「納得いかねぇ……」
愛はお隣で決定された事柄に納得出来ずにいた。
「別に、辻堂に納得してもらわなくても私は構わないぜ」
目の前には飄々と答える腰越マキが座っている。その態度が余計に愛を刺激しているが、マキは知ってか知らずか愛にこういう態度をとる。隣にはマールを抱える正哉が座り事の経緯を説明しいていた。
「だからな、マキは家に帰りたくない。野宿は他所様にに迷惑が掛かる。となればウチに住まわせるしかないだろ?」
正哉の言葉にマキが嬉しそうに頷く。それだけでも愛は腸が煮えくり返る思いであった。
正哉とは平穏との繋がりという様な認識がある。それが皆殺しと言う異名を持つマキが住むことで、根底から崩されそうで為らないのだ。
「いや、先ずそこがおかしいだろ。第一どうして腰越を住まわせる事になるんだよ!」
「他所様に迷惑が掛かるだろ?」
「正哉は他所様に入らないのかよ!」
愛の指摘に正哉は詰まる。確かに檀家として付き合いのある極楽院で知り合ったのがマキだった。その二人の付き合いも長く関係は良好だ。
そこまででは単なる幼馴染みにしかならない。それでも正哉はマキが心配であった。
「そうは言うけどよー辻堂。これはもう決まったことだぜ。それにお前のかーちゃんが認めてくれたことだ」
マキは一緒に住むことにあたり、多大な殺気を浴びると言う辻堂真琴からの試練を乗り越え御墨付きを得ていた。又、彼らは知らされていないが、確りと真琴が正哉の両親とマキの保護者に連絡を入れてあった。だからこそこうして住めるのだ。
「それはそうだけどよ……」
「愛、納得してくれよ」
そう正哉に言われては認めざるを得ない愛であった。
「わーったよ。その代わり腰越、調子にのって正哉に迷惑掛けるんじゃねーぞ」
「失礼な奴だな君は。私と正哉はそんな他人行儀な間柄じゃねーよ。なっ正哉!」
マキはそう言うと彼の肩に腕をかけ自分の方に引き寄せて仲の良さを演出して見せた。男女の友情は成立するのかと言う問い掛けに、愛は目の前で確りと成立する光景に『する』と答えるほど仲の良い二人に見えた。
その時愛は心がざわつく異変を感じたのだった。
「こうしてマキが住むけど、愛も今まで通りに家に来て構わないからな」
「そうだぞ、少しは遠慮しろよ」
「何だと!?」
正哉がフォローするように愛に言葉を掛けた傍から、拒絶する様な言葉を述べマキが崩すと言うコンビネーションに愛は即座に反応を見せた。
「おい、マキ約束しただろ!」
「ああ、悪い。どうも辻堂を見ているとからかいたくなっちゃって」
悪びれる事もなくマキは正哉に言葉を返す。
「おう腰越、表出ろコラァ!」
「やなこった!」
愛は、正哉の家であると言うことで何とか抑え込んでいる理性が今にも爆発しそうな思いであった。
「はい、そこまでよ。まったく、気になって来てみれば、。もう少し仲良くしなさい。愛もそんな安い挑発に乗るんじゃないの」
「そーだ、そーだ!」
真琴が現れ一転マキを擁護するように愛をたしなめる事で、つい彼女は調子にのってしまう。
「貴女もよ、マキちゃん!いくら一緒に住むことを認めたからって、愛にも正哉君と築いてきた友情があるの。それを行なり壊すようなことだけはしないでちょうだい」
母親らしい言葉だが、それ以上に元ヤンとしての言葉は迫力が違った。マキは自分の母親以上の恐ろしさを真琴に見たのだった。
「わ、分かったぜ。辻堂のかーちゃん……」
「そう、ならいいわ。折角だからウチでご飯にしましょう。どうせこの事で夕飯を準備出来る状態じゃないでしょ?」
真琴はそう言って正哉を見た。
「はい。残念ですが、今から準備すると時間が掛かります」
「なら決まりね。ああそれと……ウチでもああ言った態度召せたら遠慮なく、シメるからね」
その表情はマキと愛を凍てつかせるものだった。真琴は『準備するから暫くしたら来なさい』と言葉を残し家に戻っていった。
「こ、怖ぇ……辻堂のかーちゃんマジ怖いのな」
「まあな、あれで母さん本気じゃねーから…」
「はっ?あれで?いやいや嘘はいかんよ、辻堂君」
マキは愛に対し冗談混じりに話し掛け、確認するように正哉を見ると愛に賛同するように頷いていた。
「今日の真琴さんの場合レベル三だな」
「い、一応聞くけどよ。マックスは?」
「十だ。俺も知らないが愛だけは知っているらしい」
そう正哉が説明をし、マキが愛を見ると青ざめているのを見た。つまり正哉の言葉が正しいことを証明していたのだ。
「マジかよ。私、此処で暮らしていけるのか?」
「安心しろ腰越。母さんは滅多に怒ることはない。だけどな癇癪起こして場を乱す、規律に約束事を守らない等と言った場合は別だ」
愛は能面の様な笑みを作り、敢えてマキがやりそうなことを上げて語り掛けた。
「そうだよ。真琴さん基本的に優しい。確りと対応していれば怒られるようなことはない。愛を見ていれば判るだろ?」
正哉の言葉に首を傾げるマキだが、真理であると納得した。愛を見て行動すれば問題ないと言う結論にt至ったのである。
「さてそろそろ行こうか。真琴さんの準備も終わったであろうし。あ、マキにいい忘れてた」
「な、何だよ、突然?」
「絶対に真琴さんをおばさんと呼ぶなよ。それを守らないと……」
正哉はそのあとを貯めにためる。
