機動戦士ガンダムSEED moon light trace   作:kia

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第2話  『ガンダム』起動

 

 

 

 

 

 テタルトス月面連邦国と中立同盟。

 

 この二つの陣営は一応の協力関係にあった。

 

 別段強固な信頼関係を構築している訳でも、軍事同盟が成立しているという事でもない。

 

 あくまでも利害関係―――お互いに物資の提供や方針を支援、交流を持っている程度にすぎない。

 

 この二つの勢力がこうした協力関係を維持できる背景には思想や立場が近いという事。

 

 それに加え地球連合という共通の敵がいるからに他ならない。

 

 前大戦でその力を見せつけた中立同盟と連合、ザフトの攻勢から自陣営を守り抜く精強な軍事力を保持するテタルトス。

 

 彼らがどんな形であれ手を組んでいるという事実は連合やプラントにとっては脅威であると同時に手を出し難くする要因にもなっていた。

 

 今回行われるカガリ・ユラ・アスハのテタルトス視察も連合やプラント側に対する牽制という意味合いも含まれており、月周辺は今までにない緊張感に包まれていた。

 

 

 

 

 

 当然の事ではあるが中立同盟の代表者の一人であるカガリ・ユラ・アスハが月へ向かうという事で同盟軍は慌ただしさを増している。

 

 これが普通に交流がある国へ向かうというだけならば、皆が警戒する必要はない。

 

 だが今回ばかりは話が別。

 

 向かう場所が場所なのだ。

 

 月は最近特に不穏な気配が濃くなっているという話も伝わっており、出来得る限りの手は打つ必要があった。

 

 延期するという選択肢も無くはない。

 

 しかし両国の関係、立場を考えれば尚の事行かねばならない。

 

 そんな不測の事態に対する備えの一つ。

 

 『ヴァルハラ』に接舷していた一隻の戦艦が出迎えの為に出港しようと準備が行われていた。

 

 スカンジナビア強襲戦艦『オーディン』

 

 前大戦に投入され、活躍したスカンジナビアを代表する戦艦である。

 

 モルゲンレーテが開発に関わっていただけあって、『不沈艦』と呼ばれたアークエンジェルと似た印象を持ち戦闘力も折り紙つきである。

 

 装甲の最終チェックの為に張りついていたスタッフが離れると、人員と共に二機のモビルスーツが運び込まれていく。

 

 「問題はないようだな」

 

 その様子をオーディンの艦長を任されているテレサ・アルミラ大佐は端末を持って確認していると一人の青年が近づいてきた。

 

 「アルミラ大佐」

 

 「ん、ジュールか」

 

 声を掛けて来たのはイザーク・ジュール。

 

 元ザフトのクルーゼ隊に所属していた経歴を持つ前大戦から同盟に参加しているエースパイロットの一人である。

 

 その優秀さを買われ、新型のテストパイロットを務めながら彼がヴァルハラのモビルスーツ部隊を指揮する立場となっていた。

 

 「今回はこの程度の戦力で良いのですか?」

 

 「戦争に行く訳ではないさ。それにテタルトスにも面子もあるからな」

 

 もしも訪れる代表者に何かあろうものなら、テタルトスの責任問題にも成りかねない。

 

 彼らも現状、同盟との関係を悪化させるような事態は避けたいだろう。

 

 ならお粗末な防衛はしない。

 

 そこに同盟が過剰な戦力を持ち出せば、向こうも良い顔はすまい。

 

 「一応保険も掛けてある」

 

 「保険?」

 

 「ああ、使わないに越した事は無いがな」

 

 「俺も行った方がいいのでは?」

 

 「そう言うな。戦績やデータを見る限り、あの二人なら実力的にも問題は無い。お前はヴァルハラ防衛の方に意識を向けておけ」

 

 そこで準備が整ったと端末に連絡が入ってくるとテレサはオーディンに乗り込む為、床を蹴って飛び上がる。

 

 「それから、近々アスカがヴァルハラに上がってくる筈だ」

 

 「マユが?」

 

 アスカとは前大戦でターニングガンダムのパイロットを務めた同盟軍のエースである、マユ・アスカの事だ。

 

 普段はオーブ本国で任務についているのだが、以前から準備が進められていた合同訓練の為に上がってくるのだろう。

 

 イザーク自身彼女とは前大戦から親交があり、会うのも久しぶりである。

 

 「そちらは頼むぞ」

 

