辻堂さんの純愛ロード的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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第11話

「どもっす、正哉センパイ!」

 

 放課後、正哉と大たちが校門を出ると乾梓が待ち構えていた。彼女は正哉に近付き腕を組み親しげに声を掛けてきた。

 

「アズか…どうしたの?」

 

 少し困った顔で正哉は答えた。舌の根も乾かぬ内に現れた彼女にどう対処すれば良いのか解らなかったからだ。

 

「イヤだなーそんな警戒しなくてもいいじゃないっすか」

 

 梓はそう言いながら自慢の武器を正哉に押し当て周囲に見せ付ける。主に大へだが、効果覿面であったと梓は判断した。

 見た目は可愛いだけにあらぬ誤解を抱かせかねない。

 

「正哉、知り合い?」

 

「まあね。悪いけどここで別れよう、ヒロ」

 

 正哉は済まなそうな顔と仕草で大に別れを告げた。

 

「分かったよ。それじゃあまた明日!」

 

 大は幸い前方に坂東太郎を見つけ駆けていった。空気を読める事が此処では良い方向に動いた。

 

 

 

 

 

「ふぅーこれでお話し出来ますね」

 

「少しくっ付き過ぎじゃないか、アズ?」

 

 見た目は恋人同士の距離と見えるほど梓は正哉に抱き付いていた。嫌ではないがここは梓にとって敵地である。それと自身の安全も加味すればこの絵図は心底宜しくないと考えていた。

 

「迷惑っすか?」

 

「迷惑って言うか、ここでこんなことして大丈夫なの?」

 

「大丈夫っすよ。今日は由比浜の学生として正哉センパイに会いに来ましたから!それよりも何処か行きません?…目立って困るのは……アズではないっすよ」

 

 口を耳元まで寄せると、脅しの様な口振りで梓は話した。特に自分ではないと言い放った時正哉は背筋が凍る思いをさせられた。

 対して正哉は梓の言葉にハッとなり、ようやく周囲の視線に気が付き場所を変える事に決めた。

 

 

「いやー話の分かる人で良かったす!」

 

 二人は国道百二十三号線沿いに有るカラオケ店に入った。此処ならば周囲に邪魔されず、聞かれることもない。梓の計算通りに事が運んでいる事で満足気な表情を彼女は見せる。

 

「それで本当にどうしたの。幾ら由比浜の生徒って言ったって、江乃死魔の人間だって言うのは愛の仲間たちなら知っているでしょ」

 

「確かにアズは江乃死魔の幹部っす。でも正哉センパイに近付いたらダメとは言われていないっすよ。それに辻堂先輩にチクる事は無いと信じていますから」

 

 梓は平気で良心に訴え掛け、正哉に枷を嵌める。

 

「そりゃ言わないけどさ。ただマキがなー」

 

「皆殺し先輩?」

 

 梓も恐怖の対象者には敏感に反応した。目の前で被害には遭わずとも光景を見て、肌で感じていた。

 

「皆殺しって、呼ばれているのか。マキの奴?」

 

「そうっす。正に傍若無人!自分の気に入らないことは徹底して排除し、好きな事をやり抜く不良のお手本っす」

 

 梓の説明に所々当て嵌まると、正哉は頷いて聞いていた。気分屋なマキは時々我儘を言い放ち、正哉を困らせる事が有る。その際は暴力に訴えかけはしないが不機嫌さを撒き散らす。これが対不良では暴力へと変化するのだ。

 

「間違いではないな。確かにアイツはそんな感じで行動しているからな」

 

「あのー答えられる範囲で構わないので教えて欲しいっす。正哉センパイと皆殺し先輩とはどの様な関係?」

 

 江乃死魔の梓ではなく、乾梓としてその関係が知りたくなった。正哉の口から放たれる言葉に腰越マキと言う、人を近付けさせぬ人物に深く食い込んでいる事を感じた。だからこそ、どうしても知りたくなった。もしダメだと言われたら恋奈にも報告しない、それこそ誰にも言わないと約束しようと考えていた。

 

 

「話して無かったか、マキは幼馴染みだよ」

 

 ところが予想に反し、簡単に関係を打ち明けた正哉に梓は二重に驚いた。だが、これで梓の想いは氷解した。

 

「えぇ!幼馴染み!?あれっ、でも辻堂先輩も……」

 

「愛とも幼馴染みだよ。ただ俺を起点にしているから二人の接点は無いよ。それこそ喧嘩をしている位にね」

 

 水と油の関係、愛とマキを例えるとこれがシックリくる。以前二人は激しく衝突し、その時、恋奈を江乃死魔の総長片瀬恋奈へと変貌させる切っ掛けとなった。

 その時、恋奈と梓は出会い江乃死魔に参加している。

 

「もう少し踏み込んで聞きます。一緒に辻堂先輩の家に居たって…」

 

「どこまで知っているんだ。もしかして愛の舎弟の子が話したのかな?」

 

 マキと辻堂家に居た時を知るのはあの青い髪の子だと正哉は思い浮かべた。

 

 

「鋭いっすね。弁明しておくと、正哉センパイと皆殺し先輩の関係は知らない感じでした。ただ恋奈様が正哉センパイの事を尋ねた時、思い出した様に話してただけっす」

 

 梓は思いがけずフォローしたが、これも計算の内である。

 

「そうか。まあ何ればれることだからね。ただ余り言い振らさないでくれると有難い」

 

「別に言わないっすよ。ただ、そうっすね……またこうして会ってくれるなら、って言ったらどうします?」

 

 梓は上目遣いに正哉を見ながら言葉を掛けた。

 これには正哉もドキッとしてしまうほどの破壊力を持っていた。

 

 

「昨日の様な場所に連れて行かない?」

 

