』。普通ならおかしい。土地勘や店の配置がわからず、そんなことをする人間はまずいない。」
「つまり、ハルちゃん自身が何かしら感じ取った、ってことに?」
エイミィがそう結論付けたときだ。
開いていたウィンドウに赤い点滅。
あらゆる画面を遮るように『ALERT』と赤いミッド文字でデカデカと表示される。
けたたましいまでに警報が鳴り響き、非常事態を告げるそれに、リビングにいた全員はハッと顔を上げ、立ち上がる。
「なんだ!?」
「ちょっと待って…!…これは!?市街地で魔力反応!?」
端末を打ち込み、探査魔法が導き出した非常事態を把握。
先程表示した海鳴市のマップに座標を表示する。
赤い点をサークルで囲んでいたのは、周囲が古いビルに囲まれた、旧中心街。旧、と明記はするが人の住まいはまだ十分すぎるほどあり、戦闘を行うなどあるまじき場所だ。
「数は!?」
「今のところ二つ!二つとも結構大きい!あ…!微弱だけどもう一つ増えた!」
「映像データを!」
「ちょっと待ってね!いま割り出すから!」
突然の緊急事態に驚きつつも、頭の中で冷静な判断を下す。
サーチャーから得られる情報、それらを整理し、映像を映し出すことに何とか成功する。
「ちょっ!!何なのコレ!?」
「どうしたんだ!?」
「民間人と思しき人がデバイス起動!えっと…そのまま…海鳴上空に戦闘領域を移してる!?」
魔導師が少なくとも3人だったはずが、ここに来て新たな魔導師の登場である。
だが、結界すら張られていない市街地で、戦闘行為など許されるはずもない。上空へ逃げたのも苦渋且つベターな判断とも言えた。
「そのまま上空3㎞で戦闘開始!」
「なのは!フェイト!君達は現場に向かえるか?結界魔導師がいない今、直接行って戦闘を止めるしかない!」
「わかった!」
「はやてとアルフはここで待機!…もしかしたら、増援が出て来るかもしれない。そのために余剰戦力として待ってて欲しい。」
「了解や。」
「いこう!フェイトちゃん!」
「フェイト…気をつけてね!」
「うん、ありがとうアルフ。いこう…なのは。」
コクリと頷く親友と共に、片や首から掛けられた赤い相棒を握りしめ、片や金の鋭利な感覚のアクセサリーを掴み、ベランダへと駆け出る。
それぞれの相棒に力を流し込むように…
意識を共有するように…
「レイジングハート!セットアップ!」
『オーライ、マイマスター!ドライブイグニッション!』
女性型の機械音声と共に、それは顕現する。紅い宝石をコアとし、金、白、青の装飾が施された、ミッドチルダ式インテリジェントデバイスにして、高町なのはの唯一無二の相棒が。
それと同時になのはの服も、戦闘用の魔導衣であるバリアジャケットへの変更される。レイジングハートの色に合わせて、白と青を基調とし、所々にレイジングハートのコアと同じような水晶を施し、金のブレストプレートに加え、所々に金のラインが施されていた。
「バルディッシュ!セットアップ!」
『イエスサー!ゲットセット!』
レイジングハートに対して男性型の機械音声。黄色のコアを中心として、戦斧を思わせるような漆黒のボディ。フェイトの母の使い魔にして、魔法の師であるリニスの遺作。そしてアルフと共に、常に側で支えてくれる相棒だ。
フェイトもバリアジャケットを展開する。黒いマントを羽織り、白と赤のラインと金の装飾が施された黒いボディスーツ。左手には銀のガントレットが装着され、なのはのような防御力に重きを置いたものとは逆に、速さを突き詰めたものだ。
2人はデバイスを握りしめ、暗くなった海鳴上空を未だ寒さ抜けきらない風を切って飛翔する。
「…どこの誰なんだろう…町中で戦いなんて…」
「何者でもとりあえずは止めないと…!上空に戦場を移したとは言え、流れ弾が地上に落ちたら騒ぎどころじゃ済まない…!」
「うん。お話…聞いてくれたら良いけど…。」
『マスター、スコープ使用で目視できる距離になりました。』
距離にして2㎞ほど。レイジングハートがこう言うと言うことは、予め敵を知っておけ、と言うことなのだろう。
なのはは一旦飛行を止めて眼をとじて、眼に魔力を浸透させる。再び見開くと、レイジングハートを介して狙撃用のスコープを展開。若干ぼやけながらも、倍率スコープのように相手の距離に合わせていく。数秒間調整に充てると、視界に白銀と赤の魔力を噴出させる白い何かと、それを追う桃色の髪の人物。遠巻きに見てもかなりの高速戦を展開しているのが分かる。白い何かは、白銀の魔力弾のような物を射出しながら、追撃を避けているように見える。
「どう?なのは。」
左隣1メートルに浮くフェイトが問いかける。どうにも未だに現状が把握し切れていないなのはだった。と、そこに通信が入ってくる。クロノかエイミィか?と思い、受信すると、そこには思いがけない人物からの物だった。
