三会と言う地元主催の海開きがある。それのお手伝いを行うべく、稲村学園には準備会と言う物が設置されている。
「加藤くん、何でしたら私も参加致しましょうか?」
正哉に問い掛けたのは北条歩だった。彼女は正哉が所属するクラス委員を担っている。
「まあまだそんなに仕事もないし大丈夫だよ、委員長。有難う」
「そうですか…何か有りましたら遠慮なく仰ってくださいね」
歩はそう言い残すと正哉の前から立ち去った。それと入れ替わるように愛が姿を見せる。放課後に誰も居ない教室だからこそ出来ることだった。
「正哉…」
愛の表情は歩の話しに関連し、少し申し訳なさそうな顔をしていた。その事から正哉はすぐに彼女がどう思っているかを判断する。
「そんなに気にするなよ、愛。何も会議に参加することが全てじゃない」
「だ、だってよぉ……」
愛はそう言葉少なげに声を萎ませた。彼女自身、参加していないことで正哉に迷惑掛けていることを十分に理解している。
だからこそ愛は参加すると言いたいが、したらしたで集まった生徒を怖がらせると解っている。そのジレンマから愛はハッキリと物が言えないでいた。
「解っているよ。愛がこの行事の思い入れが有るのはさ。俺だって何度となくのろけながら聴かされたかからな」
愛と正哉は真琴と愛の父誠の告白の場面を、色褪せることなく聴かされ続けて育ってきた。その為、娘の自分がこれに関わったことを知れば両親が喜ぶのではないかと考えたのだ。
だからこそこれに選ばれたことは内心で喜んだ。
「そうだったな。あの当時からウチの両親がすまない……」
「それ以上に良くして貰っているだろ。今俺が此処に居ることが出来るのは真琴さんたちのお陰なんだからさ。このくらいどうって事はないよ」
そう言うと正哉は徐に席を立つ。
「此れから会議だから行ってくるよ」
「わかった。いってらっしゃい」
「いってきます」
いつもの二人は愛が見送る形で終わりを迎えた。。
一方、葛西久美子は中々集会に姿を現さない愛を迎えに、彼女が所属する教室へと向かった。
当初、愛が頻繁に一人で居る屋上へと向かったが外れ、代わりに風紀委員の顧問風間と出くわしてしまった。それに関してブツブツ愚痴を溢しながらいると、数人の軍団員が息を殺して教室内を覗いている姿を目にする。これが男だけだったら間違いなく通報ものだった。
「あ、おーい。おめぇら、何をして…」
久美子は最後まで言葉を述べる前に、静かにするようジェスチャーを彼らから送られた。
その時の軍団員は真剣な目をして黙るよう久美子に向けていた為、大人しく彼等の言い分に従うことにした。
「それで何を見ていやがんだ?」
音を立てずに教室へと近づいた久美子は、近くにいる軍団員に小声で話しかけた。
「何ってクミはん、そりゃ中に愛はんが居るんや」
「何?だったらこそこそしてないで、さっさとドアを」
と、またここで久美子は別の軍団員に言葉を遮られる。
「ところが愛さんは教室内で男子生徒と良い雰囲気なのです」
「な、何っ……」
愛を信奉する久美子には看過できない言葉が聞こえ、思わず大声を上げそうになり口を押さえられる。
「邪魔しちゃダメよ、クミちゃん。愛さんだって女の子なのだから恋の一つや二つぐらい有るわ」
「せやせや。愛はん美人やからな、そりゃモテるやろ」
「ですね。それに我等がこの場を壊せばどのような目に遭うか……」
一人の言葉によって三人は、容易に想像出来る光景に背筋が凍り付いた。
そうした事で久美子たちは大人しく教室内の光景を眺めることに決めた。
「にしても愛さん随分と大人しいな」
「ええ、どうやら愛さんは男子生徒に謝罪しているようです」
久美子の呟きに一人が知る限りの状況を説明した。
「愛さんが謝る?一体相手の男は誰なんだよ……」
彼女等が居る場所からは愛の表情が辛うじて見えるくらいだった。謝罪する場面は愛が頭を下げた事で彼らが判断したのだ。
「クミはん、男が出てくるようや」
「そうだな、バレないように一度下がるぞ」
久美子の言葉によって階段まで下がり、教室から出てくる人物を待つことにした。
「ドアが開いたな」
先頭で凝視する久美子は状況を述べたその時、男が姿を現し愛もあとに続いて姿を見せた。
「あ、あの男は……」
久美子の記憶にはハッキリと正哉の顔がインプットされていた。あの日、マキと共にいた男の顔である。
「しっかし…愛はんがあんな表情をするなんて初めて見たわ」
「そうね。あれは恋する女の顔ね……」
「んっ?いってらっしゃい…」
最後の軍団員は読唇術を学び、今そのスキルを発揮した。正哉と愛の雰囲気も加味し、彼等の中で結論が出される。
「こりゃあの二人付き合ってますわ」
「確証薄いけど濃厚よね」
久美子を除いた軍団員がそう結論着ける中、正哉は廊下を歩き移動してしまった。それを見届けた愛も教室へと戻った。
