魔法という技術に出会って未だ数時間。
教わったのは魔力の基礎の基礎。それだけに『魔法生命体』という概念について、未だ彼女には知識は無かった。もちろん、フェイトの出自やヴォルケンリッターの件に関しても知ることもない。ただ魔法を便利な力と思っていただけなのかも知れない。
魔法の力。ヒカリにとって、以前フェイトに対して勘違いしたようなマジックの類いや、ファンシーな呪文を唱えてお菓子を出す。そう言った物と思っていた。しかし、『技術』として発展したその力は、兵器として扱われる。相手を傷つけてしまう、手にしてしまったのは、そんな力だった。
「ねぇ…ヴァルキリー…。」
ブレスレットへと戻った相棒。アースラの医務室にて治療を終えたヒカリは休むように言い渡され、ベッドの上で膝を抱えて座り込んでいた。涙はいつぞと無く止み、あの時、五月蠅いくらいに高鳴っていた心臓の鼓動も今は落ち着いていた。
「ボクの魔法って…何なのかな…。」
『質問の意味が分かりかねます。』
やはりAIなのか、淡々と無感情に返す。ただ、ヒカリにとっては誰かに聞いて欲しくて堪らない、そんな感情にうちひしがれていた。
「ボクは結局…ザフィーラさんを…。魔法って…こんなにまで危険な物だったの…?」
『肯定。魔法は地球で言う兵器、もしくはそれに用いられるエネルギー源。使い方次第で良くも悪くも変わるのは、何に付けても同じことです。魔法に関しては、魔力核、リンカーコアを持つ人間が術式を学んでさえ用いることが可能なものになります。』
全人類が使えるわけでは無いが、リンカーコアさえあれば、魔法を行使するに至ることが出来る。それを持ってしまったが為に…
「ボクは…あんなつもりじゃ無かった…。ただ戦いを終わらせたかっただけなのに。」
『サージェント。先の盾の守護獣についてですが…』
「…なに?」
『エグザミアのカケラが消滅後に出現したことを鑑みるに、カケラの持つ魔力。それが何らかの作用をもたらして彼を具現化した。そう推察できます。』
「そんなこと…あるの?」
『肯定。以前ジュエルシード…高町殿とテスタロッサ殿。2人の関わった事件において、ロストロギアであるジュエルシード、それを媒介にして魔法生命体のような物が精製された、と言うデータが存在しましたので。』
強い魔力による影響は計り知れない。エグザミアの総合魔力はどれ程かは解らないが、それでもあのような物を生み出すに至るだけの魔力があるのだから、恐らくはジュエルシードと同等…いや、欠片であそこまでの影響があるのだから、修復された後にはどれ程の物になるか…。
『それだけに、恐らくは内蔵魔力の枯渇により、遠からず戦い続ければ消えていたのでしょう。…しかし、それまでに人的被害がもたらされれば取り返しは付きません。欠片による現象。それを発見次第、可及的速やかに無力化するのが、ベストとならずともベターな選択と進言します。』
「でも…意思が相手にもある…。」
『だからと言って、目の前で彼らに襲われる人を放っておけますか?おそらく、彼らは一人では飽き足らず、具現化したそれが悪質な物であれば、その命尽きるまでその行為を止めることはありません。』
ヴァルキリーの言うことも尤もだと、ヒカリ自身も理解している。きっと自分の言っていることはただの戦いを恐れた兵士のそれである。しかし、相手を倒すことが解決になるとも思っていない。相手がどんなことをしていようとも、
『今を生きている』
『彼らにも思いがある』
その事実は変わりない。となれば、彼女の言わんとすることは良く言えば優しく、悪く言うなら甘ちゃん。
『甘いですね。』
「…確かにそうかも知れない。でも、この捉え方を間違っているとは、ボクは思わないよ。」
『ならばその甘さ。貫き通せますか?今の貴女で。』
「う……、確かに…。」
あれ程までにボコボコにされ、攻撃はことごとく防がれ、実際には不意打ちによる、マグレとも言うような勝利。相手は歴戦の猛者と言うことを加味することも勿論だが、あのような結果で自分の意志を通すというのは到底無理と言うもの。力ない者がいくら自分の思いを訴えようと、それはただの『理想論』とでしか聞いて貰えないもの。
『自分を通す力』
それを得ることでおそらくは先に進むことが出来る。
