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「ねぇ?」
背後で共に敵を落としていた妹たるキリエが呟いた。その体躯は既にボロボロ。見るからに満身創痍と言った感じだ。
「なんですか?辛いなら下がっていても…」
対すアミタもキリエと変わらず、行った戦闘の激しさを物語るには容易なほどだ。ほぼ突撃思考であるだけに被弾もキリエに比べて多い傾向なので仕方ないのかも知れない。
「そーじゃないわよ。なんか…後ろの球…なんだけど。」
自分達の後ろに堂々と、そして異様なインパクトを持って佇む紫の球体。先程と変わらず、澱んだ紫が色を成して、言いようのない禍々しさすら感じる。
「…大きくなってない?」
「………。」
攻撃を一旦緩め、ちらりと横目でソレを見る。
…
……
………
「キ、キノセイジャナイデスカ?」
「何で片言なのよ。」
若干引きつって答えるのを見るに、アミタも認めたくないながらも、動揺を隠し得ない。
これだけの巨大な魔力の障壁は、大きく膨れあがった影響からか、天候にすら影響を与えている様子で、空には暗雲が立ち篭め、ゴロゴロと稲光が走り始めていた。
「…嫌な予感しかしないわね。」
「前面も数は減ってきましたが、それに比例して後ろの球が大きくなってないですか?」
言われてみれば、とキリエは周囲を目を凝らして見渡してみる。そこでようやく気付いた。注意に注意を凝らしてその目に飛び込んだもの。淡く小さな輝きを放ちながら、まるで後ろの球体が重力を持って引き寄せているように吸い込まれていく光。それはとても小さい。だが数が普通じゃないほどに多いのだ。まるで、流星群とも思えるほど、普通なら幻想的とも思えるだろうが…。
「…これって…敵を倒した欠片?」
これほどまでの数を、市街の方で戦うメンバーは倒しているとするなら…。そしてその欠片が集まるのなら…この球体の正体、その答えは見えてくる。
「じゃあこれが…私の求めた物…なわけ?」
見上げねばならぬほどに肥大化した球体。
今まで手に入れた僅かばかりの欠片を、ヴァリアントザッパーのメモリーから取り出す。しかしそれも、待っていたと言わんばかりに、光となって件の球体に吸い込まれた。
「じ、じゃあこの中に…あのユーリって子が…?」
「ユーリ?…キリエ、今ユーリって言いましたか?」
「言ったけど…アミタ、何か知ってるの?」
「知ってるも何も…ヒカリさんと一緒に住んでる女の子の名前ですが?」
「はぁっ!?」
思わず素っ頓狂な声で叫んでしまった。
(え?なに?なんなの?必死こいて探していた女の子と、それを手に入れるのを邪魔した子とアミタが知り合い!?どんな偶然よ!?)
もはや混乱しかない。
「あぁ…ヒカリさんの御飯、美味しかったですねぇ…ここ数日のことなのに、懐かしさすら感じますよ。」
(は!?御飯を食べさせて貰ってた!?つまり…何!?私の与り知らぬ所で、お姉ちゃんは私の探してた子達と、一つ屋根の下の同棲結婚前的な百合百合生活を送っていたと!?)
既にキリエは錯乱していた。頭を抱え、ごちゃごちゃになっている情報の整理を続ける。
「キリエにも、ヒカリさんの料理を食べさせてあげたいですね。お陰で力もバッチリ戻って…」
(しかも既に料理でアミタを陥落済み!?しかもエネルギーが回復する料理ってなんなの!?)