 「了解!」

 

 敬礼を返すイザークに見送られながらテレサはオーディンへと乗り込んだ。

 

 

 

 

 オーブのマスドライバー施設『カグヤ』

 

 宇宙への架け橋であるこの場所ではいつもの喧騒に満ちている。

 

 そんな人々の中でセリスとニーナは護衛対象であるカガリ・ユラ・アスハの到着を待っていた。

 

 「スカンジナビアのマスドライバー施設『ユグドラシル』も凄かったけど、やっぱり宇宙に行く場所だけあってここも人が多いわね」

 

 ここは宇宙に行く為の玄関口。

 

 アメノミハシラやヴァルハラに向かうためにはここを使う必要があるのだから人が多いのは当然だろう。

 

 「まさか自分がここを使う事になるとは思わなかったわ」

 

 「ああ、ニーナもオーブ戦役に参加してたんだっけ」

 

 「ええ、まあ私は別の場所で誰かさんと戦ってたんだけどね」

 

 「あはは」

 

 かつてこの国を戦火に包んだオーブ戦役。

 

 それはこの場所を巡って起こった戦いだ。

 

 その戦いに参加していたセリスやニーナは複雑な気分でその光景を眺めている。

 

 あの時は必死で生き延びるだけで精一杯だった。

 

 あれだけの強敵が揃う中、よくも生き延びられたものだと感心してしまうほどだ。

 

 無事に乗り越える事ができたのは搭乗していた機体の性能とレティシアがつけてくれた厳しい特訓のおかげであろう。

 

 あれからセリスは日頃の訓練の大切さを身に染みて知り、今では特別な事情がない限りは欠かさす訓練を行うようにしている。

 

 やはりいざという時に物を言うのは日頃の積み重ねであるとこれまでの戦いで痛感していた。

 

 そんな風に二人でとりとめもない雑談に興じていると一人の男性が近づいてきた。

 

 「君達がセリス・ブラッスールとニーナ・カリエールか?」

 

 スーツを着込み、きちんとした佇まいだが、どこにも隙がない。

 

 ある程度の訓練を積んでいる事が見て取れる。

 

 「貴方は?」

 

 「失礼、私はショウ・ミヤマ。カガリ様の補佐官を務めさせてもらっている。君達を案内するように仰せつかった」

 

 どうやらカガリは別室にて待機しているらしい。

 

 確かにこの場所に彼女が来れば大騒ぎになってしまうから当然の配慮だろうと納得するとショウに案内される形でカガリがいる部屋へと向かった。

 

 「カガリ様、護衛役の二人をお連れしました」

 

 「入ってくれ」

 

 「失礼します」

 

 案内されるまま部屋に入るとソファーに腰掛け、何かの資料に目を通している金髪の少女の姿があった。

 

 「よく来てくれた。初めまして、私がカガリ・ユラ・アスハだ。よろしく頼む」

 

 「ハッ! ニーナ・カリエールです。今回セリス・ブラッスールと共に護衛役につかせていただきます」

 

 敬礼する二人にカガリは苦笑しながら手を振った。

 

 「そう固くならないでくれ。私はまだまだ未熟な若輩者だ。少なくとも公の場以外ではそんなに気を使う必要はない。いつも通りにしてくれればいいんだ」

 

 「……えっと、いいのかな」

 

 「緊張しすぎるよりはいいんじゃない」

 

 「ああ、それで頼む」

 

 簡単に挨拶と自己紹介を終えるとショウが端末を手に今回の詳細を説明し始める。

 

 「では早速今回のテタルトス訪問について再度確認させてもらいます。詳細はすでに通達されているとは思いますが、そちらも気になる事があれば質問してください」

 

 「了解しました」

 

 これから此処にいる四人でシャトルに乗り込み、宇宙で『オーディン』と合流。

 

 テタルトスへからの出迎えの部隊と接触し、月へと向かう。

 

 向うに到着した後は提示されたスケジュールに従って動く事になる。

 

 その辺も頭に入れておかねばならない。

 

 「以上です。何か質問は?」

 

 「あの、月へはオーディンだけで行くんですか?」

 

 「過剰な戦力はテタルトスを変に刺激する事になるだけだからな。あの辺りは物騒だから、不安に思うのも分かるが―――それから二人には新しい機体を使って貰う事になる。後でデータを確認しておいてくれ」

 