前へ進める。
『不殺は結構ですが、言い換えればそれは手加減。相手を上回る技量を持ちうることで初めて成り立つものです。』
「…それはまぁ…確かにボクの技量不足だけど…。」
『それならば、一つの新しい武装のロックを解除しましょう。…誘導と集束。拙いとは言え為し得たサージェントへの御褒美です。』
3Dホログラフが待機状態のヴァルキリーから映し出される。
それはそれとして御褒美。いつの間にかヒカリにとってヴァルキリーは、教師か何かへと変わっているようだった。
「…だから言ったろ?あの人は大丈夫だって。」
医務室入り口から覗くのは、二人の人影。
レオンとユーリだ。
ヒカリが心配でやって来たユーリを、レオンが首根っこを掴んで引き留めていたのである。
じたばたと藻掻くなか、目に意志を取り戻したのを見たユーリはようやく大人しくなった。
「ま、こんなんじゃへこたれないのがあの人だ。じゃなきゃ…。」
「随分ヒカリを信頼してるんですね。」
「そりゃまぁ。あの人が居なきゃ、未来の人間である俺は居ないわけだし。」
言葉の節々に含みがあるレオンの言い回し。思えば引っかかる点はいくつかある。
同じ髪色に瞳。
ユーリが考え、その思考の行き着く先は…
「もしかして、レオンさんてヒカリの子供?」
「………。」
痛々しいまでに鋭い視線がユーリを貫く。加えて妙な威圧感が場を支配し、ユーリの表情は引きつっていく。
「歳を考えたら分かるだろ。俺は今年11。あの人は今10。そんで俺は13年後から来た。俺の居た時間軸であの人は23。逆算したら俺が生まれた時の彼女の年齢は?」
「え、え~っと。…12?」
「そう。…つまり、ユーリの言う説がそうだとしたら…わかるな?」
ここまで来て納得した。12で出産なぞ、相手が社会的にアレな奴である。
「ま、何にしてもこれで一安心だ。ユーリも欠片が馴染むまで無理はするなよ。」
そう言い残して、レオンは医務室前を後にする。
彼の後ろ姿を見送りつつ、ユーリは思案した。
未来については尋ねるわけにはいかないのだが、彼の件に関してはどうにも気になる。
ヴィヴィオとアインハルト。二人に関しては、先程戻った欠片からの記憶で、ある程度推測はついている。恐らくはベルカに名を連ねた王であるオリヴィエとクラウス。その血縁者なのだろう。しかし、オリヴィエは子孫を残さなかったと記憶しているので腑に落ちない点もあるが、その特徴を引き継いでいる彼女らの素性は一部知ることは出来ている。
トーマという少年。彼も謎の刺青のようなものを入れており、あれを見ていると何だか不安になるのは何故だろうか?素性に関してはいまいち分からないが、はやてを司令と呼んでいたことから上司と部下の関係になるのだろう。…あれだけの畏怖の視線を向けているのが謎だが。
しかし、レオンについては分からない。なにせ、名前以外のプロフィールを喋らないからだ。外見的特徴にしても、虹彩異色もない。レアスキルは…まぁ持っているか分からないが、それでも推測を立てることが出来るとしたら、ヒカリを気に掛ける彼の仕草だ。先程の推測は外れたが、それでも彼女とレオンは近しい間柄なのだろうか。
「…もしかして、お付き合いしてる、とか?」
ユーリの想像は、頓珍漢な方向へとシフトしていった。
「よっし、こっちは粗方片付いたな。」
愛機である鉄の伯爵を肩に掛け、真紅のゴスロリ騎士甲冑を身に纏った少女―ヴィータ―は一息つく。本来なら今の時間、家で家族とともに夕飯を摂っている時間帯なのだが、呼び出しに応じてこうして出払っている。勿論、他の騎士達も同様で、分散して海鳴で発生した異常事態に対応していた。
「しかしまぁ…気持ちが良いもんじゃねぇな。見知った顔とやり合うっていうのも。」
眼前で消えていくのは、金髪をツインテールに結ったヴィータもよく知る少女だ。
『ごめんなさい…母さん…アルフ…』
儚げで、悲しげなその瞳で俯き、贖罪の念を口にしながら粒子となって消えて行く。見ていると、少なからずの罪悪感に見舞われるのは仕方の無いことなのかも知れない。残るのはエグザミアの欠片のみ。
『ヴィータ、そちらはどうだ?』
脳に直接、凜とした女性の声が響き渡る。別方面に対応していた烈火の将シグナムだ。