「所でキリエ?」
「ひ、ひゃいっ!?け、結婚はやっぱり男の子とすべきじゃない!?それに、相手を見付けたら博士に…」
「はぁ、結婚、ですか?考えたことはないですね。」
何処がどうなって結婚に話題が飛ぶのかは解らないが、取りあえず真面目に答えておく。そもそも結婚などと考えてもいないアミタにとっては、首を傾げるしかない題目だ。
「って!話を逸らさないで下さい!…ユーリやヒカリさんについて…何を知っているのですか?」
「…アミタってば、同棲してて、そんなことも気付かなかったの?あのユーリって子は…」
「到着っ!!」
「…ま、全く、飛ばしすぎだ如月!こちとら空中での動きなど不慣れだと言うに…!」
キリエの言葉は、二人の少女の声に遮られた。
後から来た方はまたしても息を切らしながらぜえぜえと、若干目が死にかけてる。
「ペース配分という物を考えろ!…何が起こるか解らない状況だけに常に余力を残しておけ。」
「え?…一応、通常モードで飛行してたから、これで普通なんだけど。」
「なん…だと…?」
「…あれ?」
ようやく姉妹に気付いたのか、視線をそちらに向ける。
「ん…?」
釣られてハルも、若干据わった目を向けた。もはや亡霊か何かを思わせるほどに、生気が抜けている、ような気がする。
「「「「あ…」」」」
随分と間の抜けた声が辺りに響いた。
…
……
「よ、ようやく会えたわね!」
「…ボクはあんまり会いたくなかったですけど。」
それはそうだろう。初見が最悪だっただけに、嫌悪感…とまでは行かないまでも、苦手意識を持たれていても相違ない。いつでも武装顕現出来るように警戒心を怠らず、そして視線を外さないでおく。
「…あれ?なんでアミタさん…ここにいるんですか!?て言うかいきなりいなくなって探したんですよ!?」
「うぇっ!?す、すいません!いや、大事で可愛い妹を探して、例え火の中水の中草の中森の中!って勢いで夜中に探しに出たんですよ!…で、まぁ結果的にこうなったんですが。」
「……それで、妹というのが後ろの桃色…キリエ・フローリアンか。」
「…御名答。」
まぁこうなってはもう流れでバレるのはわかりきっている。それだけにキリエは文字通り、お手上げ、とばかりに両手を挙げた。
「ん~…となると、アミタさんがウチに来たのは、ユーリを狙って…」
「そ、それは違います!というか、ユーリに何があるのかは解りませんが、あれはキリエに堕とされたんですよ!それが偶々ヒカリさんの家で…」
「…ですよね。…でなかったら、いつでも狙う機会はあったはずですし。でも…」
二人の服装を見て、ヒカリは首を傾げる。
「…遠い国から来た、とアミタさんは言ってましたが、結果として遠い世界から、ということになるんですね?」
「…ならば、渡航証は…ないのだろうな。」
「…はい。」
つまり、キリエと同じ渡航者となる。しかし件の彼女を追ってきた、と言うからに、彼女もそう答えるのもまた当然なのかも知れない。
正直、居心地を悪そうにするキリエ。その行き場のない思いからか、視線を逸らしたとき。
「ね、ねぇ?」
「なんだ?二人とも後ほどアースラで事情聴取を…」
「あれ…」
キリエの指差す先。
件の紫の球体だ。
先程と変わらず、圧倒的なまでの質量による巨大さを誇っているのには変わりない。
大きさには変わりないのだが…
丁度…球体を二つに割るように…
白い亀裂が走る。
「なん…っ!?」
さしものハルも、この光景には言葉を失う。よもや本当に…あの中から何かが生まれ出るのだろうか?
