魔法少女リリカルなのは 未来への系譜   作:ロシアよ永遠に

9 / 48
Mission7『それぞれの夕餉』

高町家リビング

家族がくつろぐためのソファ。それに座りつつコーヒーが飲めるようにテーブルも備え付けられ、それとは別に食事用の食卓テーブルに家族の人数分の椅子。普通の家のそれと何ら変わらないこの場所の食卓の上に、豪勢と表現して違和感がないような食事が並べられていた。綺麗に彩られたサラダに、トマトソースが決め手のラザニア。香辛料を振りかけて香ばしく焼き上げ、その香りが食欲をそそる手羽先。他、細々とした一品が並べられている。

 

「す、凄い料理だね、お母さん…」

 

「当然よ。短い間とはいえ、新しい家族が増えるんだもの。歓迎は盛大にしないとね。」

 

嬉々として取り皿やフォークなどの食器を並べつつ、なのはの驚きの声に桃子は答える。

そして歓迎の中心人物たるハルは、手伝いを見ている最中、どうすれば良いのか困惑していた所、道場にいる他の三人を呼んでくるように頼んだところ、素晴らしい敬礼と共に向かっていった。

トウモロコシのポタージュを盛り付けて並べていると、丁度4人が戻ってきた。

 

「おぉ~!すっごいご馳走~!」

 

「ま、祝い事みたいなものだからな。そう聞いて腕を振るわない母さんじゃないさ。」

 

「うむ、流石桃子さんだ。こんな料理上手な奥さんがいる僕は幸せ者だな。」

 

「まぁ、士郎さんったら♪」

 

最終的には桃色空間を広げる親に苦笑いを浮かべる三人の子供。遅れて入ってきたハルも、目の前に浮かぶ甘い空間に目眩がするほどに。

 

「…なんだこれは。入る部屋を間違えたのか?」

 

「いやいや、ハルちゃん。間違えてないから。」

 

現実逃避しながら部屋を出ようとするハルを必死に止めるなのは。

ひとしきりいちゃついた士郎は、皆が何故立ったままなのかを疑問に思い、座るように促す。目の前の空間がアレ過ぎて座ろうと踏み出せなかったことは誰も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…これで欠片も三つ目かぁ…。」

 

ハラオウン家を後にしたヒカリは、皆と別れた後にエグザミアの欠片を探してしばらく歩き回った。海鳴市の自然公園を探していたら、林の中から反応がある、とユーリの知らせを受けてなんとか見付けた欠片。文字通り草の根かき分けて探し、欠片を見付けてホクホクしていたところで、公園から出て行く見知った顔を見かけた。

 

「あれは…確か…」

 

こっそり木の陰に隠れて見ていると、学校のクラスメイトの姿が見えた。なるほど、犬の散歩の帰り道だろうか。シベリアンハスキーを連れて歩いていた。

…声を掛けようか、と思った矢先、今の自分の格好を見て思いとどまった。

白のワンピース。

青のカーディガン。

自慢するわけではないが、見るからに女子の服装だった。これを彼に見られれば、たちまち女子とバレてしまう。

 

「が、我慢我慢…。」

 

そう視線を逸らそうとしたとき、気になるものが見えた。

 

金髪。

 

誰かを背負っているのだろうか。コートを羽織らせているので詳しいことは分からない。彼の知り合いかも知れないし、プライベートの事もあるから、あまり気にしないようにして彼に気付かれないようにその場を後にした。

 

 

 

 

 

『ふぅ~…』

 

目の前には、夢見心地で、まるで寒い日に温泉に入ったかのような、そんな表情を浮かべるユーリがいた。

最初は半透明だった彼女だが、今回拾った欠片が他の二つに比べて少々大きかったからか、その分取り戻した力も大きかったようで、その力がユーリ自身に浸透していくことで、半透明だった身体が、段々と透き通りがなくなっていった。

ちなみに二つ目の欠片を見付けたときは、起きていられる時間が多少延びたくらいだった。

 

「すごいです…。この欠片で大分力が取り戻せました~。」

 

「お~!本当だ。幽霊じゃなくなってるよ」

 

感心するヒカリに、幽霊じゃないですよ~、と抗議するユーリ。ペタペタと髪や手を触っても、人間のソレと変わらない触感だったし、暖かみもある。

ふよふよと半透明で浮いていた頃に比べて、これなら人前に出ても何ら違和感なく過ごせるだろう。

 

「あ、でもなんだか一つ気になることが…」

 

「???」

 

