魔法少女リリカルなのは 未来への系譜   作:ロシアよ永遠に

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Mission34『打開策…そして抗えぬ記憶』

降り注ぐ魔力で形成された白銀の剣。

先程のフェニックスフェザーに比べれば範囲や密度は少ないのは致し方ない。

しかし一人に向けての攻撃ならば、威力はともかく、数は引けを取らない。

次々に撃ち出され、舞い上がる黒々と煙が標的の一帯を遮る。

もう撃ち尽くした。やり遂げたのを察したかのように、演算処理を重視した人工知能の持たないストレージデバイスたるS2Uも、一息つくと言わんばかりに排熱ダクトから熱を吐き出す。正直、演算なども発動までの短縮に無理をさせたので、かなり熱を帯びていたのがグローブ越しに伝わってくる。合わせてクロノも、汗を拭うと共に一息吐き出した。

 

「…まだ、油断できないな。」

 

正直、大技を発しただけに消費魔力も少なくは無い。しかし、そうでもしなければならないと思うまでに、あのユーリは強大だと思えるほどだった。

それでもアレだけで倒せるというイメージが湧かないのが恐ろしい。

朦々と立ち篭めていた煙が掻き消えた時、それを見た自分の顔はどうだったのか?

 

「損傷率…極軽微。戦闘行動に支障、無し。」

 

若干…それも申し訳程度に煤転けた程度の彼女を見た自分の表情はどうだったろうか?

納得?

畏怖?

それとも…

唖然としても居るのかも知れない自分を余所に、ヒカリは未だライフルからのバレットを撃ち込んでいる。威力からすれば、ユーリにとっては豆鉄砲に等しいほどに低いものだが、ヒカリのその目には諦めはなく、むしろ炎のように滾っている。

 

「流石にこれは…相手がヤバいんじゃ…」

 

「まだ…ボクは諦めない!まだまだやれる!」

 

諦めの色が見え始めたトーマに、彼女は啖呵を切った。まるで攪乱戦法だ。一見無茶苦茶なマニューバーではあるが、それだけに読めない軌道。受けているユーリもキョロキョロとしており、その速さには目が追いつけていないようにも見える。

しかし、それだけだ。

有り余る魔力から形成される彼女の紫天装束は、先程のダメージを何事もなかったかのように修復されている。自己回復力が、シルバリオから撃ち込まれる魔力ダメージを上回っているのだ。

 

「キリエ!私達も援護を!」

 

「おっけぃ!」

 

フローリアン姉妹も、ハンドガンタイプのデバイスと思しきそれから、青と桃の弾丸を撃ち込んではくれる。

しかしそれだけ撃ち込もうとも、効いているのかどうかわからないほどに微動だにしないユーリ。

 

「ユーリィ!!」

 

名を呼ばれ、その声にピクリと反応する。未だ強く自分を見つめる彼女の声は、何処かしら反応している。

 

「…おい!雀!そこな飛び回っておる貴様よ!」

 

「え…?ボク?」

 

突如としてディアーチェに呼び止められ、まるでブレーキ痕でも残さんばかりに脚部のスラスターを逆噴射して停止する。それはともかくとして、雀というのはどういう名付け方なのか。白いんだし、白鳥とか、鶴とか、そう言ったものでも…

 

「身の程を知れ雀。貴様がその様なたとえを賜るなど、自意識過剰も甚だしい。」

 

「ひどっ!?しかも心を読まれてるし!…って、今更ながら、君ってあの時角でぶつかった人…だよね?」

 

「…本当に今更よな。覚えておっただけマシな方か。…それよりも、だ!」

 

ずいっと迫ってくる彼女の目は、正気の沙汰とは思えないほどに鬼気迫るもので、ヒカリも若干仰け反っていたりする。

 

「うぬの言っておった我そっくりの奴が…こんな子鴉だったとは…!貴様の目は節穴か!?」

 

「え?ボクはそっくりだと思うけど…ねぇ?」

 

周囲の人間に同意を求める。すると、万場一致で首を縦に振られた。

 

「ぐぬぬ…本来ならば貴様らをジャガーノートの餌食にしておるところだが…状況が状況よ。今回は不問に処す。」

 

「わーい(棒)」

 

「…やはり雀、貴様だけは後ほど我が魔法の総てを叩き込んでくれる。」

 

「…それで?彼女を呼び止めた理由はそれだけじゃないだろう?」

 

話が脱線しかけていたため、リインフォースが修正する。威厳を振りまいているように見えるディアーチェも、ノリ、と言うよりも弄られ体質が高いように見える。

 

「…うむ、以前見掛けたときも、そして今も貴様は…砕け得ぬ闇をユーリと…そう呼んでおったな?」

 

「うん。で、王様は闇統べる王に、我はなる!って。」

 

「もうなっておる。奴の本来の名を知るならば、我々の知らぬデータを有しておるやも知れぬ。…そこで貴様のデバイス。その内部には恐らく、エグザミアの中枢にして官制人格たる奴のデータがあると見た。…どうだ?」

 