 他にも出迎えの部隊の規模など質問をしていると時間がきたらしく、職員が部屋まで呼びに来た。

 

 「そろそろ時間になります。行きましょう」

 

 「分かった、行こう」

 

 「はい」

 

 ショウが先頭に立ち、カガリを守るようにセリスとニーナが横につくと、シャトルに向かって歩きだした。

 

 

 

 

 

 宇宙に浮かぶ岩礁地帯。

 

 そこに数機のモビルスーツらしき機影が隠れていた。

 

 一回り大きな装甲のようなものを纏い、機体全体を把握する事はできない。

 

 少なくともこれまでに見た事もないモビルスーツであったのは間違いない。

 

 コックピットに座る男はこれから始まる最高の時間に思いを馳せて口元を歪めていた。

 

 「……今度は同盟が相手か。強い奴だといいけどねぇ」

 

 最近はテタルトスの―――しかも雑魚ばかりを相手に戦ってきた。

 

 半年前に戦ったあの紅い奴のような強敵ならモチベーションも上がるというものだが。

 

 「同盟には個人的に借りもあるし、期待させてもらおうか」

 

 チラリと時間を確かめるとそろそろ目標が来る頃になっていた。

 

 《時間だぞ》

 

 「言われなくても分かってるさ。行くぞ」

 

 《熱くなって引き際を誤るなよ。お前の巻き添えなんて、ごめんだからな、『狂獣』殿》

 

 傍にいる機体に乗っていたパイロットはそう吐き捨てると、こちらの返事も待たずに先に出ていく。

 

 「そっちこそ、俺の足を引っ張るなよ」

 

 アルド・レランダーは先行する機体に向けて呟くと、スラスターを噴射させて岩礁地帯から飛び出していった。

 

 

 

 

 セリス達を乗せオーブから飛び立ったシャトルは大気圏を抜けて宇宙へ出た。

 

 すぐに特徴的な白亜の艦オーディンが待っている姿が視界に入ってくる。

 

 シャトルの窓から白い戦艦の姿を見たニーナは既知の戦艦と重ね合わせ思わず呟いた。

 

 「あれがオーディン? やっぱりアークエンジェルに良く似てるわね」

 

 「アークエンジェルを作ったモルゲンレーテが開発に関わってるみたいだし」

 

 これはオーブ艦にも言える事で、外見に違いはあるが内部は良く似ていたりする。

 

 作っている場所が同じだから当然であるとも言えるが。

 

 「でもあの艦を見るのも前大戦以来か」

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役が終結してからは主に地上で動いていた為、あの艦の姿を見るのも久しぶりである。

 

 シャトルはゆっくりとオーディンに接近し、着艦しようとしたその時―――

 

 突如数多の閃光が降り注いだ。

 

 ビームがオーディンを掠めた衝撃でシャトルもまた大きく揺れる。

 

 「きゃあああ!」

 

 「何だ!?」

 

 体勢を崩しながらも戦艦にどうにか着艦したシャトルは格納庫に突っ込んでいった。

 

 撃ち込まれたビームに続いて、着弾するミサイルの振動に耐えながら艦長席に座るテレサはモニターに視線を向けた。

 

 「どこの機体だ?」

 

 通り過ぎていった機体は黒い塗装と装甲の所為か、正確なシルエットを確認できない。

 

 「今、照合中で……照合データ無し!? 機種不明!!」

 

 「不明機だと!?」

 

 テタルトスで暴れている噂の正体不明機という奴だろうか。

 

 いや、どこの機体であろうと今は―――

 

 「仕方無い、迎撃開始! オーブからのシャトルは?」

 

 「カガリ様も怪我はないようで、無事に着艦できたようです」

 

 「良し、なら一緒に来たパイロットに機体の発進準備をさせろ!」

 

 「了解!」

 

 オーディンの砲門が開かれ、一斉に攻撃を開始する。

 

 そしてオペレーターから格納庫に降り立ったセリス達にテレサからの指示が伝えられた。

 

 「えっ、私が出撃を?」

 

 「そうだ。セリス・ブラッスールは準備をして機体の所へ。ニーナ・カリエールの機体は装備の調整がまだ完璧に出来てないが、コックピットで待機を」

 

 「「了解!」

 

 指示を伝えてくれた整備士に敬礼して、カガリの方を見るとこちらに対して頷き返してくる。

 

 「私が大丈夫だ。二人はすぐに機体の方へ行ってくれ」

 

