辻堂さんの純愛ロード的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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第9話

「マサ腹減ったメシー」

 

 マキは正哉から貰った鍵で家に入ると、自らの欲望を解消して貰うべく家主の名前を呼んだ。

 ところが、出迎えたのは子犬のマールと子猫のラヴだった。

 

「なんだお前たちだけか、ご主人様はまだ帰ってないのな」

 

 マキの言葉を理解するように二匹は彼女の言葉が終わると一鳴きした。

 そしてマキは二匹を抱き上げると奥へと進み、冷蔵庫を開け直ぐに食べられそうな物を探し始めた。ところが材料も揃ってはいる物の直ぐに食べられる物が無くマキは静かに冷蔵庫を閉める。

 

「駄目だ。直ぐに食べられそうな物が無い……」

 

 別の場所を探すが似たような物で、有るのは愛がストックしているお菓子であった。本来ならこれに手を付けているマキだが、正哉に固く禁じられていて悩ましい存在と化していた。

 

「食べたい、でも食べたら怒られる……はっ!?そうだよ。タダで飯食える所があるじゃん!マール、ラヴ、私は少し出掛けてくる。大人しく待っていろよ!」

 

 マキはそう言い残すと素早く家を後にした。

 

 

 

 

 

 一方愛を除いた辻堂軍団は、江乃死魔の人間が校内に進入した事を受けて臨時集会を開き対策を話し合っていた。

 

「クソ、恋奈の野郎…」

 

「相互不干渉であって不可侵ではないのが影響しましたね」

 

「ワイらには一切手を出しませんでしたからなー」

 

「見た瞬間に撤退したものね。あれは予想外だったわ」

 

 皆口々に江乃死魔の行動を不思議がっていた。特に目撃情報から幹部の連中だけが進入していると久美子は考えていた。

 

「解せない。何故リスクを冒してまで稲村に侵入したんだ?いや、恋奈はこれを見越して不干渉と言う言葉を使ったのか…」

 

「クミさん、もう一度この事で江乃死魔と話し合った方がいいのでは?」

 

 一人が久美子に尋ねた。そうすると彼に賛同する様に軍団員が一様に言葉を久美子に投げ掛けた。

 

「分かっている。でもこれには愛さんの許可が必要だ。残念なことに今日は用事が有るとかで居ないからな。俺が今夜にでも出向いてこの事を相談することにする。皆はそれでいいな?」

 

 久美子の言葉に出席者は賛成と言い臨時集会は解散となった。

 

 

 

 

 

 ではその愛はと言うと…

 

「いらっしゃいませー……辻堂さん」

 

 惣菜店孝行にやって来ていた。自然体で訪れた愛に不幸にも店番をしていたよい子は接客スマイルを崩しはしなかったが、何時正体がばれるのかと生きた心地はしなかった。

 

「ども。この間は…」

 

「今日はマー君と一緒じゃないのかしら?」

 

「それなんですけど、マサがメールで此処の品物を買っておいてくれって…」

 

 愛は自分で注文するよりも書かれてある内容を見せようと、携帯画面にメールを表示させよい子へと差し出した。

 

「あら、これだけで足りるのかしら?」

 

 ところがよい子が見せられたメールは、凡そマキと一緒に食べるにしては少ないと言う感想を持つ内容だった。

 

「わからねぇ、私はただあいつに頼まれただけだから…」

 

(喧嘩狼の辻堂愛が買い物を頼まれる…ヤバい、相手を知っているだけに笑いが……)

 

「あのぅ、何か?」

 

「あっ、御免なさいね。なんか、マー君から頼まれて買い物に来る辻堂さんが微笑ましくてね」

 

 よい子の笑みは看破される事は無く何とか誤魔化す事に成功した。そして、メールに書かれてある商品を袋詰めし、代金と交換しているところで愛の携帯にメールが送られて来た。

 

「…ちょっとすみません」

 

 愛は商品ケースの上に購入した品を置くと、メールを開き中身を確認した。その瞬間、番長辻堂愛の空気が出現した。

 

「ヒィッ!?」

 

 突如目の前で見せられたよい子はまさか正体がばれたのかと恐れた。それほどまで愛の目は殺気立つ物だった。

 

「ああ、すまねぇ驚かせちまった。悪いけどこれ預かっといてくれ。終わったら取りにくっから」

 

「え、ええ構わないけど…どうかしたのかしら?」

 

 ついついよい子はそう尋ねてしまう。今のよい子は孝行の看板娘よい子であって良子ではないのだ。

 

