ゲストキャラがほんの少し出ています(笑)
エグザミアの欠片から生み出される
「なにをしてるんだエイミィ。」
「あ~、クロノ君。」
ハラオウン宅の一室、そこに設けられた管制室に籠もって文字を打ち込むエイミィに、クロノは話しかけた。相変わらずの凄まじいまでのタイピングスピードで、書類仕事に慣れているはずのクロノでさえ舌を巻いて、さらには超えることの出来ない彼女の技能だ。
「ちょっとね~。ユーリちゃんの…エグザミアの欠片かの出現に合わせてデータを打ち込んどこうって思って。」
「何か分かったか?」
「ぜぇんぜん。流石に一晩で得られたデータじゃ、出現の法則とかも分かるわけないし。何回かエンカウントすれば分かるかもだけどさ。」
「そうならないに越したことは無い。いつ公の人に危害が加わるか分からないからね。」
「そりゃごもっとも。」
事実として分かったことと言えば、闇の書事件に関わった誰かしらの過去、それを引き抜いて再現しているようだ。それだけに力量は今の本人には劣るが厄介には変わりない。加えてエグザミアの欠片。それらが元々どれ程の大きさ、そして力を有していたかも分からず、ユーリ本人もその辺りの記憶はまだ戻っていないも言う。
もし集まってきているそれぞれの欠片が、エグザミアの数百分の一だとしたら?
もしそうだとしたらエグザミア本来の力、それは計り知れないものとなるだろう。
「エグザミアの完成…か。それほどまでに強大な力なら、無限書庫の検索に掛からないほど秘密裏にする物なのか…はたまたただ単に出現例がないだけなのか…?」
「どちらにせよ、欠片をほっといても良いことはないね。欠片に戻るまで大人しくしてくれるなら話は別なのにさ。」
「…それもそうだな。出現例は少ないから確証はないが…、どうにも攻撃衝動や怒りや後悔…そんな負の感情めいたものが顕現しているような…。」
「ま、なんにせよ、敵が動いてからの対処になりそうだよねぇ。探知機等は強化されているって言っても、動かなきゃ網には掛からないんだもん。」
服の買い物を終えたヒカリ、ユーリ、アミタの三人は、丁度昼食時のショッピングモールのフードコートへと足を運んでいた。10を超える食事を取り扱う店がずらりと軒を連ねるだけに、それに応じたテーブルが立ち並び、さらには休日とあってそれに座する客の数も相応である。
数ある店舗の中で、各々食べたいものを取り扱う店を選び、予め確保した座席にて座して出来上がりを待つ。
「いやぁ~…この世か……いえ、国では店員の方に着せ替えをさせられる物なのですね!勉強になります!」
「その…ちょっと疲れました、さすがにもうフリフリの服は…。」
アミタはと言うと、そのプロポーションからもそうだが、活発そうな印象からかモデル染みた扱いを受けて、最先端のファッションをあれやこれやと試されていた。かくいう彼女自身も新鮮な体験だったのかノリノリ。
ユーリはその華奢な容姿から、ファッション諸々よりも、ぶっちゃけメイド服や着物、巫女服など、コスプレにも似た物ばかりを着せられ、特に担当した店員からは、メイド服などゴスロリ系がツボだったようで、その類いの物を中心に着せ替えられていた。彼女がアミタと違って戸惑っていたからか、お陰で最終的に眼を回してしまい、写真撮影も後半につれて目の焦点が合わなくなると言う、若干恐ろしげな様相に仕上がってしまっていた。
「二人は良いよね…、女の子らしい服を着ててさ…。」
「「はっ!?」」
机に突っ伏して沈むのはヒカリ。
彼女が沈んでいるのはそれもそのはず、
『こ、これは…何という中性的な外観…しかも中々な逸材…!』
まぁスカートとかそういった女物を着用していなかったのは確かではある。ズボンだってハーフパンツだったし、上着もジャケットにも似た物を着てはいた。顔立ちも可愛い系よりも、若干麗人ぽさもある。それをなまじ店員のコーディネート力(?)が高いだけに、女性でも着れる『格好いい系』の物ばかりをチョイスされ、女性店員をキャーキャー言わせていた。
ちなみに、
