スマホの画面割れって、テンション下がるね…
青と桃の弾丸…否、魔力による射撃が飛び交う海鳴市上空。互いを牽制し、撃ち落とさんと撃ち込む弾は、互いを掠めることはない。それは互いの手の内を知るからか、はたまた本気で撃ち落とそうとしないからか…。どちらにせよ二人の真意を知る者は居ない。
「キリエ!いい加減…諦めて戻りましょう!」
「やーよ!アミタこそ、早いとこ戻っちゃえば?あたしはまだやることがあるのよ!」
「全く!どうして私の妹はこんな頑固になっちゃったんですかねぇっ!」
「どっちがよ!?」
アミタと呼ばれた赤く長い三つ編みと、キリエの桃を基調とした服を、鮮明な青にした物を着用した少女が、これまた青いヴァリアントザッパーを駆使して妹を止めに掛かる。フェンサーにした銃が、互いの刃に噛み合い火花を散らす。
「博士が待っています!首に縄を引っ掛けてでも連れて帰りますよ!」
「あらん?アミタってば、そう言うプレイが良いのかしら?見かけによらずドSなのね。見たところMッぽいのに。」
「話を逸らさないで下さい!」
撃ち出された弾丸が、キリエの髪を掠めた。咄嗟に躱さなければ額にヒットして、ノックアウトで勝負が決まっていたであろうコース。
「どんなことがあっても…過去へ飛ぶなんて、そんなことは許されません!」
「許す、許されるの問題じゃないの!私のことは放っといて!」
「この…駄々っ子ぉっ!ここはおねーちゃんパワーで…!」
「あ!あんなとこに熱血魔法バトルアクションアニメのキャラクターが!」
「えっ!?どこ!?何処ですか!?」
キリエの指差した明後日の方向。そちらに向いて目的の物を探すアミタ。
「まさかあんなのに引っ掛かるなんてね~。じゃーね!おバカで単純なおねーちゃんっ。」
「なっ!?キリエェェェエエエっ!!」
あんな古典的なのを繰り出す方も繰り出す方だが、引っ掛かる方も引っ掛かる方である。振り向いたときには遥か遠方。とどのつまり、追いつけない距離である。
「こ、こうなれば……熱血ぅぅぅうううっ!!…か~ら~の!!アクセラレータ……ぁぁぁ……」
アミタの得意とする超加速魔法。その速度はテレポートを思わせるほど…のハズが、へにゃへにゃと不抜けた声と共にアミタは高度を落としていく。
「あらあらん?アミタってば気張り過ぎちゃったのかしら?それとも、拾い食いしちゃった?はたまた戦いの最中にウイルスでも?」
「き、キリエ…貴女はぁ……!」
「…悪いわねお姉ちゃん。説教なら…エルトリアを蘇らせてから纏めて聞くから…。だから…今はゴメンね。」
ボソリと呟いた謝罪。それは自分にのみ聞こえるかどうかの大きさ。表情を見られないよう、背を向けて言ったからか、余計に届かないだろう。
しかし、届かせるつもりもない。
もしかしたら言葉にすることで、無意識に罪悪感を自分で頭の中から掻き消そうとしたのかも知れない。
落ちゆく姉を心配そうに見届けながら、振り切った想いで飛び去るキリエ。攻撃に仕込んだウイルスの効力は、最低限魔力を使える程度には問題ないはずだ。
「さて…アミタがダウンしている間にチャキチャキ砕け得ぬ闇ちゃんを探しに行きましょうか。…それに…」
空の彼方へと飛び立つキリエにとって、気になるところはもう一つ。
頭の隅に引っ掛かって仕方ないあの声、そして名前。
「ハル…エルトリアねぇ…。」
まさか、という懸念が脳裏をよぎるが、それはあくまでも砕け得ぬ闇確保とは別の問題。
「ま、誰であっても邪魔をするなら…どいて貰うけども、ね。」
「「………」」
朝起きてベランダに出てみたら、赤毛の三つ編みが引っ掛かっていた。服は決して派手ではないが、かといって地味ではない…何処かの民族衣装のようなもの。
まず一応家主である自分が絶句して棒立ちしていたところを、同居人が不思議に思って同じく覗き込んで唖然。
こう言うのをシュールと言うのか。
ラノベとか、小説とか、どこかの学園都市で物語が始まりそうな光景。
「な、何なのコレ…」
「………(ガタガタ)」
