辻堂さんの純愛ロード的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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第12話

 正哉と梓はもっさりツインテールを発見し、尾行を開始して直ぐ思わぬ人物に遭遇した。

 

「マー君? それにあなたは…!?」

 

「よい子? 何で此処に?」

 

 二人が国道沿いを歩いていると、よい子が声を掛けて来た。彼女は買い物袋を持ち、驚いた顔で二人を見ていた。

 

「ええっと…… 私は此処のお店で買い物をね」

 

 よい子はホームセンターから出た訳を話し、正哉を納得させた。そして、二人の会話から梓は一人の人物を思い出す。

 

「ああ!! もしかして、千年殺しさんじゃねえっすか!?」

 

「ヒッ!?」

 

 よい子は反射的にお尻に手を回した。梓の声で二重に驚かされてしまう。

 

「あ、あなたは誰かしら……?」

 

「申し遅れましたっす! アズは乾梓っす! よろしくっす、千年殺し先輩!」

 

 その不名誉なあだ名で呼ばれる事はよい子にとって不快でしかない。それを知ってか知らずか、梓は遠慮することなく名前を呼んだ。

 

「乾さんね。お願いだからその名前で呼ぶのは止めてね」

 

 有無を言わさぬ笑みを浮かべたよい子に梓は黙って首を縦に振る。

 

「よい子って呼んでね、乾さん」

 

「分かったっす。よい子先輩…」

(やべぇ…… なんなんすか、この人。まるで辻堂先輩や皆殺し先輩を相手にする様な気がするっす! 見た目は善良な一般人に見えるけど……)

 

 梓は驚きながらも冷静によい子の事を考えていた。

 

「自己紹介はその位でいいかなよい子?」

 

「ええ、ごめんなさいね。もしかしてお邪魔しちゃったかしら?」

 

 『まずあり得ない』それがよい子の感想だったがそれは良子の考えだった。その為、初対面を装う為にもこの言葉は必要だった。

 

「ええ、正哉センパイとデートっすか!? ど、どうなんでしょう?」

 

 驚いた梓は顔を少し赤くして正哉を見た。その反応によい子は意外な感想を抱いたが、笑みを崩す事はしなかった。

「まあそう見えるかもしれないけど違うよ」

 

 ところが正哉は冷静によい子に言葉を返した。

 その際、残念そうな表情を見せた梓をよい子は見逃さなかった。

 

「そうなの? 結構仲が良さそうだったから、もしかしてと思ったわ。でもそうしたらどうして……こっちはマー君の家とは逆方向でしょ?」

 

 よい子の言葉に梓は大げさなリアクションを取って、正哉に声を掛ける。

 

「ああ、そうっすよ、正哉センパイ! 尾行、尾行を再開しないと!!」

 

 梓は正哉の腕を取る。恋奈と大の姿は、豆粒大に見えて相当距離が出来た事を実感した。

 

「本当だ。取り敢えず、よい子も参加な。行くぞ!」

 

「え、ええー!?」

 

 よい子は正哉に腕を掴まれると強制参加する事となった。

 

 

 

 

 

 三人が尾行をする対象、片瀬恋奈と長谷大は話せる様な雰囲気の無いまま歩いていた。

 そんな二人の出会いは、何気ない朝の登校時である。大の万人に優しくと言う奉仕の心と、恋奈の盛大な勘違いによって出会いが始まった。

 

「あんた長谷大だったわね」

 

「うん。そうだけど何、片瀬さん」

 

「長谷大。私が誰だか分かっているの?」

 

 恋奈の声は次第に怒りを含み、体も震え始める。ポンポンの様に彼女の髪も震え、バサバサと音が聞こえる様だった。

 

「うん。分かっているって、片瀬家の御嬢さんでしょ?」

 

 その恐れも抱かぬ長谷大に遂にキレた。

 

「だー!! 何なのよ、あんたは! 私は江乃死魔の総長片瀬恋奈なのよ!!」

 

「それも知ってるよ。この前稲村に来て自己紹介していたからね」

 

 ところが大はビビることなく恋奈に接していた。そして傷を穿り返す稲村という言葉、彼女はそれも気に入らなかったのだ。

 

「何なのよ、こいつ…」

 

「まあまあ、今日は片瀬家の片瀬さんとして接しているから気にしないでよ」

 

「あんたは気にしなさいよ! つーかビビれよ!!」

 

 泣き出しそうに話す恋奈に大は困った顔をする。周囲に人が居ないとはいえ、何処で見られているのか分からない。

 

