辻堂さんの純愛ロード的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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第6話

 片瀬恋奈は、稲村学園急襲において腑甲斐無い戦いを行った幹部の反省会を行っていた。

 

「まったく、揃いもそろって!」

 

 恋奈の視線は尚もに三人に向けられていた。

 

「面目ないっての」

 

 大きな体をこれでもかと縮み込ませるティアラ。

 

「ごめんだシ」

 

 項垂れる花子は余計に幼く、保護欲に刈られる者が現れ。

「すんませんっす!」

 

 梓は反省の態度ではなかった。 

 三者三様の謝罪に恋奈は収まる筈もなく口早に三人に言葉を向ける。

 

「猪みたいに突進しかしないティアラに、泥が飛んだだけで気絶するハナはまあ戦って反省もしている様だけど……梓!」

 

「うぇ、私っすか!?」

 

 梓はここで糾弾される謂れは無いという様な表情で恋奈に答えた。

 

「そうよ。行き成り敵前逃亡かましてくれやがって!どうしてやろうかしらね……」

 

 恋奈はティアラが潰れた瞬間、本来ならば力試しと本当に従うかを試す為に良子を指名する予定であった。しかし思いのほか早く、そして無残に敗れたティアラの御蔭で梓を当てようと判断したのだ。ところがその梓の姿が綺麗サッパリ無くなり、良子に指摘され地団太を踏んだ思い出が甦る。

 

「あ、あはははー辻堂先輩見ていたら怖くなっちゃいまして。負ける喧嘩はやらない!勝てる喧嘩は徹底的にやる!これぞ乾梓のって、痛いっすよ、恋奈様~」

 

「余りにも反省していない様だから罰を与えたのよ。まあ、それでもリョウの力が見られた事は良かったわ。それで、どうしてあの場で引いたのか説明して貰えるわよね?」

 

 そう、何を隠そうこの場で最も聞きたかった事はこの事だった。恋奈にしても三人の事は良く知るところだ。故にそうなるのではと予想はしていた。ところが良子だけは未だに人物像が掴めず、恋奈としても信用していいのか判断に困っていたのだ。

 

「そうだな。先ずはこれを見てくれ」

 

 良子は徐に木刀を四人の前に見せた。そして次の瞬間地面に軽く叩きつけた。

 

「えっ、割れた!?」

 

「真中からポキッと逝っちゃっていますね」

 

 恋奈と梓はまじまじと木刀の状況を観察していた。

 

「まずこの木刀がこうなる等ほとんどあり得ない。ところが辻堂とやりあっただけでこうなってしまった。俺はあの時、間違いなく本気で戦った。ところが辻堂は木刀を破壊しない様に手を抜いて戦っていたんだ」

 

 その良子の言葉に一同息を飲んだ。特に恋奈は互角に戦っているものとして認識していた手前、三人以上に衝撃が大きかった。

 

「ちょっと待ってよ。木刀と素手で戦ってこうなるってあいつは何者なのよ!」

 

「グローブに鉄を仕込んでいたからな。上手い事それを使って戦っていたんだろう。そして、それ以上にあいつは強かだと俺は感じたぞ」

 

 そこから良子はあくまで予想として四人に話し始める。

 

「先ず、互いのメンツの問題だ。江乃死魔が乗り込んできて恋奈が高らかに宣言しただろ。あれで一応の成果は得られた。ところがそれを許した辻堂達、この場合あいつの部下達だが報復に出るかもしれない。その場合あいつ等と江乃死魔の全面戦争に為る可能性すらある。そうなれば一般生徒も巻き込まれるだろう。そう為らない様に恋奈を除き、元々の幹部を倒すか逃亡させるという手段を取った。そして、俺が恋奈の前に立ちはだかる事も予測してな」

 

「つまり、痛み分けを狙ったって事?」

 

「そうだ。俺も湘南最強と言う称号を与えられたチームを率いた手前、名前だけは売れている。そんな俺が稲村最強の番長辻堂愛と互角に戦えば両者感情を収めやすい。そう辻堂は判断したんだろう。但し、それは一般生徒も見ていると考慮した上でな。裏では確りと道を封鎖されていただろ?」