「そういや、あんたもマサとは幼馴染だったよな?」

 

「ええ、そうだけどマー君に何か?」

 

 そう言うと愛は携帯をよい子に見せる。そこには写メと文章が書き込まれてあった。

 

「こ、これって…」

 

「ああ、恋奈はどうやら私を怒らせたいらしいな。っと、あんたには関係の無い話しだな。安心しろ、正哉は絶対に連れ戻して来るから。それまでそれ頼んだぜ」

 

 愛はよい子に告げると目に追えないほどの速さで目的地へと急行した。

 

「ちゅ、ちょっと恋奈は何をしているのよ。辻堂には手を出さないって約束してあるでしょう…それに乾がどうしてマー君と一緒に写っていたのかしら?っと、こうしてはいられないわね!お母さーん!急に部活の集まりに出なくちゃいけなくなったからちょっと出掛けて来るわねー!!」

 

 よい子は変身グッズを持ち出すと母親の言葉も聞かずに家を出て行った。

 

 

 

 

 

 そして舞台は江乃死魔のアジトへと戻る。

 

「これでいいわ。辻堂ったらどんな顔をしているかしらね」

 

「恋奈様、あくどい顔してるっすよ」

 

 目の前で写メを撮られたモデルの一人梓は恋奈に対してそう言葉を投げ掛けた。

 

「っさいわね。ちょっとした悪戯よ。この前の事に対してお礼でもしてやらないと収まりが着かないのよ。それよりも梓、何時までその体勢で居るつもりかしら?」

 

「うーん、もう少しだけこうして居たいっす」

 

 梓は椅子に座らされている正哉の上に横向きに為って座り、両腕を背中にまわして抱きつくようにしていた。これを恋奈は正哉の携帯で撮り愛にメールで送ったのだ。

 

「俺としては直ぐに解放して貰いたいのだが…」

 

 梓に抱きつかれている正哉は理性が飛びかかっている。そうでなくとも此処へと来る時に自然と誘惑される状況を我慢していたのだ。その時点で相当キテいたが極めつけはこれである。大ほどではないが正哉も我慢強さは相当な物が有るが、それでも我慢にも限界がある。

 

「うーん、もうちょっとだけこうさせて下さいよ、マサせ・ん・ぱ・い…」

 

 梓は悪戯心を含めて正哉の耳元に息を吹き掛けた。

 

「ほーう、おもしれぇ事しているじゃないか、片瀬恋奈君……」

 

 梓の調子に乗った誘惑攻撃に耐えていた正哉と、江乃死魔の人間達に聞こえてきた声は両極端なものであった。

 

「み、みみ皆殺し!?」

 

「うぇー!何で此処に皆殺し先輩が!?」

 

 恋奈と梓の声が一致した時既に梓は正哉の膝から降り、別の出口へと逃げていた。

 

「あっ、マキ」

 

 ところが正哉だけは平然と同じ家に住むマキを見て安堵していた。それには江乃死魔一同が驚愕させられる。

 

「ちょっとあんた腰越と知り合いなの!?」

 

 恋奈は正哉が随分と呼び慣れている様にマキを呼んだ事に驚愕した。事前情報では辻堂愛と幼馴染と言う物が恋奈の所に届いていたからだ。腰越マキとの関係がそこに含まれず、全くの無警戒と在ればアジトは恐慌状態と陥っていた。

 

「マキは俺の幼馴染だし」

 

「はぁ!?ちょっと待ってよ!あんた辻堂と幼馴染でしょ!!」

 

 恋奈は未だに座らされている正哉に正面から詰め寄った。襟元を掴み上げ、今にも首を絞めかねないほどに力が入っていた。

 恋奈としては大誤算である。皆殺しのマキと言う異名を付けられている腰越マキはその名の通り周囲に居る者を巻きこんで喧嘩を行う。愛とも似た一匹狼だが性質が悪いのが彼女である。そんな彼女を知る恋奈だからこそ石橋を叩いて渡るが如くマキとは極力ぶつからない様に注意していたのだ。

 

「まあ、そうだけど。マキとも古い付き合いだよ」

 

「まあそう言うこった。さて、これはどう言う状況なのか説明を求めたいのだが…」

 

 マキは怒りを隠す事も無く一歩一歩恋奈へと近付く、当然そこには江乃死魔の人間も居る訳だが、意に介する事もなく来た者マキの範囲に居る者は事如く、葬り去られた。

 

「くっ、まさかこんなことに為るなんて…」

 

 もう少し正哉についての情報を精査するべきだったと反省する恋奈に、更なる災厄が振って来る。

 