『聞こえるか?高町なのは。』
「聞こえるか?高町なのは。」
感じた魔力が知った人物の反応だったので、通信を入れてみるとドンピシャ。バリアジャケット画面越しでも分かる点からして、やはり反応はなのはだと確信する。
『は、ハルちゃん?どーしたの?』
「上空の戦闘空域に向かうのだろう?…如月を頼む…!」
『ヒカリ?…どうしてそこでヒカリが?』
なのはの隣で通信を聞いていたフェイトがひょっこり顔を出す。
「戦闘している2人の内、一人はキリエとか名乗っていた。…もう一人は…ヒカリ・如月。クラスメイトの彼だ。」
…
……
………
『『えぇぇぇぇぇっ!?』』
なのは、本日二度目の絶叫。三度目の驚愕だ。
「何故かは知らん。しかし、彼はデバイスを所持していたことは確かだ。…いや、送られてきたようにも見えたな。…ともかく、詳しいことは落ち着いてから話そう。」
『そ、そうだね。ヒカリからも話を聞かなきゃだし、とりあえずは現場に向かおう。』
『それじゃ、ハルちゃん。また後で!』
あぁ、と短い返事の後、通信ウィンドウは閉じられた。一旦、目を閉じて大きな息を一つ。さて、その時になったら何から説明したものか。思案しながら、隅に隠れる金髪の少女を横目で見やる。こっそりと顔半分を角から覗かせ、チラチラとこちらを見ているところを見るに、人見知りが激しいのだろうか。
砕け得ぬ闇と呼ばれる物。
それが何たるかをこのユーリという少女は知っていると思われる。
そして『闇』と言う単語…。
この第97管理外世界の、この街においてこの言葉は少々引っかかりを感じる。
4ヶ月に終結した『闇の書事件』
それとこの少女は何らかの繋がりがあるのかも知らない。そんな憶測がハルの脳内を駆け巡り、僅かながら警笛を鳴らしている。
「…如月の件は信頼置ける仲間に任せて置いた。…彼女らならばそうそう遅れを取ることはないし、何より如月の友人だ。」
「………。」
先の鬼ごっこの件もあるのか、いまだ物陰に隠れ、若干睨み付けるように見るユーリ。
どうしたものかな、と悩ませる。まぁ、出会ったばかりの人物のことを警戒するな、と言う方が難しいものだ。
「一応、如月とは違い、魔法関係の知識はあるようだから説明はしよう。私は時空管理局の特務捜査官。…如月を追い回したことには、ちゃんとした理由がある。」
「………。」
ユーリの睨み付ける視線が痛い。いまだに懐疑的な視線は変わりなく、目の前で特務捜査官と名乗る人物を見る目は、まるで『私は異世界の一国の王女』と名乗るように信じるには難易度の高い物だろう。
それからハルはできうる限り説明した。
正当化、と言うわけではないが、それでもちゃんとした理由ががあったことには変わりない。
魔力反応。
管轄外世界。
その二つは混ざり合う可能性は低いが、あったにしても時として脅威となり得る物もある。
それならば、早い内に調査しておくに越したことはない。
「つまり、ヒカリを襲撃したのは、仕事柄、私の事が気になってしまった、と?」
「襲撃…。まぁあながち間違いではないか。そうだな。ここは管理外世界。魔法とは本来無縁の地だ。そこに魔力を持つ物があれば、調べておかないと何かあってからでは遅いからな。それに、もしかしたら力になれるかもしれない。」
力になる、とは言ったが、デバイスも封じられている今、出来ることは極力限られてくる。しかし、オペレート位なら、本職には劣っても力になることも出来るはずだ。
「…それに、上空の方も終わったようだ。」
「え…?」
見上げるハルに吊られ、視線を遥か上空に移したユーリの目に、白銀の光は途絶えていた。
「こちらは時空管理局嘱託魔導師フェイト・テスタロッサです。次元渡航者の方でしょうか?」
戦闘空域に入った2人は、キリエとヒカリへ接触した。距離にして5メートル。相手の2人は戦闘行為を中断し、キリエはなのは達を見やる。
「まぁそんなとこかしら?もしかしておねーさん、イケないことをしちゃったかしらん?」
「ここは管理外世界です。飛行を含め、魔法使用、及びその世界への渡航自体、管理局の渡航許可が必要になります。お持ちですか?」
「いや~、おねーさん、ちょっちドタバタしてて、その時に落としちゃったのよね~。だ・か・ら…。見逃してくれたら、キリエ嬉しいなぁって…。」
もちろん渡航許可もなければ、落としたなどと大嘘だ。目的としては時間稼ぎ。手の届く場所に目標の物があるのに、手に入らないもどかしさは誤魔化しきれない。
しかし、ここで捕まるようなことがあってはならない。これが生き恥をさらしてでも、という奴かしらん?
