結界の解釈って合ってるのかどうかって不安…。
封鎖結界ってこう言うものなのかな。
時は少々遡る。
夕飯を終え、入浴を3人で済ませ、幼い2人は床に就き、そして寝息を立て始めたとき。
アミタは1人、ベランダへと歩みを進めた。カラカラと窓がスライドすると同時に、未だ肌寒い4月下旬の風が肌を刺す。しかしこの刺激すらも、アミタにとっては心地の良いもの。聞けば一部の地域を除いて四季のある世界の国々。しかし、アミタの故郷であるエルトリアにはそのような物があったのは、自分が生みだされる前。…文献や映像記録などでしか知らない情報ではあるものの、死蝕が始まってからはその様な季節の変化というものはなくなったらしい。まぁそもそも、死蝕がなければ自分自身が生みだされることもなかったんだろう。そして…こうやって生活することも、
だからこそ、滅びに向かうエルトリアを何とかしようとする妹を否定はしない。しかし肯定もしない。その過程において時間跳躍し、本来交わることのないものが混じり合うのはあってはならないこと。結果、エルトリアが救われて、この世界に何ら影響がないにしても、だ。
「せめて2人には、心配掛けたくはないですけれど…!」
それでも彼女を止めなければならない。なぜなら…家族で…たった1人の世話の焼ける妹なのだから。
意を決したアミタは、2人に気付かれないよう、ベランダから跳躍した。フワリと飛び出したその後は、重力に従って急速降下し始める。ばたばたと暴れるシャツが捲れそうになるが気にしない。そして、迫り来るコンクリートの地面。高層マンションから飛び降りて、この勢いのまま着地すれば、その衝撃は人体の耐えうるものを遥かに凌駕する。それだけに、アミタは着地の瞬間、必要最小限、飛行魔法の応用で着地の衝撃を和らげた。…よし、問題なく魔法が使える。キリエに打ち込まれたウイルスによって魔法の運用阻害を受けてはいたが、この二日でどうにか力も戻り始めたようだ。
「さて…世話のかかる妹を探しに行きましょうか!キリエ風に言えば、SKIを探しに!」
青のスーツを身に纏い、夜の闇に消えていくアミタ。路地裏から覗く一匹の猫だけが、その姿を見送った。
そして…
寝静まり、本来物音が立つはずのない如月家のベッドで起き上がる影が1つ。
ゆらりと、何か操り人形か何かのように覚束ない足取りで。その琥珀色の瞳は虚ろ。少し寝癖の付いたウェーブの髪を靡かせ、また1人、この部屋から姿を消した。
時は戻り…
「緊急事態だ。」
険しい顔付きでアースラのブリーフィングルームに立つクロノは、集まった面々を一瞥する。
アースラで待機していた未来組にユーノがその場に集まっており、各家に帰宅している面々は通信が繋がっている。顔ぶれにして、なのは、ハル、そしてフェイトにアルフ。ヒカリはというと、呼びかけてはみたが、応答がないために保留という形となっている。魔法を使い始めて未だ数日、疲れが祟っているのだろうか。
「海鳴海上にて異常な魔力波が感知されたのが数分前。その時を同じくして海鳴市上空にエグザミアの反応が感知された。現在、ヴォルケンリッターとはやて、さらに現地で今の所協力関係にある人物達とがあたってくれているわけだが。」
『それが…何か問題あるの?』
少々言葉を濁すクロノに、フェイトは疑問を投げ掛ける。現地の協力者はまだしも、ヴォルケンリッターの実力はよく知っている彼女において、その疑問はある意味至極当然なものだった。余程のことがない限りは大抵あのメンバーで事足りる。もちろん、それについては、この場の声を聞く全ての人物は万場一致で肯定できるだろう。
「単体での相手ならばベルカの騎士たる彼女らが遅れを取ることはない。問題はその数。」
