魔法少女リリカルなのは 未来への系譜   作:ロシアよ永遠に

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少々こじつけ感があります。
少しずつハルがヒロイン化してきている…ような。


Mission36『蘇る記憶、そして慟哭』

規則正しい電子音が、ピッ、ピッ、と、まるで時計の秒針が時を刻むかのように室内に響く。

その中で医療班が慌ただしく駆けずり回る。

アースラの簡易手術室

現場で重傷を負った局員に施術する場所。本格的な医療のものには劣る物の、余程のものでない限りは処置できるほどの設備は揃っている。

しかし、運ばれてきた少女は見るからに重傷も重傷。特に腹部の刺し傷は大きく、文字通り風穴が空いているような物だった。

ミッドチルダには、優れた魔法技術によって、通常の外科手術の術式に加え、治癒魔法による再生治療も普及している。基本的に日にち薬による自然治癒を求めてはいる物の、救急においてはその限りではない。一刻も早い止血を求めるのならば、治癒魔法によるそれを敢行するしかない。命あっての物種、と言う言葉通りである。

執刀医のメスや縫合に合わせ、衛生魔導師(ヒーラー)による治癒促進を施し、術式は急けながらも一糸乱れぬ連携により完了と相成った。

 

 

 

 

 

 

 

「…容体は?」

 

ブリーフィングルームで、出撃していたメンバーが揃い踏み、その中でクロノが医療班の一人として同行したシャマルと艦内通信を交わす。

帰艦すると共に、待機していた医療班がストレッチャーにヒカリを乗せ、先の手術室へと移動となっていた。今回ばかりはヴァルキリーもその朽ちかけの装甲を解除し、ボディスーツのみを残して待機状態へとその姿を変える。その待機状態のブレスレットも本体の損傷に比例しているのか、ひび割れたその姿が痛々しい物だったのは皆の記憶に新しい。

 

「何とか山は越えた、って所かしら。重要器官とか大きな血管に傷が入っていなかったのが幸いした、って感じね。もう奇跡の領域だわ。」

 

「…そうか。」

 

収容されてから数時間後の今、ヒカリの怪我を知らされたもう一つのチームのメンバー。特に友人であるなのはやフェイトは当初若干取り乱しては居たが、時間という鎮静剤が落ち着きを取り戻してくれている。文字通り心身共に療養した各々は、今後の対策を練るためにブリーフィングルームへと集まったわけだ。

 

「姉やん、アンチプログラムの制作状況は?」

 

「今、シュテルがこの艦の技術者共と解析と構築に取りかかっておる。…如何せん、あの雀のデバイスからのデータが膨大且つ、しかしそれでも無駄のないもの故に、必要最低限の時間で出来上がるであろう。」

 

「プログラム…と言ってもどうやって撃ち込むの?注射みたいなのでプスリ、と言うわけでもないでしょ?」

 

「プログラム、と言うだけに、物理的には不可能だ。

 

ヴィヴィオの問いに、ディアーチェは応じる。

 

「では、非物理的であれば可能、と?」

 

「うむ、そしてそれは我らが持ちうる武器に上乗せするのならばそれも出来る。」

 

「持ちうる武器…?」

 

「それ即ち、魔法よ。」

 

彼女の言う魔法というのは、漫画やアニメのようにファンシーなものではなく、術式を用いた科学の延長線上でありプログラム。ディアーチェが言うには、その術式にアンチプログラムを組み込み、砕け得ぬ闇の弱体化、ひいては無力化を図ると言う。

 

「我ら…つまり、我と子鴉それに小童は書にプログラムを入力。それによって魔法に付与を図る、のであるが…。」

 

「何か問題でもあるのか?」

 

一応件の人物であるトーマは、言葉を濁すディアーチェに質疑を投げかける。無論、疑いをかけるものではないが、不安要素と言う物は拭い去りたいというのは皆の共通の思いだ。

 

「日常から使用する魔法に更なるプログラムを上乗せする。その意味は判ろう?」

 

「…つまり、どういうことや?」

 

「…阿呆、貴様が問題であることを説明しておるのだ。魔法に効果を付与する事即ち、制御や演算の難度が増す。それ故、制御を不得手とする子鴉、貴様に懸念があるのだ。」

 