「今回の欠片。何だか大きさに比べて力を消費していました。…誰かが吸い取った後だったのかな…。」

 

ユーリが言うには知識とか機能とかの基本的な構造は問題なかったものの、蓄えられたエネルギー。所謂『魔力』が減っていた、と言うことらしい。これ自体は、自然と周囲の空気から吸収補充出来るので何ら問題は無いが、何となくその消費されていたことが気になる。

 

(あの場に居たかも知れない人…、あの背負われていた金髪の人?…いやでも、確証はないから…)

 

ユーリは今のところ可能性の高いものをあげていくが、決め手に欠けるとして、 思考を止めた。実際、時間さえあれば元に戻るし、エグザミアの本体自体は残っていたので、単純魔力だけが引き出されていた事だけしか問題ではなかった。魔力があっても、それを利用するための術式、そして魔力を変換し、魔法を発動する詠唱が要る。

つまり起承転結。

起を魔力とし、

承を術式、

転を変換、

結を発動。

これらが揃うことで初めて『魔法』という科学式が完成するのだ。

つまるところ、それほど高くない魔力だけでは人畜無害であり、術式を知らない人間であれば何の役にも立たない。

 

「ユーリ、ユーリは幽霊じゃなくなったらご飯食べれるの?」

 

ひょっこりと台所から仰け反るような体勢で首を出すヒカリ。どうやら夕食を作っているようで、道理でさっきから姿が見えなかったわけだ、とユーリは納得する。

 

「あ、はい。食べれます…って、だから幽霊じゃありませんよ~…」

 

1人寂しく、その言霊は相手に届かないようで、空しく室内に響いていた。

ユーリはひょっこりと台所に顔を出して覗いてみた。トントンとリズミカルにまな板の上で刻まれる野菜。フライパンで焼かれるこねられた挽き肉の塊。そしてそれによって漂う、香ばしくなんとも食欲をそそる香り。ぐうぅ、とユーリの腹の虫が可愛く鳴いた。

 

「あぅ…」

 

「もう少しまってねユーリ。」

 

恥ずかしがるユーリに苦笑しながら、ボウルにサラダを盛り付ける。両面しっかり焼き上がった肉の塊を皿に移し、同じフライパンで焼き上げた星形に切った人参と、湯がいたブロッコリーを添える。特製ソースを掛ければヒカリ特製のハンバーグの完成だ。

ヒカリは台所に引き返すと、それぞれの用途に分けて皿を二枚ずつ、食器棚から持ってくる。ちなみに常備してある枚数は、なのは達と知り合ってから少なかった物を買い足しておいた。既に彼女らはヒカリと2~3回ほど、この家で食事をしている。その際、予定日の前に皿をそれぞれ10枚程。そのおかげで食事会は恙無くすんだ次第である。…ちなみに、はやての持ってきた自作の料理に舌を巻いたのはまた別のお話だ。

 

「さ、ユーリ。冷めないうちに食べよう?ボクもお腹空いちゃったよ。」

 

「あ、は、はい。そうですね。」

 

ヒカリの対面に、擬音で表すならチョコンと座る。…少し椅子が高いのか、足が宙ぶらりんになっていた。

皿にハンバーグ、サラダをそれぞれをよそい、ユーリの前に並べられた。主食はロールパン。ちなみに桃子が勧めてくれた市販の物。ヒカリも気に入っており、定期的に近くのスーパーで購入している。

匂いに負けて、ナイフとフォークを手に取るユーリをヒカリは制止した。

 

「ヒ、ヒカリ、ここに来てお預けは生殺しですよ~!」

 

「あ~、違う、違うよユーリ。この国では食べる前にこうするんだよ。」

 

そういうとヒカリは自身の前で小気味よい、パチン、という掌を合わせる音を鳴らし、静かに目を閉じた。

 

「頂きます!」

 

目を見開いた先には、不思議そうな顔をしてヒカリの顔を見るユーリ。どうにも意味が分かっていないようで、首をかしげている。

 

「えっとね?これは食事前の挨拶みたいな物なんだ。料理は鳥とか野菜。そう言った動植物の命によって成り立っている。だから、食事の前に祈って、『命を頂きます』という感謝を込めて食べるようにしているんだよ。」

 

「ふぇ~、この世界の文化、と言うか、風習は深い物があるんですね~。でも考えてみたら納得ですよ~。」

 

