「フェイトは照れてるし、ヒカリはちょっと引きつってるわね…。」
出来上がったプリクラを見て発したアリサの第一声がこれである。
彼女の言ったとおり、件の2人はというと、フェイトは顔を赤らめて目を細めているし、片やヒカリはというと、如何したものかと出した、作り笑いがありありと現れた笑顔だった。
「まぁまぁアリサちゃん。これはこれでえぇやん。初めて、って言うんが感じられて、味があると思うんよ。」
はやてはと言うと、前情報もあったからか屈託のない笑顔が映し出されていた。そんな自分の写り具合に満足して、皆に少し支えられつつ筐体から出た彼女は、松葉杖に手を伸ばし掴む。
…つもりだった。しかし、目的のソレは床へ乾いた音と共に倒れ伏した。何もなく倒れたなら、立て掛け方が悪かったのか?と思ったが、明確な理由があった。
白いシューズを履いている足。おそらく運動靴か何か。そこから順に見上げていくと黒いズボン。合わせて同じ色の学生服。…地元の中学生だろうか?4~5人くらいでつるんでいる。春休み中だろうけど、もしかしたら部活帰りなのかも知れない。
そんな彼らが、『はやての松葉杖を蹴り倒していた。ぶつかったとかではなく、明らかに故意で』。
「松葉杖なんか置いてんじゃねぇよ。通行のジャマだっての!」
「あ…、えらいすんまへん…」
はやてが倒れた松葉杖を拾おうと屈んだ。歩くのは無理でも、筐体に手を添えながら何とか手を伸ばす。しかし、彼女の手が届く寸前に、彼らは松葉杖を蹴り飛ばしたのだ。カラカラと音を立て、ワックスのかかった床を滑り、ゲームセンター入り口付近へ。
あまりの行動に6人は、終始唖然としていた。
「ナイスシュート~!ヒャハッ!」
「ホレホレ!取って来いよ!歩く練習だぜ!練習!」
「ギャハハ、お前鬼畜だな~!そこにシビれる!憧れるゥ!」
「あ、アンタ達…!!」
流石のアリサもさることながら、すずか、フェイト、なのはも憤慨の意を示していた。ここまでされて怒らない、と言う方がおかしいだろう。友達に対してやられたのだから尚更だ。
ギュッと握り締められた拳は鬱血しかけ、怒り度合いを示すように。拳を振るわせていた。
「あ?文句でもあるぶふぁッ!?」
再び難癖付けようとした中学生の頬に、膝が食い込んだ。結果的に不意を突かれた彼は、その衝撃に踏ん張りきれずに倒れ伏した。
後に中学生は語る。
『あ、ありのままにあの時起こったことを話すぜ…。
「オレ達がガキにいちゃもん付けて相手をビビらせるつもりが、逆にビビらされた。」
な…何を言ってるかわからねーと思うが、オレ達も何をされたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった…。ガキの家族が出てきたとか、警察がいたとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…』
と…。
本当に何を言ってるかわからねー、と関係者は語る。
キレる。
この言葉を聞いたら大抵は、
プッツンした。
とか、
怒髪衝天。
を想像する。なのは達は生まれて9年。フェイトはソレより少ないが、それでも記憶の中では本気でキレた人間というのは見たことはない。そりゃ、親や兄弟とか家族が怒ったり怒られたりする場面もある。しかしそれでも怒りの度合いはその時々だ。
しかし目の前にはその人間がいた。ポニーテールの金髪を靡かせて。まるで自身の気持ちを表すかのようにゆらゆらと揺れていた。風もないのにワンピースも靡く。こちらが怒るより先に、膝蹴りで相手を床に沈めた。自分よりも体の大きな中学生を、だ。