「な、なんやってーっ!?」

 

芝居の掛かった驚き方に、ディアーチェはともかくとして、皆からも呆れ気味の目を向けられる。

スベった

居たたまれない空気がはやてを包んでいく。

 

「うぅ……スベったからってそんな目で見んでやぁ…」

 

これも関西人の性故か。

否、

少々重苦しくなり始めた空気を何とかしようと考えての行動なのか。

 

(流石我が主、皆の緊張を解そうと思うが故に成せるのだろうな。)

 

などと一人後者であると思い込むは、彼女を守る騎士の将であるシグナム。

 

(…ぜってー空気和ませるとか意図したことじゃなくて素だろ。)

 

前者寄りの意見を思うはヴィータ。

 

「はやてのスベり芸はおいといて、だ。」

 

「スベってへんもん、皆がウケへんだけやもん。」

 

「人はそれをスベったと言うんだ。…とにかく、プログラムを使用にあたっては、制御難度が向上する、と言うことで構わないな?」

 

「うむ。…全く、子鴉の脱線ぶりには頭が痛い。…それで、融合騎よ。子鴉との融合(ユニゾン)については…」

 

ディアーチェの振りに、はやてより一歩下がって話を聞いていたリインフォースに、皆の視線が集まる。しかし件の彼女の表情は暗雲が立ち篭めているかの如く優れない物だった。

 

「…今の私には、融合能力はない。」

 

その答えに、ディアーチェと、隅で空腹と魔力を満たすために甘口カレーを食べているレヴィは目を点にする。

 

「…どういうことだ?」

 

「そのままの意味や。…年末の事件…話は闇の書事件まで遡るんやけど…。解決するためにナハトヴァールと夜天の書の切り離しをして、それで防衛プログラムを消滅させたんは姉やんも知ってるやろ?」

 

「…無論だ。」

 

「その時にリインフォースの能力の殆どがナハトヴァール側に引き込まれてな。その中に融合能力の機能も含まれてたんよ。」

 

あの時は一瞬一瞬が噛み合っていなければどうなっていたのかも解らない。其程までに緊迫していた状況だった。もしかしたら、闇の書による悲劇の輪廻は終幕していなかったのかも知れないし、もしそうならばここにいる皆がこうして会することもなかったかも知れない。様々な偶然と奇跡が重なって、こうした結果を生み出したに過ぎず、リインフォースの融合能力がない、と言うのを悔やむのも、欲を張りすぎなのかも知れない。

 

「ふむ…ならば致し方ない。…子鴉のオツムでも分かるように簡易な物にするよう、シュテルに言い伝えておくか。」

 

「姉やん、私をディスりすぎやで。」

 

「やかましい。…して、カートリッジシステム持ちには、プログラムを内包した特製の物にすれば問題はなかろう。」

 

ユーリを確保するための下拵えが着々と進んでいく中で、誰かを探していたなのはが声を挙げた。

 

「ねぇ?ハルちゃんは…?」

 

「アイツなら、医務室でCTをとってるらしいぞ?」

 

「CT?」

 

「記憶が蘇ってきた、とか何とかで、頭痛が酷かったらしいからな。それで脳に影響がないものか念のための検査だそうだ。」

 

「そう…なんだ。」

 

ヴィータとシグナムの答えに、なのはは少々煮え切らない返事を返す。

先日、気を失った彼女を目の前で見ているだけに、その件に関しては思うところがある。以前、翠屋にヒカリやユーリと来ていたアミタという女性。もしかしたら彼女が記憶の鍵になるのかも知れない。今回の件に関しても、やりとりのログを見る限りでは、あのキリエという女性も関係している可能性も出て来ている。その二人も、現在はリンディによる尋問を受けており、それに関しては問題ないだろうとクロノも言っている。

曰く、5歳以前の記憶がないというハル。その話が事実ならば、彼女はアミタやキリエと同郷と言うことになる可能性が高い。

しかし本人の記憶が戻っているかどうかが未だ分からない。先の戦闘での異常な頭痛は、戻りかけているからだろうと考えるのもまた事実。だが未だ検査が終わらないのであれば、憶測の域は出ない。

