魔法少女リリカルなのは 未来への系譜   作:ロシアよ永遠に

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Mission25『約束、そして決意の出立』

意外や意外、ヒカリのヘンテコな性癖?が露わとなりつつも、ユーリの必死の説得によって自制心を保つことが何とか出来た。時折、ハルの配膳する姿を見て視線では追うものの、先程のように鼻息を荒くしたりすることは無くなってはいる。

 

「はぁ…、一体何なのだアイツは…。」

 

深い深い溜息を、穢れを吐き出すかのようについた。もしかしたら魂までも吐き出しているのかも知れない。108にいた頃はこんなことは無かったはずなのに。

問題の3人組が会計を終えて退店するのを見送って、赤髪の少女―アミタ―が物憂げに振り返ったとき、チクリと頭の奥底で痛みが走る。

赤と緑の瞳が交錯する。しかしハルにもアミタにも、どこかもどかしげな表情しか浮かべることが出来ずに、どちらからとも無く背を向けて、互いの進路へと戻っていった。

 

「ハルちゃん?」

 

「ん…?なんだ高町。」

 

「大丈夫?…なんか、顔色悪いよ?」

 

「…身体的に問題は無いはずだが…、そう見えるのか?」

 

「うん…少し、ね。…うぅん。むしろ何か心配事でもあるのかなって顔だったかも。」

 

自覚が無いだけで、他者から見れば心配かけるほどに顔に出ていたのだろうか?

まだであって数日ではあるが、この高町なのはと言う少女は、どうにも聡い…と言うよりも鋭いとハルは考察していた。自分自身も思わぬ核心を突いてくる。それも弾丸のように真っ直ぐに、だ。それは先ほども感じた頭痛に通ずる物を、どこかしら感じる物もあり、

 

「いや…何でも無い…、慣れない作業で疲れただけだ。…だから高町が気にかけるほどでは無いさ。」

 

言葉を濁すことしか出来ない。

 

高町なのはは真っ直ぐな少女だ。

高町家に居候することになって、同じ釜の飯を喰らい、同じ風呂に入り、さらには同室で寝起きする。その中においても慣れないであろうハルを気にかけ、溶け込みやすいようにと話しを盛り上げようとしているなのは。その積極的でストレートな所に彼女自身、何処かしらデジャヴという物を感じていた。

しかしチクチクとしていた頭が、次第にズキンズキンと増していくその痛みに顔をしかめていく。じわりと額に浮かぶ汗。鳴り止まない頭痛が徐々にハルの視界を曇らせ、そして焦点を合わなくしていく。翠屋に響くなのはの悲鳴にも似た呼びかけを最後に、ハルの視界はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、お別れなのですか?」

 

また目の前に現れた赤毛の少女。恐らくは以前見た記憶の続きなのだろうか?寂しそうに、名残惜しそうに、ハルの目を覗き込んでいる。

背後には星を脱出するためのロケットなのだろう。星間巡航用のシャトルを固定していることを見るに、生活できる他の星を求めて今飛び立たんとしているのがありありと分かる。

 

「お別れじゃ無いわよ。…いつかこの星が綺麗になって、ハルが戻ってきたら会えるんだから…。」

 

赤毛の少女の後ろで、若干ふて腐れながらも、その瞳は寂しげな桃毛の妹。必死に別れが辛いことを隠そうとしてはいるが、しかし隠し切れていない。やはり幼馴染みが引っ越す、と言うのは幼い彼女達には辛い物なのだろう。

 

「…私も、2人や博士を手伝いたいし…もっと一緒にいたい…。」

 

「ハル、これは僕の我が儘なんだ。それにこの子達を巻き込んでしまうのは心苦しいけど、それがこの子達の役目でもあるし。それに、この星を何とかするのも僕の役目だ。」

 

双子の肩を抱くように現れたのは、アッシュグレーの髪をした白衣の男性。その顔にはにこやかな笑顔を浮かべてはいるが、肉付きは良くは無く、健康体に比べれば痩せているのが見て取れる。

幼い頃から遊ぶ双子の父親でもあり、この星の異変を調査、そして研究する第一人者でもある。同じく異変を調査していたハルの両親や他の研究員は既に(さじ)を投げて他惑星へと脱出したが、彼と両親だけは根強く残って解決策を模索していた。

 

「博士…すみません。…最後までお供できずに…。」

 

「いや、2人とも良く僕の我が儘に付いてくれてありがとう。…でもこれからは、僕じゃなくて、愛する娘のために人生を使って欲しいんだ。」

 

「博士…。ほんとうに…。」

 

「ハルを…元気に育ててあげてくれ。同じ父親として、それが望みなんだ。」

 