「れ、恋奈様!!ぎゃー」

 

 マキが来た別の方角で橋の見張りをしていた者が、アジトへと駆け寄り恋奈の名前を告げた瞬間悲鳴へと変わった。

 

 

 

 

 

「正哉!大丈夫か!!って、腰越!?」

 

 愛は血走る様な殺気を振りまきながらアジトへと駆け付けた。マキに比べ登場が荒っぽいのは挑発によるものの影響である。ところが張本人である恋奈はマキと愛を目の前にしてすっかり忘れている。

 

「だぁー辻堂まで来るなんて!!」

 

 少し前の自分を諌めたい思いの恋奈は、必死に状況を脱しようと頭を使うがどれもがバッドエンドを迎える答えしか導き出されなかった。

 

「随分と舐めた事してくれたな恋奈…覚悟、出来てんだろうなッ!!」

 

「アババババ…」

 

「きゅー」

 

 ティアラと花子は愛の殺気によってその場で気絶し、辛うじて恋奈が一人踏ん張っている状況だった。

 

「おーおー流石江乃死魔の総長ってところだな、恋奈。でも私も今日ばかりは虫の居所が悪いんでね」

 

「覚悟はして貰うぞ、恋奈」

 

 この時恋奈は覚悟を決めた。血まみれの恋奈、その様に片瀬恋奈は呼ばれている。返り血を浴びたと言うものではなく、本人の血が流れ出たことから付けられた異名であり、異常な回復力を見せる恋奈はマキと愛からしぶとくて面倒だと言う認識を持たれている。

 しかし、今の二人はその様な考えなど毛頭なく、虎の尾を踏んだ状況であった。

 

「くっ…チクショウ……」

 

 恋奈は何とか踏ん張って立っているものの気を抜けば地面に座り込み、出してはいけない物が出そうになっていた。足も言う事を聞かず、ただマキと愛を睨み続けるだけである。

 二人は息の合った足取りで一歩ずつ進み恋奈との距離を詰める。

 

「二人ともその位にしておこうぜ」

 

 正哉の言葉でマキと愛は動きを止める。ところが一向に二人は正哉の目を見ることなく恋奈を見続けている。

 

「何言ってんだよ、正哉!恋奈はお前を拉致ったんだぜ」

 

「そうだぞ、マサ。こいつは然るべき報いってもんを受けなきゃならねぇ」

 

 二人は言葉を交わすものの動きを再開し、あと一歩のところまで近づいた。

 

「俺が拉致られたって、単にアズに連れて来られただけなんだよ」

 

 正哉は無理矢理連れて来られた訳ではない事を説明した。

 

「ほう、あいつがな…」

 

「ふーん。つまりマサはあのおっぱいに誘惑されて、のこのこ付いて来たってわけか…」

 

 マキの言葉で愛はメールに添付されていた写メを思い出した。正哉と梓が仲睦まじそうに抱き合っている(少なくとも愛にはそう映った)光景を思い出した。

 その瞬間二人は何時もの二人に戻り、幾許か雰囲気も軽くなったように感じられた。

 

「まあ、色々誤解もあるがマキの言う通りかな。でもアズに誘惑されたから来た訳じゃないぜ。ただ来て欲しいって言われてな。まさかここまで大事に為るなんて思わなかったけど…」

 

 正哉も少しは反省していた。愛とマキの二人と知り合いであったことから、そこら辺の不良に全く恐怖する事がなかった。大とも共通する部分だが、今回はそれが仇となった形だった。

 

「ちっ!おい、恋奈」

 

「な、何よ辻堂…」

 

 恋奈は腹に力を込めて気丈に振る舞い愛に応えた。

 

「今回の事は勘弁してやる。ほら帰るぞ、正哉」

 

「だな、本当は飯食いに来たんだけど空振りだった。マサ美味い飯作れよな!」

 

 二人はそう言うと正哉を連れ出しアジトを出ようと来た道を戻り始める。対して正哉もそれに続くが最後に恋奈へと言葉を掛ける。

 

「えーっと、片瀬恋奈さん。今回の事はお互いに無かったと言う事で…それじゃあ、また」

 

 正哉の言葉に『また』と付けられた事でもう会いたくはないと思わずには居られない恋奈であった。

 今日集まっていた江乃死魔のメンバーは壊滅に追い込まれ、アジトもそれなりに被害を被っていた。唯一無傷なのは、忽然と姿を消した梓だけであった。

 




 御一読頂きまして有難うございました。

 
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