魔法少女リリカルなのは 未来への系譜   作:ロシアよ永遠に

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一ヶ月以上放置で申し訳ない!なんとか一話分仕上がりました!戦闘込み込みで仕上げてたら、予想以上にかかって…!描写はやはり難しい…


Mission16『欠片』

広く、そして青々とした大空。それを我が物顔に飛び回る鳥たち。人は陸を走ることは出来ても、海を泳ぐことは出来ても、空を自らの力で飛ぶことは出来ない。

それだけに人は憧れを抱く。自分に出来ないことを出来る者に対し、憧れとともに妬みも心に宿らせる。

だから人は知恵を使う。

 

人が飛べないなら、飛べる道具を作れば良いじゃない。

 

その知識を用い編み出した技術である科学。その地球の技術結晶、その尤もたる例が飛行機だ。旅客機として、海外各地を飛び回る勇姿は兵器としても転用され、数多の高速戦闘機を生み出すまでに至った。

憧れはいつしか日常としての風景に溶け込んでいく。夜空を見やれば、飛行機が信号灯を光らせていく様はもはや見慣れた風景だ。

 

ミッドチルダにおいても空を飛ぶ技術は、『魔法』として科学に定着している。

 

「そう!前に進むイメージをすれば前進!飛行制御はイメージで変わるから忘れないで。」

 

ほんの少し前までは、飛行機の窓から眺める景色が関の山だったにも関わらず、今はこうして自分の力で、未だ自由とは言い切れないが、それでも飛ぶことが出来る。

背中のスラスターから噴かす魔力による推進。ヴァルキリーの制御を緊急時以外切断し、ヒカリによる空中での慣性制御の練習が肝となっている。なんにせよ空戦をこなせるようにならないと、いざという時にただの的になるようではいけない。しかも実際の魔導師は自分の飛行の大半は自分自身で行い、デバイスはあくまでも補助でしかない。それだけに自分で制御を行えないと言うことは、AIの補助範囲を削減させることにも繋がり、戦闘効率にも大きな支障が出て来る。

最初こそふらふらと覚束無い足取り…もとい、魔力取りともいうのか、そんな感じではあったが、ここ一時間ほどで見違えるほどに上達している。勿論、数ヶ月飛び続けたはやてに及ぶまでもないが、それでも自力の制御で飛ぶことにおいては、その成長ぶりにはなのはもフェイトも舌を巻いた。

 

『よし、練習はその辺にして、一旦休憩をかねて戻るか?時間としても遅くなっているし、なのはもヒカリもそろそろ帰っても良いかもしれない。』

 

「あ、そっか。もうこんな時間か。はやてちゃんもそろそろヴィータちゃん達が帰ってくるって言ってた時間じゃない?」

 

「そう言えばそうやな。…ほならそろそろ切り上げ…。」

 

…る事が出来ればどれ程良かったか。はやての言葉が途切れるのと、周辺に封鎖結界が張られたことに気付いたのが同時だった。周囲の色は暗く澱んだ物と変わり、異様な光景となっている。その景色たるや、初見ではこの世の物と思えないように感じるであろう。

 

「これは…封鎖結界…!?」

 

「フェイトちゃん、ヒカリちゃんとはやてちゃんのフォローを!」

 

「わかった!」

 

飛び慣れた2人が飛び慣れない2人の側に付くことで、不測の事態に備える。4人で四方を警戒し、どこから何があっても対処できるように互いに背中を預ける。

 

「…ダメだ。アースラと繋がらない!」

 

「通信遮断か…!海鳴市に結界魔導師がおるんか…?」

 

「…来た!!」

 

ヒカリのバイザーに備え付けられたセンサーが魔力反応を探知。チカチカとレーダーの中心に位置する自分達の反応に高速で近付いてくる。

 

「速い!」

 

「なのははヒカリのフォローを!私ははやてと!」

 

「うん!気を付けて!」

 

「こちらこそ、や!」

 

接近する反応を中心として、左右に2対2に分断。目視できる近付いてくるその反応が、高速で二つのペアの間を赤い軌跡を残して通過していった。

 