「こっちも終わった。…そっちは誰と当たったんだ?」
『こちらは高町とだ。…まぁ幾分当の本人に比べれば歯ごたえは無かったな。』
「だな。こっちもそれほど苦戦はしなかった。速さだけは厄介だったけど、それ以外は問題ねぇ。…フェイトの奴、母さんがどーのこーの言ってたからさ。もしかして、だけど…。」
『恐らくはお前の考えとこちらの考えは一致しているな。こちらの高町も、スクライアに謝罪していた。加えてデバイス…レイジングハートだが、カートリッジを搭載していなかった。』
それに対してもヴィータは同意見だ。自分の知るフェイトに比べて実力が低い点、そしてカートリッジの有無。それらの点から、導き出される点は…
『恐らくは、闇の書の残滓の影響か…。書の記憶から様々な現象を具現化した結果が彼女達だろう。』
「…だろうな。なのはとフェイト、あの二人は蒐集した時に記憶もコピーしたんだろうよ。そこから部分的に実体化してるから、過去の実力として反映されてるんだ。…まぁ他にも諸々理由はあるだろうけど。」
『…となると、シャマルとザフィーラだが…。』
『ごめんなさい皆、ちょっと手こずっちゃった。』
『俺も今片付いた。』
残る二人からも完了の思念通話だ。各々担当区画に現れたコピーを片付け終えたので、合流して情報交換を行う運びとなった。
「アタシはフェイトで…。」
「私は高町だ。」
「私は…えっと…何でかユーノ君。多分だけど…一人でジュエルシードを探していたときの状態だと思う。」
「俺はハラオウン執務官だった。やはり、というべきか、闇の書への憎しみにとらわれていた。恐らくはそうなる可能性を揶揄できるな。」
見事なまでに知る人間ばかりだ。過去の人物を一時的に模る物だけに、今の実力でないだけまだマシなところか。それ程苦戦はせずに無力化できたし、これなら…
「ん?それだと何かおかしくねぇか?」
不意に疑問点が思い浮かんだのか、ヴィータが声を挙げる。
「アタシとシグナムが戦った2人はともかく、執務官とユーノの奴は蒐集した訳でも無いのに、どうして模倣されるんだよ?」
「言われてみれば…そうかもしれないわね。」
先の事件で、自分達は彼らを蒐集した覚えは無い。少なくとも、今回関わった主たる人間ではなのはとフェイト、その2人は蒐集した。しかし、彼らのコピーまでも出てきたら、その経緯という物が気になってくる。
「今は考えても仕方なかろう。我々は現れる脅威となり得るものを叩く。それだけで良いだろう。手に入れたこの欠片。これが恐らくはハラオウン執務官が仰っていた重要な品に違いない。」
「だな。…しっかしまぁ…何なんだろうな。ただの宝石片にしか見えねぇのに。」
「我々の世界ではその宝石片ですらロストロギア認定される物もある。警戒しないに越したことは無い。」
コピーを倒した際に手に入れた欠片。詳しいことはこれからはやてと合流してから調べるにしても、興味が無いと言えば嘘になる。なんにせよ、アースラへと転移し、件の欠片を渡さねばならない。この欠片について参考人たり得る書の官制人格も、向こうにいる手はずだ。
「それじゃ、アースラへ転移するわよ?」
シャマルの言葉を引き金に、四人を翠の古代ベルカ式魔法陣が包みこんだ。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、ごめんなさい。えっと…取り乱しちゃって…。」
アースラの艦橋に、ユーリと共に姿を現したヒカリは、案じて声を掛けてきたクロノに謝罪した。勿論、誰も彼女を嗜めることはしない。リンディもエイミィも、まともな初出撃であそこまでの立ち回りなら舌を巻くだろう。
「まぁ気持ちは分からなくも無いが、無茶をするのも考え様だな。」
しかしクロノは違っていた。他の局員が飴とするならば、彼は鞭の役。甘さばかりではいけない。厳しさも時としては必要となる。組織としてはどうなのかと思うが、それでもクロノなりに相手を思っての言動だ。
「うん…だから…クロノさん!」
「な、なんだ…?」
「無茶じゃない戦いが出来るように…訓練室を使わせて下さい!」
収容されて間無しなのに訓練がしたいと申すか。治療もそこそこに、傷付いた身体は未だ完治しきってはいない。それなのにこの娘は…!