ユーリも習って、手を合わせて感謝の念を祈り、呟いた。小さく、頂きます、と。

少し置いて、片眼をちらっの開けてヒカリの様子をうかがう。笑顔で頷くと、ユーリもつられて頬笑み、二人の、初めての食事がようやく始まった。

そして、ユーリの舌に革命が起こったとか。

 

 

 

 

 

 

 

第一管理世界『ミッドチルダ』

魔法技術が著しく発達したこの世界は、管理局が地上における本部を設けているとあって、その周囲に首都たるクラナガンが大都市として栄えている。人口もさることながら、交通機関はもとより、各種店舗や各分野における企業、公共機関がある。それを中心として囲むように居住区画や学校が軒を連ねる。

しかしその中には繁栄の名残、いや、代償と言わんばかりに、郊外には廃墟区画が存在し、かつて発展の中心を担っていた面影を残している。

その一角。そこは、管理局地上本部が管轄するエリアで、主に魔導師ランクアップ試験などを行うフィールドとして、古い建築物をそのままにして使用している。

かつてはマーケットがあったのであろう大型駐車場に、管理局所属の大型車両が停車している。重厚そうな装甲の中では、白衣を着用した科学者、と思しき風貌の男女が目の前にあるディスプレイの数値を目に焼き付けていた。

 

「こちらホーク1、スワロー1聞こえるか?」

 

そう口にする男はざんばらに切られた黒髪に黒い瞳と、二十代くらいの若い印象を受ける。体型は痩せ形で、逞しいとはいえない。

彼の前には半透明で緑色をした仮想ディスプレイが展開されていた。車両後部の乗降口を開いて身を乗り出し、空を仰ぎ見る。

悪くない空だ。青々とした、雲がほとんど無い、いわば快晴だ。こんな日は休暇を取って、妻子とピクニックに行きたい物だ、と一瞬思ったが、すぐにその雑念を頭の隅に追いやる。

 

『こちらスワロー1。感度良好。問題ない。』

 

返ってきたのは中年と思しき渋い男の声。SOUND ONLYと表示されているディスプレイだからか、声だけの返信で姿は見えない。だが通信でよくあるくぐもった声ではなく、すぐ隣に居て喋っているかのように非常に感度が良い。

 

「ふむ、音声通話の感度は基準値を満たしているな。機体の動作はどうだ?不備などはないか?」

 

『問題ない。マニュアルにあった通りに動かせる。しかし…。』

 

「ん?どうした?何か問題でもあったら遠慮無く言うんだ。その為のテストなんだ。」

 

『ふむ、問題と言えるかどうかは微妙なんだがな。如何せん、反応が敏感すぎる。どれだけ反射神経の高い奴に使わせるんだ?』

 

「そのへんは問題ない。人選は出来ているが、魔法戦は経験はゼロだからな。テストをさせるわけにはいかん。…そこでキミに白羽の矢を立てたんだ。」

 

『…成る程。右も左もわからん奴に、大切なテスト機を任せられんからな。それなら経験が豊富な奴にさせれば、いざという時の対応も出来る、と。』

 

「察しがよくて助かる。ま、キミなら問題は無いと思うがな。バルガス二等空尉。…さて、そろそろ次のテスト項目に移ろう。次は加速性能だ。」

 

 

バルガス・ライナー二等空尉。

時空管理局教導隊戦技技術班第三分隊隊長。数々の新兵器のテスターをつとめ、採用されたものは数が多い。緊急事態への対応もそつなくこなし、評価も的確に下す。欠点も的確に指摘し、挙げる改善点も本職が舌を巻くような物ばかり。お陰で彼が通した物はこれと言ったトラブルもなく、現場で活躍をするほどの信頼度がある。お陰で研究部の局員からは、ある人は疎み、ある人は我先にと彼にテスターを!という、両極端な評価が下っている。45歳というベテランで、近年は年齢から来る衰えからか、ランクも全盛期のAAAからA+まで落ちてはいるものの、培った経験と技術で一線を張っている。

 

「いやはや、主任も無茶するねぇ。仕事とは別に作った私物のデバイスのテストをしてくれとは。」

 

 

独りごちるバルガスの呟きは誰にとも聞こえない。先ほどの研究者へは通信を切っているので届くことは無い。

 

「…まぁ、無茶を通すのは俺達戦技技術班と研究部だ。さて、そろそろ始めるとしようか。頼むぞ、プロトタイプ。」

 

『了解。』

 