「…はい。博士も…御元気で。」

 

出立の時は迫ってきていた。その時が近付くに連れて、膨れ上がる言いようのない寂しさ。

両親に肩を抱かれてシャトルに乗り込もうとするその時であった。

 

「「ハルっ!」」

 

どちらからとも無く呼びかけられ、両親と共に立ち止まって振り返れば、双子が博士の手を離れて駆け寄ってくる。

 

「2人とも…どうしたの…?」

 

「その…!また会えるようにって…何か願掛けできる物があったらって思って…!」

 

「…だから、これ。私とお姉ちゃんから。」

 

手渡されたのは、恐らくどこかで見付けてきてくれたのだろう、ハルの目と同じく紅に煌めく宝石。それをあしらったペンダントだった。形も整えられ、結わえ付けられたチェーンも一つ一つが細かく、女の子が身に着けるには問題ない出来の物だった。

 

「いっぱいいっぱい、また再会できるようにって、願いを込めました!ですから、また会いましょう!約束…です…よ…っ!」

 

「約束…破ったら……許さないんだから…っ!」

 

くぐもる声。ぽろぽろと流す涙と、ペンダントを差し出しながらも震える手。

本当は離れたくない。しかし、決まったことは変えられない。

まだ三人はあまりに幼く、出来ることはない。それならば、再び会えるようにと願いを込めること。それが今できる唯一の、そして最大限の努力。

 

「うん…また、二人に会う。絶対に。約束…する…!」

 

気付けばこちらも頬を伝う涙。これからは暫く会えないのだと、会えないであろう時間の分も、強く、そしてしっかりと抱き合う3人。

時間にすれば一瞬だったのかも知れない。だが、それがコンマ1秒であっても、交わした抱擁は変わらない。

どちらから誰からとも無く解いた腕と見つめ合う目に、もはや迷いは無かった。

 

「じゃ…またね。」

 

「はい!また会いましょうハル!」

 

「元気にしてなきゃ駄目だからね!」

 

「うん、そっちこそ…!」

 

もう泣き顔は無い。涙の流れた跡が残る満面の笑顔で別れることが出来た。もらったペンダントを首にかけ、守るべき約束と、両親と一緒に乗り込むシャトル。窓際の席に座らせてくれた両親のおかげで、最後まで遠くで手を振る三人と別れの時を共有できる。

 

「もう良いのかハル。」

 

「うん。皆とは…また会えるって約束したから。」

 

「そう…じゃあハルもこれからは元気に過ごさないとね?」

 

『発射カウントダウンを開始します。10…』

 

右隣には母親が、その隣には父親が。これから星の海を渡る旅に出るのだ。不安が無いわけではない。それは親とて同じ事。まだ見ぬ新たな星に向かい、生きていかねばならないという不安。幼く、小さいハルの手を優しくもしっかりと握る母親。

点火されたロケットエンジンの振動と、それに伴うカウントダウンが、その時が近付いているのを実感させる。

もはや見送る人達の姿は、ロケットによる噴射によって巻き上げられた粉塵と煙によって見ることは出来ない。しかし、その姿は今だそこにいるのだと分かる。

 

(行ってきます…)

 

そう心の中でハルが告げたとき、

 

ロケットは宇宙(そら)へと旅だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん…っ……」

 

ゆっくりと、うっすらとハルは目を開いた。

知っている天井だ。とは言っても、ここ数日での間で知ることとなったものだが。

ここが居候している高町家、その末娘たるなのはの部屋であることを理解した後、ハルはゆっくりと身体を起こす。少し寝汗をかいたのか、黒のインナーが少し湿っている。身体を起こした拍子に、額からポロリと白い何かが布団に落ちてきた。…余程うなされていたのか、汗をかいたのか…すっかりと温くなった濡れタオルだ。

 

「…そうか、私は…倒れて…。」

 

窓を見やれば西日が差して、部屋を茜色に染め上げている。あれから…4~5時間程だろう、経過している。あの頭痛と戻りつつある記憶。ここ2~3日で劇的と言わんばかりに、だ。何らかの外的要因だろうか?記憶をなくしたとされる歳から数年、戻る兆しすらなかったのに…。

 

「…考えてても詮無きことか。…む?」

 

いざ膝元を見てみれば、なのはが伏して寝ていた。すやすやと規則正しい寝息を立てて、人の膝を枕代わりに抱き付くように。側に置いてある水を張った洗面器を見るに、タオルの水を濡らして看病してくれていたのだろうか?

