魔法少女リリカルなのは 未来への系譜   作:ロシアよ永遠に

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Mission33『砕け得ぬ闇』

眼前に、自分のよく知る少女がいた。

障壁の繭を破り、その姿を現し、ただただ平然とそこにいる。

しかし、

肌に感じる彼女の感覚、雰囲気が違和感を示す。

見た目だけではない。言うなれば姿は似通えど、その纏う空気その物が違う。何処か緩やかなものだった自分の知るそれとは違い、無機質で…そして何処か攻撃的にも見える。

 

「…ユー…リ…?」

 

ようやく捻り出した言葉。

威圧とも取れるほどに感じる、彼女から感じる魔力。身体を動かそうにも、思うように行かない中で、何とかヒカリは発することが出来た。

 

「…エターナル…」

 

紡がれた言葉。振りあげた彼女の右掌に赤黒い魔力が集束する。それはまるで炎のように揺らめく剣。否、柱とも感じるほどに長く、そして巨大。

 

「躱せ如月!!」

 

「セイバー…!」

 

振り下ろされた剣は、空を、大気を、そして海をも穿つ。まるで空間が切れたのかと言わんばかりに。抱えていたハルの叫びで、ハッとしてブースターを噴かせる。身体を1つ分ずらさなければ、文字通り二枚に卸されていたかもしれない。その切断力とその証拠に、眼下に広がる海鳴の湾が、まるで十戒のごとく、真っ二つに割れていたのだから。

 

「なん…て威力なのよ…!」

 

「ユーリ!?なんで!?なんでこんな…!!」

 

「敵対者数…6。殲滅対象。これよりプログラムに従い、破壊する。」

 

唖然とするヒカリと、先程の破壊力に驚愕するキリエを余所に、ユーリの背後で揺らめく一対の魄翼が揺らめく。油を注がれたかのようにその大きさを広げると、まるで吸い込まれそうなほどに黒が広がっていく。

 

「フェニックス…フェザー!」

 

「全員散開!回避!!」

 

次はクロノだった。蜘蛛の子を散らすように散開、ヒカリも一瞬ながら遅れ、距離を取りつつ回避行動に移る。

瞬間、

 

魄翼から無数の同色の魔力弾が、雨霰と、散弾をまるでガトリングガンのように撃ち放つ。その狙いは定まらず、まるで弾幕。乱射にも似たもの。しかし、その数が数だけに、逃げ道を探そうにも迫り来る球弾がそれを拒む。

 

「執務官!後方の援護を向かわせた方が…!」

 

「この弾幕が落ち着いたらね!」

 

もはや回避に専念しなければ、被弾が免れないほどに次々に降り注ぐ。フローリアン姉妹やクロノはともかく、一際そのボディの巨大さもさることながら、両脇に飛行が不慣れな二人を抱えて回避するヒカリは、徐々に回避が追い付かないように見えてくる。

 

「ぐ…ユーリ!!」

 

「如月!せめて私を離せ!このままでは3人やられる!」

 

「…防御の出力なら俺にも自信がある!離して貰っても…!」

 

「…大丈夫っ!」

 

それでも粘る。全てを紙一重で、しかし確実に躱す。しっかりと目で撃ち荒ぶ弾丸を見据え、弾道を予測。全方位に撃ちまくる弾を避け続ける。

 

「すご……二人抱えてアレだけ躱せて…まだ数日の経験なんて…!」

 

「でも…それでもこのままでは埒が明きません。何か打開策を講じないと、こちらも何時までも回避しきれませんよ!…それに、ユーリがあぁなってしまった理由もわかりません!」

 

「…いや、何となく、であるけど予想できるかも知れない。」

 

アミタの言葉を遮ったのはクロノだった。

 

「さっき彼女は、プログラムに従い…。そう言っていた。もともとそう言うプログラミングがどうかはわからないが、プログラムに従って今の彼女は行動していると予想が出来る。それはつまり…」

 

「ナハトヴァールの時と同じかも知れへんのやねクロノ君!」

 

よく知る少女の関西弁が聞こえてきた。

 

「その通りだよ…はやて!」

 

「どちらにせよ、彼女を抑えないことには難しい話しです我が主。」

 

「ほなら…まずは魔力による飽和攻撃や!」

 