マニュアルの通りに、まずは飛行実験に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後。

地上本部の教導隊に宛がわれたオフィスで、バルガスは今回のテストタイプの試験運用における報告書を纏めていた。

取れたデータを傍らに、それに自分が実際に使用して感じてみたことを合わせて評価を下していく。

実際、使用してみて問題は無い。動作も難なくこなしていたし、これと言った誤作動も見当たらなかった。

 

「しかし、な。」

 

あまりにも敏感すぎる反応は今までのデバイスを使ってみている者にとってはマズいだろう。

自身の自慢では無いが、普通の魔導師が扱えば、その性能に振り回され、最悪墜落という危険性もある。バルガス自信も今回のテストで幾らかヒヤリとする場面もあった。

 

「さて、どう評価したものか。特定の人物用に調整されたワンオフ仕様の機体ならともかく、量産に関してはゴーサインは出せないな。するならもっとデチューンしてマイルドな反応にしないと、魔導師が振り回されちまう。」

 

書類には『要検討』の赤い印字を施し、ファイルに挟んで部下へ研究部に運ぶよう頼み付ける。

書類と部下を見送り、肩を掴んで首を軽くひねる。少しこっていたのか、ゴキゴキと音が耳に入る。

 

「やれやれ、俺も年かな。」

 

あまり使いたくない、それでもこってしまった理由として最もらしいものを呟いて、彼はオフィスを抜けた。

 

「お、バルガス二尉じゃないですかい。」

 

吹き抜けのあるエントランスまで出て来たところで、後ろから知った声に呼び止められた。気さくそうに片手を挙げ、挨拶代わりとしている。

 

「ナカジマ三佐、お疲れ様です。」

 

敬礼するバルガスに、呼び止めた人物―ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐―は照れ臭そうに、また気まずそうに頭を掻く。

 

「バルガス二尉、よしてくだせぇ。貴方さんに敬語なんてされちゃ、むず痒くて仕方ねぇや。」

 

「…一応、公的な場所ですので。」

 

「…やっぱ慣れねぇ。…まぁ一応なんですがね。今夜どうかと思って声を掛けた次第で。」

 

ゲンヤは、所謂『一杯どうだ?』を意味する、御猪口を傾ける仕草。それに納得したのか、あぁ、と察したバルガスは、お供します、と快諾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、娘っ子は順調かい。」

 

「えぇ、上が七、下が五になるんですかね。ホントに良く喰うし、よく寝ますよ。最初はどうなるかと思いましたがね。何とかなるもんです。」

 

クラナガンにある居酒屋。カウンター席に座り、世間話に花を咲かせる2人。徳利も数本空いており、2人の顔にも赤みが帯びてきている。肴に頼んだ焼き鳥も、串だけが10本はくだらない本数が皿の上に鎮座していた。

バルガスが敬語を使わないのは、仕事上ではゲンヤが上階級ではあるものの、局員と人生でのキャリアは彼の方が長いもので、プライベートになるとこうなるのだ。その辺りはゲンヤも承知しているし、仕事の無いときくらいは、バルガスに肩肘を張らずに話をしたいとも思っている。

 

「まぁ、お前のカミさんが2人を拾ったときは俺もビックリしたもんだ。野良犬や野良猫じゃねぇんだから…。」

 

「まぁ…その。カミさんが中々授かりにくい体質だったからですかねぇ。だから余計に喜んだんだろうし、俺も反対はしなかったんですけどね。…ま、娘みてぇなのも、も1人居るっちゃ居るんですが…。」

 

「も1人?なんだい、とうとうクイントもおめでたかい?」

 

ニヤニヤとゲンヤに絡むバルガス。

 

「いや違うんですよ。…ウチの部隊のじゃじゃ馬が、ね。また無茶をやらかしまして。」

 

「あぁ、エルトリア准尉か。一度戦い方を見せて貰ったことがあるが、悪かない。無茶な動きも多いが。」

 

そういうと、徳利を傾け御猪口に酒を注ぐ。

が、空になったのか雫が数滴落ちてくるだけ。バルガスは大将にお代わりを頼む。

 

「…まぁそいつがですね、ハラオウン執務官と任務にあたったんですがね。」

 

「おぉ、陸海合同任務かい?結構話に上がってたな。両方のホープがコラボするっつう…。」

 

「えぇ。その任務なんですがねぇ。無茶やらかしまして。有休消化って意味でリフレッシュ休暇を強制的に取らせたんです。」

 

大将がカウンター越しに渡してくれた徳利を受け取り、ゲンヤの御猪口に注いでいく。ゲンヤは一礼し、ぐいっと一気に喉へ流し込んだ。

一息、ぶはっと酒臭い息を吐き出す。酔いが回ってきたのか、ため込んでいた物がすこしずつ彼の口から吐き出してくる。

 

