これは名曲だと思うんだ。ヒャダインさんリスペクト。
放たれた雷が海鳴の空を貫いた。
その余波からか周囲は帯電し、時折その火花を散らしている。
超弩級の儀式魔法。
プレシアが持ちうる最大にして最高峰の威力を誇るものだ。この一撃で倒れないのであれば、相手は飛んだ規格外だろう。
そう
直撃していたのなら…だ
「…全く。」
忌々しげに、そして深々と息を吐き出す。
「いつになっても…金の魔力の光は好きになれないわ。」
二つに結わえた長い金の髪が朝の風に揺れる。白いマントと黒いリボンもそれに伴い、そして赤い瞳はプレシアをしっかり、真っ直ぐ見つめる。
右手には、相棒であるバルディッシュ。左手にはレオンが抱えられている。
「母…さん…。」
真っ直ぐと、ではあるが、その瞳には悲哀。そして恐れ。
未だフラッシュバックする記憶の数々が、バルディッシュを持つ手に震えを生み出す。
しかし、そんな恐れを持つ相手と戦うレオンを助けた。
出撃要請からの一番手近で、そして…忘れることの出来ない魔力反応に引かれるように、自然と飛翔していた。
そして目に飛び込んできたのは、今執り行われんとする
しかし、目の前でそれが執り行われる。その恐ろしさに思わず飛び出し、バインドを破壊して彼を救い出した。
こう言うときに速さがウリであったことがありがたいものだ。
「…何処へなりとも消えなさいと言ったはずよ…?」
「それは…!」
「そして…私は貴女が大嫌い、だとも。」
「っ!!」
もう二度と聞きたくなかった言葉。
一度壊れかける引き金となった言葉。
「それでも…!」
「…?」
「それでも私は…貴女の娘だから…!」
これだけは言える。例え嫌われようと、突き放されようと、これだけは変わらない。娘であり、そして…母を親として愛している。
「だから…この悲しい夢を終わらせます…!」
「…夢じゃないわ…!私はアルハザードへ行く…!あの時を…アリシアと過ごすはずだった時を取り戻す為に…!」
欠片から生み出された模造品であっても、この想い…いや、執念は鬼気迫る物がある。身をなげうってでも叶えたい願い。深い愛があったそれだけに、だ。
「レオン…下がってて。」
「お、おい。でも…!」
「お願い。これは…娘である私が、終わらせないといけないことだ。…うぅん、ただのわがままなのかも知れない。でも、きっとアリシアはこんなこと望んでいない…。だから…」
「人形が……」
怒り、悲しみ、後悔…そんな負の感情を込めたかのように、膨大な魔力がプレシアから発せられる。
アリシアが望まない…?そうではない。一緒にいてあげたかった娘。自分の注いであげたかった幾年もの愛情と、したくなかった後悔の塊。ただせめて一言、謝って、そして共に時を過ごすだけの普通の
…だから吼える。
「アリシアを…語るなぁぁぁぁっ!!!」
紫電が二人に向かって迸る。感情のままに発せられた雷電は、フェイトがレオンを突き飛ばしたその二人の間を通過する。
「バルディッシュ、母さんを止めよう…!」
『イエスサー!』
無機質に見えて、どこか熱の籠もったような機械音声で返す相棒。クレッセントフォームに形状を変えたバルディッシュ。金色の刃を形成し、プレシアへと肉薄する。
「はぁあっ!!」
横凪に一閃。無論非殺傷だが、一撃まともに入ればその魔力をごっそりと削ることが出来る。
しかし空を切る。
瞬発的な加速による、数メートルの後退。それによって鎌による一閃を躱す。
「フォトン…!」
「プラズマ…!」
「「ランサー!!!」」