「あれは…?」

 

「鉄球…?」

 

「…まさか!!」

 

振り向いたときに、その黒金に輝く鉄槌は、彼女…ヒカリの意識を刈り取らんと、三つのブースターを噴かして振り下ろされていた。撃鉄の先端に備え付けられた黄色い鋭利な刺突部が、まるで猛禽類の嘴のように獲物を刺し貫かんと迫って来ていた。

 

「だぁぁぁぁりゃぁぁぁぁっ!!!」

 

「くぅっ!?」

 

思わず右手の装甲で防ぐ。装甲と、刺突が、火花を散らしてぶつかり合う。金属の削り合う音。しかし、ヴァルキリーの装甲が堅牢なれど、加速を付けた一撃には抗いきれない。

 

「ヒカリちゃん!!」

 

気付けば吹き飛ばされていた友人の名を呼ぶなのは。しかし、その心配は杞憂であることが、襲撃してきた赤毛で三つ編みの少女の言葉で気付く。

 

「ちっ!わざと吹っ飛ばされてダメージを抑えやがったか。」

 

「なんで…どうしてこんなことするの…?」

 

なのはは信じられなかった。4ヶ月、最終的に協力しあって、今では家族ぐるみの付き合いのある彼女が…友人を吹き飛ばした事に。そしてその鋭い目が、次は自分に向けられていたことに。

 

「ヴィータちゃん!!」

 

「…気安く呼ぶんじゃねーよタコ!…と、おめーはなかなか魔力がありそうだな。」

 

鉄の伯爵こと『グラーフアイゼン』を構えるヴィータ。その目は殺気に満ちあふれ、とてもではないが、なのはのよく知る口は悪いけど思いやりのある彼女とはまるで別人のようだった。

 

「てめーの魔力、闇の書の糧にしてやる!大分埋まりそうだしな!…さっきの奴も…まぁないよりはマシか。ついでに奪う。」

 

「ヴィータ…ちゃん…?闇の…書って…!?」

 

「うるっせー!てめーは魔力を奪われてりゃ良いんだよ!」

 

唸りを上げるブースター。そして刺突部から生みだされる破壊力。それらを身を以て経験しているなのはは、直感から失意に近い状態からも本能がかわした。上昇した直後、胴体の位置していた場所を横凪にラケーテンフォルムのグラーフアイゼンが引き裂く。避けた後になのはも意を決し、距離を取りに行く。アクセルフィンを羽ばたかせ、自分の得意とする距離。すなわち中~遠距離に持ち込まないと。

 

「逃がすかよ!」

 

魔力で生み出した四つの鉄球を指の間に挟み、なのはを追撃する。ハンマーフォルムに戻したヴィータは、中に放り投げた鉄球をフルスイングで打ち付ける。

 

「シュワルベ…フリーゲン!!」

 

打ち出された鉄球は、各種方向から緩い放物線を描きつつ、なのはへ肉薄する。

 

「くっ!!」

 

容赦ない追撃に顔をしかめつつも、周囲にスフィアを四つ展開。離脱しながらも、後方に目があるのかと言わんばかりに的確に、シュワルベフリーゲンを撃ち落とす。ぶつかり合う弾が爆発する最中、ヴィータの動向を警戒して飛びつつも、吹き飛ばされたヒカリを、そして分断されたはやてとフェイトを気に掛ける。

 

『なのは!』

 

そう思う矢先、心配していたフェイトからの思念通話が入る。

 

『フェイトちゃん!そっちは!?』

 

『今、こっちにはシグナムとシャマルが…くっ!!私はシグナムの相手をしてるけど…!シャマルははやてと交戦してる!』

 

『えぇっ!?』

 

自分達もそうだが、はやてにまで攻撃を仕掛けるというのは流石におかしい。主である彼女に対する愛情と忠義はなのはもよく知っているし、その深さには尊敬も抱いている。しかし、フェイトの言葉がそうであるならば、違和感すら感じられるのが現状だ。

 

『何かがおかしいよなのは。シグナムもそうだけど、シャマルも、はやてや私のことを知らない風な口振りなんだ。』

 