「てめえ…!Dさんに何しやがる!」
「…はやてに謝れ…」
「あ?ジャマなモン蹴っ飛ばして何が悪いってんだ!?お前は今までに蹴った石の数を覚えているのか?」
「面倒くせぇ!帝緒君、ヤッちまおうぜ!」
まるで軍隊式のように整った動きで4人はヒカリを取り囲む。小学生相手に大人げないものだ、と端から見れば感じる。各々が構える中、ヒカリはニュートラルのまま構えない。腕を降ろし、肩幅に足を開いているだけだ。
…ただ、眼だけは違う。それは猛禽類を思わせる。…そう、まるで中学生を、フェレットなど小型のほ乳類の獲物として見据えるように…。その眼はどこまでも冷たく。
「キミ達はボクを怒らせた。」
ゲームセンターは戦場…いや、修羅場と化した。
一言で言うと凄絶なものだった。
数分後には中学生はぼろぼろ。ヒカリは肩で息をしているだけ、と言う普通では考えられないような差の光景が広がっていた。
そして誰が呼んだか3人の警官が到着。中学生と6人は、ゲームセンターの事務所で事情聴取を受けることになった。
正直言うと、中学生は厳重注意を受けた。ヒカリも無罪放免とはいかず、彼らほどではないが軽い説教を受け、他の5人や野次馬の証言から、負は中学生側にあるとして解放された。
「もぅ!ヒカリちゃん、無茶しすぎや!心配したんやで!!」
帰り道。警官の次は友人からの説教だった。
がみがみ。
擬音で発するならこうなるだろう。
怒号を発するはやての表情は厳しい。それに反してヒカリは借りてきた猫のように大人しかった。さっき、あれほどまでに大立ち回りを演じていたのと同一人物とは思えないくらいに、だ。
「せやけど、ありがとうや。ヒカリちゃん、私のために怒ってくれた。嬉しいんよ。嬉しいんやけど…やっぱり喧嘩はアカンで。」
「ハイ…、レバーに命じます…。」
「でもま、ヒカリが吹っ飛ばした瞬間、胸がスッとしたわよ。あのままだと、鬱憤が晴れなかったわ。」
「そうだね。私も正直言うと…。」
アリサとすずかもヒカリのフォローをする。正しい行動をしていたか、といえば、YESと言い切れないのもある。しかし、少なからず、彼女の行動が心を救ったと思う2人。
「でも、ヒカリちゃん。話し合うのも大事だよ?力だけじゃわかり合えないから。」
「うん。冷静に、平和的に対処するのも必要だからね。」
こちらはなのはとフェイト。話し合って穏便に済ませたいというのも、解決策として大切な一つの方法だと2人は言う。この2人が言うと妙に説得力があるな、とはやては語る。
「でも凄いよね、あれだけの人数相手に無傷なんだもん。」
「そうやね、なんや後ろに眼が付いとるんかと思う位の動きやったし…。」
すずかとはやてはヒカリの動きを思い出す。一撃も攻撃を受けることなく立ち回った彼女は、確かに凄いものだった。格闘技をしていたかのように躱し、的確に打ち込んでいく。…さすがに9歳さながらの筋力では決定打を与えられていなかったが…。
「もしかしたらヒカリは空間認識能力が高いのかもしれないね。」
「クウカン…ニシキ?」
「空間認識、space perceptionね。空間知覚とも言うわ。」
フェイトが言うには、視覚や触覚、聴覚を通して空間を認知する力だという。距離を目測するのもこの力を使うんだとか…。その恩恵で、死角の状況もある程度把握して躱していたのではないか?と言うのがフェイトの見解だった。
実際なのはも空間認識においては類い稀に見る認識力を持つが、ソレはまた別のお話。
「へぇ……ボクは勘で避けてたケド、そんな理由があったのか…。」