 「はい!」

 

 「分かりました」

 

 パイロットスーツを着込み、格納庫に立つメタリックグレーの巨体を見上げる。

 

 その外見には見覚えがあった。

 

 「この機体は少佐が乗ってた―――」

 

 ZGMF-X01Ar 『アイテルガンダム・リアクト』

 

 前大戦でレティシア・ルティエンスが搭乗したアイテルガンダムを修復、改修した機体である。

 

 ZGMF-Xシリーズ量産計画のデータ収集の為に改修され、核動力からバッテリーに変更された。

 

 さらにバッテリー換装に伴い、武装なども改良され活動時間の延長も図られている。

 

 そして見上げたアイテルの隣には別の機体が佇んでいた。

 

 SOA-X01r 『スウェアガンダム・クリード』

 

 前大戦で投入されたスウェアガンダムの改修機。

 

 次世代機に搭載予定の技術や武装がデータ収集の為に搭載され稼働時間もより延長。

 

 背中は同盟の装備換装システム『タクティカルシステム』にも対応している。

 

 かつてはこの機体達の後ろ姿を見ながら戦ってきた。

 

 そう考えると今から自分が乗り込む事になるとは、何とも言えない気分になってくる。

 

 「何、突っ立ってる! さっさと機体に乗れ!」

 

 「あ、はい、すいません!」

 

 急いでコックピットの中に乗り込み、コンソールを操作して機体を立ち上げる。

 

 「そういえば初陣の時も大気圏近くだったけ」

 

 あの時は初めての出撃で輸送艦を逃がしながら、高度に注意して戦わなくてはならなかった。

 

 しかも後から来た機体には蹴り落とされてしまうし。

 

 もしも輸送艦と合流出来ずに落下したままだったら、機体ごと焼け死んでいた。

 

 そう考えると大気圏には碌な思い出がない。

 

 「それで今回は正体不明機からの奇襲って……」

 

 嫌な考えがセリスの脳裏を過る。

 

 その呟きをコックピットの中で聞いていたのかニーナがポツリと呟いた。

 

 「……貴方、もしかして良くないものでも憑いてるんじゃ」

 

 「変なこと言わないでよ!!」

 

 自分でも少し考えなかった訳じゃないが、出撃前に不吉な事は考えたくない。

 

 リズム良くキーボードを叩き、機体状態のチェックを済ませる。

 

 「良し、問題なし。後はぶっつけ本番でどうにかする」

 

 「私の方はもう少しかかるみたい」

 

 「了解。敵の数も多くないみたいだし、ニーナの準備が整うまではこっちで何とかしてみる」

 

 アイテルをカタパルトに設置すると背中に高機動装備『セイレーン改』を装着した。

 

 これは前大戦で使われたセイレーンの改良型であり、同盟の装備換装システム「タクティカルシステム」の雛型として開発されたものだ。

 

 オリジナルよりも火力は劣るが機動性は維持されたまま、バッテリーも内蔵している。

 

 《進路クリア、アイテルどうぞ!》

 

 「セリス・ブラッスール、ガンダム、行きます!」

 

 押し出されると同時にPS装甲を展開。

 

 フットペダルを踏み込むと、機体は一気に加速し宇宙に向けて飛び出した。

 

 「敵はどこに―――上!?」

 

 オーディンから出撃したアイテルに向けて、無数のビームが降り注ぐ。

 

 その閃光をシールドで防ぎながらビームライフルを上方へ向けて発射した。

 

 それをすり抜けるように、黒い弾丸が突っ込んでくる。

 

 「あれって、モビルアーマー!?」

 

 少なくとも初見のセリスにはそう見えた。

 

 全身を覆う黒い装甲に、大型のブースターユニット。

 

 どう見てもモビルスーツのようには見えない。

 

 敵はこちらが放ったライフルの射撃を避け、速度を上げて肉薄してきた。

 

 「速い! このまま突撃してくるつもり!?」

 

 残弾が無くなったのか、敵はミサイルポッドを切り離してくる。

 

 「目くらましのつもり!」

 

 セリスはミサイルポッドをライフルで撃ち落とし、横に飛び退いた。

 

 すれ違い様に背中に設置されている多連装ビーム砲が火を噴く。

 

 追撃してきた敵機の幾重の砲撃を正面に加速して回避。

 

 ライフルで狙撃すると背中のビーム砲を吹き飛ばした。

 