駆け付けてくれた援軍は遠方に。白銀のベルカの魔法陣が展開され、5つの閃光が迸る。

 

「バルムンク!」

 

穿たれた白銀の魔力の剣閃。放射状に広がったそれは、緩やかな軌道ながらも誘導をかけながら、無慈悲な弾幕を落とすユーリに迫る。

それを彼女も察知したのか、ゆらりとそれを見やる。その目は余り興味の対象でも無い物を見るかのように、薄らと見開かれたもの。

しかし意に介すまでもない。そう判断したのか、視線を元に戻す。防御を取る素振りすらない。

 

「なっ…!正面から受ける気か!?」

 

リインフォースも驚愕するしかない。はやては制御こそ苦手なれど、その出力は抜きん出ている。それだけに魔法をぶっ放すことならば、単純威力においてなのはを上回る。

そんな彼女の魔法を無防備に受けきると言わんばかりの行動は、流石に目を疑ってしまう。

 

程なくして

 

ユーリは魔力による爆炎に包まれた。

それと同時にフェニックスフェザーによる弾幕も途切れる形となる。

 

「やったか?」

 

「八神司令…それ、駄目なフラグ…。」

 

追い付いてきたトーマは古来より伝わる、言動による確定事項をやらかすはやてに突っ込みを入れる。ほかにも連続エネルギー弾然り、爆炎に包まれた相手をあざけるのも然り…etc.…

 

「ほほう、私に突っ込みを入れるとは…」

 

「い!?す、すいません!差し出がましい真似を!」

 

「ふふん…突っ込みを受ける、言うのも関西人冥利に尽きる言うもんや。せやろ?姉やん?」

 

「姉ではないというておる!我に同意を求めるでない!」

 

居合わせたディアーチェに飛び火する。

仲むつまじい会話を広げる二人を余所に、リインフォースとアインハルトはクロノと合流する。

 

「済まない、助かった。」

 

「執務官、あれは…本当にユーリなのか?」

 

「解らないが…その予想は恐らくは外れていないだろう。」

 

「あれが…我等が求めていた砕け得ぬ闇、とでも言うのか!?」

 

言葉を発するのはディアーチェだ。

その目にはようやく捜し物を見つけた歓喜の表情はない。

 

畏怖

 

驚愕

 

キリエと同じく、自分の探していたものの強大さ。

魄翼から、そして彼女自身から感じる圧倒的な魔力が、それを物語るに容易い。

そしてそれを未だ感じると言うことは…

 

「夜天の主…そして書の融合騎と認識…。」

 

立ち篭めていた煙が晴れた先に、未だ平然と、そして無傷で佇むユーリだった。

 

「…?敵対反応、多数接近を確認。」

 

「なのはさん達が駆けつけて…?」

 

「しかし…何でだろうな。」

 

クロノがポツリと呟く。

 

「なのは達が駆けつけて、総ての戦力が揃ったとしても…止められそうに無いと感じるのは…」

 

「それでも!」

 

クロノの隣に並び立つのは、ヒカリだった。その両脇に抱えていた二人は、彼女の複雑な回避軌道によってか、後方で何やらキラキラと輝く液体を海に散らしている。その背をさするのは、アミタとキリエだ。肉体的よりも精神的ダメージが大きかったように見える。

 

「クロノの言ってたプログラムによる攻撃で戻るのなら…可能性は零じゃないよね?」

 

「…それはそうだが…」

 

「それなら…!」

 

両の手に再びシルバリオ、ヴォルケーノを顕現する。そのグリップを、ギチリと軋むほどに握り締め、そしてその蒼い瞳はしっかりとユーリを見据えていた。

 

「ボクは…やるよ!」

 

「待て!今の彼女は…!」

 

リインフォースは

 

「見境無く…って感じだと思う。それはわかるよ。」

 

「なら一旦下がって立て直すんだ!戦力も揃わないうちで戦いを挑んでは…!」

 

「逆に…時間が無いと思う。さっきユーリは出力の上昇。そう言ってた。…つまり。」

 

「まだ更に…力が上がるかも知れない、と言うことか?」

 

先程の弾幕が、更に恐ろしいものになるであろう予測。遥か下方を見やれば、撃ち込まれたフェニックスフェザーによって、海面がまるで嵐の最中にあるかの如くうねりうねって荒れ狂っていた。

