アースラのオペレーターとして現在の状況、データ解析を行うエイミィ、アレックス、ランディは、結界内部で奮起奮戦する精鋭達の実力に舌を巻く。それは艦長席で総合指揮を執るリンディも例外ではなく、前面のモニターに表示される海鳴市の上空マップに記された赤い反応も、最初に比べてではあるがかなり減少していた。
「フェイトちゃんとアルフ、シグナムとその協力者との合流を確認。」
「なのはちゃんとユーノ君、それにヴィヴィオさんも、…この反応はヴィータちゃん達でしょうか?近付きつつあります。二人にシャマルさんとザフィーラさんも合流。」
「ハラオウン執務官とレオン君、エルトリア准尉の後を追っています。」
「移動中のはやてちゃんとリインフォース、その協力者は、間もなくアインハルトさん、それにトーマさんと合流!」
「順調、のようね。」
本来の目的の1つである、結界内部に取り残されたメンバーとの合流は達成できた。後は協力して事に当たれたならば殲滅も可能だろう。
「後、ヒカリさんは?」
「ヴァルキリーの反応は真っ直ぐ、あの球体へと直進中!エルトリア准尉はそれを追っている模様!」
「球体周囲に反応2!敵との交戦状態!」
モニターに追加で映し出される、海上に浮かぶ禍々しい球体。モニター越しでも巨大さがありありと伝わるそれは、見るからに危険な物であることを伝えてくる。
四ヶ月前に見た、暴走前のナハトヴァールにも似たような予感。
あの球体からどれ程のものが、いつ飛びだしてくるかも解らない。
「エイミィ、あの球体の解析を!それから向かっているメンバーに通信!アレックス、ランディは引き続き各チームの状況オペレートを!」
「「「了解っ!!」」」
忙しなくキーボードを叩く音だけが、ブリッジに響き渡る。事態は快方に向かっているのか、それともさらなる混乱か?リンディの胸に渦巻く予感は、後者へと傾きつつある。
「艦長!最も先行しているヒカリちゃんとコンタクトが取れました!!」
「モニターに繋いで!」
『リンディさん!?』
いきなりの通信だったのか、驚愕の声が聞こえてきた。モニターには目元に半透明のバイザーを付けたヒカリが映し出される。やはり移動中なのか、受ける風に伴い、髪がパタパタと靡いていた。
「さっき通信したけど、応答がなかったから心配してたのよ?その格好を見るに、やっぱり結界内ね?」
『はい、すいませんでした…。』
召集の通信だったが、あくまでも民間協力者。それも駆け出し魔導師であるだけに強くは責められない。彼女は声のトーンを下げてしまう。
「無事ならそれで良いわ。でもさっきの通信…召集のものだったのだけれど、それを受けずに結界内に居る、と言うことは、何かしら思うことがあってそこにいるのかしら?」
『そ、それは……』
ワケを聞かれて、視線を逸らして口籠もってしまう彼女を見、リンディは首をかしげる。
やはり何かを隠しているのか。
表情に出るのは嘘が苦手なのだろう。フェイトの言っていた『彼女』が抱える『学校』での嘘もいずれバレるかも知れない。
「正直に話して欲しいの。この混乱した状況で、少しでも情報が必要になる。もしかしたら、解決の糸口になるのかもしれないわ。」
『………。』
ヒカリの中で、話しても良いものか否かの葛藤が生まれていた。
関係のあることなのか?それとも、ただのガセになるのか?