確かに、ロストロギアであろうユーリを、監視の意味も含めてデータ取りしているものだろう。それも、同居していたヒカリのデバイスたるヴァルキリーなら、ほぼ四六時中共に過ごしていただけに、その密度も高いだろうというのがディアーチェの見解。

 

『…確かに、エグザミアのデータは数日とはいえ取ってはあります。管理局のアースラもデータ取りはしてはいますが、そのサーバーに比べれば、ある程度こちらのデータ量が上回っている、と言うのも否定はしません。』

 

「…だ、そうだぞシュテル。」

 

ディアーチェがウインドウを開けば、シュテルがその無表情な顔と共に映し出された。

 

『お初にお目に掛かります。ナノハやシッショーの友人であるヒカリ…でよろしいでしょうか?』

 

…何やら後ろでユーノが抗議の声を挙げていたが、上手く聞き取れなかった。ヴァルキリーのお陰で高感度の集音能力があるにも関わらず聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

シュテルは高揚の余りない、淡々とした喋りではあるが、理知的な感じがヒカリにとっては第一印象である。

 

「うん…その、シュテルさん?」

 

『ナノハの友人ならば、シュテルで構いません。私の方もヒカリと呼ばせてもらいますので。』

 

堅苦しそうな話し方ではあるが、こう言ったところはフランクなものだ。ほんの僅かながら、彼女の表情が柔らかく見えた、気がする。

ともあれ、シュテルとのコンタクトをとったディアーチェ、そしてそれに伴うヒカリは、彼女の立案した砕け得ぬ闇(ユーリ)に対する事案を説明された。

 

『我々は恐らく、砕け得ぬ闇…いえ、彼女がユーリと名乗ったのならそう呼ぶべきでしょうか。とにかく、ユーリと元々は一つの構築体だったと予想しています。』

 

「うむ…それが闇の…いや、夜天の書の防衛プログラム。奴の中に取り込まれた際に、我らを構築するデータが破損しておった。無論、ユーリに関する物もな。…今の奴のプログラムによる暴走を望んでの意図的な物かは判らぬ。しかしそのデータも今はある程度修復しておる。そこで、貴様のデバイスからエグザミアのデータ。それを理の構築体(マテリアル)シュテルが自分の中にあるエグザミアのデータと照らし合わせ、何が原因であのような事になっておるのかを突き止める。」

 

『その上で、修復用のデータワクチンを魔力と共に撃ち込み、不具合を修正する、と言うのが我々の考えた案なのですが…。』

 

「…確かに、話の筋は通っている。しかし、今の彼女にアレだけの物を撃ち込んでダメージを与えられていないように感じる。今なお攻撃を仲間とあの姉妹がしてくれてはいるが…。」

 

背後には、白銀のビットや、桃色と青色の弾丸が飛び交い、必死にユーリにダメージを与えようとしてはいる。しかし件の彼女はまるで意に介さず、ただただ浮いているだけ。まるで、嵐の前の静けさかと思うほどに…

 

「しかし他に良い案はなかろう?…先ずは奴を止めねば、何をしでかすかわからん程に奴の出力の上限が読めんのだ。…手は早い内に打っておきたい。」

 

最大火力を誇るであろう、はやての攻撃までがすこし焦げる程度にされてしまっては、もはや頼る物は他に無いのか。データワクチンとやらの完成にどれ程掛かるかわからないし、そもそも原因が見付かるのかどうかさえも不明瞭だ。しかし、

 

「…執務官さん、俺は…賭けてみても良いかなって思う。」

 

「私も賛成や。…正直、私らの攻撃が通らんかったのもショックやけど。せやけどここで何とかしたげな…。」

 

「ふん、子猫と子鴉もこう言うておる。…どうするのだ?」

 

「…わかった。君達の案を吞む。艦長には僕の方から話しを通しておく。」

 

クロノにとっても、これを打開する策という物が浮かばない。ナハトヴァールのようにやれば良いとも思っていたが、攻撃が通らない以上どうすることも出来ない。ともすれば、ディアーチェやシュテルの言うことを信じて、自分は何らかの不祥事に備えることが肝要だろう。

 

「そうと決まれば、シュテルが到着するまで撃墜されないように下がっておいた方が良いだろう。」

 

「え?」

 

「ま、もうすぐだろうし、それくらいはやれるっしょ。」

 

まるでゴングが鳴ってボックスに下がるボクサーのように、今まで戦っていたメンバーと交代で前に出る。両拳を打ち鳴らすレオン、リインフォースを筆頭に、後衛にクロノとはやてが就く。

 

「ぼ、ボクだってまだ戦えるよ!」

 

「阿呆か。貴様のデバイスのデータが必要というておる。それを放り出して、しかもむざむざと落とされでもしてみろ。それこそ本末転倒よ。」

 

「姉やんの言う通りや。まぁ、時間稼ぎ位はできると思うよ。幸い、ユーリは攻撃に対して消極的や。何とかなると思うんよ。」

 

「う……わかった…。」

 