必死に絞り出した言葉がこれだ。流石にこんなのに慣れていたら人間としてどうかと思う心胆だろうが。ここ最近、珍妙な出来事が起こるものだと若干引きつるヒカリ、そしてその陰でガタガタ震えるユーリ。一時的に帰宅して朝起きたと思えばこれである。
「お……」
「「お?」」
「お腹空きました…。」
もはやお決まりであろうかという言葉を吐き出して、赤毛の三つ編みさんはぱたりと動かなくなった。
「いやぁ、申し訳ございません。御馳走になってしまって。」
「あ~、お気になさらず。」
喧しいくらいにお腹の虫が鳴り響く空腹三つ編みに朝食を出したところ、それはもう面白いまでに凄い食べっぷりで、あっという間に完食してしまった。余程お腹が空いていたのだろう。若干目が血走っていたのは見間違いではない。
「ところで、どうしてベランダなんかに引っ掛かってたんです?ここ、10階なんですけど…。」
「え?あ、えっと…それはですね?う~…」
もっともらしい理由を模索しているらしく、うんうん唸っている。口調もそうだが、見るからに生真面目で一直線な性格なのだろう。嘘は得意ではない様子だ。…それだけに悪い人には見えない。
「ヒカリ…こー言うことは余り踏み込まない方が良いと思いますよ?」
「へ?そ、そー言う物なのですか?」
「えっと………ハイ、説明しにくいと言いますか…、説明しようとしても出来ないと言いますか。スミマセン。」
ヒカリとしてはとりあえずそれは置いておくことにした。
「それはそうと、アミティエさん…でしたか?その…どこに住んで…?」
「アミタで良いですよ?皆そう呼びますので。…そうですね。ここから凄く遠い国、とでも。」
なるほど、地球の裏側、南米かどこかだろうか。
「でもどうしてこの国に?」
「それはですね~、妹がこの国へ『捜し物がある』って無理にやって来たんです。無茶な捜し物だったので連れ戻しに来て、ようやく見つけたと思ったら逃げられちゃって…。」
その話の流れでどうやってベランダなんかに引っ掛かっていたのか謎は尽きないが、
「それじゃ、見付かるまでウチに居ますか?」
こう言う結論に辿り着くわけだ。
「えっと…?」
「寝泊まりするにも、ホテルじゃお金が掛かります。ここなら別にお金も要りませんし、寝るところも…まぁ何とかなるはず。その…アミタさんさえよければ、ですが。今なら三食おやつ付きですよ?」
「それは…願ったり叶ったりですが…。」
正直言うと、アミタ自身この国…いや、この世界の貨幣など持ってなどいない。管理局からすれば違法渡航なのだ。正式な手続きを持ってすれば換金できていただろうが。
「ユーリも、それで良いかな?」
「はい、私としてもアミタが良いなら何も反対は無いですよ?」
「あは…こんなに優しい人といきなり巡り会えたなんて、私は幸せ者ですね。」
これは僥倖と言うのか、こんな(外見的に)幼い二人に優しくして貰って、年上として嬉しいやら情けないやら。でも、ここで二人の厚意を不意にしてしまっては失礼に当たると言うもの。
「わかりました。妹を連れ帰るまでお世話になります。」
こうして如月家に一人、同居人が増えたのだった。
「とまぁここで次の話に持ち越しても問題はないんだけど。」
「次の話…ってなんですか?」
「No problemだよユーリ。アミタさんも一緒に暮らすと言うことなんだし、ここは一つ、ユーリの物も兼ねて、服を買いに行こうっ!」
「服を買いにって…私のもですか?」
「Exactly!…と言うか二人とも、家の中とかならともかく、その格好では流石に街中を歩けないでしょ?」
片やヘソ出しの袴スタイル。片や民族衣装にも似た衣服。
流石に街中を闊歩するには人の目を引きすぎる格好だ。
「ユーリの服は、若干大きいけどボクのを着て貰うとして…アミタさんは…流石に…。」
「…この格好…変でしょうかね?」
ポツリと呟くアミタ。自分の故郷の服だから愛着もある。
しかし、ヒカリの言っている意味は身体的な物の意味合いもある。外見年齢が十代半ばかと言うくらいのアミタにヒカリの服を着せようものなら、そりゃもうぱっつんぱっつんで、ヘソ出しもさることながら、そのバストもエラいことになりかねない。