 

 恋奈の撤収宣言の後、粛々と引き上げた江乃死魔は思わぬところで辻堂軍団と遭遇した。

 部隊を率いていたのは愛の舎弟葛西久美子だったが、如何せんその人数が問題だった。

 平日もあって、江乃死魔は集合を掛けても五十名がいい所で梓はその少なさを危惧していた一人であった。対して辻堂軍団は学校をサボっている者を除けばほとんどが学校に集まっている為、召集から動員までの事は容易であった。

 

「たしかにクミが、辻堂が話していた通りだって言っていたわね」

 

「そうだ。恐らく辻堂は恋奈の考えている事を予想して動いた可能性がある。だからこそ、俺の木刀を折れない様に破壊したんだろう」

 

 そう結論付けた良子に場の雰囲気は暗い物に為る。

 

「つまり、負けたって事っすか?」

 

「どうだろうな。目的で勝敗は変わると俺は考えている。恋奈の目的は名乗りを上げ存在を示す事、対して辻堂は学園を護ることだ。こう考えれば引き分けでもいいと思うぞ。それに恋奈には手を出す事は出来なかった。その前に撤収出来たことからも負けとは言えまい」

 

 良子は頭がやられなければ再起を図る事は可能だと考えての発言だった。但し、総力戦の場合は異なると考えている。

 

「そうね。確かに私はやられていない。ティアラ達はやられたけどリョウが踏ん張ったと周囲には見られている。一般的にはウチが負けたという様な捉え方はされていないという訳ね」

 

 こう恋奈の中で結論付けると彼女の瞳に力が甦りだした。

 

「為らば今回は成功と見做し、より大きく勧誘を進め勢力拡大に乗り出すわよ!」

 

 恋奈は常時二百名を招集出来るだけの人数は確保したいと考えていた。それが五割としても余裕を持たせ五百の大台は夏までにクリアしたいと思うのであった。

 

 

 

 

 

「置いて来い」

 

 一方、江乃死魔の相手を務め上げた愛は道端で捨てられた子猫を拾い、正哉の家に上がり込んでいた。

 

「な、なんでだよ正哉!こいつ、こんなに弱っているんだぜ!?」

 

 番長の愛は江乃死魔が去った後、高らかに全校生徒に向かい勝利宣言を行った。その時の行動によりカッコよさを見せつけたその面影は微塵もなかった。

 

「家にはマールが居るし、マキも居る。加えて学校がある間、真琴さんにマールの面倒と子猫の面倒を見させるつもりかよ」

 

「だ、だって…」

 

 シュンとした素振りで言葉尻を小さくした愛は子猫を抱きしめ俯いた。それを見せられては今直ぐにとは言えなくなる正哉だった。昔から此の仕草を見せられると彼には受け入れるしかないという認識が働くのだった。

 

「取り敢えず今日だけだぞ。それと子猫に詳しくないから調べないといけないな」

 

 そう言うと愛の表情が明るく元気な物に変わった。

 

「うん、うん!ありがとな正哉!良かったな、置いてくれるってよ!!」

 

 子猫を両手で抱き上げると目の高さまで持ち上げ言葉を投げ掛けると、子猫は反応する様に可愛らしい声を上げるのだった。

 

 それから正哉と愛は二人でネットで子猫の世話の仕方を調べ始め、その間は子犬のマールが甲斐甲斐しく子猫の面倒を見ているという出来た忠犬振りを見せる。

 その後、マキが帰宅し、大いに懐かれた姿を見せられた愛が悔しがるという光景を目にするのであった。

 

 

 

 

 

「こんばんは、よい子」

 

 別の日、何だかんだと子猫が正哉の家に住みだしたとある日の夕方、正哉は孝行に愛を連れてやって来た。丁度客無く品物の補充を行っていたよい子とその母親は、彼等が近付き声を掛けるまで気が付かなかった。

 

「あら、いらっしゃい。マー君……ひッ!?」

 

 よい子は顔を上げた瞬間、飛び込んできた愛の顔に驚きを隠せなかった。

 愛を見た場合、私服であれば金髪が似合う美人さん程度の認識に為るが、まるで彼女を知るかのような反応を示すよい子に二人が驚かされた。

 