逆に現場を混乱させてしまうのではないのか、と言う迷い。
しかし、自分の『勘』が必死に訴えるもの。それを信じて見ることにした。
何となく、何となくだが。
正しいと思うなら相談すれば良い。その上でリンディは判断してくれるだろう。
『実は…、』
ヒカリは話し始めた。
夜中にユーリが居なくなったこと。
次いでもう一人の同居人も。
それと同時に現れた結界と、今までと違う
そして海上の球体。
その上で、直感的に球体の場所へ行けばユーリが居る。そう感じた、と。
『と、これがボクの行動理由です。』
「なるほど…このタイミングでのユーリさんの失踪、と言うのは偶然とは言いがたいわね。…何か前兆…のようなものはなかったのかしら?」
『…そういえば、数日前の夕方から…何だか上の空になっていたときがありました。その…そこまで重要視はしてなかったんですが。』
どこかふわふわとした感があるユーリなのだが、同居している彼女が言うのだから、いつも以上にボーッとしていたのか。しかしこれは判断材料たり得るかどうかは解らないために、リンディは頭の隅に置いておく。
「わかりました、情報をありがとうヒカリさん。…それで、探査の方だけど…」
『…行かせて下さい。もし本当にユーリがあそこに居るのなら、連れて帰りたいんです。アミタさんも迷い込んでいるのなら、助けたいのも事実ですし…。』
どうにも、この世界の子達は友人のために身を擲つことを厭わない子ばかりね、とリンディは脳内で呟く。
(友達想いなのは素晴らしいけど、それで危険を冒すのは別問題なのにね…。)
ぼやいても仕方ない。こうなれば子供達が無茶をやらかさないように見守るのも大人の義務だ。…だからといって前線に彼女達を送り出して、自分達大人が腰を据えているのも、余りよろしくないようにも感じるが…
「わかりました。ヒカリさん、貴女の判断に委ねます。各員に通達。もしかしたら民間人が結界内部に迷い込んでいる可能性があります!戦闘中に発見次第報告を!殲滅と索敵を並行しつつ、海上の球体へ向かって下さい!」
「ユーリ…ですか?」
「そう!ぽやーっとした、小さい子!」
合流したなのはは、各チームで共有した情報を基に、もしかしたら知っているかも知れないシュテルに尋ねてみた。
出会った当初はヴィータの前情報から、どれだけヤバい人なのかと危惧していたが、話してみると、物静かながらも内に熱いものを秘める…と言うような、『分の悪い賭は嫌いじゃない』みたいなことを言いそうな人物だった。
「ユーリ……、ふむ、何となく…ですが、引っかかる名前です。知っているような…知らないような、何処かもどかしい感じが…。」
「思い当たるところがあるのかい?」
「思い当たる、と言うのは間違いではありません、シッショー。しかしかと言って思い出す、と言うのは、私を構築するデータの引き出しから引き出すことが出来ない状態なのかも知れません。」
「シッショーって…、僕はユーノだって…」
「ナノハの魔法の先生ならば、ナノハを基に身体を構築した私が貴方をシッショーと呼ぶのに間違いは無いはずですが?」
冷静な性格なのは良いが、こう天然で間違った解釈をされるのも考えようだ。レヴィと言いシュテルと言い、どうにも一癖二癖ある人物ばかりである。
「時間が経てば思い出す、と言うこともあるかも知れませんが…その時間は無いのでしょう?」
「うん…何となく、だけど、あの球体へ急いで行った方が良い気がするんだ。」
未だ物々しく佇む遥か遠くに浮かぶソレを見やる。敵の数も減ってきたからか、その姿は明確にハッキリと見えるようになってきた。
「…なんか、嫌な予感しかしないんだけど…?」
「ヴィヴィオもそう思うか?アタシもだ。…何となく、なんだが、ナハトヴァールよりもヤバい気がすんだよなァ。」
「じょ、冗談キツいよヴィータちゃん。あれ以上とか、ホントに勘弁して欲しいよ…。」
当時のアースラのメンバーフル動員、そしてとどめにアルカンシェルによるコアの破壊によってようやく仕留めることが出来たナハトヴァール。それ以上の脅威とか冗談にしても笑えないものだ。