クロノが目配せすると、隣でアシストしていたエイミィがコンソールを操作して、アースラから撮影した海鳴市の衛星写真を表示する。
普通なら何の変哲もない、未来組はともかくとして見慣れた市街に誰も不思議に思わないだろう。
しかし誰もがそれを目にした瞬間に息を呑む。
何故なら赤々と、まるでペンキをぶちまけたかのように染まったものだったのだから。
『な、なんだいこりゃ!?真っ赤っかじゃないか!?』
アルフが驚くのも無理はない。通常空間でこの地図を見ている彼女らにとって、裏側、つまり結界内で有り得ない事態が引き起こっていると言うことを知らしめられているのだから。
「く、クロノさん、この赤いのって…」
「元々は赤く塗りつぶしているわけではない。一つ一つは元々点で、その反応全てに赤い点を付けたらここまでの反応を示したんだ。…つまり、敵はそこらかしこを埋め尽くして、ヴォルケンリッターの面々はその中で戦い続けている。」
皆が唖然とする。いくら一騎当千の騎士でも、これだけの数の暴力には…。
「ただ、報告された話しでは、一体一体の力は大したことないらしい。これは構成しているエグザミアの欠片が小さいものだから、と言う憶測が立っている。」
「どちらにしても、このまま指をくわえているわけには行かないはずです。出撃許可をお願いします。」
「…状況説明が終わった。各々出撃し、ヴォルケンリッターを援護、事態の収束にあたってくれ。」
『…提督。』
先程まで口をつぐんでいたハルが、重々しく口を開いた。
そしてクロノも、その意図は自分と同じくするものと感じ取り、ブリーフィングルームの隅で見守っていたリンディに視線を向ける。
「貴方達二人の言いたいことはわかっています。…デバイスのロック解除を希望している。そうでしょう?」
「『…はい。』」
わざとらしく、リンディは1つ溜息をつく。全く、無茶をするのみならず、こう言う時の意見まで同じなんて、何処まで似たもの同士なのだろう、と。
「わかりました。限定的に一日、2人のデバイスのロックを解除します。ことがことだけに、1人でも優秀な魔導師が必要な状況だもの。」
「ありがとうございます、提督!」
「ただし!」
今までの心配そうな声色から一転。彼女の口調は物々しく、そして厳かなものへと変わった。
「その分有休を長く取って貰います。無茶を通す代償だもの。それくらいはして貰っても構いませんね?」
『無論です。今ここで何もしないでいるなど、局員としての意義がありません。』
「同じく。ここで何もしないで最悪の結果など見たくもありませんので。」
「よろしい!他の皆さんにも言えることですが…。」
モニターと、ブリーフィングルームに集まった面々を一瞥し、そしてリンディは口を開いた。
「無理だけはしないように!互いを気に掛け合って、全員無事で戻ること!これは艦長としての命令で、そして私個人としてのお願いです。」
『『『「「「了解!!」」」』』』
こうして…圧倒的な数を誇るエグザミアの欠片の軍勢との一大戦争とも取れるべき大規模な戦闘が幕を開けた。
ヒカリが目を覚ましたのは、アースラからの通信が入る少し前だった。両隣に妙な空白感を感じ、もそりと身を起こしてみる。ぼんやりと寝入り掛けた頭を起こして、見回してみた。
誰も、居ない。
「ゆーり…あみたさん…?」
2人とも揃いも揃ってお花を摘みにでも行っているのか?
フラフラとトイレをノックするも反応がない。
…これはおかしい。
それに何だか少し肌寒い。
少し靡く髪。
ここで…一気に頭が回転を始めた。
戸締まりをして寝ていた。なのに髪が靡くということは風が入ってきている。考えるや否や確認に向かうと、案の定、半開きの窓から入ってくる夜風が、レースのカーテンを靡かせていた。
2人は夜風に当たっているのか?
うん、そうだ!そうであってくれ!