「どうしたよい子?」

 

「う、ううん、何でもないのよ。ただマー君が女の子を連れて来るなんて珍しくてね」

 

 よい子は幾度も潜り抜けた修羅場を思い出し、二人にバレないように言葉を取り繕う。

 

「そう言えば初めて連れて来たのか?」

 

「ああ、此処に来るのは初めてだぜ」

 

 正哉と愛は自然な会話をしていたが、よい子は気が気ではなかった。愛とは先日接近戦を行ったばかりである。故に顔を見てバレる可能性すらあったのだ。

 

「あら、正哉君久しぶりね。そちらは彼女?綺麗な子を連れているわね!」

 

「久しぶりです、おばさん。愛はウチの隣に住む幼馴染ですよ」

 

 そう説明すると愛がよい子の母親に軽く会釈を行った。

 

「あら、そうだったの。結構お似合いだからお付き合いでもしていると思ったわ。よい子、丁度お客さんも二人だけだからお店番任せるわね」

 

「う、うん分かったわ。お母さん…」

 

「さて、何にしようか…」

 

 正哉はショーケースに収められている品物を見て品定めを始めた。対して愛はよい子の視線に気が付いた。

 

「あの、何か?」

 

「えっ、ああ…えっと、そのー」

 

 よい子はどう返そうかと悩むうちに愛の表情が険しく為るのを見てしまった。これ以上は怪しまれると咄嗟に思い付いた言葉が口から出てしまう。

 

「そ、そう。貴方が辻堂さんね?」

 

「そうだけど。何、私の事知っているの?」

 

 突然名前を当てられた愛がキョトンとした。それなりに家から離れているこの場所でも、愛を知る者が居ることに驚きを隠せなかった。しかも人畜無害そうな女性が、と愛の中で思った。

 

「よくマー君が話していたもの。特徴と先程お母さんに話していたマー君の説明でね」

 

 頭をフル回転させて導き出した答えは満点回答を導き出した。愛の表情が納得した様な物に変化した事を見逃しはしなかった。

 

「そんなに分かるもんかな。うん、たしかに私は辻堂愛だ。宜しくな、ええっとよい子さん?」

 

「え、ええそうね。此方こそ宜しくね、辻堂さん」

 

 そう正哉を尻目に正体を隠さない不良と、隠さなければならない不良のコンタクトが終了した。

 

「よし決めた。よい子、海老フライ二十本とから揚げ五百グラムに、春巻きを……」

 

 その注文量を明らかに異常だとよい子は感じた。だが、矢継ぎ早に言い放つ正哉に負けまいとよい子は必死に注文を取り、次第に仕事モードに突入した彼女は疑問が何処かへと移動していた。

 

「あら、マサに…辻堂さん!?」

 

 よい子が注文した品を詰めていると正哉にとっての天敵、冴子が姿を見せた。最初は正哉を見つけた冴子だが、まさかこんな所で稲村の番長を見ることに為るとは思いもよらなかった。

 

「現れたな暴君めっ!」

 

「あっ、ども長谷先生」

 

「こんばんは辻堂さん、それとマサ、あんたいい加減そのあだ名止めなさいよね」

 

 学校では仮面被りがパッシブスキルとして有効だったが、この辺りに為るとスキルを発動しなければいけない辺り冴子の気が緩んでいた。

 

「だが断る!」

 

「それは認めん!いい加減、冴子様と呼べマサ!!」

 

 冴子はつい正哉の乗りに合わせてしまい、愛を呆然とさせている事に失念していた。

 

 愛は愛で普段学校でしか見る事の無い、親しみのもてる出来た教師長谷冴子と言う認識が崩れ去ろうとしていた。特に愛達不良に対して偏見を持つ事無く接する彼女に好感を持っていた。

 

「いいのか冴子。此処には愛が居るんだぜ」

 

 正哉の言葉で冴子は停止した。

 そう、たしかに正哉とよい子は幼馴染で気心知る間柄、そして素の冴子を見せる事の出来る数少ない存在である。それが引き金と為り、すっかり愛の存在を忘れていた事に気が付いたのだ。