 

「…全く、献身的なのは有り難いが、それで自分の身体を壊していては本末転倒だぞ。」

 

動かせる上半身を駆使して、何か羽織らせる物が無いか探せば、勉強机の椅子に掛けられた小学校のコードが目に入る。うん、これなら暖を取るには充分か。無難にそれを引っ掴むと、遠心力を利用してバサリと広げる。膝辺りまで十分覆える程のものだ。羽織るにも文句は無い。そっと…なのはにコートを掛けてやるハルの表情は、メイド服を着ていたときとは違い、若干柔らかく見える。

 

「私に妹がいたなら…こんな感じなのか…?」

 

夢が事実とするならば、自分に妹は存在し得ない。両親と自分の3人暮らし。確たる知り合いである人物と言えば、自分と同い年の双子と、その父たる博士だ。

…自分はミッドチルダ出身では無いことは、既知たることだ。しかし、自分の出身世界については、漂流者と位置付けられており、不明瞭なところではある。自分自身にも記憶がなく、出身世界について調べようが無い状況であった。情報の欠片も無く調査も出来ず、結果として出身世界は不明、と登録されたままである。

しかし、だ。もし、戻った記憶が…事実ならば。幾らか調べようがあるのもまた事実。管理外世界を調べ、現在その星が瘴気に侵されているものを限定して検索できるならば、自分の生まれを知ることが出来るかも知れない。

自分のバッグに納められた一つの紅いペンダント。年月が少々経って、そのチェーンの光沢は少し落ち着いてはいるものの、メインである宝石は色あせること無く、夕暮れの日差しを反射している。漂流して発見された際に身に着けていたもので、何故持っていたかも分からず仕舞いだったが、こうして大切な幼馴染みからの贈り物だったとなると意味合いも変わってくる。

 

「いつか…故郷に戻る日が…来るのだろうか…?」

 

誰も答えることは無く、掌に乗せられたペンダントは、日が沈むまでその光を輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アミタとキリエ、二人の故郷は死蝕という星の病に冒されている。2人の父、グランツ・フローリアンは、彼女らを育てながらも星を救う方法を模索していた。しかし地より溢れ出る瘴気は、その土を腐らせ、水を濁し、大気を侵す。地は植物が育たぬ不毛の地として、水は飲むことが適わない死の水として、そして大気は生物の身体を毒す霧として変化させる。

それだけにこの惑星『エルトリア』の住民は、新天地を求めて宇宙へと、後を追うように脱出していった。

しかし、グランツは諦めたくなかった。

自分の生まれ育った星を、易々と手放して良いのか?星の恵みを受けたのならば、その病を治すのも住民の役目なのではないのか?と。しかし、それを彼は大々的に人々へ解くことはなく、自分に自ずと賛同してくれる友人や同僚と共にその手立てを探していた。

だが瘴気によって仲間の体調は日に日に悪くなっていく。ガスマスクを付けていても、瘴気による毒素は完全にシャットアウトは出来ない。

倒れ行く仲間の中には、子を持つ夫婦もいた。大の大人ならまだしも、小さな子供が毒素への抗体がなく、その症状の進行が早いのは明らか。それだけにその2人には子を連れて脱出を促した。最初は渋られたが、やはり子を護るのは親の性か。症状を伝えると泣く泣く了承してくれた。貴重な人手が少なくなるのは痛かったが、それでも子供の命を秤に掛けることは出来ない。

3人を乗せたシャトルを見送った後、グランツの娘達が躍起になって研究を手伝い始めた。

理由は…この星に帰ってくる人のために、だそうだ。本当は星のことや研究などと言うものとは無縁の生活を送らせたかった彼だが、2人の熱意に根負けし、家族3人で星の救済方法を探し続けた。

 

そして…気付けば10年の月日が流れていた。

 

 

 

「ゴホッ…ゴホッ…!!」

 

「博士?」

 

「いや済まないアミタ。少し埃っぽくてね。」

 

「そういえば暫く掃除してませんね。明日辺りに少し掃除しましょうか?」

 

「あぁ、そうだね。頼むよ。僕も微力ながら手伝おう。」

 

アミタに見えぬよう、咳を受け止めた掌を握り締める。じわり、と受け止めた紅い液体が指先や爪を染め上げた。

…グランツは焦っていた。

 

(僕に残されている時間は…もう余り永くない…)

 

と…。

 

隠していたように見えたその手。それを積み上げられた資料の影より見つめる眼は見逃さずにいた。

 

 

変えなきゃならない。この星を。

長年の研究で、星の浄化に必要なものは分かっていた。解ってはいながらも為し得なかった理由。それはエルトリア存在し得ないものだったからだ。

まず水を浄化するための超大型のポンプ。そして大気の浄化装置。それを制作するのは材料さえあれば問題はない。幸いなことに、この世界の資源自体は未だかなり残ってはいる。

それならば足りないものは何なのか?