片や後退しながらの詠唱と発射、そして横凪に払った流れからの詠唱と発射。互いが射出した雷の槍は、バチバチと互いの変換資質により拮抗、そして行き場を失った金と紫のそれは、稲光のように空を照らす。
「この…!!」
後退飛行しながらのサンダースフィア。アリシアと言う単語と、目の前にいる愛娘と同じ容姿の少女。狂気的なまでに魔力を凝縮した魔力の水晶は、ホーミング云々よりも速度に重きを置いて撃ち出される。距離にして5メートルほど。誘導性能よりも、相手が反応するよりも先に命中させてしまえば良い。
「くっ!」
内心一撃が入らなかった口惜しさがフェイトの表情に滲み出る。返す刃と言わんばかりに、金の刃がプレシアのスフィアを切り払う。
程なくして爆発。
風船が割れて中の空気が逃げるように、行き場をなくした魔力が爆発を通して周囲に霧散。
「サンダー…レイ…っ!?」
咄嗟にプレシアはラウンドシールドを展開する。ミッドチルダの魔方陣が、爆煙の中から飛び出した金色の三日月…いや、まさしくブーメランと呼ぶべきそれを押し留めた。
バルディッシュの魔力による鎌、それをブーメランのように射出するクレッセントセイバー。
噛み合う盾と飛刃。
しかし、この魔法の特製は防御『させる』事で真価を発揮する。
プレシアは忘れていた。フェイトを教育したのは『彼女』であること。精神リンクをほぼ切っていたとは言え、大魔導師の使い魔であることに変わりは無い。恐らくはフェイトの戦闘スタイルの為に、『硬い防御を抜ける事が出来る魔法』を用意させていたであろう。つまり…
平面の壁を作り出すラウンドシールドは攻撃魔法を『弾くこと』を大抵の目的とすることがままある。射出された魔法に角度を付けて弾くことで軌道を逸らし、接触を最低限に抑え、消耗しないように努めるのだ。
しかし、フェイトのセイバー系の射出魔法。速度はそこまで速くはないが、緩やかなで変則的な誘導性能を持っているため躱しにくい。加えて、防御魔法に『噛む』性能を持っているため、先程の『逸らす』ということが難しいものとなっている。
そしてもう一つ、
『
トリガーヴォイスによる炸裂。
密着した状態でこの追い打ちは、魔力ダメージは勿論、至近距離に爆煙を発生することも可能なので、近接戦に持ち込む際にも、その変則的な軌道も相まって有効な戦術。これも使い魔であるリニスの入れ知恵なのだろう。
「…一人前の魔導師…ね。」
自然と口を吊り上げる。リニスとの使い魔の契約、それがしっかり果たされていた事に、無意識なのだろうか、笑ってしまった。これは自分を押すまでに育った喜び?それとも、一人前の魔導師に育てるように指示した自分が、そのフェイトに押されるという皮肉の笑み?
どちらにしても、押されていることに変わりは無い。…しかし、どこかその状況を悦ぶ自分がいることが不思議だった。
(ホントに…見た目以外は違うのに…。)
利き手も、自分への呼び方も、魔法適性も、性格までも違う。しかし、やはりアリシアと同じく…母である自分を想ってくれる。そして、頭の自分と同じく、こうと決めた道をひたすら突き進む頑固さ。どれだけ突き放しても、嫌いだと言っても、それでも自分のためとこうして身を挺している。
「母さん…!」
爆煙に紛れ、再び発生させた鎌の刃、バルディッシュを振りかぶり、横凪に薙ぎ払わんと腰を捻る。その表情には悲痛。恐らくは、母と戦わねばならぬと言う現実からの物だろう。悪い夢であると、それを覚まさせるために迫る刃。
(まだ…!)