 

「医療班に掛かっている2人はシャマル達に任せておいて、ユーリ…いや、砕け得ぬ闇への対処についてだが、ディアーチェの立てた案で行こうと思う。各員、カートリッジシステム内蔵デバイスを持っている者は、プログラム内包の物を後で受け取るように。その他のデバイス所持者は、プログラムの書き込みを済ませて…。デバイスを持たないザフィーラ、アルフ、フェレットは結界の支援…だな。」

 

皆を一瞥しながらのクロノの説明に対し、一同頷く。一名ほど、抗議の声が上がったが、クロノは意に介する事なく続ける。

 

「正直、エグザミアの出力がどれ程まで上昇しているかは分からない。今なお臨界に向かっている可能性が極めて高いだろう。恐らくは時間勝負になる。各員、シュテルのプログラム完成とインストール次第出撃し、鎮圧に掛かって貰う。」

 

「でもクロノ君。ユーリの居場所って分かってるの?」

 

「確か…長距離転移して、行方が分からないって。」

 

なのはとフェイトがクロノの案について疑問符を浮かべる。彼女が転移したとき、アースラの索敵範囲から離脱されてしまったという報告は、現場に居た皆が聞いたものだ。

 

「それについては…」

 

『クロノ君!』

 

「エイミィか。…どうやら拾えたみたいだな。」

 

まるで図ったかのようにエイミィからの内線が入る。通信をしながらもユーリの索敵を続けているのか、その手は目にも留まらぬほどにパネルを叩いている。

 

『こう言うのって灯台下暗しって言うのかな?』

 

「何が言いたいんだ?」

 

『砕け得ぬ闇、長距離転移はフェイク。地球から離脱したと見せかけて、最終的な潜伏先は凄く間近だったの!私も思わず驚いちゃったよ!』

 

「…要点を言え、要点を。」

 

興奮気味かつ遠回しに言う自身の補佐官に、若干苛立ちを覚えたのか、クロノは少々語気を強めてエイミィに報告を促す。

 

『レーダーに引っ掛からないようにステルスを張っていたから、少し時間が掛かったけど…彼女の居場所は、海鳴市洋上20㎞。』

 

間近も間近。下手をすれば哨戒して目視できるかも知れない程の距離だった。

 

「…本当に灯台下暗しだな。」

 

マップデータが表示され、居場所を示すシグナルが点滅するのを見て、ザフィーラがボソリと呟く。

 

「でも何でステルスを掛けていたのに居場所が分かったの?レーダーにも引っ掛からないって…」

 

「それについては…まぁ古風で極々シンプルな理由なんだ。つまるところの発信機を付けていたんだ。」

 

前回の邂逅で逃げられたときのために付着させた発信機。ステルスを掛けている中でも、わずかな発信機のシグナルに周波数を合わせ、それを拾うことが出来れば、発見はその信号が全くないよりもかなり早まる。念のために仕掛けておいた物が本当に役立つと思わなかったが、これはこれで結果オーライだ。

 

「様子はどうだ?」

 

『今の所動きはない、かな。居場所は掴めても、どんな様子かまでの詳細は今一つ…。ステルスを展開しているのだから、魔力反応が引っ掛からないように放出しないのはセオリーだしね。』

 

「…確かに。動きを見せないのは不気味だが、逆に言えば今の所害はないとも言えるか。」

 

これは好都合か。動きがないのならば、プログラム完成までの時間を稼げる。逆に言えばその分相手に猶予を与えてしまうことになるが、プログラムという大きな武器が得られるならば、差し引きゼロ、寧ろプラスになるだろう。

そう一考したクロノは、口を開く。

 

「プログラム完成まで時間がある。完成次第、砕け得ぬ闇停止の作戦を開始する。それまでは体を休めておいてくれ。…ディアーチェもそれで構わないか?」

 

「ふん。我に聞かずとも答えは分かっておろう。癪ではあるが、貴様らの力を借りねば、我等だけでは奴を止めてやることは適わぬ故な。その案を吞むとしよう。」

 