 「凄い、この機体、反応が全く違う」

 

 思い通りに機体が動く。

 

 前大戦で乗ったアドヴァンスイレイズガンダムも良い機体だった。

 

 だがこのアイテルガンダムはそれ以上である。

 

 「これなら!」

 

 機関砲で相手の動きを誘導しながら、セイレーンのビーム砲を叩きこむ。

 

 ビームが敵機を掠めバランスを崩した所で追撃をかけようと前に出るが背後からミサイルが撃ち込まれた。

 

 「新手!?」

 

 腰のビームガンでミサイルを撃ち落とすと、別方向から同じ機体が急速に接近していた。

 

 「ククク、アハハハハ、当たりだな! まさか相手がガンダムとはなァァ!!」

 

 最高の敵。

 

 それに巡り合えた興奮に包まれながら、黒い機体を操るアルドはターゲットをロックしトリガーを引いた。

 

 発射された数多のビームとミサイルがアイテルに向けて一斉に襲いかかる。

 

 「この!!」

 

 セリスはシールドを掲げて攻撃をやり過ごし、ビームサーベルを抜いて斬りかかる。

 

 あの機体は砲撃戦に特化しており、接近戦は不向きだろうと判断したのだ。

 

 だが、その選択は悪手であった。

 

 横薙ぎに振り抜かれた光刃は、側面部から展開された物によって受け止められていたからである。

 

 さらにそこから二本の大きなビーム刃が発生し、サーベルを弾くと斬りかかってきた。

 

 「そんなんでやれると思ってんのかよ、ガンダム!!」

 

 「ビームクロウ!?」

 

 ザフトのゲイツよりも大きめの強力な光爪だ。

 

 あれを受ければただでは済むまい。

 

 咄嗟に飛び退き距離を取ると眼下に位置するオーディンの様子が見えた。

 

 搭載されていたスルーズやフリストが残りの黒い機体と交戦しているが、防戦一方になっている。

 

 「援護に行かないと!」

 

 オーディンが不味い。

 

 敵機を引き離そうとするが、逃がさないとばかりに懐に飛び込んでくる。

 

 「くそ!」

 

 黒い機体がオーディンにさらに攻撃を加えようとしたその時、準備が整ったスウェアが格納庫から飛び出してきた。

 

 「ニーナ!」

 

 「待たせたわね」

 

 スウェアの背中に装着されているのは砲撃戦用装備『ファーヴニル』

 

 「タクティカルシステム」の雛型として開発された装備であり砲戦仕様の装備。

 

 やや重量はあるが高出力スラスターを搭載している為に高い機動性も確保している武装である。

 

 ニーナは敵機に向けて、試作型高インパルス砲『アータル』改を跳ね上げ発射する。

 

 「これ以上はやらせないわ」

 

 撃ち込まれたミサイルを吹き飛ばし、諸共に敵機の装甲も掠めて損傷させる。

 

 そして逃がさないとばかりにビームサーベルで斬りかかった。

 

 「あっちはニーナに任せておけば大丈夫みたい」

 

 「どこ見てんだよォォ!!」

 

 「邪魔!!」

 

 再び突撃してきた敵に蹴りを入れ、ビームライフルを叩き込むと装甲の一部を吹き飛ばした。

 

 「ぐっ、ハハハ、そうこなくっちゃなァァ!!」

 

 アルドは歓喜の笑みを浮かべると、コンソールを素早く操作した。

 

 「このままじゃ、上手く戦えないんでね! だから、使わせてもらうぜ!!」

 

 敵が纏っていた装甲がパージされ、セリスの目の前にモビルスーツの姿が飛び込んでくる。

 

 「なっ、モビルスーツが隠れていた?」

 

 見た事のない機体である事は間違いない。

 

 両手にビームライフルとシールド。

 

 肩から伸びるアームに接続された盾と一体になっている大型ビームクロウをマウント。

 

 モノアイの頭部やその造形は明らかにザフト機とよく似た特徴を持っている。

 

 「これで自由に動ける!」

 

 アルドはビームライフルを連射しながら、両側に構えたビームクロウをアイテル目掛けて左右から叩きつける。

 

 「この!!」

 

 迫る光爪をセリスはシールドを上手く使って流し、さらには盾で殴りつけ突き飛ばした。

 

 「これも捌くかよ!! けどなァァ!!」

 