一縷の希望を願いながらベランダへと飛び出した。
しかしそこには…
「ユーリ?アミタさん?」
誰も居ない。こんな夜中に…誰も居なくなった…。
ふとこみ上げてくる不安と、そして嫌な予感。急ぎ自室へと駆け戻り、ベッドサイドテーブルに鎮座しているヴァルキリーを引っ掴む。
「ヴァルキリー!スリープモード解除を!」
『了解、おはようございましたサージェント。』
「そんなネタはいい!それよりも、アミタさんとユーリは!?」
もはや怒鳴り声だ。夜中の日付が変わって間もない時間帯にこんな大声を出そうものなら、御近所からの苦情が来かねないほどに。しかし、このマンションの防音が良い子とがこの時ばかりは幸いした。
『映像記録、再生。』
ホロウィンドウに映し出された録画記録。
そこには…ベランダから出て行くアミタ。
そして何かに操られたか、もしくは引き寄せられたかのように転移してしまったユーリが映し出されていた。
『サージェント。海鳴市に結界を探知。』
「結界…?まさか…!」
『おそらくはイミテーションかと…。そして、サージェントが予想しているもの。もしかしたら有り得るかも知れません。』
最悪かも知れない。
結界の発生。
イミテーションの出現。
アミタとユーリの失踪。
そして…ここ数日、ユーリが浮かべる上の空の症状。
何かが、何かが動き始めている。根拠と言ったものはないが、それでも確信めいた物は感じている。ヒカリはゆっくりと…ベランダへと足を運んだ。
「ヴァルキリー…セットアップ!」
『了解。アーマー展開。』
答えはきっと結界の中にある。そしてユーリも…もしかしたらアミタも。
目指す場所は決まった。ならば行くのみ。
ヴァルキリーのバーニアを噴かし、少女は飛び立つ。
「ヴァルキリー、結界の突破はできる?」
『肯定、破壊は現時点での火力では困難ではあるが部分的に一時破損をさせ、その間に侵入が可能な策と考えられます。』
「充分だ!」
だとすれば、M16シルバリオでは火力不足だろう。それなら新たな武装を使えばいけるかも知れない。シンプルだが、ヒカリ単体で行う分にはこれ以上の物はない。
結界の隔絶範囲外へと突破して、反転。位置的に海鳴市半分近くを囲う山岳地帯へと差し掛かろうと言うところだ。そのドーム状の結界は、途轍もなく大きく、街の9割近くを覆っているのだろうという目測が容易に立てられるほどだった。
「ヴァルキリー!MPS AA-12『ヴォルケーノ』!」
『了解、顕現します。』
ヒカリの右手に粒子が集まり、深い緑の短身の銃が現れる。短身、とは言っても、シルバリオに比べてこのヴォルケーノと呼ばれた銃は少し短い程度であり、少々ゴテゴテした前者に比べれば見た目はシンプルだ。これだけ見れば、取り回しのしやすいだけの物かと思うだろうが、この銃は装填されている弾からして違った。
巧みにバーニアを噴かし、結界の境界へと接敵すると、銃口をそれに押し当てる。数日間でヴァルキリーの操作技術は格段に向上したのか、ある程度の細かな飛行もできるようになってきたのは、ヒカリにとっても喜ばしいことに違いはなかったが、今は目の前の結界に集中している。
「…ファイア!!」
トリガーを引き込んだ。
シルバリオの発射時とは比べものにならないほどの発射音。隠密性とか、近所迷惑だとか、そう言った物を一切合切切り捨てたかのような、壮大且つ豪快な音。かなり上空での発射なので、深い眠りに就いている一般市民の方々の安眠を妨げては居ないはずだ。
それはともかくとして、このヴォルケーノに装填されている弾。それは12ケージ。シンプルに分類するならショットガンシェル。つまり、散弾を撃ち放つ銃なのである。これも製作者が魔法戦用に改良してあるため、本来966mmの長さである物が、ヴァルキリー装着時の使用を想定しているために、1400mm近い長さにまでなっている。
そして散弾という特性故に、至近距離で受けるその威力は、シルバリオとは比べものにならない。
その威力は功を奏し、見事なまでに結界の一部分に、ヴァルキリーが突破できるほどの穴が空いた。
「よし、突破するよ!」
『了解、索敵モード起動。警戒態勢を、サージェント。』
その言葉は彼女の耳に届いたのかは分からない。しかし、地獄と化しつつある結界の中に足を踏み入れた。彼女にとってそれは、一つの終わりであり、始まりの切っ掛けに過ぎない…。
ふっ……(文字数見たら)ちょっと…短かったかな…?(モミアゲを弄りつつ)