「ここで討議していても仕方ない。移動しないか?あの球体にしても、ここにいては何も分からん。」
ずっと少し離れて周囲を警戒しつつ黙っていたザフィーラが口を開く。警戒とはいえ、敵自体の密度が下がりつつあるため、襲いかかる者もおらず、それは徒労であったかも知れない。
「そうですね。王やレヴィもあそこに向かっている可能性もあります。ナノハ達はどうしますか?」
「私達もアレがなんなのか気になるし、一緒に行くよ。皆も良いかな?」
「そうね。治療も終わったし、そこで合流するんだったら私も異存は無いわ。」
浅い負傷を負っていたザフィーラとヴィータ、それにシュテルの治療を終えたシャマルも同意する。
「すまんな、シャマル。」
「良いのよザフィーラ。合流するまでの間、私の前で頑張ってくれていたんだもの。」
「流石、この程度の負傷はお手の物ですか。流石は湖の騎士…いえ、ここはヴィータと同じくシャマルと呼んだ方が良いでしょうか?」
「えぇ、その方が親しみがあって良い気がするわ。私もシュテルちゃんと呼ばせて貰うわ。」
「わかりました、では盾の守護獣も…ザフィーラと。」
「…うむ。」
「では、移動と参りましょうか。」
「ちょっと待って!?皆名前で呼ぶのに、なんで僕だけシッショーなのさ!?」
「今はそんなことどうでも良いのです。重要なことではありません。」
ユーノの抗議も余所に、飛び立つメンバー。彼女の、ある意味自由奔放なマイペースを垣間見た気がする。
そして、そんな彼の方を優しく、両側から肩に手を置く二人の人物。
「もう諦めようよユーノ君、私も出発の時に散々やられたから。」
片や、強い絆で結ばれた少女と、
「耐えろ。…男とはそう言うものだ。」
同性、そして八神家唯一の男だった。
硬い強固な防御を誇る二人だからこそ、説得力のある言葉。だからこそ、ユーノの胸には強く響き、目には熱く伝う物があった。
リンディとの通信を切って間もなく。
ヒカリは球体との目視距離が1km程の地点に居た。やはり道中、敵との交戦によってかなりのマガジンと魔力を消費してしまったが、それでも無傷と言うのは中々輝かしいものだ。
「…やっぱり大きいなぁ…。この中に…もしかしたら…」
『サージェント。』
ユーリが居るかも知れない。そう言葉を紡ぐ前に、しばらく口をつぐんでいたヴァルキリーからの発生が遮った。
「解析、終わった?」
『肯定。…と言いたいところですが。』
言葉を濁す相棒。その意味がある程度理解と予測は出来ていた。
「はぁ…やっぱり解析出来ないほどに重厚な障壁が張られているんでしょ?」
『肯定。…移動中に引っ切り無しに介入コードを変更したのですが、ほぼ全滅。表立って障壁を構築しているのが、高密度の魔力であることくらいしか…。』
まぁ確かに、目の前でこれだけの物を見せつけるのもそうだが、肌にベタつくような感触をもたらすまでに魔力が放出されている。それだけで見る者を圧倒するほどに。
肌に纏わり付くような嫌な感触を拭いながら、目視で球体を見つめる内に、その周囲に光る物が目に入った。軍隊で行うライトでの信号のように、チカチカと光っては消え、そして…青い光線のような物までも走っている。
「ん?あれは…」
『…戦闘…でしょうか?もしかしたら、アースラチームの人が誰か既に辿り着いた、とか?』
「解らない。それでも行かないと!」
『ラージャ。』
白銀の軌跡を残し、未だ敵が蔓延る海上へと飛び出した。
後方の市街地では、アースラチームが掃討してくれているし、少なからずヒカリ自身も倒しては来た。それだけに未だ殆ど手つかずの海上は、敵の反応が多量に検知されている。
その中で孤軍奮闘しているであろう人物を見捨てるわけにはいかない。
先程から、敵の中には緩慢な動きのみならず、素早い動きをする奴や、緩いながらも誘導弾を撃ち込んでくる奴も出始めている。敵が強化されてきているのか、それとも海上に分布されているだけなのか。どちらにせよ、戦い方や動きを変えないと苦戦は必至だろう。