 

「はっ、心臓が止まってた!」

 

「うう、迂闊だったわ。まさか、マサが辻堂さんと一緒に居るなんて…」

 

 その予想外の行動に冴子はヨヨヨと泣き崩れる様な想いになった。

 

「それりゃあ居てもおかしくはないだろ。愛はウチの隣に住んでいるんだから。あっそうだ。マキの事だけどさ、ウチで暮らす事になったから」

 

 正哉は何気なく愛を除く共通の幼馴染の近況を話した。その瞬間、冴子とよい子が大きな声で反応を見せる。

 

「ああ、まーちんね。そうなの一緒に暮らしているのね……ってはぁー!?あ、あんた今何て言ったの?まーちんと暮らしているって言ったのかしら?」

 

「そうだよ。一応お隣の、愛のお母さんの承諾を得てね。ほらウチの両親が海外に居るだろ。だから親代わりとして面倒見て貰っているんだよ」

 

「そう言えばマサと辻堂さんは小さい頃からの付き合いだったわね…」

 

 この時よい子は冴子とは別の意味で驚いて、いや、恐れていた。曲がりなりにも三大天の二人が隣り合う家に暮らす事と為るのだ。嘗て、大と正哉の取り合いをしていた冴子とマキの仲は良好とは謂い辛い。その事からもマキは嫉妬心が大きいと考えていた。

 つまり流血沙汰なんて甘い、それ以上の悲惨な結果を生み出すのではと恐れているのだ。

 

「で、でも驚いたわ。マキがマー君の家で暮らす事に為るなんて…辻堂さん、マキが既に御迷惑を掛けているかもしれませんが、宜しくお願いします」

 

 よい子は愛とマキの関係を知らない体を装い、マキの幼馴染として愛に頭を下げた。しかし、その真意は喧嘩はしないでくれと言う願掛けにも等しい物だった。

 

「大丈夫でしょ。辻堂さんはこう見えて確りした子だもんね。まーちんは少し我儘で、融通が効かなくて、そのくせ独占欲が強いガキだからね」

 

 冴子は冴子でマキを心配する様に見えて、過去の蟠りを解消していなかった。つい、マキの事を話そうとすると子供のころを思い出し、その当時の怒りが沸々と甦ってしまうのだ。こう言ったときは決まって大が犠牲となり怒りを沈めるのだった。

 

「ああ、まあ仲良くやってみますよ…」

 

 愛は二人に対し、玉虫色の答えを残すだけとなった。

 

「さてと、それじゃあ私は帰るわ。ヒロが、お姉ちゃんが早く帰って来ないと泣いてやるって急かしているだろうし。いやーシスコンな弟を持って大変だわーそれじゃあねよいちゃん、マサに辻堂さん」

 

 冴子は大の印象を悪い方向へ導く発言を自然と言い残し三人の前から去って行った。

 

「相変わらず場の空気を乱すな、あの暴君は」

 

「ま、まあ、あれが冴子さんらしいのよね。でもこれでこの分量の訳が判明したわ。マキが居れば当然よね」

 

 正哉は提示された金額を支払い、袋を受け取った。

 

「まあね。それに愛の分も含まれているからそれほどでもないよ」

 

「そ、そうなの?若しかして一緒に食事をする仲なのかしら?」

 

 マキと愛が一緒のテーブルで食事を摂る光景を見て、だれがそれを想像出来ようか。とよい子は内心思っていた。これに恋奈が加わればどんなカオスとなった食卓へと変貌を遂げるのか、興味が尽きないと考えた。

 

「まあ、不本意ながら…」

 

「まあ喧嘩する事は無いよ。したらマキは追放だからな。それじゃあ、これで帰るよ。またな、よい子」

 

「ええ、何時も有難う御座います。それじゃあ気を付けてね、マー君辻堂さん」

 

 二人を見送ったよい子は、波乱万丈な夏を迎えることに為ると盛大に溜め息を吐いた。

 それが真実と為る湘南の夏まで今しばらくの時を要する。

 




 御一読頂きまして有難うございます。
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