「恋奈様の命令がなければしないっす!」

 

 自信たっぷりに梓は答えた。だが、命令が有れば平気で行うと言うのが答えだ。

 

「愛とマキの迷惑に為るようなことはない?」

 

「一人で挑むとか有り得ないっす!!」

 

 前以上に自信を持って答えた。二人が揃った瞬間、逃げ出す事は梓の中では確定事項であった。

 

「分かった。ならこうしてまた会おう」

 

「あざっす、正哉センパイ!…あのー言っちゃなんですが、不良と会うって怖くないっすか?」

 

「いや、愛はキレると怖いし、母親の真琴さんはさらに怖い。マキも不機嫌の時はヤバいし、それに俺には暴君が居たからな。アズなんて可愛いものだよ」

 

 正哉の可愛いと言う言葉は梓自身に向けた言葉ではないと理解していた。だが、それでも可愛いと言われて内心嬉しい気持ちであった。

 

 

「うぇ…辻堂親子に皆殺し先輩っすか、たしかにアズでは太刀打ち出来ないっすね。でも暴君って何方です?」

 

 とここで梓の尋ねたことに対して、正哉の暴君に対する講義が始まった。

 名前こそ隠しているが、如何にして正哉が暴君と呼ぶようになったかを懇切丁寧に話す。

 

「有り得ないっす!?小学一年に対して掛けて良い技じゃ無いっすよ……」

 

 プロレスにハマったと言い出せば、決まって正哉と大が実験台となった。しかも可愛い技ならともかく、エグい技のオンパレードに梓は引いていた。

 

「だろ。俺と大も対抗して千年殺しを見舞ったが、暴君は『舐めるな、その倍だ!』と返り討ちにあったよ……」

 

 所謂、指を合わせたカンチョウである。二人は面白がって仕返しも込め挑んだところ、二人はあえなく遣り返されてしまった。

 その時暴君Sはよい子を犠牲とすることで、反撃に転じることが出来た。

 

 

「うう、なんか子供ながらに残酷っすね…」

 

「全くだ。以後その技の封印と暫くの間お薬が必要になったからな。暴君はそれを面白がって笑ってもいたんだ」

 

 しかし、正哉の話に梓は嫌ってはいないと感じる事が出来た。単に幼馴染みの傍若無人さが酷かったと言う程度だったからだ。

 

「何か良いっすね。色褪せることなく話せる幼馴染みの思い出があって」

 

 梓は思わず羨ましいと思ってしまった。それがつい別の言葉で口から漏れてしまった。

 

「まあたしかに良い思い出かもしれないけど、当時としては必死だったんだよ」

 

「まあ、そうっすね」

 

 そこでようやく梓は笑いだした。しんみりした空気を変えるのもそうだが、話を思い返すと笑いどころが満載だったと気が付いた。

 

 

「笑い事じゃないんだよ」

 

「わかってるっすよ、正哉センパイ!ほら何か注文しましょうよ。まだ歌ってもいませんし、此処に来た意味無くなっちゃいますよ」

 

 梓はそう言うとメニューを開き、独断で幾つかの料理を注文してしまった。その手際の良さに口を挟む事も出来なかった。

 

「おい余り多く頼むなよ。俺だって金そんなに持っていないんだから」

 

「分かってますよ。だから二人で食べられる物を三つ注文したっす!さっ、準備は整ったっすよ!歌いましょう。正哉センパイ!」

 

 元気になりすぎた梓に引っ張られるように、二時間集中して歌い尽くす。

 

 

 

 

 

「はあー歌ったっすねー正哉センパイ?」

 

 梓は店を出ると気持ちよく体を伸ばし体内から空気を吐き出した。それに正哉も同調して気持ちを入れ替える。

 

「ほんと、二人だから結構な数歌ったよね。それにアズの歌唱力に驚いた」

 

「いやーそれほどでもないっすよ」

 

 素直に誉められたことが嬉しいのか、梓は赤く頬を染めていた。たしかに恋奈たちともカラオケに出掛けて上手いかなと思ってはいたが、直接言われると照れてしまった。

 

「それにしても出会って二日目でこうして遊ぶとは思わなかったよ」

 

「同感っす。アズも思いませんでしたが、妙に合うような気がするっすね」

 

「不思議だね」

 

「ホントっす」

 

 二人は話ながら国道沿いを歩く。

 此処まで話題が尽きることが無い。だからこそ梓の言う気の合うという言葉が出てくるのだ。

 

 

 そして、さあ別れようかとしたところで、特徴的な髪型を二人は発見する。

 

「あのモッサリツインテールは…恋奈様?」

 

 やはり知り馴れた梓が最初に当たりを付けた。遠く離れていてもあの髪は発見し易いと改めて思い知らされた。

 

「隣にいる男はヒロの様に見えるが…」

 

 ここで正哉が確信を持てないのは、その平凡な特徴の無さだった。板東太郎曰く、『ヒロは十人並みの中の十人並み』と称す程に特徴が無い。

 隣に存在感溢れる恋奈が居れば、あっという間に消えてしまうのが大だった。

 

「それって暴君さんの弟?」

 

「うん。あの特徴の無さと、万物皆兄弟を標榜しそうな雰囲気は正しくそうだ」

 

 近付いた事で漸く正哉も確信を持って答えた。

 

「結構な言われようっすね。長谷先輩」

 

「それでどうする?」

 

 ここで何を、と答えない梓だからこそ分かり合えていた。

 

「取り敢えず二人を尾行しましょう」

 

「やっぱりそうなるか。よし、なら距離を詰め過ぎないように気を付けて歩こう」

 

「了解っす」

 

 そうして二人は後をつけるミッションが始まるのだった。そこに不運にも参加する羽目に為る人物が現れる。

 




 御一読有難うございました。

 
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