辻堂さんの純愛ロード的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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第8話

「もっしもーし恋奈様、アズっす。一応潜入に成功しましたっすよ」

 

『そう、それは上々だわ。ティアラとハナは?』

 

「えっと…」

 

 電話越しに話す梓は申し訳なさそうな声で状況を話し始める。潜入直後ティアラの大きな体の影響で発見されてしまった。そのティアラの動きで花子が巻き込まれ気を失う。そして、彼女たちは撤退する事と為り、梓はその混乱に乗じて身を隠す事に成功したのだ。

 

『まあそうなると思っていたわ。この作戦梓が肝心なのよ。だからあんたが無事で良かったわ』

 

 梓を心配する恋奈の言葉にしんみりさせられたが、次の言葉で台無しとなる。

 

『対象は男だからね。その無駄に育て上げた脂肪の塊が役に立つはずよ』

 

「ちょ、ヒドイっすよ恋奈様~」

 

『冗談も混じってはいないのかも知れないわ。それじゃあ成功を祈るわよ』

 

 恋奈は言葉を無性に長く言って梓をからかう。そして最後に、頑張れと言い残し通話を切った。

 

「冗談も………って、本気って事じゃねーっすか!どんだけ胸に恨みがあるんだよあの人……」

 

 梓は愚痴を溢しつつ、授業中の稲村学園を移動している。

 流石に静まり返る校内に梓は妙な悪振るった気持ちに為る。

 

「こんな時間に他校に居るなんてアズは不良だなー」

 

 しみじみ思いながら歩いていると、辻堂軍団員が駆ける足音が聞こえてきた。

 

「まっず。ここ一本道じゃねーっすか。仕方ない」

 

 足音は前方から、さらに遅れて後方からも聞こえてきた。そこで梓は一か八か最寄りの教室へと入り込んだ。

 

「ゴホッ、ゴホッゴホ……な、なんなんすかこの部屋……タバコクセェ……っす」

 

 梓は教室に入った瞬間から呼吸器が反応を示し、咳の連発となった。

 

「誰だ?お前はここの生徒じゃないなって、お前不良か」

 

 至福の時間を潰された女性は、苛立たしげに座っている椅子を回転させ梓に尋ねた。

 

「まあアズは不良っすけど、それよりこの臭いどうにかならないっすか?」

 

「他校の生徒が行きなりやって来て注文とは中々肝が据わっているな」

 

 女はそう言うと席を立ち窓際に垂れ下がる紐を引っ張った。その瞬間、煙が充満していた部屋は元の部屋へと姿を見せた。

 

「ここ保健室だったんすか…」

 

「ああそうだ。それでお前は何をしに来た?」

 

 梓は不良に対して、他校の生徒であることも判った上でこう話し掛ける養護教諭に気後れした。

 

「アズは梓っす」

 

「フルネームは名乗れないか。まあいい私は城炉宮楓だ。気軽に楓ちゃんと呼ぶことを許そう便秘少女」

 

 楓は突如梓をその様に呼び彼女を驚かせた。日頃の不摂生が祟り、梓はここ数日スッキリとしていなかった。

 

「た、確かにそうっすけどどうして判ったんすか?」

 

「なに簡単だ…」

 

 楓が説明を始めようとしたその時、廊下が騒がしくなる。怪しんだ辻堂軍団の一部が保健室へと狙いを絞ったのだ。

 

「追われているのか便秘少女?」

 

「その名前どうにかして欲しいっすけど、今アズは追われているっす」

 

 そう話しながらも追っ手は確実に保健室へと向かって来ていた。

 

「ちっ、取り敢えず便秘少女をどうにかさせなければ…おいそこに隠れろ」

 

 楓は梓に有無を言わせぬ迫力で言い放った。

 

「りょ、了解っす!」

 

 梓は楓に指示を受けた場所へと隠れる。

 

「失礼するぜ!!」

 

 久美子と数人の軍団員が保健室に雪崩れ込んできた。彼女を先頭に奥へと移動するとカーテンを開け放つ。

 

「見つけたぜ!」

 