『だから我は貴様の姉ではない!』というディアーチェの抗議を余所に、何も出来ないことに不満を抱えつつも、渋々と言った表情で承諾する。

そもそもヴァルキリーの内蔵魔力も二割を切っており、長期の戦闘は出来ない。

歯痒い想いはどうしようもないが、かと言って足手纏いになるのも遠慮したい気持ちもある。

 

「それじゃ…第二陣!前進!!」

 

「「「了解っ!!」」」

 

クロノの声を号令として、第二戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

「くっ…、情けないな。まともなダメージを入れられなかった…。」

 

「…正直、アレだけの数の敵と戦った後です。仕方ない、と言えばそれまでですが。」

 

ハルにとって慣れない空中戦と、切り札のソードビットに加え、入院生活によるブランクがここに来て少なからず祟ってしまった。落ちてしまった体力もだが、何よりも戦いの勘が衰えていた。

魄翼から展開された巨大な爪により、近接戦闘においてのアドバンテージはユーリにあった。その威力もさることながら、リーチも上回っており、もはやビットを囮にしながらも手甲のブレードによる接近戦が主たるものとなってきていた。

しかし、周囲の弾幕も意に介さず、ただ接近戦を仕掛けていくと反撃。近付かない限り無害となっているのは何故だろうか?そこに疑問が残る。

 

「…悩んでも致し方ない。今は魔力を少しでも回復させ…」

 

「…ちょっと良いかしら?」

 

交代に備えようとするハルを、キリエが呼びかける。その声色は低く、姉妹たるアミタにとっては余り聞くことのない…いつものおちゃらけたものではなく、真面目な彼女の心象が現れているのがよく分かった。

 

「…何だ?…まさか初対面の時のことを根に持っているのか?」

 

「まさか。それよりももっと、大切なことよ。…それに、私達はあの時が恐らく初対面じゃないわ。」

 

初対面で何がどういう状況に陥ったのかはわからない。そういえばアミタにとってハルとの出会いはメイド服だったなぁ…そう想いにふけるのも一瞬。

()()()()()()()という彼女の言葉に、自身も引っかかりを感じていた点が臆面に出て来る。

 

「貴女…ハル…ハル・アストレア…違うかしら?」

 

「ハル…アストレア…?」

 

瞬間、

頭を鈍器か何かで殴られたような、そんな痛みがハルを襲った。瞬く間に嫌な汗が噴き出し、心臓は早く鼓動を刻む。そして脳の奥底から何かが訴えかける。

『思い出すな。』

と。

 

「ハルさん!?」

 

「ぐっ…!がぁぁっ!?!?!?」

 

もはや悲鳴。

散開しているメンバーが、その声に反応してその動きを止めてしまうほどに。

頭を抱え、背を反らせ、耐えようのない痛みが襲い来る。

 

「っ!?あかん!?」

 

皆がハルに気を取られた時だ。その時を縫うように…不動を貫いていたユーリが魄翼をはためかせ飛翔した。

その機動性はそこまで高くはない。しかし不意を突いたと言う点を踏まえれば、充分に優位を取れるほどだ。

まるで…何かに引き寄せられるかのように直線的に進むその先は…。

 

「避けろ!准尉!!」

 

悲痛なまでにクロノはいち早く叫んだ。

今からこちらが向かっても間に合わない。ならば本人に覚醒を促し、対処させるしかない。

だが、今の彼女の状態を見れば、耳に届いたところでまともに動くことなどできようか。

 

そして…

 

ずぷり…

 

まるで泥沼にのめり込んでいくかのような音と共に

 

ハルの腹部へ

 

ユーリの右手が

 

突き刺さった。

 

 

 

「がっ…!?」

 

突如として襲われた感覚に、頭の痛みを忘れ、これ以上に無いほどハルは目を見開く。

まるで…心臓を…鷲掴みされているかのような、そんなこれ以上に無いほどの不快感が身体を伝う。

ユーリの手がハルの身体を貫いていた。しかし出血などはまるで無く、彼女らの手と身体の接触点には、ユーリの魔力色であろう、赤黒い円が形成されているのだ。

まるで時が止まったかのように…皆は動けずにいた。

目の前の光景が…余りにも衝撃だったのだろうか。

 

しかして、

 

ユーリはそれとは関係ない、と言わんばかりに、突き刺した腕を引き抜く。

 

それに伴って、

 

「あ″がぁ″ぁ″ぁ″ぁ″っ!?」

 

ハルは悲痛なまでに悲鳴を挙げる。

掴まれていた心臓が、五臓六腑が、引きずり出されたかのような、おぞましいまでの感覚と身体に走る痛み。それに堪らず、だ。

 

そして、

 

彼女から離れると共に、ユーリによって引きずり出されたのは、

 

魔力で出来た巨大な槍。

 

赤黒く、そして銀線が走る槍。

 

「エンシェント…」

 

もはや、処刑宣告とも取れるかのように、ユーリはその言の葉を紡ぐ。

 

「マトリクス。」

 

身体の回転によって遠心力をつけて投げ放たれた巨大な槍は、

 

皆の叫びを掻き消すかのように、

 

一人の少女のその細々とした体躯を、

 

 

 

 

 

 

貫いた。

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