臨時のモデル料として服をワンセットサービスして貰えたので、買った服の他に、今来ている服を余分に手に入れることが出来た事を追記しておく。
「…やっぱりボクって、こう言う役回りなのかな…。」
「だ、大丈夫ですよヒカリ!似合ってました!」
たぶん、ユーリなりのフォローなのだろう。心優しい彼女の気持ちがヒシヒシと伝わってくる。
しかし、
しかしだ。
時に優しさとは残酷であり、そしてその柔らかな包容力は時として首を絞める荒縄となり、時として心臓を刺し貫くという
「ユーリ…今はその優しさが…とても……ぐふっ…!」
「ヒカリさぁぁぁんっ!?!?」
とまぁ、心の傷口に味噌やら塩やらを無意識に塗り込まれていた中でも、料理の完成を知らせる無線端末が振動するわけで、
「私の料理、完成みたいなので取りに行ってきますね~。」
一応叫んではおいて、サクサクと自分の昼食を取りに行くアミタ。
「あ、私のも出来上がったみたいです。」
続いてユーリも席を立つ。
「ボクも…取りに行こう…。」
ゆらりと幽鬼のように立ち上がって、ヒカリも料理を取りに向かった。
「…で?」
「で?、といいますと?」
「アミタさんのそれは一体…?」
「ラーメン…と言う物らしいですが?」
「どこが!?」
各々が注文した品をテーブルに並べる。お腹が空いていただけあって、早く箸を付けたい衝動に駆られるが、目の前の『ソレ』について疑問を投げ掛けない、と言う選択肢はヒカリの中に存在し得なかった。
ヒカリはタコ焼き。
ユーリはハンバーグ定食。
ここまで見れば何ら変哲のない物だろう。
しかしアミタが注文し、彼女がラーメンだと宣うそれは…
赤い
否。
紅いのだ。
ラーメンなどという生温さは何処にもなく、ただただ紅くてツンと来る香辛料が離れていても鼻腔を刺激する。
これは食べなくても解る。
辛い食べ物ではない。
『
所々浮かんでいる白いもの…これは豆腐…!?
まさか…紅い汁に浮かぶ豆腐…ということは!
「そ、それってラーメンじゃなくて、麻婆…」
「さぁっ!冷めないうちに頂きましょう!」
言うや否やレンゲと箸を駆使して、凄い勢いでがっつき始めた。その早さたるや、周囲の視線を釘付けにするほどである。
呆気摂られていると、どこからか鋭く、射貫くような視線をヒカリは感じた。
周囲を見渡すが、アミタの食べっぷりに視線が集まっているだけ。…しかし、チクチクするような視線は変わることはない。
そして見てしまった。
フードコートの店舗。その一つから黒髪の男性がものっそい視線を、アミタの…いや、こちらの3人に向けていたのだ。頭にはバンダナ代わりに白いタオルを巻き、ざんばらに切った長い髪を後ろで束ね、ワイルドさが滲み出ている。腕を組み、視線がぶれることなく、ただただこちらを見ていた。
見上げて看板を見れば、紅く大きな『麻』と言う文字をサークルで囲んでいる。しかも申し訳程度に看板の右下に小さくラーメンと書かれている。
成る程理解した。
アミタの注文した店はこれだ。
【残そうものならば、連れの貴様らも連帯責任!そうなればその貧相な身体で無駄になったスープ分を返して貰おう!精々大鍋で出汁を取られないことを祈るが良い!】
思念通話ではない、眼がそう言っているのだ。若干瞳孔が開き気味で、おぞましいまでの
あんな危険人物の店を、平和なフードコートに陳列させるオーナーの気が知れないものだ。
「ぷはぁっ!ごちそうさまでしたぁ!」
そんなヒカリの危惧を余所に、アミタはあれよあれよという間にそのラーメン(?)をスープまで飲み干した。あの赤々と、そして見るからに痛々しい凶器を、である。
「た、食べちゃったんですか?」
「…?はい。普通に美味しかったですよ?」
さも当然と言わんばかりにケロッとしている。
あれだけの物を食べて汗一つかいていないのなら…そこまで辛くない、のか?
「アミタさん、ちょっとすいません。」
丼鉢の縁に付着した紅いスープの残り。それを少し指に掬って舐めてみる。
後悔した。
やはり辛いものじゃない、痛いものだ!