しかし生命の誕生などと生温いものではないのは事実。
なにせ…ひび割れた中から吹き荒ぶ、嵐のような魔力の奔流がそれを物語っていたのだから…。
もはや…この世のものではないと思うほどに。
「なんなの……この纏わり付くような感じ…!?」
「純粋な魔力…なのか!?あの球体は…よもや
あの球体を模った障壁により、成虫へと変わり行く
そしてその魔力の嵐を押し退け、ハルを追っていた二人の少年もようやく追い付いた。
「…なんだ…?何が起こっている!?」
「クロノ…!?それにレオン…!?」
「まるで…台風か竜巻だな…!」
眼下の海は件の奔流により荒れ狂い、上空の暗雲は渦巻くかのようにうねりを生んでいる。もはや…四ヶ月前のナハトヴァールを彷彿させる…いや、それ以上の物であるとクロノは確信する。S2Uを構え、この状況下で何が飛びだそうとも対応できるように魔力を循環させる。
『ク……君!?い…た……おこ……る…!?』
耳障りなノイズと共に、アースラからの通信が脳内に響いた。直接通信にも関わらず、ここまでの雑音が走る等と言うことは、身で感じる以上に魔力が吹き荒れているのだろう。
「エイミィか?…どうやら、例の球体が孵化するようだ。…通信状態が悪いのも、そこから流れ出す魔力の影響と考えて問題ないかも知れない。そちらでは何か感じ取ったか?」
『少…ノイズが強…けど、何…か聞き取…るよ!…っぱりそちらと同…で、とん…もなく大規模な魔力のを感じる!計器が悲鳴をあげるく…いね!』
魔力による繋がりを強くし、アースラとの通信を若干強化すると、何とかノイズも治まり掛けてくる。完全になくなる、と言うこともないが、それでも先程に比べれば雲泥の差だ。
アースラの魔力測定の計器は、次元執行隊の任務に置いて、標準的に測定できる魔力限界を高くしてある。それはロストロギア確保を視野に入れた結果の措置なのだが、以前の闇の書事件において、アルカンシェル装備の際に、その計器周辺もバージョンアップしていたのだが、それでも悲鳴をあげるほどとなると、いよいよを以て危険な相手の可能性は確実となりつつある。
「…本当に…この中に…ユーリが…?」
「ヒカリ!構えろ!」
クロノの叫びが早いか否かの瞬間だった。
球体に閃光が走った。
目映いまでの光が放たれ、球体に刻まれていた亀裂は広がり、全体に走る。
そして…
球体は砕け散った。
音が切れたと思った瞬間、
溢れ出たのは先程と比較にならないほどの魔力の波。
いや、爆発と思えるほどの衝撃。
もはや目を開けていることも…できない。
それを物語るかのように、直下の海の水は吹き飛び、海底が露出。暗雲においては、まるで取り払われたかのように結界の上面を露出させてしまうほどだ。
「く…ぅぉっ!?」
「立って…らんねぇ!?」
もともと空戦適性のないハルとレオンの二人は、足場にしていた魔法陣から投げ出され、吹き飛ばされていく。
「二人とも!?」
この場で最も加速と馬力があるヒカリがいち早く動いた。白銀の閃光のように魔力の暴風を突っ切って、流されるかのように吹き飛ぶ二人を抱えて回収。かなり精密かつ繊細な飛行であり、横目で見ていたクロノは思わず口元を緩めた。
「す、すまない。」
「助かった…。」
「ん、無事なら何よりだよ。」
脇に二人を抱えながら無事を確認。ホバリングしながらも、うっすらと笑顔を浮かべる。
「…嵐が…止んだ?」
ぽつりと、クロノのが呟く。先程まで吹き荒んでいた魔力がまるで嘘のように静まり返っていた。
(クロノ君!)
(なのはか?)
(今の一体何!?海の方から押し寄せてきたんだけど!)
どうやら今のは市街地の方にまで影響したようだ。当然か、アレだけの物なら影響が無いわけがない。
(それに…さっきのが止んで、敵が皆消えちゃったんだけど…)
耳を疑った。
数が減ってきていたとは言え、未だかなりの数が残る敵が
「…私の憶測だけど。」
ふと静寂を破ったのはキリエだった。
「…あの球体の中にはエグザミア本体があって、倒してきた敵全ての欠片があの中に吸収されてたのが見えたの。…そして今の魔力の嵐で、結果として残った欠片を全て回収したとするなら…?」
「…つまり…あの球体には、やっぱりユーリが…!」
跡形もなく消え去った球体。その中心にあたるであろう座標に、一つの反応が検知された。
「永遠結晶エグザミア…稼働率87%。出力コンマ7%まで上昇。」
金のウェーブが掛かった長髪。
袴を模したようなヘソ出しの服。
小柄で華奢なその体躯。
そして…赤と紫の入り混じった、一対の翼。
「魄翼…問題なく稼働。貯蔵されうる術式の解析、問題なく進行。」
違うのは、見開かれた目が緑。
纏う服の基調が燃ゆる業火のような紅。
そして肌に記された赤い文様。
「システム…アンブレイカブル・ダーク、稼働する。」
静かに告げられたのは、まるで宣告にも似たものだった。