流石に(キング)だけあり、あのユーリの力を見たからと言うのも加味しても状況が読めている。力を手に入れるにしても、エグザミアの力を抑えないことには不可能。

癪だが、と悪態をつきながら、そっぽを向く。しかしその視線は機嫌を伺うかのようにチラチラッとこちらへ向けてくる。有り難いという気持ちも見え隠れしているのが丸わかりで、はやてでなくとも皆が苦笑したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝台に横になって、ドーナツ状の機械の中央へとスライドされてから暫く。簡易な病院服から茶色の陸士服へとハルは着替える。CT検査を終えて、後は結果待ち。帰還して一息ついたにも関わらず、その表情には未だ陰りがあった。

記憶が戻りかけている。

医師に言われずとも、その兆候であろうあの頭痛の正体には察しはついていた。

確かに今までに無かった記憶がある。まるでピントが合わなかったそのビジョンに、それにオーダーメイドされたレンズを通したかの如く、鮮明にそれが見えている。

記憶がもどるなど、半ば諦観していたものだ。しかも今まではそんな兆候すら見えていなかった。にもかかわらず、ここ数日間で立て続けに記憶の復旧と言わんばかりに頭痛に苛む事態が起こっている。

それも地球に来てから、…いや、厳密に言えば、フローリアン姉妹にあってからだ。

半ば諦めかけていた記憶の蘇り。記憶喪失、と言うのは、ふとした拍子にもどることもあるし、何らかのスイッチによる事もある。前者は時間経過によるが、後者は記憶の中にある経験や光景、そして人物との邂逅がある。それは、外的要因によって閉じられた記憶が刺激され、それが切っ掛けになって蘇ると言う物だ。ハルが今回、記憶が蘇ってきている要因でもあり、これが一番手っ取り早い方法なのだが、一気に記憶が蘇ると同時に患者の脳に負担がかかるのも事実である。失った記憶が多ければ多いほど、それが一気に脳に駆け巡ることになる。その結果として、激しい頭痛や嘔吐など、不快感を伴った症状が出る。それが先程彼女を襲った頭痛の要因だ。検査をしている数十分の間に、その不快感はなくなった。が、いつ何時に再び頭痛が起こるかも分からない。一度、記憶というダムの水が漏れ始めた状態だ。何時決壊して先程以上の物が起こるかも分からない。これから砕け得ぬ闇(ユーリ)との決戦に向かおうかと言うときに。

 

「くそっ…陸士隊員ともあろう者が、何と情けない!」

 

ごん!と、CT撮影室から出たところの廊下の壁を、八つ当たり気味に拳で殴る。鈍い音共に、ぎりっと不甲斐ない自分に苛立って、ハルは歯軋りする。

何のために鍛えた?

何のために任務に臨んだ?

答えは…護りたいから。力無き人々を…民間人を護るためだ。…そんな彼女を偽善と言う輩も少なくはない。だが、それでもただひたすらに任務と鍛錬に打ち込み、管理局で類い希なるほどに、入局3年で准尉という異例の出世スピードで登ってきた。ソレもコレも…民間人を護るためであり、階級や出世など二の次三の次。それだけに、任務に撃ち込む熱意も周囲から見れば異常とも取れる物だったのだろう。しかし…

 

「なにが准尉だ…なにが陸のホープだ…!肩書きに不相応で無様を晒して…私は…!」

 

歩を進め、そして一面ガラス張りの部屋の前に辿り着く。

集中治療室(ICU)

その中央に設けられたベッドで、一人の少女が呼吸器に繋がれてその身を横たえていた。

護るべきだった…民間人。

にもかかわらず、自身を庇わせ、剰え重症をも負わせてしまった失態。

医師が言うには命がどうこうはないらしいが、それでも自身を庇った彼女に対して、胸を締め付けられる。

 

「如月…私は…。」

 

「どうしたんですか?ハル。」

 

如何ともし難いもどかしさと苦悩に俯いていた所に、ハルがよく知っている…ハズだと思える声が耳に入る。

 

「…アミティエ・フローリアンに…キリエ・フローリアンか」

 

「…昔みたいにアミタって呼んでくれないんですか?」

 

「あいにくと、まだそこまで記憶ももどっては居ないのでな。…どう呼んでいたのかも思いだしてはいない。」

 