意外な自分の才能を見付けてしまったことに喜んでいいのやらなんなのやら。ちょっぴり複雑な気分のヒカリ。使いどころ、と言うのも少々分からないし、発見の理由が喧嘩というのも喜んでいいのか解らずにいた。
皆と別れた帰り道。自宅のマンションに向かう中で、ヒカリは今日のことを振り返った。
引っ越してきた翌日にここまでたくさんの出会いがあって、たくさんの友達が出来て…。これからの日々への不安を感じていたアメリカを発った日。向こうにいた沢山の友人が見送ってくれた。月並みだけど泣いたし、日本への思いが少し揺らいだ。正直憧れと言うだけでこちらに来たので、両親や友達もわがままに付き合わせてしまった結果だ。
でも自分で決め、進んだ道だからこそ、しっかりと歩む。不安と共に日本にやってきた矢先、こんな良い出会いがあったことを喜ばしく感じた。不安が消えたわけではない。けれど今日という日を、大きなプラスになるであろうと考えて、ヒカリは明日からの学校に備えて帰路を急いだ。
と、コツンと靴の爪先に当たる部分に何かが当たる。小石かと思って下を見れば、その想像は儚くも?崩れ去った。
紫の石だった。
しゃがんで拾い上げてみる。
「ハテ…?宝石…?もしかして、願いを叶えてくれる…とか?」
何かしらの装飾がされていそうなほどに綺麗な光沢を放っているが、割れているのか断面のように見える部位がちらほらあった。しかし、一方で宝石の外面らしくしっかりと形が整えられている面もある。恐らくは一つの大きな宝石だったのだろう。ソレが何らかの原因で破損した欠片が転がっていた、とも考えられる。
「アメジスト?にしては…濃い…?」
沈み駆けた夕日にかざすと、オレンジの光と合わさって息を呑むような美しさに。
これは良いものを拾ったな、と思いつつも、落とし物は警察へ届けないとならないことを思い出してポケットにしまう。
「明日、ガッコー帰りに届けよう…ウン」
そのまま帰路に着いた。…しかしこの行動が、ヒカリの将来を左右するものとは、誰も知る由も無かった。
あれから特に変わったこともなく、マンションに帰って夕食を済ませてシャワーを浴びて。翌日の学校の準備を済ませた。床についたのは22:30。本当に特に変わりなかった。寝付きが悪かったわけでもないし、頭の中にヘルプの呼びかけもなかった。
…そう、明け方までは。
『ぁ…の………』
ヒカリは呼びかけられていた。熟睡している中に声を掛けられているし、呼びかけの声も小さいので気付かないで寝続ける。もぞもぞと布団の中で体位を変えて微睡みに沈んでいく。まだ夜中は肌寒い。いくら桜が咲いている季節の真っ直中でも、寒い日は寒い。自らの体温によって暖められた布団の中がたまらなく心地良かった。
あぁ…幸せ…。
『あのぅ…すいませ~ん……』
そんな幸せを遮ろうというのか。すこし眉を顰めながらも、夢の世界へ旅立とうとするヒカリ。こんな朝早くから新聞の勧誘か?それとも訪問販売か?何にせよ、このままスルーするに限る。
『うぅ~…どうしよう…起きてくれません…』
めそめそ。
なにやら涙声になっていた。流石に『GODのFACEもTHIRDまで』という、諺?が日本にもあるように、そろそろヒカリも目を覚まさざるを得なかったようで。もっそりと体を起こした。
眠たげな目をこすりながらカーテンの方を見れば、ほんの少し明るい程度。時計を見れば、まだ日が出るかどうかの時間帯だった。目覚ましをセットした時間までは数時間ある。
「ムム…二度寝のチャンス…」
『あのっ…!』
半開きの眼で声のする方を見る。か細い声だけど、近くから発せられているのは分かる。何度も何度も安眠から覚まさせようとした声だ。こんな未明に何の用なのか?