『確かに…!ヴィータちゃんもなんだか初めて会ったとき以上に攻撃的って言うか…、闇の書の糧にするって…!』

 

『とにかく、現状を凌ぎきろう。何かしらの理由か原因があるにせよ、せめて戦闘不能に…!くっ!』

 

あちらも苦戦しているのだろう。そこまで言ってフェイトとの思念通話が途切れた。シグナム相手で、あそこまで念話を飛ばせる余裕があったことの方がスゴいとも言える。

 

『とにかく…念のためにヒカリちゃんのフォローにまわろう…!考えるのはそれからでも…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぅん!!」

 

鍛え抜かれた褐色の肉体。魔力付与もあるが、この重圧により白銀の腕部装甲に凄まじい衝撃が走り、ヒカリは顔をしかめた。いくら堅牢な装甲であっても、その受けた衝撃をある程度緩和は出来ても、防ぎきることはできず、腕に痺れを感じながらも迫り来る丸太を思わせるような脚部からの蹴りを上昇してかわす。

一旦距離を置くと、褐色の獣人『ザフィーラ』は大きな狼と思わせる耳をひくつかせ、相対する少女を一瞥する。

 

「どうした?何故武器を取らん。」

 

「何故って…!いきなり仕掛けられても、誰かも判らない人と戦えないよ!それに、戦う理由も無い!」

 

「…戦場でその様な甘い言動は通用せんぞ…!」

 

狼の爪に魔力が迸る。空気を、敵を引き裂かんとその鋭い爪が振り抜かれる。

 

「ふんっ!」

 

爪の軌跡そのままに、魔力による斬撃がヴァルキリーの装甲を、ヒカリの身体を揺らす。

 

『サージェント、このままでは当機とサージェントの撃墜は確実です。反撃を。』

 

「で、でも…!」

 

「…そのデバイスの方が現状をよく分かっているようだな。」

 

指の関節を、まるで今のは小手調べと言わんばかりにゴキゴキと鳴らす。そう、今からが全力と、無言ながらも伝わる。

 

「戦場に身を置くならば…腹をくくれ。さもなくば死ぬ。」

 

『武装顕現。』

 

ヒカリの、ヴァルキリーの右腕にM16アサルトライフルが意思と反して具現化される。ヴァルキリーから発せられるシグナルでセーフティーが解除され、いつでも発射可能という状態に移行する。

 

『戦わなければ死にます。それは何処の戦場でも同じこと。私は、サージェントに死んで欲しくはない。』

 

「うっ…。」

 

『先程の戦いのように非殺傷設定ならば、傷つけること無く制することも可能です。だから…引き金を引く。それもまた一つの勇気と思って下さい。』

 

「勇気…。」

 

「ふん…いい目にはなったか、それでこそ戦い甲斐のあると言うものだ。」

 

ザフィーラは少し口元をつり上げる。

戦う相手に発破を掛けるなど、自分もつくづく甘い男だと自嘲する。しかし不抜けた戦意のない相手と戦うのは躊躇うのもまた事実。

 

「では行こう…!我はザフィーラ…盾の守護獣!主の御身を護る盾となり、阻む敵を引き裂く爪牙だ!」

 

「えっと…聖祥大附属小学校4年生!魔導師歴は…数時間!ヒカリ・如月!」

 

「行きます!」「参る!」

 

踏み出したのはザフィーラだった。彼の得意とするのは主として防御。しかし、その鍛え上げられた肉体とて飾りではない。銀の手甲と共に剛腕が相手を喰らわんと迫る。

しかしヒカリもわざわざ喰らわれるつもりは毛頭ない。ブースターの推力を落とし下降。ザフィーラの下に回り込む。

下降しながらアサルトライフルを数発撃ち込む。その速度はクロノの扱うスティンガースナイプ程の速さ。誘導こそ、それと違い付加されていないが、それでも速射性においては秀でている。単純な直射魔法の変換をカートリッジから行っているので、タイムラグがほぼ無く、悟られにくいのも利点だ。しかし、そんな武器にも欠点という物は勿論ある。

 