「何が見つけただ。女性の裸を観ることがお前らの役目なのか?」

 

『ブッ!!』

 

 久美子たちの目の前にはパンツだけを履いた保健医城宮楓がベッドに横たわっていた。

見た目だけは一級品の彼女は、思春期の男子高校生には目の毒であった。

 

「それで何時まで見続けるつもりだ?」

 

「す、すまねぇ…ここに誰か来なかったか?」

 

 久美子たちは一斉に後ろを向くと、彼女が楓に尋ねた。

 

「知らんな、それより私も学校の職員だ。別にサボるのは自由だが、目の前にいられると授業に出ろと言わねばならない」

 

 タバコに火を着けると大きく吸い込み、煙を盛大に吐き出した。基本的に楓は細々と言う性質ではない。

 

「ああ、悪かったな。おめぇら別の場所を探すぞ!」

 

 それから暫く経ち、足音が聞こえなくなると楓は梓に出てくるように話し掛けた。

 

「ふぅー助かったっす」

 

「なに、便秘少女の悩みを解消してやらねばいかんからな」

 

 二人は声を小さくしながら、梓の健康状態や生活状況を聞き出しアドバイスを行った。

 

 

 

 

 

 

「楓ちゃん、いるー?」

 

「今日は千客万来だな……居るぞ」

 

 何時も大達と接する雰囲気で現れた冴子は、見知らぬ他校の生徒が居ることで再び仮面を装着し二人に接する。

 

「その制服は由比浜の物ね。どうしたのかしら?」

 

 冴子は優しさと親しみ易い笑みを浮かべ梓に尋ねた。

 

「え、えっと……」

 

 正直に話す訳にもいかず思案していると、楓から援護射撃が放たれる。

 

「梓はこの学校に気になる男子が居るらしい。来たはいいが名前しか分からず困っていたんだ。そこを私がここに連れ込んだ」

 

 楓の無理矢理な設定に梓は頭を抱えたくなる気持ちになった。

 

(メチャクチャだけど、微妙に合っているところが凄いっすね。でもこんな話し信じて貰えるんすかね?)

 

「何だ、そうだったの。……はっ!?まさかヒロじゃないでしょうね!ダメよ、ヒロは駄目!」

 

「落ち着け冴子。間違いなくヒロポンではないよ」

 

 勘違いから豹変した冴子を楓は抑揚のない声で否定した。

 

「そう言われると腹が立つはね。まあいいわ、それで誰を探しているのかしら?」

 

「えーっと、加藤正哉って人っす」

 

 その名前に冴子と楓は顔を合わせた。

 折しももうじきこの日の授業は終わりを迎える。好都合と冴子は梓の為に迎えに行くのであった。

 

 

 

 

 

「マサ……っとと、加藤君少し良いかしら?」

 

 冴子は態々正哉の席へと移動し声を掛けた。その光景に周囲もざわめく。

 

「よろしくありません。それではぼうっ…長谷先生さようなら」

 

 正哉は荷物を鞄に詰め込むと、冴子の言葉を否定して教室を出ようとした。

 

「ちょ、ちょっと待って欲しいわ加藤君。どうしても来て貰いたいのよ」

 

 冴子は正哉の手首を周囲に判らぬように握り締めた。その行動に正哉が顔をしかめた事に気が付いたのは大だけだった。

 

「わかりました。いきますから手を離してください」

 

 美人教師長谷冴子生徒にお願いする構図を見せつけた二人は梓の待つ保健室へと向かった。

 

「楓ちゃん、連れて来たわよー」

 

「ご苦労、冴子。さてこいつでいいのか?」

 

 楓は親指を正哉に指し梓に尋ねた。

 

「はいっす。お名前は加藤正哉さんでよろしいっすか?」

 

 梓は正哉に確認し、顔をまじまじと見つめた。

 

「たしかに俺はそうだけど…君は?」

 

 梓と面識の無い正哉は突如連れて来られ、引き合わされた事に戸惑っていた。加えて、ギャルっぽさと人当たりの良さを窺わせる事で内心ドギマギしていた。

 

