A.M.4:20
海鳴市の東の空が若干白み掛かるこの時間。
未だ抜け切らぬ寒さが肌に染みるが、
「アクセル…スマァッシュ!!」
素早い踏み込みと、その力をチャージして放たれるアッパーカットは、的確に相手の
『クラウス…私、は……』
魔力の粒子として消え行く
「はぁっ!はぁっ!か、勝てた…!」
膝に手を当て息を整える内に相手は露と消え、残ったのは紫の欠片。
掌に乗るくらいの小さな欠片ではある。しかし、これこそがニセモノを作り出すほどの力を秘めている、恐らくはロストロギアに値する物なのだと思うと背筋が凍る。
『ヴィヴィオさん。首尾は?』
「こっちはなんとか…。まさかアインハルトさんとこんな形で戦うことになるなんて思いもしませんでしたよ。」
『そうですか…こちらもヴィヴィオさんとやり合いましたが…恐らくはゆりかご時代のお姿なので、やはり今に比べると、ですね。』
「わ、私は結構ギリギリでしたよ…。」
それでも少しは強くなってきているという自覚があるのか。若干ではあるが憧れの先輩に少し近付けたのかと顔を綻ばせてしまう。
うん、強くなれる。強くなるんだ。何処までだって!
「一旦合流しませんか?念のために固まっていた方が得策だと思いますので。」
『それもそうですね。いつ増援が現れるとも解りませんし。』
「それじゃ、また後で。」
思念通話による回線を切断。アインハルトの位置は、クリスが把握しているので迷うことなく向かうことが出来る。向こうもティオがナビゲートしてくれているから問題ないだろう。
(レオン君とトーマは…大丈夫かなぁ?)
遡り20分 A.M.4:00
アースラで仮眠をとりつつ待機していた未来からの来訪者四名。緊急でのアラートにより叩き起こされ、結界の張り巡らされた海鳴市上空に出撃と相成ったわけだが。
「…やっぱり慣れないなぁ…空戦制御。」
飛行しながらも、まだやはり飛び方にぎこちなさを感じるヴィヴィオはふとぼやく。元々はストライクアーツなど陸での格闘戦を意識した魔法運用の練習ばかりしてきただけに、空に浮かぶ、と言う事象自体を体験するのが新鮮でもあり、そして違和感があった。
「それは私とて同じです。しかしこれも良い経験かと。」
「でもなんとなく、今のところ上手く戦えないかも…。」
「…となると、空戦の経験があるのは俺だけになる、のか?」
『みたいだね。…と、レーダーに反応だよトーマ!』
『よし、寝覚めの所申し訳ないが、速やかに迎撃して欲しい。反応は4。各員散開して当たってくれ。』
「「「「『了解!』」」」」
「…とまぁ…一人に一人、っていう分担は妥当なんだろうけどさ~…。」
「私には…行くべき所があるのよ…だから…退きなさい…!」
「いきなりとんでもねぇ人と当たっちまうかな普通!」
自分のくじ運のなさを呪うべきか、レオンが相対するは条件付きSSランクの大魔導師プレシア・テスタロッサの
「恐らく当たったら…」
『例外なく黒焦げ、ギャグ補正込みでもアフロですね。』
「その際、お前も巻き込まれるけどな!」
『さーて、頑張りましょうか主!私が壊れないために!』
「無駄口とは…随分舐められたわね…!」
どうやら癪に障ったようで、怒気を含んだプレシアが杖を振るえば、魔力光を具現化したような紫のスフィアが展開される。その巨大さたるや、1メートルはあろうかといわんほどで、魔力変換でバチバチと帯電している。
「いや…その…話し合いましょう!?人間皆仲間!というか、こんな人相手に一人でやれるかよぉ!?」
「サンダー…スフィア!」
射出された弾は、容赦なく、そして無慈悲に的確にレオンに迫る。
「アバーッ!!」
命中、そして爆発。
その規模は大きく爆風を呼び、離れたプレシアのローブを靡かせる。
「…まさかこの程度ではないでしょう?下手な芝居は止めなさい。」
「……まぁ避けられなかったのは事実なんだけど…。」
爆煙が晴れる。威力をこれでもかと高めて撃ったわけでもないし、かといってそこまで手加減したわけでもない。彼の魔力の高さ自体は相対したときから解ってはいたので、倒れるはずもないと確信めいた物もある。
「俺は平和的に行こうと思ったけど…降り掛かる火の粉は払わにゃやられる。ここは正当防衛として迎撃しますか!」
「来なさい…そのうえで行かせて貰うわ!」
「上等!」
そう区切り、足裏に魔力の足場を精製。それを蹴り出すように踏み出す。