「ぬぅっ!!」

 

ザフィーラの突き出した左手に展開されたベルカ式の防御壁。それに当たると同時にさも簡単に防がれてしまった。

 

「軽いな。」

 

彼の言葉は、ヒカリの速射弾の欠点を露呈するには充分だった。カートリッジから直接変換されている分、ただの魔力の塊に速度を付けて撃っているだけに過ぎない、いわばほぼ垂れ流し。それだけに防御の薄い相手ならばまだしも、防御特化とも言えるザフィーラに対して効果は希薄であった。

 

「…速度だけでは、我が防御は貫けん!」

 

赤い瞳が射貫かんとヒカリを睨む。

 

威圧感。

 

頬を冷や汗が伝う。

下降しながらもなお、弾幕を張り続ける。しかしその弾幕をザフィーラは敢えて受ける。鉄壁とは言え、強化無しの受けは危険ではある。しかし、ザフィーラの防御という物は、単に防ぐだけが能では無い。

 

「相手の力をも利用して、防御と言うものだ。」

 

弾丸が当たる寸での所で、ザフィーラは身体に膜を張る。プロテクトやパンツァーヒンダネス等の防御に形は似ている。しかし彼の使うそれは、攻防一体の魔法だ。

 

「裂鋼…!」

 

当てられた魔力を瞬時に集束、振りかぶり、突き出した拳に乗せて速射する。

白銀の閃光が、よもやこのような形で来るとは思わなかった。即座に射撃を止めて軌道変更。足元を、太い魔力の、まるで銀狼の顎のような攻撃が過ぎ去る。

 

「襲牙!!」

 

ホッと一息つく間もなく、聞きたくない声が響いた。見やれば、二本目の裂鋼襲牙が迫り来る。おそらくは、一本目と入れ替わりで撃っていた物を返したのだろう。

軌道の先に向かい、高速で迫る二発目。軌道変更不可と判断して、両手をクロスさせて防御に移る。

 

「ぐうっ!?」

 

予想以上の威力。弾丸にザフィーラの魔力が上乗せされたのだから、当然と言えば当然かもしれない。

しかし、撃ち込む弾丸その物がこうも通らないのであれば打つ手は無いのか?徒手空拳で…あの筋肉もりもりの相手に勝つ自信は無い。かといって武装はM16だけ。何か…決定打が無い。

裂鋼襲牙の爆煙をカーテンに、何か打つ手を考える。このままでは、どっちにしても敗北へ一直線。魔法自体基礎の基礎しか知らない自分にとっては無い知恵を絞れといっても不可能。だからと言って諦めるか、と言えばそういう訳にもいかない。

 

『サージェント!』

 

「へっ!?」

 

爆煙の先に影が映る。

まさか…

まさか…!

 

「牙獣…!」

 

再び腕で防御にする。しかし、彼の攻撃はそれを許さない。飛び蹴りの勢いで、足先に硬い防御の膜を張り突破してくるその攻撃。それはヒカリの腕の防御を一撃目に『捲る』ことを目的としていた。

蹴り上げられた手は、意思と反して中を仰ぐように防御を解かされ、一瞬だが胴体を無防備に晒す。

捲ると同時に蹴り上がる。

 

「走破!!」

 

仰け反り、無防備な身体に強烈な踵落としが叩き込まれた。

ボディスーツが耐衝撃性に優れているとは言え、レガースの踵部からの一撃に苦悶の表情を浮かべる。

 

「ぐっ!」

 

錐揉みながら落下するものの、その速度そのままに一旦距離を取る。封鎖結界によって誰も居ない市街地へと降下していく。勿論ザフィーラもそれを逃がすことを許すはずも無く、追撃する。

しかし、ヒカリがザフィーラの堅さと一撃の重み以外で勝てること、それは速度だった。ブースターを噴かして市街地のビル間を縫うように跳ぶ。そうすればある程度の攪乱は出来るはずだ。

 

「…どうしよう…。打つ手は…!」

 

唯一の攻撃手段であるM16の弾丸も容易く防がれ、となれば残された手段は不意打ちしかない。防御展開する時間を与えず、気付かれないうちに決着を付けるのがベターな選択。

