今年の抱負と致しまして、この小説、いわゆる『運命の歯車編』を完結出来たら良いなぁと思ったりしてます。
「では…出現したイミテーションは全て鎮圧された、と言うことなのか?」
『うん、未来の子達が対応に当たってくれたんだ。私は駄目だったけど、フェイトちゃんは間に合って援護してくれたみたいだよ。…少し辛いことがあったみたいだけど。』
「…そうか、私も助けにいければ良かったのだが…。」
『いいよいいよ。ハルちゃんは休養中なんだから、ゆっくりしてて。』
結界が解除された事を確認したハルは、リビングのソファでなのはから経過報告を受けていた。時にして朝日が差し込む時間。台所では桃子が朝食の準備をしている。恭也と美由希も朝のロードワークだし、士郎も朝食に出すコーヒー豆を煎っていた。
「ゆっくり、と言うのも考えようだが…、ふむ、高町、桃子さんが朝食は用意しておいて良いのか?と。」
『あ、うん。報告が終わったらすぐ帰るし、皆と食べれたら良いな。』
「わかった、そう伝えておこう。…気を付けてな。」
ありがとう、とその言葉を皮切りに通信は切れる。時刻は七時。日曜日だけに、少しゆったりとした時間が流れているようにも感じた。
「なのは、帰って食べるって?」
「そのようだ。…本来本職である私が、嘱託である彼女に任せるというのも申し訳ないのだが…。」
「間が悪い、と割り切るしか無いだろう。怪我はほぼ治っていても、療養させられるほどだ。しっかり休んでおいてくれないと、僕がリンディさんに叱られてしまうからね。」
やはり力添えできないことに関しては申し訳ない気で一杯なのだろう。割り切れ、と言われてもそうはできないのがハルという人間である。
良くも悪くも、諦めの悪いと言ったところか。
「ハルちゃん、通信終わったら、料理を並べるの、手伝ってくれないかしら?」
「う、うむ、了解した。」
桃子が用意するプレーンオムレツが盛り付けられた皿を危なげなくテーブルに運び、その造形に感銘を受けた。
見事なまでの楕円形に整えられた卵は焼きムラなど無く、一種の芸術ともとれるほどのものだ。傍に添えられたレタスの緑が、卵の黄色と、そしてそれにかけられたケチャップの赤を引き立てている。
そして真っ白な皿。…なる程、こう言った食材や食器の配色により、料理をより際立たせるのか。
「あらあら、ハルちゃんてば、そんなにお腹が空いているのかしら?オムレツに穴が空いちゃうわよ?」
「穴が空く…?私の視線はそこまで恐ろしいものでは無いぞ?」
…どうやら慣用句と言う物を知らないらしい。日本で用いられる言語の一つで、物をじっと見つめている状況のことをそう言うのだ、と士郎は苦笑しながら説明する。
「…なるほど、この国の言葉…と言うのは中々深い意味があるのだな…、これも一つの勉強か。」
「今度図書館に行ってみるのも一つの勉強だと思うよ。言葉一つとっても、その語源や意味を調べることでも退屈はしないと思うし。」
「…ふむ、ならば今日はその図書館に…」
こうして、彼女の予定はとんとん拍子に整っていく
ハズだった。
「悪いなハル。今日のキミの予定は、桃子さんと相談して決めているんだ。」
「それは…どういうことだ?」
「そ れ は…なのはが帰ってきてからのお楽しみよ?フフフ…♪」
桃子の含み笑いに、薄ら寒いものを感じるハルの背中には、つぅっと嫌な汗が伝った。
二時間後
海鳴市のメインストリート、その沿いにある高町夫妻が経営する翠屋。
その店内は一つのざわめきに包まれていた。モチロンそれは客同士の雑談などによる喧騒も含まれるだろう。それは喫茶店である以上、そういった事に使って貰えると言うことは喜ばしいことであるし、それに伴ってコーヒーなどのお代わりが貰えればなお良い。
しかし、
コーヒー等の飲食物以外に、話題を集める物があったのだ。
高町家の女性陣?
いや、そうでは無い。そうでは無い、と10割言えるかと言えば厳密には違う。
高町家の人間か?