「さてクミさん。愛さんを迎えにいきましょう」
「そうや。他の軍団員も愛さんが来るの待っとる」
「さあ行くわよクミちゃん。……クミちゃん?」
女性の軍団員が声をかけた瞬間、体を震わせ下を向いていた久美子は大声を上げる。
「う、嘘だー嘘だ嘘だ!!あ、愛さんが、あの愛さんが男と一緒……」
そう叫ぶ久美子を諫めようと手を伸ばした瞬間、振り払うように階段を駆け下りて久美子は姿を消した。
「一体どないしたんや、クミはん?」
「クミさんは愛さんに相当惚れ込んでいましたからね」
「好きな相手を取られたような?」
最後の言葉は冗談で話、二人もそう受け取り笑っていると件の愛が彼等の下に姿を見せる。
「お前たち何をしてやがんだ?」
愛は少し遅れたと思い、急いで階段を降りようとして三人に出くわした。
「お迎えに向かおうとしましたが、愛さんがお話しの最中でしたのでお待ちしていました」
「お、そうかすまねぇな。待たせちまったみたいで」
「気にせんと愛はんが集会に顔出してくだはるんや。俺達はナンボでも待ちますわ」
男二人はなんとも思わず言葉を返したが、愛はもう一人の存在が居ないことに気が付いた。
「そういやぁクミの声がしたんだが、此処には居ねぇのか?」
「先程まで折りましたが、愛さんを待っている最中催して来たとかで急いで駆けていきました。どうやら朝からお腹の調子が悪かったようです」
女性の軍団員は然も平然と嘘を吐き、愛を誤魔化した。確かにあの勢いでは、この後の集会に顔を出すことは無いであろうと予想出来る。
しかし敬愛する愛に対し、女性としても理由はにしたくない話で納得させようとした彼女に二人は恐ろしさを感じた。
「な、なんやクミはんに恨みでもあるんやろか…」
「恐ろしいですね……」
結局その日は久美子抜きの辻堂集会となり、彼女の欠席理由が『下痢』と一言で表される事態となった。
その日の夜、心配した愛は態々久美子の家まで赴いて下痢止め薬を手渡し、優しい言葉と労いの言葉を掛け足早に去った。
対して久美子は状況が飲み込めず、手には受け取った下痢止め薬が握られていた。
「ど、どうしたんだ、愛さん…?」
愛は予想以上に深刻だと判断し、言葉少なげに帰ったその訳は久美子の顔だった。
妙にやつれ、目元は泣き腫らした様になる彼女の顔はそう思わせるのに十分だった。
「この段階で三百の大台に乗せることが出来て良かったわ。これで夏には五百も夢じゃなくなるわね」
江乃死魔のアジトの一つに恋奈たち幹部が集合し、定例の報告会が行われていた。
この場には信用を勝ち得た良子も新参ながら参加を許され、梓たちとほぼ同格の幹部に昇格していた。
そこには異論もあったが、不良における能力の高さが押し並べて高水準であり、数日で良子への不信の芽は消え去った。
「やっぱリョウの参加が大きかったってことかい、恋奈様?」
「それは間違いないっすよ、ティアラ先輩。総災天先輩の加入前と後では伸び率が違いますもん」
ティアラの質問に梓がグラフを見せて答えた。
将来に必要だからと数学には強い梓はこの手の計算はお手の物だった。
「やっぱりリョウは凄いシ」
花子の言葉に愛くるしさを感じてしまった良子は、思わず頭を撫で抵抗を試みた花子に余計可愛らしさを覚えてしまう。
「まあ梓の言うことに間違いはないわ。リョウを降してからと言うもの戦わずして参加に為る者が増え出した。良い兆候よ」
犠牲は少なければ少ないほど良いと恋奈は考えている。
「でもよ恋奈様、どうにも味気ないっての」
「今は我慢しなさい。腰越も最近は大人しくなり勧誘も成功している。いずれ大暴れ出来る機会があるわよ」
夏の湘南は、特に三大天の存在する年は大いに荒れることで知られる。それを知る恋奈であるからこそ急いで勢力の拡大に努めているのだった。
「俺は恋奈に部下の保障を認める限り仕えるだけだ」
「ええ、有難うリョウ」
「但し急速な勢力拡大は規律が緩み易く為る。俺も気を付けるが、今一度徹底してくれ」
「その辺りは問題ないわ。でも忠告には感謝するわ」
そう恋奈が言い終わると良子は席を立ち上がる。
「そうか。それでは俺はこれで失礼する」
良子は粗方報告が終わり、自分が居なくとも問題ないと判断してアジトを出ていった。
その後、ティアラと梓から良子に対する扱いが甘くないか等の言葉が飛んだが、恋奈はその言葉を受け入れずこのままで良いとだけ話し、渋々二人を納得させた。
それに恋奈としては好都合だった。
「さて、三人には特別命令を下すわ」
此処に良子がいれば間違いなく止めさせたであろう命令を恋奈は命じる。一枚の写真が三人の目を釘付けにした。
御一読頂きまして有難うございます。
今夜遅くになりますが感想に返信して参ります。両作品に感想を頂きまして有難うございます。