プレシアの杖から鞭がしなり、バルディッシュの柄に絡む。強く引き絞り、バルディッシュは彼女を裂くことはなかった。
「くっ…!!」
「まだ…まだよ…!ここで終わらせない…!!」
「プラズマ…!」
「サンダー…!」
「「スマッシャー!!」」
同時に撃たれたかち合う魔法が再び爆ぜる。
フェイトの、自分で止めたい、という意思を尊重しつつも、目の前で繰り広げられる応酬に、レオンは目を奪われていた。
「これが…空戦魔導師の戦いかよ…!」
紫電が飛び交い、雷光が空を切り裂く。その戦いは母子でありながらも互角とも感じた。
「プレシア・テスタロッサ…条件付きSSランク…。」
しかし戦い振りを見るに、個人で戦うよりも、後方からの砲撃が主となりそうなものだ。鞭による攻撃も、術式を用いていないことを加味しても、恐らくは緊急用の措置に過ぎないのかも知れない。一番似通った戦闘スタイルなのは、はやてであろう。
対してフェイトは全てのレンジにおいてバランス良く纏まっている。近接戦から、中距離の誘導弾、遠距離の砲撃。それにあそこまで拮抗した戦いが出来るプレシアの戦闘能力。
「マジで…鬼気迫る、って奴だな。」
その決着は…
母子互いにボロボロで、その戦闘の激しさを物語るに難くない。互いのバリアジャケットは崩壊しかけ、魔力ダメージも蓄積していった。
そして、プレシアの手から放たれる一筋の雷光。距離を詰めんとグレイヴフォームからクレッセントフォームに切り替えたフェイト。戦闘での疲れからか、反応しきれずにあえなくクリーンヒット。爆発が巻き起こる。
恐らくは…あのダメージにこの一撃。これで決着だろう、と確信に至った。
しかし、
黄金の雷光がそれを許さない。
「ハァァァァァァッ!!!」
バルディッシュの刃。それを二分し、鍔として、そこから発せられる巨大な魔力刃。
そして、フェイトのバリアジャケット。マントを取り払い、必要最低限の防御で最大限の速度を得た装備。
ザンバーフォームとソニックフォーム。双方、フェイト自身とバルディッシュの切り札とも呼ぶべきもの。
雷光の直撃する寸前にバリアジャケットをパージ。それに伴い雷光と、解き放たれたマントが干渉して爆発。それを目眩ましにフェイトはプレシアに肉薄する。
黄金の刃が
プレシアを貫いた。
腹部に深々と突き刺さった刃。
非殺傷である故に、出血などは発生せず、その身体を循環し、蓄積されている魔力を霧散させる。
「ハァッ…ハァッ……!」
「全く……!諦めの悪い…ところは……誰に似たのかしら…ねっ…」
「…母さんの、娘ですから。」
「フ…フッ……!そう、ね……」
模造とはいえ、母を撃たねばならないという気持ちは如何ほどか。気が沈むフェイト。しかし、それでもプレシアの娘であると、頑なに。
そしてそう言う彼女を、狂気的では無く、…ただ静かに笑うプレシア。どこか得心したように目を閉じた。
「全く…私の使い魔も…とんでもない子を育てたものだわ。」
「…母さん…。」
「…ホンモノの私は…こんな気持ちになるのかしらね。」
多大な魔力ダメージにより、その力を失ったのか、プレシアの体が光となり、明光が差す空に輝き霧散する。
「偽者だと…貴女に散々言っていた私が…本物を模して作られたコピーなんて皮肉なものだわ…。」
「母さん…気付いて…?」
「私を…誰だと思ってるの?仮にも…大魔導師とよばれているのよ?」
うっすらと…消えゆく身体。いよいよその存在の消滅が近付いてきた。
「本物では無い私が言っても…意味は無いのかも知れない…。…でも、私の娘なら…そんな顔をしないで…前を向きなさい。」
「え……?」
「私の娘というのなら、それを通しなさい。どこまでも真っ直ぐに、ね。」
「母…さん……」
強くあろうとした、もう泣くまいとした。
しかし、聞きたかった母からの言葉。それがコピーでも、自分を見て、あの壊れた母の笑みでは無く、あの時ひたすら望んだただ一人の母としての笑顔を向けてくれた。それが何処までも嬉しくて…そして悲しかった。それは…見せてくれた笑顔も、すぐに消え行くものだと知っているから。
「フェイト…気を付けなさい…。…人の思い出を現実化させるほどのこの現象…それの行き着く先は…」
「母さんっ…!?」
限界だった。光の粒子は天へと還り…残ったのは紫の水晶、その欠片。抱き締めたその欠片に落ちる涙。
「…何処までも…真っ直ぐに…!」
流す涙は弱さではない。きっと泣いただけ強くなれる。だから…今だけは…
「母さん……ありがとう…!」
一人の少女は…今だけは泣き続けた。次は…泣かないように、と。
感動も何も無いね。
ただフェイトとプレシアの愛情の葛藤を書きたかったんだ。
でも本物のママンは入院してるけど