「くっ…!なんかパターンが変わってきてる…」
すぐ真横を、撃ち込まれた誘導弾が通過する。通り過ぎたのも束の間、通り過ぎたそれは緩やかな軌道を描いて再びこちらに迫り来る。ソレが何発も、だ。数が数だけに、文字通り弾幕の如く。
『周囲、完全包囲されつつあります。突破できる可能性低下を危惧。』
「…モード…Maximum!」
『使用の推奨は出来ません。内蔵魔力の低下が加速します。この戦況下で行動不能に陥るのは相手の良い的。自殺行為です。』
残りの内蔵魔力は60%を切っている。その状況で、魔力消費の高まるMaximumの使用は賭けに近いもの。
しかし、ヒカリの心のどこかで焦燥に駆られていたのもあるのか。
「…いいから…お願い!」
『…ラージャ。モード…Maximum!』
もはや叫びに近かった。赤と白銀の光が開放され、爆発的なまでの魔力を身に纏う。
展開された装甲により、変貌を遂げたヴァルキリー。
そしてその速度に、弾幕は無意味と化すほどに。
目視こそその魔力光の軌跡によって出来るものの、捉えられるかどうかはまた別の話だ。
風切り音と共に響いた発砲音。
消えゆく敵。
もはや一方的に駆逐するだけだった。
貫く白銀の弾丸は的確に命中させ。
敵の誘導弾は確実に回避し。
閃光の走るその軌道には、敵は残らず、紫色の小さな光が残るのみ。
『周辺1km範囲の敵反応、三割低下。』
「んっ!そろそろ…進もう!」
背後からの攻撃を減らすために、そして後続部隊のために出来るだけ殲滅したが、それでもその場しのぎにしかならないだろう。
「如月!!」
前に踏み出そうとした時だ。
背後からの知った声に、呼び止められる。
「エルトリアさん?」
「全く…ようやく追い付いたぞ。」
余程飛ばしてきたのか、若干息が上がっている。自身と同じく、白銀の魔法陣を足場にして空中を飛んでいる。
「高町達が後方からあの球体に接触しようと進撃してきている。一人での突貫は危険だ。皆と合流しろ。」
「…エルトリアさんも一人で突っ込んできてるよね?」
「それは…まぁ癖、と言う奴だ。」
『癖は癖でも、悪癖と言う奴です。』
「だ、黙れガルム!」
『…そもそも、チーフの頭の何処かに、【突っ切る…止めてみろ!どんな防御だろうと、ぶち抜くのみ!】みたいなことを考えている節がありますので。』
「おまえ、何かに毒されてきてないか?」
『気のせいです。ジャパニメーションの影響など、受けていませんですとも。』
「あ~、あの~エルトリアさん?」
「ん?あぁすまんな如月。こいつは後ほどメンテに出すとして、だ。とにかく、一旦後方へ…」
「一人での突貫は危険、そう言ったよね?」
「ん…?あぁ言ったな。だから…」
ふとそこで、目の前のクラスメイト、その顔にこれ以上にないほどにまぶしい笑顔がこぼれていた。そう、それはいっそ、清々しさを通り越して嫌な予感すら感じさせるほどに…。
「じゃあエルトリアさんも一緒に行こう!」
「は?ど、どうしてそうなる!?」
「一人より二人の方がお互いカバーできるんだし、エルトリアさんはベテラン。これ以上にないくらいだと思うよ?」
「い、いや…。だから…!」
「二人なら、良いんだよね?」
…言いくるめられた、と言えばそこまでなのかも知れない。しかし、彼女を一人で行かせるのも看過できないのも事実。
「…わかった。ただし危険と判断したら退くぞ。」
「うん!」
何の因果か。
しかしハルにとっても、あの球体が気にならないわけでもない。
(なぜか…行かなければならない気がするしな。)
記憶の片隅に出て来た、幼馴染みからのプレゼント。首から下げたその紅い宝石のついたペンダントを揺らしながら、二人は前進していった。
用語解説
・『シッショー』
どこかのギルティでギアな世界に出て来る紙ニンジャの台詞とは違う、と思う。
・『今はそんなことどうでも良いのです。重要なことではありません。』
「大事な人がいれば、私だって強くなれますよ、シッショー!」
・『突っ切る…止めてみろ!どんな防御だろうと、ぶち抜くのみ!』
赤カブト虫