「ほら、ビビりながらだと上手く行かないでしょ。だから丁度良かったね」

 

「もうヤダこいつ……」

 

 二人はこうしたやり取りの後無言と為り、何事もなく目的地へと移動を果たした。

 

 

 

 

 

「なんか恋奈様キレてますね」

 

「へぇー大が怒らせるなんて珍しいな」

 

「何をやっているのよ、ヒロ君……」

 

 正哉たちは二人を追い掛け、無事追いつくことに成功していた。しかし、意外と察しの良い恋奈が気付くといけない、と言う事で三人はある程度の距離を置き、隠れて見ている。

 

「それでどうします。正哉センパイ?」

 

「ヒロの家の関係かな…… テナントの下見ならそんなに時間掛からないだろ。ここで待って、出て来たところを突撃だ」

 

「了解っす!」

 

 楽しそうに話す二人に対し、よい子は溜め息を吐いた。止めたくても止められない、幼馴染二人が湘南勢力最大の総長と幹部と仲良くしているこの状況にジレンマを抱いていた。

 

 三人は時間を潰していると、正哉が予想した様に二人は出てきた。

 

「それじゃあ行きましょうか、正哉センパイ」

 

 梓は正哉に声を掛けると突撃を開始した。

 

 

 

 

 

「さて、これで終了ね」

 

「ありがとう片瀬さん」

 

「いいわよ。これも片瀬家の仕事だからね」

 

 二人がテナントを出て、恋奈が施錠を確認したところで梓と正哉が姿を見せた。

 

「恋奈様!」

 

「ヒロー!」

 

「ドュワ!? あ、梓!?」

 

 梓の声に驚いた恋奈はとんでもない声を出して反応した。

 対して平然と正哉に接する大だが、その後に続くよい子に驚く。

 

「あっ、正哉…それによい子さんまで?」

 

「ぐ、偶然ね、ヒロ君……」

 

 誤魔化し方にも程があると思われたが、そこは大をよく知るよい子の作戦勝ちである。

 

「そうだね。それに、正哉も一緒って本当に偶然だね」

 

「ええ、少しは疑う事を覚えた方がいいわよ。ヒロ君…」

 

 大はよい子の言葉を耳にする事はなかった。

 

 

 

 

 

「それで、何で此処に梓とあんたが居るのよ? それにあの女は誰?」

 

 恋奈は梓に詰め寄る形で説明を求め、最後によい子に指差した。

 

「お、落ち着いて下さいっすよ。恋奈様」

 

「これが落ち着いていられる訳ないでしょ。どうして梓がこいつと一緒にいるのよ?」

 

「アズが正哉センパイを出待ちして、一緒にカラオケに行ったっす」

 

 平然と言う梓に恋奈は開いた口が塞がらなかった。まさか平然と結んだ協定を破るとは思わなかったからだ。

 

「あ、梓、あんた何をしたのか分かってるの?」

 

「ええ、ですから江乃死魔のアズではなく、由比浜の乾梓として会いに行きました」

 

 恋奈はどっと疲れが出てきた。たしかにそう言う建前で会えば、あの辻堂なら問題視する事はないと恋奈は考えた。

 

「分かったわ。でも少し話があるわ。あそこの二人も含めて何処かお店で話しましょう」

 

 恋奈は大とよい子を見た後、梓たちに話した。

 

 

 

 

 

 恋奈たちはファミレスに入ると奥まった場所に案内された。

 

「これで邪魔は入らないわ。それに此処はウチの系列だから多少の無理も利くから気にしないで」

 

 恋奈は席に着くと説明して一同を安心させる。メニューも予め注文し、同じ軽食が提供された。

 

「それじゃあ、説明して貰いましょうか?」

 

 恋奈は梓を見て話し掛けた。それに頷いた彼女は説明を始める。

 

「先程も言いましたが、アズが稲村で正哉センパイを出待ちしてカラオケで遊びました。その後、恋奈様を見つけて尾行したっす!」

 

 確かめる様に恋奈は正哉を見る。それを察した彼は口を開き大を見る。

 

「ヒロがアズを見ているから証拠になるよ」

 

「あっ、うん。正哉にその子が仲良さそうにしているのを見たよ。それに邪魔しちゃ悪いと思ったしね」

 

 大の説明で裏は取れたが、何故カラオケに行こうと考えたのか疑問が残された。ところが恋奈は何処かで折り合いを着け話題を変える。

 

「まあいいでしょう。で、そちらの女性は誰?」

 