…海面があれでは海底は月面のようにクレーターまみれになっているのだろう、と安易に想像できた。

つまり、いまの完全ではない出力であれ程までの手数と威力を発せられる。それだけに全開の恐ろしさが計り知れない。結界内でなければ大惨事は避けられない。

 

「つまり、君が言いたいのは、完全ではない今の彼女を助けなければ、余計に手出しが出来なくなる。そう言うことか?」

 

コクリと頷くヒカリ。その目は真剣そのもの。友人であるユーリを救いたいという気持ちは、そこから十二分にクロノへと伝わる。

 

「…そうだな。私も如月の提案には同意見だ。」

 

口許を拭いながら、ハルも会議に参加する。未だ顔色には青みが残り、目も若干据わってはいるものの、当初に比べれば幾分か良くなっていた。

ヒカリにしてみれば、よもや彼女から同意が貰えるなど思いもしていなかったので、驚きを隠せない。

 

「…なんだ?その顔は。」

 

「や、同意を得られるなんて予想してなかったから…。」

 

「私だって良い意見があるのならば同意もする。それが同じ歳だろうと。…お前は一体、私を何だと思っているのだ?」

 

「目と髪で紅白でめでたいな、と。」

 

「貴様、八神ィ!世のアルビノ持ちに謝れぃ!」

 

「我が主。…私は、めでたいのでしょうか?破壊と悲しみを振りまいていた私が…?」

 

片や憤慨、片や歓喜する。後者であるリインフォースに至っては、嬉しさ余って目尻に涙をうかべるほど。

 

「なぁ。」

 

同じく口を開いたレオン。その目の焦点は話し合う彼女等ではなく、その遥か後方。

 

「なんか奴さん、ヤバいもん振りかざしてんだけど?」

 

奴さんという単語で、皆油の切れたブリキ人形のように、ギギギ…とそちらを見やる。

 

目に飛び込んだのは柱…いや、塔のようだった。

雲を突き抜け、高々と聳えるそれは、そう例えても違和感がないほどに。

その入り口あたるであろう根元に、まるでそれを持ち上げているかのようにも見える華奢で幼い少女。

物凄い違和感しかない絵図だった。

 

「貫け、ジャベリン。」

 

あろう事か

 

そのジャベリン()と呼ぶには不釣り合いなほどに巨大なソレを、

 

ものの見事な投擲フォームの後に、

 

「とりゃー」

 

ぶん投げてきた。

 

もはや声に出さずともユーリを見据えていた皆は、誰からとも無しに散開、回避する。太さが太さだけに、早めの回避を要する。

蜘蛛の子を散らすように散開した中、そのうち3人は前へと踏み込む。

 

「これだけの大振りだ。一気に踏み込むぞ。」

 

迫り来る槍を足場に、それを蹴って前へと踏み込むハル。

 

「…これだけ太い槍だ。踏み台には申し分ないな!」

 

後を追うようにレオン。

 

そして…

 

「威力は高くないけど…弾幕は任せて!」

 

槍と擦れ違いながら、二人と平行してブーストするヒカリだ。シルバリオから銀弾が撃ち出され、ユーリへの道しるべの如く、一直線に空を切り裂く。

魔力を凝固させているのか、ジャベリンには問題なく足を付けることが出来た。それどころか力強く踏み抜いても、欠けることもないほどの強度。半透明ではない魔力の形成。どれほど魔力をこの槍に凝縮しているのだろう。跳躍した眼下を流れゆく巨大な槍を見送りながら、ユーリの魔力運用に寒気を覚える。

 

「遅れるなよ?」

 

「合点!」

 

ハルも散開したブレードビットをユーリへ突貫させる。3人に先行して飛翔する4つのそれは、真っ直ぐユーリに迫る。

まるで造作も無い物だと言わんばかりに、炎のように揺らめく魄翼から形成した一対の巨大な腕。かつてハルは裏路地で見たことのあるもの。あの時見せた腕力はかなりの物だというのは未だ記憶に新しい。

そしてそれは横凪に振るわれる。

目の前に飛翔し迫り来るソードビットを、ハエか何かを払うように。

その巨大な剛腕。まるで突風を起こさんばかりに振るわれ、ユーリにとってそのハエであるビットはことも無く弾き飛ばされる。

正面の視界は、一瞬ながら魄翼による剛腕で死角になった。

 