「アズは梓っす!実は先輩にお会いしたくて今日やって来ました」

 

「と言う訳だ、マサ。お前これから梓と一緒に話しでもしていろ。私と冴子は席を外すからな。ああそれと、ベッドは汚しても問題ないからな。ここを出る場合は札を掛けといてくれ。それじゃあ行くぞ冴子」

 

「分かったわ。それじゃあ、何か奢って貰うわよ。じゃあね、マサー」

 

 軽いノリでセクハラ発言を物ともしない楓は冴子を連れ立って保健室を後にした。そして、静寂と為るこの部屋には二人が向き合う様に椅子に腰掛けていた。

 

 

 

 

 

「突然呼び出してしまって申し訳ないっす。アズは乾梓っていいます」

 

「俺は加藤正哉だ。乾さんは俺の事を知っている様だけど、その制服は由比浜学園の物だよね?」

 

「そうっすよ。アズは由比浜に通っているっす!それとアズの事はアズって呼んで欲しいっす!」

 

 そう言うと梓は顔を寄せてさらに正哉を見入った。此処まで顔を近づけられるのは幼馴染枠の愛やマキといった面々以外では初めてであり、顔を赤らめることには十分な物だった。

 

「へーこれで赤く為るんすっね。ところでマサ先輩は江乃死魔って名前をご存知ですか?」

 

 楓と冴子が居なくなった事で梓は口調をより普段の物へと変え、正哉の呼び方も変化させる。そして、瞳は江乃死魔の幹部をしている時の物へと変化を遂げていた。

 

「江の島?」

 

「違うっす。江乃死魔っすよ。マサ先輩は辻堂先輩とは良い関係なんですか?」

 

 梓のこの言葉で正哉はそちらの人間だと認識した。

 

「愛と?あいつとはお隣同士だ。えーっと、アズは愛達と同じと言う事で良いんだよね?」

 

「あっ、やっぱり解りました?まあ、江乃死魔と尋ねましたからね。では改めて自己紹介を、アズは江乃死魔の幹部乾梓っす!宜しくお願いしますっすよ、マサ先輩」

 

 そう名乗ったところで梓は正哉の腕を取った。そして、器用に正哉を立たせると教室を後にしようと促す。

 

「ちょっと待った。何処に行こうとしているんだ?」

 

「此処だと何時見つかるか分からないので、アズ達のアジトへお誘いするっす。出来れば暴れないで頂けると有り難いっす」

 

 そう言うと梓は関節を器用に締め上げ正哉に痛みを覚えさせる。これは暴れ、声を出し救いを求めるなどの行為はしない様に促す為の物だった。

 

「大丈夫っす。その点は恋奈様が保証しますっす!さあ、とっとと移動しましょう。あ、それと辻堂軍団とはち合わせた場合上手く話しを合わせて貰うっすよ」

 

 

 

 

 

 梓の懸念はそのままに、無事二人は江の島へと架かる橋の下へと移動できた。まさか学校を堂々と出て周囲に不信の目を向けられることも無く移動出来たのは単に梓の行動であった。

 

「恋奈様、ご命令通りマサ先輩を連れて来たっす」

 

「よくやったわ、梓。それにしても随分と仲の好さそうに連れて来たのね…」

 

 恋奈の他には早々と離脱したティアラと花子も揃っていた。そして、三人の目に飛び込んできたのは仲睦まじい雰囲気を演出する様に梓は正哉の腕を抱きしめ、自身の胸の間に挟み込んでいたのだ。これでは彼氏を迎えに来た彼女、愛し合うカップルと周囲の目を誤魔化す事など容易なことだった。

 

「エヘヘ、お似合いに見えますか恋奈様?」

 

 梓は褒められたと勘違いして調子に乗りキツイお仕置きを科される事となった。

 

「さて、初めましてね。私が江乃死魔の総長片瀬恋奈よ」

 




 御一読頂きまして有難うございました。

 おかしい…何故かマキの出番を増やせないでいる……
 ですが、次話で三大天が揃うこととなります!
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