見開いた先にいたのは…
『お、おはよう…ございます…』
金の髪をした少女の幽霊だった。おあつらえ向きに半透明というオプション付きで。
「ボクは疲れているんだ…だから女の子の幽霊なんて…」
現実逃避。ぽふっと枕に頭を置いて寝ようとする。
よし、ボクは何も見ない聞かない覚えてない。
そう自分に言い聞かせて、必死に二度寝に浸ろうとした。
『そ、そんなぁ~…起きてください~…幽霊じゃないですよぉ…。』
ひとまず体を起こし、現状を自分の中で整理してみる。
確かこの部屋の契約をしたとき、ワケありとかそう言うことの説明はなかった。事故があったとか、ゴニョゴニョがあったとか…。
となると、目の前にいる少女の霊?はなんだろう。取り憑かれたとか地縛霊とか、そんな感じだろうか?となると、御祓いの類いを…。
『だから、私は幽霊じゃないですよぉ……』
「え?ボク、口に出してしゃべって…?」
再三涙目になる幽r…もとい、半透明の少女。見た感じではヒカリと同い年、もしくは1~2歳下だろうか?背も少し自分より低く感じるし、幼い感じも拭えない。白を基調とした紫のラインが入った服。下半身はニホンのミコ、というエクソシストが履くというハカマ、というズボン。これには燃え上がる炎のような模様が施されている。そして何より寒くないのか、ヘソまで出していた。
「とりあえず、君は誰なの?」
『私は…ユーリ…ユーリ・エーベルヴァイン…といいます…』
「ユーリ?へぇ…可愛い名前だぁ」
『そ、そんな…可愛いなんて…』
目の前のユーリと名乗る少女は頬に手を当て、照れくさそうに首を振る。
「ユーリは…どうしてこんな所に?」
『えっと…貴方が昨日拾った宝石の欠片…ソレが原因だと思います。』
ユーリとヒカリが目をやると、机の上に置いておいた紫の宝石。それが真っ暗にもかかわらず、淡い光を放っていた。光るだけではなく、欠片から紫の光の粒子が漏れ出しているのが分かる。
「えっと……今一つ理解が…」
『んと…そうですね、あの宝石…エグザミアと言うんですが…、元々一つの宝石で、私は有り体に言えばそれに宿る精神体…みたいなモノと考えて貰ったら…』
なるほど、とヒカリは頷く。昔読んだ本とかでも、長い年月を経て万物には魂が宿ると書いてあった気がする。御伽噺の類いと思っていたが、いざ目の前にそれを証明するかのようなモノが存在しているとなると、信じざるを得なくなる。
ユーリと名乗る少女曰く。このエグザミアの欠片を集めて欲しいそうだ。そうすれば記憶を取り戻せるし、自分の忘れた大切なことも思い出せるらしい。
「ソレは構わないケド…どこにあるかも分からないんだよ?」
『大丈夫です。何となく…ですけど、近くに欠片があったら、私が感じます。ですので、欠片を持ち歩いて頂けると、大体の位置を教えますので…』
「なるほど、カケラ同士、引かれ合うのかな?…OK、出来るだけ、ユーリを助けるよ。」
トンと自身の胸をたたくヒカリ。端から見れば微笑ましい行為だが、心細いユーリにとっては頼もしく見えるわけで。
『よろしくお願いします…、その…』
「ヒカリ、ヒカリ・如月。ヒカリって呼んでくれたら…」
『よ、よろしくお願いします……ひ、ヒカリ……………さん…』
…親しみを込めて呼び捨てて欲しかったヒカリだったが、見た限り少し人見知りがある宝石の少女には、時間を掛けないと難しそうだと思った。
「とりあえず今まず、する事があるッ!」
『はい…でもソレは一体…?』
首をかしげるユーリに、声高らかにこう叫んだ。
「起きる時間まで、二 度 寝ッ!」
ガバッと布団を頭までかぶって、次の瞬間には寝息を立て始めたヒカリ。素晴らしくも呆れそうな、いい寝付きっぷりだ。すこし唖然としつつも、ユーリも力の温存のためにエグザミアの中にて眠りについた。
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