と問われればNO。
しかし、高町家にいる人間か?
と問われればYES。
「い、いらっしゃいませ…翠屋へ…ようこそ…。」
ぎこちない接客スマイル。目元は笑っているが、口元は若干引きつっており、作り笑いだというのがありありとわかる。
普通の客なら、
『なんだ、新入りさんか。』
等というコメントに落ち着くだろう。
しかし、彼らの向ける物は他にあったのである。そう、それは…
「…桃子さん。」
「あら?何かしら?あ、これ四番さんのモーニングセットね。」
「う、うむ。……やはりこのヒラヒラフリフリの服というのは…。」
膝上までの黒いワンピースと、それを引き締めるように着用されたフリル付きのエプロンドレスが踵を返す際にふわりと舞う。
四番テーブルに座る男性に、士郎特選豆のコーヒーと、アーモンドトーストとゆで卵にサラダ、更にデザートとしてイチゴが付いている、翠屋特製モーニングセットをぎこちない表情とは裏腹に、問題なく配膳する。
「お、お待たせしました…、特製コーヒーのモーニングセットです…。」
若干の堅さはあるものの、礼儀作法…いや接客における作法は抜かりなく、先ほど読み通したマニュアル通りにこなしており、桃子と士郎はその適応力の高さに舌を巻く。
「あらあら…表情以外はもうベテランの域ね。最初はどうなるかと思ったけど。」
頬に手を当て、桃子はうっとりして彼女の仕事ぶりを見つめていた。
ハル・エルトリア
メイド服兼ウェイトレスを初体験、である。
セミロングの銀髪を後頭部で結い上げ、メイドのシンボルたるホワイトブリムとして、フリル付きのカチューシャ。少し色白な気があるのもあってか、桃子によって頬に薄くチークが入れられている。恥ずかしがって頬を赤らめている、と言うのも加味してその効果は如何ほどか。
「………むぅ。」
しかしやはり慣れないからか、客や桃子達に見えない部分では若干窮屈そうにしている。
そもそも、普段はこう言ったフワリとしたスカートでは無く、陸士隊制服のような…管理局全体でもそうだが、タイトスカートのようなピッチリ目の物を履くことが多い。そのため、この手の薄手のスカートと言うのは履き慣れず、落ち着かずに居た。スカートに開放感はあれど、心としてはあまり気の休まるものでは無い。…というか、聖祥大附の制服もロングスカートではあるが、似たような節もある。
「や、やはり高町!そちらが着用すべきだろう!私にはこのような…!」
「駄ぁ目だよ?ハルちゃん、とっても似合ってるもん!ねぇ、お母さん?」
「そうね。なのはも良いけど、やっぱり初のお披露目のハルちゃんだもの。やっぱりデビューはインパクトがないとね?」
「そうそう!」
高町家の中で、特に発言力の高い二人の相乗効果。これにはさすがの士郎も適わないらしく、先程厨房に向かって視線で助け船を求めたものの、清々しいを通り越して、むしろ忌々しさすら感じられるほどの素晴らしい笑顔とサムズアップで返してきた。
「諦めろハル。あの二人があぁなった以上は俺にも父さんにも、ましてや美由希も止められない。」
「な、なんか恭ちゃん、さり気な~く私をディスってない?」
「気のせいだ。…ほら、来客だぞ。」
「「「いらっしゃいませ~!」」」
この切り替えの速さはさすがと言ったところか。ハルも相変わらずぎこちないが、高町家の娘2人に合わさって非常に絵になる。
「「………。」」
2人の来客だった。しかして店に入った瞬間に唖然とし、入り口で立ち往生している。
「お二人とも、どーしたんですか?」
ひょっこりと顔を覗かせる頭一つ長身で赤毛の少女。入り口がふさがれて入れないでいるのだろうが、先に来た二人はというと開いた口がふさがらない状況である。
「なっ…なななな…何故お前達が…!?」
「エ、エルトリアさん…その格好は……?」
「め、メイドさん…?」