「コメット…ハンマー!!」

 

黒金の拳より振るわれた黄金の一撃。一瞬ながらも覆われた死角を突き、一気に肉薄したのである。

 

「障壁…。」

 

だが無造作に張られた障壁により、振るわれた拳をにべもなく受け止められるに至った。

 

「ナパーム…」

 

レオンを囲うように、魄翼の手が象る。そして彼を覆うように、赤黒い魔力の膜が張り…

 

「プレス!」

 

封爆。膜の中で、魔力による爆発を圧縮し、内部を爆発させた。

 

「君は電子レンジに入れられたダイナマイトだ。魔粒子の閉鎖空間の中で分解されるといい。」

 

「この…!マイナーなネタを仕込んできてからに…!」

 

咄嗟にブリュンヒルデを介して、身体に防御特化の強化を行ったことで、ミンチになることは避けられた。しかし、黒のバリアジャケットは所々煤こけ、決してダメージが少なくないことを物語る。

 

「シュヴァルツェ…!」

 

黒翼を羽ばたかせ、拳に魔力と術式を込める。

 

「ヴィルグング!!」

 

放つのは剛拳。打撃強化と効果破壊の術式を組み込んだ、強化魔法。リインフォース、その女性の身体で細い腕からは想像できないほどの速度と重さの拳が振るわれる。

 

左手のジャブで、レオンを捕らえる膜を破壊、解放。その腕を退く勢い、そして腰の捻りを加えた右ストレートで、ユーリの障壁を殴り飛ばす。ボクシングで言う、ワン・ツーである。

 

「障壁損傷…再展開施行…」

 

「その前に…一撃加える!」

 

殴り飛ばされたユーリの周囲。黒と紫の翼をはためかせ、夜天と紫天の王、そして未来から来たる、自称はやての部下が囲い立つ。バラバラとめくられるそれぞれの書の頁が止まり、二つの剣十字と、そして漆黒の銃剣の先に魔力が集束していく。

 

「一気に行くよぉ!」

 

「ふんっ!遅れるなよ子鴉!小童!」

 

「りょ、了解!」(リリィ!!)

 

(了解だよトーマ!!)

 

障壁が消えた直後に、3人による砲撃。それで決着が付くならば僥倖だ。その為の波状攻撃であり、バリア破壊効果を生み出せるリインフォースのシュヴァルツェヴィルグングを叩き込むための皆の布石。

 

「これが本命や!クラウ…!」

 

「アロン…!」

 

「『シルバー!』」

 

「ソラス!」

「タイト!」

「『ハンマー!』」

 

放たれた直射型の砲撃。

未だ本調子ではないユーリは障壁を再構築するために動きが鈍っている。それと連動してか、魄翼も動きが少ない。それだけに撃ち込むチャンスに変わりない!

 

着弾、直後。

 

魔力による爆発。

それぞれの砲撃に爆発の発生効果を付与した結果である。着弾すれば多段でのダメージを与えることが出来る、広域殲滅型の得意分野だ。

 

「ダメ押しと行こうか。」

 

そして上空。

無数の白銀が、まるで夜空に鏤められた星の如く展開されていた。

それは銀の剣。

数にして100はあるであろう。

彼が持ちうる、最高ランクの魔法にして切り札の一つ。

 

「スティンガーブレイド…!」

 

さしもの此程までの展開ともあれば、クロノも魔力の大半を注ぎ込むこととなった。

息は上がっているが、最後の仕上げだ。まだ一息付けない。

剣一つ一つを囲うように、帯状の術式が展開され、その射出の準備か整ったことの証となる。

 

「エクセキューションシフトォ!!」

 

それは見る物は隕石と、いや、流星とも例える者もいるだろう。未だ爆発さめやらぬ下方へと降り注ぐ白銀の剣勢。爆発すれど、爆煙が立ち込めども、数ある限り降り注ぎ続ける。まるで夜空を切り裂く流星群のように。

 




用語解説

・『君は電子レンジに入れられたダイナマイトだ。魔粒子の閉鎖空間の中で分解されるといい。』
このネタを知る人はいるのだろうか

・キラキラと輝く液体
この液体は編集により、実物とは異なる物に見えるようになっております



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