突っ慳貪(つっけんどん)ではあるが、事実である。アミタとしては、自身の幼馴染みと確信している。それは、先の戦闘時に話を切り出したキリエも同じだ。

 

「しかし、私自身分からないことがあるのだが?」

 

「なんでしょうか?」

 

「どう考えても私とお前達二人の年齢が合わんぞ…?私の記憶が確かなら、同じ歳であったはずだ。」

 

ハルの思い出した中では、2人は自身と同い年だったと記憶している。だが、見るからに2人は10代半ばから後半。自分の年齢とは明らかに数年間の誤差がある。

 

「それに関しては…多分だけど、ハル自身がタイムトラベルしたんだと思うの。」

 

タイムトラベル

読んで字の如く、時間の壁を越えることだ。

彼女達の事情聴取の内容については、リンディから通知を受けているために大体把握している。

曰く、ハルの苗字とおなじ名を持つエルトリアという世界。その各所に点在する遺跡から見つけたオーパーツによる時間跳躍でこの世界に来たのだという。曰く、滅びの道を行くエルトリアを救うために、膨大なエネルギーを持つという『砕け得ぬ闇』。それを求めて、存在する時間軸に跳んだのだという。最も、求めていたのはキリエであり、それを制止するためにアミタは追い掛けてきたらしい。

 

「…私がタイムトラベルをした、という記憶がないのだが…。それにシャトルに乗ったのを最後に、記憶がないぞ?」

 

「そう、ですか。その記憶も失っているのですね…。」

 

悲痛な表情をするのはアミタだけで無く、キリエもやはり同じくとする。

 

「…どういうことだ?」

 

「あの時、成層圏付近まで上昇したシャトルは…」

 

「エルトリアの魔獣の襲撃を受けて…爆発しました。」

 

爆発?

 

「…それは…つまり…。」

 

「いえ…、シャトルの残骸は落下しては来ましたが、乗客…つまり、ハル、貴女自身やその御両親の遺体は発見できませんでした。」

 

シャトルの爆発といえども、人間の遺体を完全に焼き尽くすことは出来ない。余程強力な爆発物を積んでいるかでもしなければ、正直想像はしたくはないだろうが、焼死体が残る。しかし、それがなかった。

 

「…つまり、私を含め、皆はタイムトラベルに巻き込まれ、爆発には巻き込まれなかった、と?」

 

「えぇ。そしてその鍵となったのが、あの時渡した赤いペンダントです。」

 

「…これか?」

 

昔から持っていた紅い宝石をあしらえたペンダント。なんで持っているのかはわからないが、何となく、何となくだがとても大切な物だと思って所持していたわけだが…。

 

「幼い頃の私達は、遺跡で拾ったそれが何なのか分からず、ただ綺麗だからと言う理由でペンダントにして貴女に渡しました。しかしそれが後ほど、オーパーツの一部だったと言うことがわかりました。」

 

「…オーパーツ…?…つまりロストロギア、古代遺失物みたいな物か。」

 

「その解釈でも問題ないと思うわ。あのあと、欠片を見つけた遺跡の奥から、それと同じ物質の巨大な結晶が見付かったのよ。」

 

曰く、解析した結果、それが一種の転移装置でタイムマシンの様な物だと分かった。一方通行ではあるが、人や物を指定した時間軸と世界へと送り出すことが出来ることが分かった。それを父、グランツに話したところ大変驚いたものだが、それを使用することは許可しなかったという。

 

「つまり、ハル。貴女に渡した欠片は、いわば携帯用タイムマシンなのよ。あのシャトルの爆発の際に、その欠片が力を解放させて、恐らく乗客を転移させた。そう考えているの。」

 

「つまり…私はそれに巻き込まれてミッドチルダに飛ばされた。しかも時間の壁をも越えて。」

 

「そ。…まぁ見たところ、その転移でそのペンダントの欠片に残った力は出し尽くしたみたいね。それはもうただの宝石になってるみたいだし。」

 

ペンダントに出来るほどに小さな欠片だけに、その内包された力は1回切りの物だったようだ。しかし、このように小さな欠片であれど、時の壁を越えさせるなど、その力は計り知れない。