まさかのクラスメイトとその同居人…如月一行である。ボーイッシュな服装かつ動きやすそうなパンツルックで身を固めた彼女達に相対し、フリフリのメイド。対照的な絵図。
「…はっ!?…い、いらっしゃいませ。三名様でしょうか?」
「ファッ!?…あっ、そ、そうです。」
「そ、それでは席にご案内します。」
ものの10秒前後なやりとりの間、我を忘れては居たが、すぐに店員としての自分に戻って仕事に戻るとは流石だ、と高町夫妻は感心する。
「ご、ご注文は…」
「えっ…と…、ボクはモカ、で。」
「わ、私はメロンソーダ…」
「…む、むむ…ヒカリさん、これは何と読むのですか?」
「えっと…、ご、ゴーヤジュース?」
「じゃあそれで!」
即決である。ゴーヤと言うものは、調理の仕方にもよるが、その苦々しさから好まない人も多い、沖縄地方でポピュラーなウリの一種であり、別名ツルレイシ、ニガウリとも呼ぶ。それをジュースにしたという物ならば、その苦みは推して知るべし。
「あ、アミタさん…ゴーヤジュースって…」
「ん?なんですか?」
「い、いえ…何でも無いです。」
見たことも聞いたことも無い、そんな野菜のジュースともあって、キラキラと目を輝かせ、そして効果音があるならばワクワクと表する事が出来るだろう、そんな顔を向けられてはこれ以上何も言えない。
「復唱します。モカ、メロンソーダ、ゴーヤジュース…注文は以上で?」
「ア、ハイ、お願いします。」
「モーニングセットもお願いしますね、エルトリアさん。」
「…畏まりました。少々お待ちを。」
ペコリとお辞儀をして、カウンター向こうにてオーダーを待つ桃子の元へ足早に急ぐ。
しばらく折を見て、なのははこそっと3人の元に。
「ヒカリちゃん、ユーリ。ハルちゃんのメイド姿、どう?」
「いいねΣd(・∀・)」
「か、可愛い、と思います。」
「でしょでしょ?眼福だよねぇ…。」
「お持ち帰りは?」
「ダメだよ。」
鼻息を荒くして、何やら変な方向にシフトしかけるヒカリを一刀両断。…と、ここでようやくなのはは一人多いことに気付いた。
「あれ?この人は…?」
「あ!アミティエ・フローリアンと言います!ヒカリさんの御友人ですね!アミタとよんでください!よろしくお願いします!」
無駄にデカい声だった。もうこれだけで思い立ったら一直線、熱血と情熱溢れるキャラなのだろうと理解が深まってしまう。しかも、立ち上がって名乗るものだから、周囲のお客様の視線まで集めてしまった。
「アミタさんアミタさんっ…!目立ってる!目立ってるって…!!」
「はっ!?す、すいません!お食事中に!」
ヒカリに諭され、ようやく自分のやらかしたことを理解して
「あは…は…。私は高町なのはと言います。よろしくお願いしますね、アミタさん。」
「はいっ、こちらこそ。」
互いに自己紹介を終えたところで、桃子から配膳を頼まれていそいそと仕事に戻るなのは。彼女と入れ替わりに、各々の品を円形のトレンチに載せたハルがやってくる。
「お、お待たせしました、ゴーヤジュース、モカ、メロンソーダ、それぞれモーニングセットです。」
「あ、ありがとう、エルトリアさん。」
「い、いや…その…ごゆっくりどうぞ。」
再びお辞儀をし、次のオーダーを受けに去っていくハルを見送る中、アミタが思うところがあるのか、身を乗り出してヒカリに話し掛けてきた。
「あの…さっきの人は…?」
「え?あぁ、ハル・エルトリアさん。この間学校に転校してきた人だよ?その…ちょっと硬い感じもあるけど…すごく真面目なんだ。だからその…メイドさんの格好をして必死に頑張ってるんだと思う。」
「そう…ですか。」
「メイドさん…メイドさん…!ハァ…ハァ…!」
「ヒ、ヒカリ!?落ち着いて下さ~い!ダメですよ!襲っちゃダメてすっ!」
ユーリと共に、何やら再びスイッチが入って荒ぶりかけるヒカリを