「では、管理局のデータベースに履歴を照合してみます。失礼ですがお名前を…。」
「あっ……!」
今まで背を向けて浮遊していた白銀の機を纏った人物がふらりとよろめく。まるで、糸が切れた操り人形のように力なく項垂れたかと思うと、真っ逆さまに降下、否、落下していく。
この高さから地上に激突すれば…、いや、想像するのにも悪寒がする。
『フラッシュムーヴ』
レイジングハートの機械音声と共に、なのはは降下した。魔法の併用で、落下速度に更に速度を加える。バリアジャケットを纏っているとは言え、寒さの緩和はあまり設定していないので、加速すると肌寒さが身にしみる。
雲を抜けて、市街地が眼下に捉えられた。雲に突入したことで、一瞬目標を見失うが、レイジングハートのアシストで再び捕捉する。
「いた…!」
アクセルフィンの軌道を修正。うまく下に潜り込んで抱え上げないと、腕や足を掴もうものなら脱臼、いや最悪それ以上の自体もありうる。
こういう速度を必要とする事態はフェイトが向いているのに、無意識に身体が動いてしまった。
なのはの性格もあるが、さっきハルから言われた言葉が引っかかっていた。
『如月を…頼む』
恐らく白銀のアレはヒカリなのだという確信めいた思いがあるからだ。
迷うことはない。
友達を、目の前に危ない目に遭うと分かっている相手を、助けるのに理由は要らない。
「ヒカリちゃん!!」
どうにか落下する彼女を抜きレイジングハートを脇に抱えて、両手で抱き止める。フェイトのバリアジャケットにも似たような服を纏い、ゴテゴテとした機械を身に付けはしていたが、きめの細かく、美しい金のポニーテールは、大切な友人のそれであった。
「って重っ!!重ぉぉい!!!??」
それはそうだろう。こんな金属という金属を身に付けていて、その年相応の重量で済むはずもない。ある程度の身体強化はしていたが、これを上回る合計重量だ。
何とかフルパワーで高度を維持できた。ふぅ、と一息つくと、抱き抱えた少女の顔を見やる。
よかった、どうやら気絶してるだけみたいだ。
しかしホッとしたのもつかの間。念話がなのはの思考をノックする。
『な、なのは…。』
『フェイトちゃん?』
『さっきの女の人に…逃げられちゃった…。』
『ええぇぇぇぇっ!?』
今日は良く驚く日だ、となのはは後に思った。
「うっ!こ、ここって…うわぁぁぁっ!?」
金の髪の少年の目の前が光に包まれた矢先、飛ばされたのは市街地上空。もちろん、無重力などと言う生ぬるい物は無く、ニュートンとやらの万有引力に従い、地表に向けて真っ逆さまに落ちていく。
「ブ!ブリュンヒルデ!セットアップ!」
『O.K.ドライブスタート。』
手持ちのデバイスを操作して姿勢制御を図る。腕と、足に黒金の装甲を纏い、胸部にも碧のコアを埋め込んだプロテクターを纏う。
デバイスの恩恵で、何とか魔力制御を行い、長時間の戦闘を可能になったが、それでもまだまだ覚束無い。
「…えっと、確か俺は…三日目の修行が終わって、それで確か…少し息抜きに公園に向かったまでは覚えてるけど…。」
『相違ありません。』
「…むむむ…。いきなりこんなところに転移するなんて、何かの事故かな?いや、でもそんな兆候はなかったと思うけど…。」
考えていても仕方ない。とりあえず近場のビルの屋上に着陸。地に足を付けることで、気持ちを落ち着けた。
まず現状を整理する。確か自分は修行のために管轄世界へ来て、泊まり込みだったはず。しかしあの息苦しさや重苦しさが無いことを見るに、違う惑星なのは確かだ。やはり別の世界に転移させられたのは間違いは無いようだし、どこの世界に飛ばされたのかを知る必要がある。
「ブリュンヒルデ。現在地を調べられるか?」
『既に検索中…検索……照合完了。第97管理外世界、地球と判明。』
「チキュウ…って確か!」
『姉君や御両親の出身世界でもある。』
これは朗報だ。姉の話では、事情を知る人が幾何かいる。アリサやすずか、運が良ければハラオウン家の人も居るかも知れない。そうと決まれば行動あるのみだ。しかし、
『新暦は66年と確認。』
