魔法少女リリカルなのは 未来への系譜   作:ロシアよ永遠に

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Mission21『マテリアル娘まる』

「時に…」

 

暗い空間に所々差し込む光が空間を照らす。

しかし音も無い静寂の世界。

その中に一人の少女の低い声が木霊した。

灰色の髪に、毛先は黒のメッシュ。翠の、そして吊り上げた眼が、腕を組んでいることもあり厳格さを与える。

 

「我等が盟主の行方は?」

 

「…その件につきましては。」

 

応じるのは同じ歳ほどで、濃い茶髪の少女。蒼い眼と、そして表情からは何も感じない。いや、ただポーカーフェイスなだけなのかも知れない。

 

「既にあの子(レヴィ)が探しに行っています。あの子の方が力の節制と回復の早さが私達よりも早いですので。」

 

「うむ。」

 

「ただ、力ばかりで少々オツムが悲惨ではありますが。」

 

「言うな。あえて我も言わずにおったのだ。忘れようと、認識せんようにと…。」

 

灰の髪の少女―ロード・ディアーチェ―は頭を抱えた。哨戒に出ているレヴィ・ザ・スラッシャーの行動力…ひいてはそのあらゆる『力強さ』においては、抜きん出ているのは認めている。しかし、それに関して懸念している点。それは『アホの子』であること。それが一番心配なのだ。

 

「…しかしまぁいざという時には頼れる存在よ。故に吉報を待って…」

 

「王様-!!」

 

ばっと光が差し込み、青い髪の少女が入ってくる。アメジストのような紫の勝ち気そうな眼が、朗報だと言わんばかりに輝いていた。

 

「おぉ、もどったか。して、首尾は?」

 

「うん!バッチリ手に入れてきたよ!パンの耳!」

 

「たわけ!!我が言ったのは砕け得ぬ闇よ!」

 

「王、腹が減っては戦は出来ぬ、と言う言葉がこの世界にはあります。腹拵えも一つの策。ここは…」

 

「ぐぬぬ…。まぁよい!先ずは腹を満たすとする!その上で我とシュテルは回復よ!」

 

「御意。」

 

「わーい!御飯御飯!」

 

海鳴を流れる川。

その橋の下の河川敷。

橋桁の傍らにある段ボールハウス。

その中で3人の少女の食事が始まった。

 

 

 

 

 

「レヴィ!うぬは食い過ぎよ!少しは残しておくとか、その様なことは考えんのか!」

 

「だっておいしいんだもん!」

 

「これは確かに…パンの耳ですらこの味とは…。」

 

香ばしく焼けた耳。僅かに付いた白く焼かれていない部分も、モッチリと柔らかく、それでいて甘味がある。それだけに飽きることなく、ディアーチェも口ではあぁ言いつつも手が止まることもない。

 

「これは確かに…。一体何処のだ?」

 

「え~っと、なんて名前だったかなぁ…。んん~?」

 

うんうん唸って必死に脳に入った情報をひり出そうとする。しかし、

 

「難しい漢字だからわかんない…。」

 

「だろうな。しかし道は解るのであろう?」

 

「え~っと。忘れた。」

 

「なん…だと…?」

 

「えっとね?砕け得ぬ闇を探してたらたまたま辿り着いたの。そんで、お金無いけどあげれるものをくれてさ。それがパンの耳なわけ。」

 

「帰りは…まぁ探知すれば帰れますからね。」

 

あれよあれよという間に貰ったパン耳、それを全て平らげてしまった。気付いたときには後の祭り、どうしようもなくディアーチェは頭を抱えた。

 

「ぐぬぬ…ここまでの味とは…恐るべし…!」

 

「しかし王、その効果もあってか、我々の力の回復も早まりました。日が落ちるまではレヴィだけではなく、我々も調査に出てはいかがでしょうか?」

 

「…うむ、それもアリ、かも知れぬな。」

 

「そうと決まれば早速参りましょう。善は急げ、と言いますので。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして日は傾き、西日が市街地を照らす夕方。

並び歩く3人の長い影が道路を照らす。

 

「いやぁ…改めてありがとうございましたヒカリさん!こんなに服を買って貰って申し訳ないやら何やら…。」

 

「や、1セットはサービスですし。流石に1着を舌切り…じゃなくて、着た切り雀にするわけにもいきません。女の子は女の子らしく、ファッションに気を遣わなきゃ!」

 

「ファッション…ですか?」

 

端で聞いていたユーリは首を傾げる。今までその様なことを気にしていたわけでもないので、聞き慣れない、使い慣れない言葉。

 

「そ、ファッション。二人とも元が良いんだから、それに見合う服を見繕って置かないと勿体ないよ。」

 

「そー言うものですかね?」

 

「そー言うものです。まぁ、かく言うボクも、とある事情で男の子向きの服を調達しなければならない理由があったわけでして…。」

 

今更ではあるが、学校への男子としての編入に際して、私服を少年向けの物を用意しなければならないわけであり、そのレパートリーを徐々に増やさなければならない。春物もそうだが、これから四季が巡る中でその季節に合う物を買わなければならないし、これから成長していく上でサイズも大きくしなければならないだろう。加えて女子であることも忘れてはならないのも現状であり、今は過去にアメリカで買ったもので代用できるが、これから男物と平行してサイズを改めなければならない。衣服に関して前途多難である。