「無茶の意味、履き違えてないか?」
「うっ…!」
「怪我も治りきっていないのに訓練は頂けないな。何も戦闘だけの無茶を僕は言っていない。普段の生活ならともかく、こと魔法において目の前で無茶をされるのは…」
「もう慣れっこでしょ?クロノ。」
「そそ、無茶をする妹分が居るもんねぇ…、もう一年になるんだっけ?早いもんだなぁ…」
まさかのリンディとエイミィの発言が飛んできた。片や何やら思い出にトリップしている。
勿論、クロノは2人が言ってる意味は分かる。だが、慣れたからと言って看過できることでは無いことは事実。しかしここで容認しなければ、後ろの女性陣からどんな非難を受けるか分かったものじゃ無い。
「…わかった。訓練室の使用を容認する。」
「あ、ありがと…」
「ただし!」
世の中そんなに甘くは無い。ぱぁっと明るくなった表情と共に感謝するヒカリの表情は固まる。
「僕が見ている前で訓練して貰う。訓練自体を見る意味もこめてな。それで構わないのならだ。」
それに関してヒカリには願ってもないチャンスだ。エリート直々に訓練を見て貰えるのだから。勿論二つ返事で返したヒカリは、ユーリと、そしてクロノと共に、意気揚々と訓練室へと歩を進めていった。
「あらあら、若いって良いわね。」
「いや…艦長もお若いでしょうに…。」
「ふふっ、クロノってば、ああ言いながらもヒカリさんを買ってるのでしょうね。」
「そうですね。ヒカリちゃんの魔力量からすれば、クロノ君の様な技巧派の戦闘スタイルが適正でしょうし。なのはちゃん達みたいな、魔力量でゴリ押し戦法と違って教え甲斐があるんでしょ。」
「まだ魔法に触れたばかりの雛鳥。それがどう形を変えるか…楽しみね。」
10分後…
シミュレーターによって様々な戦闘フィールドと化す訓練室。その一角。
吹き飛ばされたクロノが尻餅をついていた。
目を丸くし、まるで何が起こったか分からない表情で、眼前十メートル先に立つ白銀の鎧を纏った彼女を見つめていた。
事の発端は、戦闘訓練と題した模擬戦闘。まず攻撃と回避マニューバーの訓練を行おうとしてスティンガースナイプを数発、そこそこの速度で撃ち出した。彼女の速度ならばギリギリかいくぐれるほどの。予想通り、多少ぎこちないながらも見事に回避し、次は攻撃に転じるのか、銃を顕現させた。そして何故か。至近距離まで突っ込んできたのである。
アサルトライフルと称される彼女の持つ銃は、魔導師で言うなら中距離がメインとなる獲物だ。それを近距離で使用するなど、見当違いも甚だしい、そう思い、ラウンドシールドを展開したまでは覚えている。
気付けば、防御した積もりが吹き飛ばされ、訓練室の隅へと追いやられていた。
「なっ…!なな…!」
アサルトライフルよりも短い銃身。しかし薬莢排出口から一発の威力の大きさを物語るかのように排熱される。足下に転がるのは、アサルトライフルの薬莢とは比にならないほどの巨大なそれが廃莢されて、ゴロリと転がっている。
「ご、ごめんなさい!ここまでの威力とは思いもしなくて…!」
その銃を量子化してヴァルキリーのスロットに収納すると、意図せずして吹き飛ばしてしまったクロノに駆け寄る。未だに自身に起こったことが理解できない彼は、まるで金魚が空気を求めるかの如く口をぱくぱくさせていた。
「な、なんなんだ…そのゲテモノな威力の武器は…!」
ようやく、そして必死の思いで飛び出した言葉は、彼女の呼び出した武器の批評であった。
「え~っと…。」
小休止。考える仕草をしたのち、口にした言葉はこれだった。
「
ヒカリの立ち直りが意外と早くて盛り上がりに欠ける気がする…。
ちなみに新しい銃の詳細は後ほど。
にわかミリタリーマニアなので、稚拙なところもあるかもですが…
あとお試しでルビを振ってみた!