「は?今、新暦79年だろ?それも5月のはずだ。」
『管理局サーバーにアクセスを掛けたところ、メニュー画面の表示がそうなっていました。加えて4月です。』
つまり…
「え?え?」
『魔力反応接近。数は2。念のために体制を整えてください。』
「落ち着く暇も無いっ!て言うか状況が読めない上にごちゃごちゃしすぎだっての!」
そう言いながらもブリュンヒルデと呼ばれたデバイスのブースターを操作し、移動する少年。物陰に隠れつつ、視力強化でその魔力反応を警戒し、何が飛び出ても問題ないようにする。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」
聖王閣下が出ました。加えて覇王様も。
「あれ?おっかしいなぁ…今この辺で魔力反応が…」
なれない空中の慣性制御をクリスの補助を受けつつこなしながらヴィヴィオは目標の宙域で停止する。周囲は真っ暗闇で目もあまり利かないので、探知魔法による索敵で探しているのが現状だ。
「ティオ、私達も索敵を厳に。念のために臨戦態勢を。」
『にゃあ。』
周囲の空気の流れを感じ取れるまでに感覚が研ぎ澄まされた。そこまで探知魔法は得意ではないものの、それは反応速度でカバーするしかない。
それは少年の方も同じだった。遠目に見てもわかる魔力光。それが彼が行動させるに至る決定的な物となっていた。
虹色の魔力光カイゼル・ファルベ
聖王の血統にのみ確認されている、世界に二つと無いほどの超が付くレアカラーだ。そんな魔力光を発している人物というのは、少年にとって1人しか思い当たらない。
気付いたときには飛び出していた。
おそらくは自分の知る人物と同じ人間であるという確信がある。そうして2人が展開する索敵圏内に入ることになった。
「レオン君!?」
「よう、ヴィヴィオもなんか飛ばされたっぽいな。」
レオンと呼ばれた少年は、ヴィヴィオとハイタッチを小気味よい音と共に交わす。
2人とも見知った顔に出会えて、安堵感を隠そうともしない。
「レオンさんも…ここに飛ばされたんですか?」
「まぁな。2人もカルナージにいたのに飛ばされたクチか?」
「へ?私達は公園をジョギングしてたのが最後の記憶なんだけど…」
「え?それ…いつだよ?」
「確か…7月位、でしょうか?」
食い違う情報。
レオンが言うには5月。
ヴィヴィオとアインハルトは7月。
2ヶ月間の時差がある。
『お三方。話にのめり込んでおられるのは解りますが…新たな魔力反応接近。』
「…どうやら落ち着いて話すのは後回しっぽいな。」
「まずは魔力反応の対処、話はそれからですね。」
再三身構え、不慮の事態に対処すべく気を張る。しかして現れた相手は、3人とも見知った顔…のはずであった。
「え~こちらは時空管理局の八神はやてです。この辺で不審な転移反応があったので、もしよろしければ事情聴取諸々を…」
「「「はやて(ちゃん)(姉)(さん)!?」」」
「あ~はい、まぁ確かにはやてですが…。」
「…にしてはやっぱり小さいな…。」
「レ、レオンさん、失礼ですよ…」
「えーっと、13年遡るから…10歳くらいかぁ…確かに同い年にしては小さいかな…」
「ヴィヴィオさんまで…!確かにそうかもしれませんが、言って良いことと悪いことが…」
「あんたら…丸聞こえなんやけどな?」
こめかみにピクピクと青筋を立てて、剣十字を先端に取り付けた魔導杖『シュベルトクロイツ』を展開する。
10年後を知る3人のうち2人には、低身長にあえぐ一課の部隊長の姿を知るだけに、そしてその地位に相応の威圧感を持つ二等陸佐の姿がありありと目に浮かぶ。
「私かて気にしとるんやー!わざわざ聞こえるように言うなやー!」
かくして、後に『歩くロストロギア』『奇跡の部隊長』とまで呼ばれる広域殲滅型の少女と、後にインターミドルチャンピオンシップに名を連ねる近接型3人による阿鼻叫喚の鬼ごっこが始まった。
…ぼちぼちストックが無くなってきた。
Vivid編の方も執筆しています。未来の三人組の関係性レオンと名乗る少年の正体についても…ね。