 

「な、何というか…複雑な事情があるんですね。」

 

「親の(はかりごと)の恐ろしさを身を以て知った所ですよ。…一体何の目的でこんなことを思い付いたのやら。」

 

ガックリと肩を落とし、項垂れてとぼとぼ歩く彼女の背からは哀愁が滲む。夕日が照らすことも加味して、相乗効果をもたらしている。

 

「ヒカリさん!ちゃんと前を向いて歩かないと…」

 

「ぬわっ!?」

 

「ひゃっ!?」

 

案の定である。塀の影から現れた通行人とごつんと額を打ち付け、双方強かに尻を道路へ打ち付けた。

 

「いたた…す、すいません…」

 

「い、いやこちらこそ…申し訳ない。」

 

「あら~、王様ってば余所見してるから~。」

 

「ヒカリも、ちゃんと前を見て歩かなきゃ駄目ですよ?」

 

条件反射で閉じた目を開く。ユーリも、そしてアミタも、ぶつかった人物を一瞥する。

 

「は、はやて…?」

 

「ヒカリさん、お知り合いですか?」

 

「同い年の女の子…なんだけど…」

 

「何だか…違うような…?」

 

昨日顔を合わせたユーリですら違和感を覚える。髪型はそっくりではある。しかし、その目つきははやてとは違って少々鋭い。そして何より…

 

「しかも…なんで甲冑姿?」

 

「ふむ、誰と間違えておるかは解らぬが…我はハヤテ…と言う名ではないぞ?我はディアーチェ。いずれ世を破壊し尽くす王になる者よ!」

 

「破壊王に、我はなる!と?」

 

「簡潔に言えばそうなるな。…しかし、我を見違えるほどのハヤテと言う者…、察するに余程聡明で威厳があって、更には凜凜しいのであろうな。ウム…!」

 

「王、王。」

 

深い紫のバリアジャケットを纏った少女が、ドヤ顔で名乗りをあげ、遠回しに自己評価を美化して下すディアーチェの服の裾を引っ張る。

 

「何だシュテル。」

 

「もうすぐ日が暮れます。そろそろ捜索を一旦中断しなければなりません。」

 

「む、それもそうか。すまなかったな。」

 

「あ、うん、こっちこそゴメンね。」

 

互いに一礼し、すれ違う瞬間。

ユーリとディアーチェの脳裏に何かが走る。

どちらからともなく振り返り、視線を合わせる二人。睨み合うわけでもなく、ただ見つめ合う。

彼女達の体の、頭の奥で、何かが訴えているようだったが、それが何なのか解らず、

 

「ユーリ~!帰るよ~!」

 

「王様~!帰ろうよ~!」

 

「あ、はい!今行きます!」

 

「う、うむ!」

 

互いの同居人達の元へと走って行く。

この二人の邂逅。これは運命の悪戯か。のちに思わぬ形で引き合うことになろうとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユーリ?」

 

「………。」

 

「ユーリってば!」

 

「はっ!?な、なんですか?」

 

「もうっ!御飯の途中でボーッとして、どうかしたの?」

 

ヒカリのマンションに戻り、購入した品を整理して夕食に移る。そこまでは何ら問題は無かっただろう。

しかし、帰ってきてからユーリの様子が何処かおかしい。心ここにあらずというか、何かボーッととしているのである。

 

「何か考え事?」

 

「い、いえ!何でも無いんです!何でも!」

 

そういうと慌てて手に持った茶碗から、スプーンを使って御飯を口に入れる。

そんなユーリに、アミタと顔を見合わせるヒカリ。

何でも無い

…たんにボーッとしていただけなのかも知れないが、それでも心配な物は心配。

 

「…もし相談したいこととかあったら言ってね?力になるから。」

 

「はい、ありがとうございます。大丈夫ですよぉ。」

 

「僭越ながら、新参者の私も熱血協力しますよ!」

 

「あはは…ありがとうございますアミタ。」

 

火災警報器が作動しないかとヒカリが危惧するほどに熱血な炎をたぎらせるアミタ。

ユーリにとってその心配が途方もなく嬉しくて…そして後ろめたかった。

 

闇統べる王(ロード・ディアーチェ)…)

 

擦れ違い、視線を合わせた、恐らくはあの3人のリーダー格の少女であり、『王』。

 

星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)…)

 

ディアーチェを嗜めていた少女。3人の内で最も思慮深い参謀で、『理』。

 

雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)…)

 

王をはやし立てていた少女。3人の中で戦闘力が特に高く、逆におつむがアレな『力』。

 

(3人が受肉と顕現した…。エグザミアの完成は近いのかも知れない。けれど…)

 

得も知れぬ不安がユーリを包む。

エグザミアの完成。これは望んだことであり、恐らくは模造品達の出現もそれと同時に止まる。

だが、この胸の奥に灯る不安は、恐れは何だ?

完成させてはならないのか?それとも…?

 

夜も更け…そして闇から暁へ変わりゆく紫色の天を織り成す時…再び戦いの幕は開ける…。

 




今回は切りの良いところで止めたので、いつも以上に短めです。申し訳ない。
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