動力だ。

いくら優秀な機械を造ろうと、それを動かす動力(ジェネレーター)がなければ、ただの鉄の塊に過ぎない。しかし、それだけの大がかりな機械を動かすともなれば、必要とされる出力は途轍もないものとなるだろう。その打案を見出せず、グランツも口にはしないものの研究は行き詰まっていたのだ。

しかしキリエには一つの希望があった。

 

「永遠結晶…『エグザミア』…。」

 

グランツが保管していた資料を漁る内に、偶然見付けた文献に記載されていた奇跡の宝石。記述によるならば、別名『砕け得ぬ闇』とも呼ばれ、その宝石の出力は無限に近く、星の生態に影響を与えるほどの力を持つという。

そう、それだけの物ならきっと、この世界を救う手立てになるはずだ。

そしてそれが組み込まれたるは、闇の書防衛プログラム『ナハトヴァール』の深淵。

闇の書という書物ならば、ある程度の検索を掛けて場所の特定を行うことも可能だ。そしてそれを元に、以前エルトリアの遺跡にて発掘したオーパーツ。これは恐らく時空転移装置だと睨んだキリエは、それを使うことによって闇の書、ひいてはナハトヴァールの存在しうる時空に跳び、それを確保する。それが出来たならば、エルトリアを…ひいては博士を救える。

 

「でも発掘したものだから…上手くいくかは一八かの賭け…。」

 

しかし誰かがやらなければ、全てが終わってしまう。それだけはあってはならない。そう思い立ってからの行動は早かった。

 

「待ってて…博士…。この私が、この星を救う手掛かりを持って帰ってくるから…!」

 

遺跡に備えられた未知の魔法陣。その中に立って強く念ずる。目指すはナハトヴァールのいる世界。遺跡の空間に浮かぶ紅の巨大水晶が突如として強烈な閃光を放つ。

 

「キリエっ!そんな得体の知れない装置で過去に飛ぶなんて!そんな常識外れな事…っ!!」

 

妹の異変に気付き追い掛けてきたアミタは、目の前で妹の転移を目撃することとなる。目映いまでの光が収まったときには、キリエの姿は忽然と掻き消えていた。

 

「キリエっ!!」

 

迷うことなく直情でド真っ直ぐに、アミタも魔法陣へと飛び込んで念じる。しかし彼女が思うのはナハトヴァールではない。今目の前で跳んでしまった妹だ。ただ妹を連れ戻すために、アミタは時を超え…奇しくもキリエの目論見通りに海鳴へと跳ぶことに相成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……と、あぁ…いつの間にか寝ちゃってたのか。」

 

海鳴を見下ろすことの出来る高台。その一つ飛び出た高さの木の太い枝。そこに寄り掛かって羽を休めていたキリエは、ゆっくりと目を開いた。減っていたエネルギーをチャージしていたはずなのに、いつの間にか仮眠となってしまったのか。

 

「…時間にして…午後5時20分…。大体1時間暗いかしら。」

 

何かにつけて動くのにはエネルギーが必要になる。早いチャージのために自発的に仮眠という手段になってしまったのだろう。

 

「…にしてもつい最近なのに、随分と懐かしく感じる夢を見ちゃったわね。」

 

この地球という星に旅立つときのことだ。必死に制止する姉を振り切ってこうやって右も左も分からない所へ、砕け得ぬ闇という希望にすがってきた。件の物について分かったことは、本体は欠片として散り散りになっていること。それだけにエルトリア製センサーを駆使して手に入れた数個の欠片。

 

「こんなエネルギーじゃ足りない…もっともっとないと、どうにもならないわ。」

 

砕け散ってしまっただけに、その個々の力はそれ程強くはない。しかし元に戻って本来の力を手に入れるのであれば、その力は計り知れないだろう。それだけにエグザミアの力を欲してしまう。

 

「ちまちまやっている時間はないわ。集まっている闇ちゃんも、それに残りの欠片も手早く集める方法を考えなきゃなんない。」

 

こうしている間にも、他の欠片は管理局に回収されて、エルトリアは滅びに近付いてきている。もはや猶予は余りない。

 

「…よし。」

 

一つの妙案がキリエに浮かんだ。それは苦肉の策だろう。愚策とも言うだろう。だがそれでも救いたい、護りたい物があるならと。立ち上がる彼女を夕暮れが真っ赤に照らし、波乱の夜を予感させるかのように揺らいでいた。




黒のインナーって、何か良いと思う。え?聞いてないって?
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