飛行魔法自体は苦手だ。しかしそれならば、出来るだけ陸で戦うのと同じように工夫すれば良い。その結果が足場だ。足を付けてなんぼの格闘戦。生成と魔力の制御はデバイスであるブリュンヒルデに任せ、とにかく懐に飛び込む。
「いきなり正面から?…猪なの?あなた。」
口許をつり上げて、自身を囲うように先ほどのサンダースフィアを生成。その数三つ。まるでルーレットのようにプレシアの周囲を回っている。
「落ちなさい!」
「落ちるか!」
緩やかな速度ながらも強力なホーミングを掛けて、スフィアが迫る。
しかし、レオンとて猪突猛進で行くつもりはさらさら無い。スフィアをギリギリまで引きつけて後方下に足場を形成し、跳躍。スフィアの誘導は強力とはいえど、急な旋回は出来ない。プレシアはスフィアの制御で身動きが取れない、そこを狙う。
腕に嵌められた巨大なガントレット。それに内蔵されたリボルバータイプのカートリッジ。そのロードを担うコッキングレバーを手動で引き込んで固定。
すかさずロード。
右拳に黄金の魔力が集束し始める。
「コメット…ハンマー!!」
左手で付けた狙い、その腕を引きながらの右ストレート。レオンが扱う単純明快な魔法の一つであり、ロードしたカートリッジ、その魔力を右手に集束。それを相手に叩き付けると言うものだ。これは魔力制御をデバイスであるブリュンヒルデが担っているからこそ出来るもので、レオン一人では到底出来ない。と、言うのも、彼の魔力運用の資質の問題だ。魔力こそ高けれど、制御系がてんで駄目なレオンがこうしてカートリッジの魔力をチャージ可能なのは、ブリュンヒルデの補助による恩恵だ。
その威力は、フェイトのバルディッシュと同口径のカートリッジを1発分の塊を打ち込むだけに、侮れないものがある。
しかし
「甘いわ…!」
紫のミッドチルダ式魔法陣の障壁によって拳は阻まれる。
そう、相手は大魔導師と謳われるほどの実力者。魔力量もさることながら、その運用と威力においても桁が違う。
「瞬間出力だけなら特筆すべきでしょうけど…カートリッジの魔力その物をぶつけるだけ。それでは…」
「脅威にすらならないわ、ってか?」
バチバチと魔力闘志が拮抗する火花の中でレオンは口許を吊り上げる。
その意図を読み取れないプレシアは眼を丸くするのみ。
「こう…すんだよ!」
打ち付けていた拳を開き、プレシアのラウンドシールドを
黒金のガントレット、その爪に当たる部分がラウンドシールドにめり込み、まるで握り潰さんとその手を閉じていく。
そして、
ガラスがたたき割られるような音と共に、紫の魔力は四散する。
「なんて…非常識…!」
「もういっちょ!」
『ショットガン・レイド』
左足のレガース。その踵部に備えられたこれまたリボルバータイプのカートリッジをロード。身体を捻り、そのねじれから引っ張られた左足から打ち付ける左回し蹴り。
「吹っ飛べぇっ!」
「障壁っ!」
紫の壁とも取れるような、そんな巨大な防御魔法が至近距離で展開される。
ヒール部から放たれる散弾をぶつける。張った障壁越しにその衝撃を感じながらも、プレシアはデバイスの形状を変化させた。。
「この…っ!!」
防ぎきったことを確かめると、障壁を解除すると同時に振り下ろされるは、紫の魔力で錬られた鞭であった。蛇の如く撓るそれは、遠心力を身につけて迫る。反射的に顔面に当たるのを防ぐために左腕でガードしたのが仇となったか、鞭が巻き付いて固定されてしまう。
「ちっ…やばっ…!」
「消えなさい…!」
バチバチと電流が迸るスフィアが再び錬り出される。しかし、先程の物とは違うのがその密度だ。大きさこそ先程と変わらないが、その魔力は濃縮され、色ももはや紫を通り越して真っ黒である。
避けようにも腕をがっちりホールドされてるものだから、回避は不可能に近い。…なるほど、近接でのバインド代わりの鞭というわけなのか。腕にしっかりと巻き付いて離れようともしない。
しかし、
相手と直線で繋がっていると言うことは逆も然りだ。
「逆に考えるんだ…!推しても駄目なら引いてみろと考えるんだ…!」
それすなわち、逆転の発想である。
レオンが昔やっていた裁判物のゲームの主人公が口にしていた言葉だが、こんなところで役立つとは思いもしなかった。
「どっこいせぇ!!」
腕に絡み付いた鞭を右手で掴む。そして綱引きのように、地引き網を揚げるように引き寄せる。
するとどうだろう?