「そ、そんなに長い間居座るつもりもないですよ?だからそんな気遣いは…」
「ん~、やっぱりズボンの裾が擦っちゃうかな~…。」
「って聞いてますかヒカリさん。」
「へ?あぁ、うん聞いてます。採寸は店の人がしてくれますので大丈夫ですよ?」
「聞いてないじゃないですか…。」
ユーリに履かせたズボンの裾に気が向いていたのか、全く話が噛み合わない。これは諦めるしかないな、と自分に言い聞かせるしかないアミタだった。
色々すっ飛ばしてやって来たるは、海鳴で最大とも言える大型ショッピングモール。ここでは衣服に日用品、電化製品にゲームなど、ここだけで大抵の物は揃うという膨大な品揃えだ。流石に休日とあって、道行く人々は多く、下手をすればはぐれて迷子になりかねない。
「す、すごいですね…、こんなに大きなお店があるなんて…。」
「首が痛くなりそうです。」
「あ、あれ?高さ的にボクの住んでるマンションの方が高いのに?」
近くでショッピングモールを見上げる二人は頭を上に向けて、口をあんぐりと開いている。まるで田舎から出て来て初めてビルを見るような子供に見えなくもない。
「と、とりあえず、早いところ服を買って、後は見て回ろう!まずはそれからだよ!」
「そ、そうですね。失念してました。」
「服を買うの…少しドキドキします。」
やはり客の中に時々ではあるが、すれ違い様にアミタの服を物珍しそうに見る者もいる。見世物ではないのだが、チラチラ向けられる視線にアミタは少し頬を赤らめる。
「や、やっぱりここでは私の服って変なんでしょうかね?さっきから結構見られているんですが…。」
「服って言うのはそこの文化の一つでもあるから、変じゃなくて珍しいファッションとして見られているのかも…。その…国一つ違っても服装というのは違ってくるし…。」
「そ、そうですよ!この国には昔、サムライやニンジャと言う独特のファッションを持つ人達が居たんです!女の人はキモノっていう服で、オダイカンサマゴッコっていう遊びをしてたらしいですよ。」
「ちょっと待ってユーリ、そんな情報一体何処で!?」
「え?はやてが教えてくれました。この国の由緒正しい文化についてって…。」
「…流石にボクはその知識は変だと思うよ。」
「なんとっ」
とりあえずはやてには後ほど、純真無垢なユーリに変な知識を吹き込んだ仕返しを行うとして、ショッピングモール内のブースに構えた服屋に到着。
店内に色とりどりの服がマネキンに着せられ、白面の顔ながらも中々様になったポーズをとって立ち尽くしている。
「「おぉぉ…!」」
彼女らはやはり初めて見る物なのか、目を輝かせる。
「あ~、その…とりあえず色々見繕ってみようよ?ね?」
どうにも二人は見る物全てが真新しく、特立ち止まってしまうようだが、本懐を果たしてからゆっくりすれば良いのだからと、ヒカリは手を引いて先導していく。普通はアミタがそう言う立場でなければならないのだが、浮き足立っているというのか、どうにも上京した人間にしか見えないし、ユーリ自身も御同様。消去法でこうなったわけだ。
「いらっしゃいませ。」
「この二人に合うコーディネートをお願いしますっ!」
とまぁ、早いところ目的を果たしていかなければ、フラフラとどちらかが迷子になりかねない。手近な店員を取っ捕まえて二人の服の選定を任せる。
わかりました
と出迎えた店員が指をパチンと鳴らす。すると、羅列する服のカーテンの奥から、まるで精錬された兵士のごとく、恐らくは彼女の部下であろう店員が姿を現す。押し出された二人は困惑顔だったが、数人の大人に、まるで神輿を担ぐようにえっほえっほと誘拐…もとい拉致されていった。
正直、ヒカリは自分にセンスがあるなどと考えては居ない、というか大抵服は母が選んでくれていたので、こう言うことは経験皆無なのだ。
「うん、店員さんに任せていたら間違いは…」
「折角ですので、お客様のお召し物も見繕いましょうそうしましょう。」
主人公(笑)、店員に拉致られる。