 

「弾の威力を…高めれたらどうにかなるかも知れないのに……………あっ!」

 

『サージェント?』

 

「そうだよ!この手があった!…上手くいくかは判らないけど…!」

 

背後から追尾してくるザフィーラを横目にしながら急旋回。正面にザフィーラを捉えつつ逆加速の噴かせ方により、加速をあまり衰退させること無く迎え撃つ。

 

「このっ!」

 

再びM16から穿つ白銀の魔力弾。相も変わらぬ射撃方にザフィーラも慣れてきて、難なく対処できるようになった。つまり、防御のタイミングを合わせ始めている。

 

「我は盾の守護獣。その様な豆鉄砲では我が盾を貫くことは叶わぬ。」

 

再びジャストタイミングで裂鋼襲牙が穿たれる。しかし、慣れてきているのは何もザフィーラだけでは無い。

脚部のスラスターを吹かせ、サマーソルトの様な動きで上昇して一発目を回避する。しかし、問題は二発目。上昇した先に再び撃ち込まれる。

しかし、二回目を見ると、ヒカリとしても予測は立てられる。逆さまを向いたタイミングで、スラスターを噴かせると、急降下で回避する。

 

「ほう…!悪くないな。」

 

せめて回避は行わないと、ヴァルキリーの内蔵魔力で防御を行っている以上は、戦闘不能に陥るのを早めてしまう。

 

「たしか…こうだったはず…!」

 

念じると同時に、体勢を立て直してM16を撃ち込んでくる。しかし、今回は弾幕が目的なのか、ただ我武者羅なのか、狙いが定まらずに、撃ち出した大半がザフィーラの周囲を通過していく。

 

「ヤケクソにでもなったか?」

 

「いいや…狙っているんだ!」

 

ヒカリが人差し指をクイッと糸引くように動かす。その妙な動きを、ザフィーラが嫌な予感と同時に意味を理解するのに時間はかからなかった。しかし、その僅かな瞬間が、彼にとってはミスだったと言っても良いかもしれない。

背に受ける強烈な衝撃。騎士甲冑で、そしてその防備はヴォルケンリッター内で群を抜いているとは言え、ダメージは全くないわけではない。

肩越しに見れば白銀の弾丸が、軒を連ねて迫り来る光景。振り返ってシールドで防御するが、数発すり抜けて背後を取ると、再びターン。背後を襲い来る。しかしそれらは払われた獣の爪により消失する。

 

「…まさか誘導を付加するとはな…。ただの弾幕かと思えば…。」

 

「上手く…いったのかな…?」

 

「うむ…流石に直射ばかりという先入観があったからな。これは流石に驚いたぞ。久しぶりに面白い。我が防御を抜けて背後より撃ち込むとは…!」

 

口元を吊り上げ、その刺々しい犬歯を剥き出しにする。その眼光はギラリと光り、まさに猛獣かと思わせるように雄々しくも野性的に思えた。

 

「ならば全力を賭そう…。推して…参る!」

 

その踏み込みは速かった。初めての誘導を行ったヒカリは、その集中力の消費からか反応が遅れた。体を動かさなければならないと頭で理解したときには、もう彼は眼前にいた。剛拳が唸り、撃ち込まれる。しかし、間一髪。顔を横に逸らせて躱す。耳のすぐ横を、まるで鉄塊と思うかのような豪質な拳が空を切る。躱して安堵する暇も無く、顔目掛けて蹴り上げられる左脚。避けたその勢いのままに喰らえば、ダメージは跳ね上がると言うもの。

しかしヒカリの体を纏うそれは、生身の動きを更に向上させる。

ザフィーラのレガース

ヒカリのヴァルキリー、その左脚部

それらが見事なまでに交錯した。金属と金属がぶつかり合い、甲高い音が木霊する。

 

(悪くはない反応だ…、いや、防衛本能がそのデバイスを無意識に稼働させたか)

 

筋力や格闘技術の差は雲泥ではある。しかし、ソレを補うデバイスのブースト。動体視力も悪くないのか、脳が送る危険信号がデバイスを介して反応するのだろう。

 