 

「…その話が事実としたら…本当に私はお前達と同郷…と言うことになるのだな。…信じられない話しだが。」

 

「でも貴女が生きていた、と言うことは、私やキリエ、それに博士にとっても喜ばしいと思えることです。あの爆発が起きたときは、流石に貴女が死んだものと思っていましたし。」

 

「そうね。記憶が戻りかけてるみたいだから、これから…」

 

昔のような関係に戻れたら。そう言葉にしようとしたキリエの言葉は紡がれなかった。

 

「記憶が戻りかけている。それはいい…。しかし何故あの時、あのタイミングで切り出した…?」

 

「は、ハル…!?」

 

アミタが眼を丸め、幼馴染みの行動に驚愕する。それもそのはず、キリエの胸倉を掴み、身長差があるにも関わらず、その身体を持ち上げていたのだから。実年齢に似つかわしくない鍛え抜かれたその握力で、ギリギリと彼女の身に纏うスーツは悲鳴をあげる。

 

「確かにお前の言葉による記憶のフラッシュバックで動きを止めたのは、紛れもなく私さ、相違ない。しかし、私はそれで…如月に重傷を負わせてしまったんだ!それは覆す事が出来ないんだ…!」

 

「ぐっ…!」

 

躯体の呼吸器が圧迫されているのか、苦悶の表情を浮かべるキリエだが、ハルの言うことに否定が出来ないだけに、文句を言えない。

 

「私が…奴に庇われて…護るべきアイツが管を繋がれて横たえられて!アイツが起きたとして、私はどうすれば良い!?傷を負わせまいと!危険から遠ざけようと!そうしたかった私は出来なかった!…教えてくれ…教えてよ…キリエ…アミタ…!私は…!」

 

持ち上げられていたキリエの身体は、ゆっくりとその足を地へとつける。程なくして、胸倉を掴んでいた手は離れ、ハルは力無くしゃがみ込む。俯いた彼女の肩と頭は小さく震え、白い前髪と身長差によってその表情は窺い知ることは出来ない。しかし、その死角から、ぽたりぽたりと…茶のタイトスカートを流れ落ちて濡らす物を鑑みるに、想像は容易であった。

 

「…ごめんなさい。正直…幼馴染みの貴女と確信が持てて…舞い上がっていたみたい。でもそれがまさか…あんな結果になるなんて、想像出来なかった…。」

 

自身の知るハルは、例え数年の付き合いの中で、静かに怒る少女だったのを覚えている。それだけに、あそこまで大声を張り上げることはなかったハルが、怒りを露わにしている。そこまでに思うところがあった、と言うほかない。

 

「…正直私も、ハルが少しずつでも私達の事を思い出すのが嬉しい反面、お世話になっていたヒカリさんがあぁなってしまったのには、何も出来なかったことにもどかしさすら感じます。」

 

でも、と言葉を繋ぐアミタ。

 

「ここでこうして怒りをぶつけ、後悔を嘆き合って…それで事態が好転すると思えません。現にユーリ…砕け得ぬ闇は…その力を蓄えているのですから。」

 

「………そう、ね。」

 

「………。」

 

キリエは視線を逸らしながらアミタに応じ、ハルは無言で…俯きながらも立ち上がる。それを見て2人が未だ折れていないことを確信したアミタは、強化ガラスの向こう側で横たわるヒカリに視線を移し、その表情を一瞬、ほんの一瞬ではあるが、その表情を曇らせる。しかし、すぐにその眼を鋭く、力強い物へと変え、踵を返し、ブリーフィングルームへと歩を進める。しかし、数歩の所で歩みを止めた。

 

「それに…ハル。ヒカリさんが目覚めたときの言葉は、どうして庇ったのか?っていう疑問とか、すまない。とかの謝罪ではありません。」

 

「…では、どうすれば良いのだ…?」

 

「簡単ですよ。」

 

振り返った彼女は、口許をつり上げながら言う。

 

ありがとう、と言えば良い。と。




ハルが身に着けていたペンダントの宝石の欠片についてはおおまかに言えばナデシコのチューリップクリスタルに似ています。
空間と時空を跳ぶ的な意味で。
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