離すまいとしっかり鞭の柄を掴んでいたのが仇となったのか、まるで魚が釣れたかのようにプレシアは宙に引き上げられたではないか。
「フィーッシュ!!」
なぜか有りもしないリードを巻く動作。
こうなれば体勢が崩れているものだから、願ってもない好機だ。
プレシアが引き寄せられてくることによって出来た鞭の弛みを利用し、右腕のカートリッジ、それを『特殊作動』させる一手のために、再度右手ガントレットのコッキングレバーを手動で引いて固定する。
「俺の切り札その壱…!」
「くっ…!サンダー…」
プレシアとて何もせずに食らうつもりなど毛頭無い。空間攻撃も彼女の得意とする戦法だ。術式を発動させると、レオンの数メートル上空に紫のミッド式魔法陣が展開される。彼女の変換資質をフル活用した物なのか、魔法陣自体がバチバチと帯電している。
「リボルビング…!」
「レイジ!!」
「インパクト!!」
凄まじいまでの紫電と、拳圧による衝撃。互いの魔力による拮抗が大規模な爆発を起こした。
「まだまだですね。…まったく、未知な力を使うものだからと思っていたら、その力に振り回されています!そんな生徒を家庭教師として見逃すわけにはいきません!まずは魔力の伝達と基本運用、それから…」
「どうしてこうなった。」
所変わって。
トーマ(inリリィ)が遭遇した人物。それはプレシアの山猫を素体とした使い魔で、フェイトとアルフの家庭教師リニスである。
成り行きで戦うことになったまでは良い。しかしその圧倒的なまでの技量差によって巧みに無力化。トーマの戦い方を喧々とダメ出しされている現状である。
「高い魔力を振り回せば良いと言うものではありません!どれだけ魔力量とその出力が高かろうと、上手く運用しなければガス欠によって良いようにやられてしまいますよ!そもそも、魔法戦における基本は…」
(この話…いつまで続くんだろうな…)
(が、我慢だよトーマ!)
「聞いていますか!?」
『「は、はいぃっ!」』
余談だが、
後々の戦闘でトーマは少なからず戦闘技術向上が認められた。
しかし、この後回収されたとき、その顔はやつれていたという。
剛拳が紫電の弾幕を貫いていく。
先の爆発で互いにダメージは少なくは無い物の、それでもヒートアップする戦い。
互いのデバイスとローブは煤こけており、その魔力ダメージの大きさを物語っている。
膨大な魔力から錬り出される魔力弾を、時には避け、時には弾き飛ばしながらも、何とか
しかしそこは大魔導師。力もさることながら、戦技においても高い能力があるのだろう。近接でしか真価を発揮できないレオンを看破し、中距離から遠距離を維持している。
『主、魔力量30%を下回りました。このままではジリ貧です。』
「ち…!やっぱ伊達に年は食ってねぇのか…!」
「サンダーレイジサンダーレイジサンダーレイジサンダーレイジ!」
「ちょっ!?この距離で聞き取るとか…何という地獄耳!しかも詠唱時間とかガン無視かよ!?」
『焚き付けちゃいましたね。女性に対して年齢の話は禁句ですよ。』
ズバズバと落ち行く雷は、さながらプレシアの心境を物語っているのか。まるで雷神の如く稲光を放っている。
「いい加減…!」
大魔導師
その称号に違わぬ力量。
それは魔力、出力、資質、技量。
それらにおいて高い能力を持つ物に第三者から与えられる、羨望と尊敬、そして畏怖を込めたもの。
「終わらせるわ…!」
そしてそれは
サンダーレイジに対して防御に重きを置いて動きを鈍らせたことが仇となったか。否、防御に専念せざるを得ないように、あえて弾幕のように落としていたのだ。
そう
全てはこの一手のために。
「バ、バインド!?」
動きを鈍らせたことによってライトニングバインドを容易に仕掛けることが出来たのだ。両手をつるし上げ、まるでキリストの
「…消えなさい…!」
遥か上空。
ゴロゴロと鳴り響く雷雲。
それは自然に生成されたものではない。
プレシアの電気魔力変換資質。それによる
「サンダー…フォール!!!」
瞬間、
目映いまでの閃光。神の剣と思しきまでに猛々しい爆音が鳴り響いた。
トーマが自分の中ではネタキャラになっている件について