「ああ、此方は正哉センパイの知り合いっす」

 

「よい子です…… 初めまして、片瀬さん」

 

 よい子は頭の切れる恋奈に正体がばれやしないかと、冷や冷やして自己紹介を行った。

 

「ええ、初めまして。片瀬恋奈よ…… ねえ、あなた何処かで会わなかった?」

 

「い、いいえ。今日が初めての筈よ?」

 

 必死に動揺を隠したよい子は、何とか恋奈の疑念を晴らす事に成功し三人の話しは終わった。

 

 

 

 

 

「それで、恋奈様は何をしていたんです? デートっすか?」

 

「バッ、バカ言わないでよ! どうして私がこんな奴と!!」

 

 からかって尋ねた梓だが、意外にも必死に否定する恋奈に三人は驚いた。ところが大は平然と否定する。

 

「そんな訳ないよ。片瀬さんはウチの事で骨を折ってくれてね」

 

「そうよ! 片瀬の関係で長谷大をあのテナントに案内した。ただそれだけよ、分かった梓!!」

 

 恋奈は大の援護で事無きを得たが、梓のデートと言う言葉に動揺を隠せず顔を赤くしたまま顔を横に向けた。

 

「そうでしたか。納得っす!」

 

「うーん、冴子が悔しがる顔を拝めると思ったが…」

 

「へ、変な事言わないで、マー君。そのとばっちりは私に来るのよ……」

 

 正哉の不遜な言葉に対し、よい子は理不尽と言う暴力が自分に来る事を容易に想像出来た。大のシスコンを標榜する冴子だが、物凄いブラコンである。その為、正哉の言う様な事態となれば、その怒りはよい子と大が受ける事と為る。

 

 

 

 

 

「ねえ梓」

 

「何すか、恋奈様?」

 

 恋奈はトイレに行くと言い出し、梓を連れて席を外した。そして、女子トイレに入る振りをしてスタッフルームへと駆けこんだ。

 

「私たちの事、あのよい子って女は知っているのかしら?」

 

「アズ達の事っすか?」

 

「ええ、江乃死魔の総長に幹部がこうしている訳よ。長谷大に加藤正哉は判るけど、あのよい子もビビらないっておかしいと思わない?」

 

 梓は今迄気付かせる様な話も態度も見せてはいなかった。

しかし、恋奈は時折睨みつけたけ、その様子を窺っていた。ところがよい子は気にする様子もなく、笑顔を浮かべて会話に加わっていたのだ。

 そして、その行動は梓も知っていた。だからこそ、恋奈の指摘に頷く事が出来た。

 

「確かにそうっすね。恋奈様を見てもビビらないってどうしてしょう?」

 

 あの陰険そうな睨みは梓もビビるものであり、一般人では有り得ないと言う感想を抱いた。

 

「加藤正哉の知り合いで長谷大とも知り合い…いやかなり仲が良かったわね……」

 

「もしかして皆殺し先輩や辻堂先とも仲が良かったりして?」

 

 梓は冗談めかして話したが、恋奈はその考えを半ば本気で考えていた。その真剣に考える様子を見て梓はしまったと感じた。

 

「やだな。冗談っすよ、恋奈様……」

 

「ええ、でも冗談に思えないわよ。それによい子が私にビビらないって、加藤正哉もそうだけど免疫があるってことじゃないのかしら?」

 

「ええっ!? ……でも、確かにそうとも言えますね」

 

「これは調べる必要が在りそうだわ。リョウには申し訳ないけどもう一つお願いするしかないわね」

 

 そう言って二人は話を済ませ、席へと戻った。

 与り知らぬところで不良と一般人の壁を築くよい子に災難が降り懸かる事と為った。

 

 

 

 

 

「よう、悪いな。邪魔してるぜ、恋奈!」

 

 マキが悪びれる様子もなく堂々と正哉の隣に座り、ステーキのセットを頼んで食事をしていた。それに正哉は両手を合わせ、恋奈に頭を下げていた。

 

「み、皆殺し!?」

 

「あ、あああれは、フラグだったって訳っすね……」

 

 震える二人にマキはお構いなく食事を続けていた。

 

「ごめん。片瀬さん、マキの分は俺が支払うから!」

 

「べ、別にいいわよ。この位気にしないで…」

 

 恋奈は予想外出現に疲れを見せ席へと崩れる様に座りこむのだった。

 

 




 ご一読いただき有難う御座いました。

 中々時間が取れず感想返しが出来ません事、大変申し訳ありません。
 
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