「誘導弾の…恐らくはいきなりの実戦使用。数時間の魔法経験から鑑みるに、この成長速度は厄介だな…。ならば…!」

 

RPGに例えるなら、LV1の勇者が何らかの幸運ではぐれメタルを倒したとしよう。そうなれば膨大な経験値が勇者に流れ込み、一気に数レベル、いや十数レベル、はたまたそれ以上の成長を施すだろう。それは決してヒカリとザフィーラとの戦いも例外ではない。ザフィーラは過去に死線を幾度となくくぐり抜けた猛者だ。対しヒカリは魔法戦初心者。ザフィーラ自身、比肩する者は無いと自惚れは無い物の、それでもくぐり抜けた戦場の数だけ自信は持っている。つまりヒカリからしてみれば、戦闘経験がダンチに上のザフィーラと戦えば戦うほど成長は著しく促され、下手をすれば並大抵の騎士に勝るほどになるかも知れない。これも一つの火事場の底力なのかも知れないが、デバイスの性能のお陰で拮抗した戦局を作り出し、その経験がヒカリの力となっていた。無論、何もせずにさせずに完封される、と言う結末も有り得るのだが。

交錯していた左脚を引き、ザフィーラはその勢いで右での回し蹴り。

先ほどの蹴りに対しての反応はマグレか、はたまた今回の蹴りには反応できなかったのか、吹き飛ばされる。

 

「…一気に片を付けるとしよう!」

 

眼前で腕を交錯したかと思えば、胸を開くように腰だめまで持っていく。同時に現れるは白銀の古代ベルカ式魔方陣。

距離を取っての魔法発動。

今までは格闘主体、防御に重きを置いた魔法運用だっただけに警戒の色を隠せない。しかし、一気に片を付ける、と言う台詞から、奥の手であり必殺の一撃なのだろう。

 

「我が楔、何人たりとも打ち破れぬと思え…!」

 

眼下に目をやれば、夜の明かりに照らされる町並みでは無く、様々な、しかも黒に近い色をマーブルにしたかのような、例えるなら『澱んだ海』とも言える光景が広がっている。恐らく攻撃は下から来る。足下に警戒しながらも、ザフィーラの動きには細心の注意を払う。

 

「縛れ…!鋼の軛っ!!」

 

『海』から飛び出してくるのは、白銀で無数の刺突と思わせるような柱。太い針、と言えばおわかり頂けるだろうか。

打ち込まれる軛は、逃げ場を奪い、そして一度引っ掛かれば、まるで我先にと言わんばかりに貫かんと殺到するだろう。

持ち前の機動力で回避する物の、その物量から徐々に追い詰められていく。

 

「回避が…追いつかない…!くっ!」

 

回避した眼前、白銀の軛が鼻先数㎝を貫く。顔を辛うじて逸らしたものの、逆に逸らさなければやられていたかも知れない。

 

「やるものだな…!しかし!」

 

一陣の風が吹き荒ぶ。飛び出た軛を、そしてヒカリを包み込むように。否、ヒカリを中心とし、まるで竜巻の如く渦巻いていく。最初はそよ風だったと思えば、数秒後には目を開けるのも困難なほどに荒れ始めた。

 

「わっ!わわっ!」

 

その凄まじい風力から、重装であるヴァルキリーを纏っているとはいえど、風流に巻き込まれ、渦巻く風に飲み込まれていく。

 

「終わりだ…!」

 

それが引き金になったのか。竜巻が巻き込んだ軛はその形を砕き、吹き荒ぶ風に乗り、鋭利な刃と化して風の流れに乗っていく。

 

「っ…がぁ……!」

 

声にならない悲鳴を挙げながら、まるで拡散弾の如く狙いを定めぬ刃が、ヴァルキリーを、そしてヒカリの身体が露出した部位に傷を付けていく。顔をしかめても、逃れるためにバーニアを噴かせても、その圧倒的な風には抗いきれない。身体を動かすこともままならず、ただただ無防備な彼女を容赦なく、冷酷に、無慈悲なまでに切り裂いていく。

 

 

…やがて、風が止んだ。

あれだけの手数の、そしてザフィーラが持ちうる中で、最も捕縛性と威力に優れた魔法だ。素人である彼女がアレを凌ぎきるすべは無いはず。

そう確信し、肺にたまった一息を入れた。

 

 

 

そして、その彼の身体を

 

 

一本の、そして太い閃光が貫いた。

 

 

 

「なっ…!?」

 

予想だにしなかったダメージに、目を丸くする。

有り得ない。

なぜだ?