舌が刺激を感じ取り、脳が痛いまでの辛さと認識すると、身体のあらゆる汗腺から汗がジワリ。顔もかぁっと熱くなり、恐らくは顔面が紅くなっているのだろう。もしかしたら辛さの余り髪の毛も逆立っているかも知れない。
「ごほっごほっ!」
予め入れておいた紙コップの水を飲み干した。冷たい水が舌を、口腔を、喉を冷やしていく。
ぷはぁっと口内の熱い息を吐き出す。
「ヒ、ヒカリ、大丈夫ですか?」
「ら、らいひょふ…」
水で流したは良いが、未だに口の中が燃えるように熱い。痛さは何とかなったが、これだけはどうにも…。
「こ、こんなの食べて…平気なんですか?」
「ん~…結構ピリピリしたけど、美味しかったですよ?これがラーメンと言う奴なのですね!」
ラーメン初体験の人に勘違いさせてしまった!件の店長に振り向けば、眼がこう言っていた。
【麺は底の方に申し訳程度に沈んでいた。麺なぞ飾りだ。ただの人間にはそれが解らんのだ。】
しかして、この麻婆ラーメン、とでも仮称しようか。
いまや日本の食文化の一つとして根付き、外国人観光客に『日本のラーメンを食べに来た』と言わしめるほどの物となっている。しかし、このような独創的なラーメンを生み出してしまう日本人、恐るべし。ヒカリの中で戦慄が走った。
「ヒカリさん、食べないのですか?冷めてしまいますよ?」
「へ?あ、そ、そうですね。頂きます。」
ようやく刺さった楊枝を使い口に運ぶ。程よく冷めているタコ焼きの味は、殆どしなかった。
…うずうず。
「まだ踏み込みが甘いぞ美由希!もっと重心に気を付けるんだ!」
うずうず。
「ん…にゃろ!」
うずうずうず…。
「そこまで!恭也の勝ち、だな。」
うずうずうずうず。
「段々と良くなってきてはいるが…まだ研鑚が必要だな。」
うずうずうずうずうずうず。
「うぅ……情けないよぅ…。」
うずうずうずうずうずうずうず。
「…ハル、その…燻っているのはわかるが…、凝視するのは止してくれないか…?」
「ハッ!?す、すまない!」
高町家の道場
毎日の日課となっている御神流の稽古の時間。
今日は恭也と美由希の行う木刀による模擬戦が、士郎の審判で行われていた。
昨日シャワーを浴びた後、同年代メンバーはリンディから何かあるまでは自宅にいるように指示されたため、こうして高町家に戻って来ているのである。
家族で昼食を摂った後、腹ごなしもかねて、と席を立つ際に士郎が口にしたのが気になり、こうして許可を貰って道場で見物するに至る。
しかし、
慣れていない正座をしながら見る試合の時間が経つにつれて、以前のジャンキーソウル(?)のような物が再燃し始める。それが冒頭のうずきと言うわけだ。
「流石に療養休暇なんだから、しっかり休むんだ。まだこっちに来て2~3日だろう?」
「そ、それはそうなのだが…やはりどうにもジッとしている、と言うのは性に合わん。…いや、慣れていないだけかも知れないが。」
「ん~、何かクロノ君と似て固いね。…いや、それ以上かも。」
「…むぅ。執務官殿と同列以上…。光栄なのか、怒るべきか。」
なんにせよ、ハル自身手持ち無沙汰なのは確かだ。なのはは翠屋の手伝いだし、かといって同じようにあのような接客など自分に出来るはずもない。実際、自分は研鑽する事の方が性に合っているのだろう。
しかし、なのはに以前休日の過ごし方を学ぼうとしても、今日は翠屋の手伝いだから、と先延ばしになっている。…まぁなのは自身も昨日の今日だから、と休むように言っては来たが、それはお互い様である。
「…さて、そろそろ切り上げよう。ハルも、いいかい?」
「…うむ。仕方ない。」
「そうしょぼくれるな。見る分には構わないんだろう?見ることで得るものもあるはずだ。」
成る程、言われてみれば確かに。
一歩離れて見ることによって、試合う中での全体的な動き、引いて言えば足運びや間合いの取り方、その他諸々を把握しやすい。無論、御神流を知ることもなく、ほぼ我流の格闘戦術を身に付けているハルには余り意味をなさないかも知れない。
「見ることもまた鍛錬、か。」
「そう言うことだ。まぁ、頭の隅に留めておくだけでも構わないけどね。」
格闘の基本は足運びが物を言うことが多いだけに、御神流のそれを参考にするのも悪くはない。
汗をタオルで拭きながら退室する恭也と美由希。
もし許可が下りたなら、一度だけ。勝てなくても良い、それでも面と向かって戦ってみたい気持ちがハルの心の底で灯っていた。