「何だよ。勿体振らずに早く教えろよ、正哉!」
「鬼が出るぞ」
一言そう言うと正哉と愛は移動を始めた。
「んなバカなって待てよ、二人とも!」
マキは正哉の言葉を冗談半分に聞いていたことを後悔することとなるが、この時点で知る由もない。
「はぐっ!はぐはぐっ!…ウマー!!」
正哉たちが辻堂家に移動すると準備が終わっていた。そこには海の幸がこれでもかと盛られた海鮮丼が四食分置かれてあった。四人は席について『いただきます』と感謝を述べると一斉に食べ始めた。中でもマキの食べっ振りが尋常ではない殺気を見せていた。
「落ち着いて食べろよ、マキ」
「いや無理だろ!こんなに美味い飯久しぶりだって!いいな辻堂!料理上手なかーちゃんでさ」
そう誉められて嫌な気持ちになりはしないが、
先程震え上がらされた者が作ったことをマキは忘れていた。
「嬉しい事言ってくれるじゃない。御代わり有るけど食べる?」
「いたーきます!!」
マキには遠慮うと言う言葉がなかった。ただひたすらに美味しい物を食べたいと言う思いが彼女を突き動かしていた。
「ふぅー食ったー!」
マキは久し振りにお腹を擦るほどの満腹感を味わっていた。
「そりゃ、あれだけ食べればな」
「腰越の胃袋が恐ろしいぜ」
正哉と愛はマキを見てそう話していた。
するとそこに一人の少女がやって来る。
「愛ー久美ちゃんが来たわよ!」
真琴の言葉の後、駆け込むように愛の舎弟葛西久美子が姿を見せた。
「愛さん!ん?……ギャーみ、みみ皆殺し!?」
「失礼な奴だな、人の事指差しやがって。辻堂やっていいか?」
久美子にしてみれば青天の霹靂であった。先ずあり得ない光景がそこに在ったのだから。彼女は指をマキに向けながら腰を抜かし、正気を失ったかの様に放心していた。
「よくねーよ。おい、おいクミっ!」
愛は久美子の肩を揺らし再起動を試みた。
「はっ!あ、愛さん……?」
そう言って久美子は目の前に尊敬する愛の姿を確認し、もう一度周囲を見渡す。
「やっぱり夢じゃなかった!?」
久美子はもう一度マキを視界に収め現実であることを認識した。
「いやそれはもういいから。それで、何の用なんだよ?」
「っと、いけねぇ。……愛さん此処ではちょっと」
久美子は正哉とマキを見て申し訳なさそうに愛に答えた。そこで愛は頷いて席を立った。
「わかった。ちょっと外出てくるよ正哉。母さんん、少し外に出てるから」
奥で洗い物をしている真琴に言うと久美子を連れて外へと向かった。
二人は庭先へと移動すると、早速久美子が話始める。
「先ずは報告です。片瀬恋奈が率いる江乃死魔が動きまして、結果総災天率いる湘南BABY が負けました」
そう結果を述べた後、、神妙な面持ちで久美子は時系列に沿って話を始める。
「どうやら江乃死魔はうちらに邪魔されないように罠を張っていたようです。ほら覚えてますか、今日を指定して喧嘩吹っ掛けてきた相手」
「ん、そう言えばそんなのもいたな」
愛はどうでも良さそうな口調で久美子に答えた。
「俺も存在忘れるほどでしたが、あれは捨て石だったようです。全戦力を総災天にぶつけ江乃死魔が勝利を収めました。これで西側はほぼあいつらの勢力となります」
「そうだな」
しかし、久美子の熱弁も愛には暖簾に腕押しであった。
「あ、愛さんそんな悠長に構えていられないっすよ。恋奈は間違いなく稲村を、愛さんを狙ってきますよ!」
「だろうな」
「愛さーん……」
ここまで話しても変わらない愛に久美子は涙声に成りかける。
「心配すんなよ、クミ。私は向かってくる相手はぶっ潰す。それがどんな相手でもな」
愛はそう言葉を掛けると久美子の肩に手を置いた。これだけで彼女の気持ちが楽になるほど愛と言う存在が大きい。それが稲村学園の辻堂軍団なのである。
「は、はい愛さん!それでは俺はこれで帰ります。おやすみなさい」
「おう、おやすみクミ」
愛は久美子の姿が見えなくなるまで見送った後家に戻った。
「お帰り辻堂!」
少し時間が掛かり、、真琴は風呂に入っている。そんな中、愛を待っていた二人は美味しそうにプリンを堪能していた。
「こ、腰越…テメェそのプリン……」
「辻堂のかーちゃんが出してくれたぞ!」
そう説明するマキ。確かにテーブルには二つの容器が置かれている。だが、問題なのは全てが空になっていたことだ。
「そういう問題じゃねーだろ、コラァ!」
「うぉ!?何だよ、辻堂?」
「そのプリンはな、七浜で買ってきた一つ四百円もするプリンなんだよ……」
途端にシュンとしだす愛にマキも同様を隠せない。
「そ、そうなの?なんか悪いな全部食べちゃって…」
ギャップによる自然な可愛らしさを見せた愛に、自然とマキも謝ってしまう。
「プリン、プーリーン……」
「愛、食べ掛けだけどよかったら俺の食べるか?」
駄々っ子の様相を見せ始める愛に、正哉が手を差し伸べた。普通なら恥ずかしがり断るが、精神年齢が下がっている愛は頷くだけであった。
「うん、食べる!」
愛は正哉から受けとると美味しそうにプリンを味わうい始めた。
「こ、これが喧嘩狼か……?」
その余りのギャップにマキも頭を抱えてしまったが、今の愛を見てはこれ以上何も言えなかった。
「ハム、ハムハム……ウマー!!」
御一読頂きまして有難うございます。