他の仲間が駆けつけたのか…!?

それとも奴が…!?

 

震える身体に鞭打ち、見上げた先には、M16を構えるヒカリの姿。その身体は満身創痍。ヴァルキリーの装甲は傷に塗れ、ボディスーツは擦り切れ、露出している生身の身体は切り傷だらけ。おおよそ年頃の少女らしからぬ、ボロボロの姿だ。手に持つM16の薬莢排出口から排熱の蒸気を上げ、熱を帯びた銃身を冷却している。

 

「今の…は…、ただの豆鉄砲では…ない…?」

 

「そ、それは…その。…そう!溜め撃ちです!!」

 

どーん!

と、背後で効果音が鳴ったような気がした。

…と言うのも、1発1発の威力が低いショット。それをヒカリの干渉によって集束させ、おおよそ小型カートリッジ10発分。小さいながらも砲撃を放った。

 

「全く……、初心者、と言うのは侮れんな…、突拍子もない手を…使ってくる…。」

 

「そ、それはえっと…褒められてる…のかな?」

 

「ふっ……、そう思うのなら、思うと良い…。むっ…?」

 

戦い終えた2人には穏やかな空気に包まれていた。しかし、突如としてザフィーラの身体が、まるで点滅しているかのように点滅し始める。

 

「えっと、ど、どうなってるの!?」

 

『魔力ダメージによる、保有魔力の枯渇。それによる消滅現象。』

 

消滅

それは詰まり、殆ど死を意味する。

屍が残ることも無く

毛髪、血液、皮膚なども残ることはない

完全なる無となること。

 

「そ、そんな…!ボク…そんなつもりじゃ…!」

 

「…我々は元々闇の書のプログラム…、今まで主の死を以て幾星霜、消滅を繰り返してきた。…だが…。」

 

ザフィーラはふわりと、緩やかに、目に溜め、頬に涙を流すヒカリの傍に飛び、その目を真っ直ぐ見据える。

 

「殺戮ばかりの記憶だが、此度のような強いものとの仕合。拙いところはあれど、心躍る物だった。それで、満足だとも。」

 

「ザフィーラ…さん…。」

 

「胸を張れ、如月。お前は…まだまだ伸びる…。きっと、な。」

 

つま先から小さな粒子となり、消えゆく褐色の守護獣。消滅の時は近い。しかし、その表情は戸惑いや恐怖よりも、どこか満ち足りていた。

 

「まだ見ぬ我が主よ…。先に消えゆく我が身にお許しを…。」

 

その言葉を最後に彼の居た『痕跡』は、一つのカケラとなり、ヒカリの掌に収まる。それは自分が探し求めていた、大切な友人のカケラ。

だが、カケラを見付けたことよりも、ヒカリの心に深い何かが消えること無く刻み込まれる。

 

(ボクは…命を……奪った…?この…魔法で…?)

 

エグザミアの欠片を握る手が、自分の意思か、否か。知らず知らずに震え始める。

流れる涙は止まること無く、焦点は合わず、歯が震えからガチガチと音を鳴らしている。

命を奪う恐怖

それが今のヒカリを支配していた。

 

なのは、フェイト、はやても各々の相手を撃ち倒したことで解けた結界により、アースラからの救助、そして3人が駆けつけるまで、ヒカリは震えながらエグザミアの欠片を握り締め、遠くを見つめていた。




こんな感じで16話です。戦闘描写が難しくてわかりにくいかも知れないですが、なんとか形にはなっている…かな?と思います。次話も頑張って執筆しますので、感想等お待ちしております。ではノシ
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