「あいつぁ、もう少し周りを頼ることが出来ないんすかねぇ。ウチの任務でも突出が多いし、任務は達成できても生傷が絶えねぇ。…あんな若ぇ内から身体を虐めて、ガタがこねぇか心配で…。」

 

語る彼の顔には、年頃の娘への接し方に困る父親のそれが浮かんでいた。

あと十年前後すれば再び同じ顔をするのだろうか。

 

「…ホントに准尉の親父みたいだな。ま、年端もいかねぇ子供を登用して、戦場に送り出す準備をしている俺らもそう言う気持ちもあるっちゃある。」

 

バルガスも自分の器に酒を注ぐと、一口。

 

「だがよ、子供っつうのは構ってやるだけじゃ無くて、時には見守ることも必要なんだと思うんだ。…無責任な言い方かもしれんが、自分で成長するのを見て、道を外れそうになりゃ手をさしのべる。あとは…まぁ、無茶できねぇ理由でも作るか、だな。」

 

「無茶できねぇ理由?」

 

「あぁ。自分にもしもの事がありゃ、アイツはどうなるんだ~?みたいな存在だよ。お前もカミさんも、子供が居るから昔ほど我武者羅に仕事に打ち込んでねぇだろ?それと同じだよ。そうすりゃある程度は自制が効くと思うんだがね。」

 

御猪口に残った残りの酒を飲み干す。

 

「バルガスさんにゃ…そう言う人は居るんですかぃ?」

 

「俺ぁ、お前さんみたいに結婚もしてねぇし、子供も居ねぇ。…だがよ、空を羽ばたこうとするひな鳥の翼がもがれねぇように、落ちねぇように見守るのが俺達の役目だ。偉そうに言う義理は無いが、俺は今の仕事が現役で居られるように続けてぇ、いや、続けなくちゃならねぇ…。1人でも多く、自由に空を飛べるように。…まぁ俺は専ら新製品のテストだがよ。…ただ、そいつらがひよっこ達をしっかり飛ばせるようにしてやるのが俺の役目だからな。そう言った意味合いじゃ同じかもしれん。」

 

「…それが、バルガスさんが昇進の推薦を蹴った理由ですかい?」

 

「…まぁな。皮肉なことに階級っつうのは、高くなりゃ権限が増えて、逆に前線や教導に出る機会が減る。そうなると窮屈でよ。俺はどっちかと言えば教鞭奮って、テストをして、体を動かしてぇ質なのよ。」

 

かかかっと苦笑する彼は、何処か楽しげで…。本当に教導隊が好きなのだと感じられた。

局員としてのキャリアは30年。その中で武装隊のエースとして前線を張り、のちに教導隊へ志願して数多のデバイス等をテストしてきた彼は、管理局指折りの大ベテラン。実力を知る人は数多おり、ゲンヤも自らが入局した当初から知る相手だ。良く助言も貰ったし、こうやって一緒に飲みに行く仲。面倒見も良く、尊敬に値する人物だ。ただ、彼に関する謎は二つほどある。

一つは結婚しないこと。勿論見合いとかそう言った話題はある程度上がっていたが、本人にその気は無いのか、全て蹴ったという。

二つは二尉という階級。30年もキャリアを積んで、更にエリートである教導隊に所属し、未だ二尉止まりという謎。一説によれば上記の見合いに、管理局上層部からの勧めがあったが、それを蹴ったが為に睨まれて昇進が遅れているのではないか?と言うものだ。

一部では同性愛者ではないか?という妙なゴシップもあったが、そんなことは無いと、ばっさりと切り捨てていた。

だが、彼の心中はただただ、前線に立って、技術を後輩達に伝えたいという切なる思いがあった。

 

「…バルガスさん、すいやせん、相談に乗って頂いた上に、いい話まで…。」

 

「ったく…、言うなよ?絶対、言うなよ?こんなこと話したの、他にいねぇんだから。」

 

自分の心中を話したのはゲンヤがはじめてだったりするわけで。辛気くさい話を一旦止めて、2人は大いに呑み、大いに喰らった。

 

 

 

 

そして、ゲンヤはベロンベロンで家に帰り、クイントに大目玉を食らう。




こんな感じで7話です。
あとゲンヤさんとメタボ角刈り中将の階級については、現時点で解らないので元のままにしてます。知ってる人がおられたら一報願います!それでは!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。