 多連装ビーム砲からの砲撃がアイテル目掛けて撃ち込まれ、再び光爪を振るってくる。

 

 「これ以上は構っていられない!!」

 

 加速して光爪を避け、至近距離からビームライフルを発射し相手の動きを止める。

 

 「貴様!!」

 

 敵機の猛攻を潜り抜けたセリスはビームサーベルを斬り上げ、ビームクロウの軌道を変えると反転してオーディンに向う。

 

 「ニーナ!!」

 

 セイレーンのビーム砲で敵をオーディンから引き離すと、それに合わせてスウェアも前に出る。

 

 「セリス、合わせなさい!」

 

 「了解!」

 

 ニーナの放ったタスラムの散弾がオーディンの砲撃を回避した敵に突き刺さり、大きく体勢を崩す。

 

 そこを狙ったアイテルが放ったビームライフルの一撃が敵の背中に直撃した。

 

 「ぐあああ!、なんだと!!」

 

 「大丈夫か!?」

 

 「ああ、この程度なら問題ない」

 

 「無理はするな。俺達の目的は―――ッ!?」

 

 「そこ!」

 

 味方を気遣った隙を突き、ニーナの撃ちこんだアータルの砲撃で外部装甲が吹き飛ばされてしまった。

 

 「戦闘中に迂闊よ! セリス!!」

 

 「これで!!」

 

 装甲を破損し、バランスを崩した敵機に止めを刺そうとセリスはトリガーに指を掛けた。

 

 しかし―――

 

 「お前の相手は俺だろうがァァァァ!!」

 

 「しつこい!!」

 

 敵の仕掛けてきた体当たりをシールドで受けるが勢いは止められず、オーディンから引き離されてしまう。

 

 「今度こそ落ちろよ、ガンダム!!」

 

 「このォォ!!」

 

 盾で殴りつけ、弾け飛ぶように距離を取る。

 

 そして再び激突しようとしたその時―――全く別方向から黒い機体目掛けて強力なビーム砲が撃ち込まれた。

 

 「何だと!?」

 

 アルドは持前の反応速度で咄嗟に機体を引いてビーム砲をやり過ごす。

 

 そして攻撃が発射された方向に目を向けると一機のモビルアーマーが急速に接近してきた。

 

 「あれって……」

 

 「紅いガンダム、イージスリバイバルか!」

 

 接近してきた機体はアレックスの搭乗するイージスリバイバルである。

 

 その後ろからは母艦であるクレオストラトスの姿が見えた。

 

 月に向かうオーディンを出迎えに来た彼らは戦闘の光を確認し、急ぎ駆けつけてきたのである。

 

 イージスリバイバルはモビルアーマーからモビルスーツに変形すると、構えたビームライフルで黒い機体を正確な射撃で狙っていく。

 

 「ようやく見つけたぞ、今日こそ逃がさない!!」

 

 「わざわざやられにきたのかよ!!」

 

 ライフルの攻撃をシールドで弾きながら、突撃しようとするアルドだったが水を差すように他の機体から通信が入った。

 

 「アルド、ここが退き際だ! 撤退するぞ!!」

 

 「何だと!?」 

 

 アルドはイージスリバイバルを睨みつける。

 

 「チッ、くそが!!」

 

 腰部のグレネードランチャーを撃ちこむと同時に起爆させ、爆煙に紛れ味方機と合流する。

 

 「掴まれ!」

 

 最も損傷の少ない機体に他に機体が掴ると、一斉にブースターユニットを点火して、戦闘宙域からの離脱を図る。

 

 「行かせるか!!」

 

 「紅いガンダム、お前とも必ず決着をつけてやる!」

 

 逃がさないとばかりに肉薄するアレックスだったが、アルドが切り離したミサイルポッドの自爆によって吹き飛ばされてしまった。

 

 その隙を狙い、敵は戦闘宙域から離脱していった。

 

 「クレオストラトス、追跡は!?」

 

 《反応をロスト、追跡は途中までしか!》

 

 「くそ!」

 

 思わず操縦桿を殴りつける。

 

 あそこまで追い詰めながらみすみす逃がすとは。

 

 「……同盟の戦艦を落とされなかっただけ、まだマシか」

 

 それにしても奴らが同盟の戦艦を襲ったのは偶然なのだろうか。

 

 いや、あの退き際の良さといい予めこちらの動きを知っていたと考える方が自然だ。

 

 となると―――

 

 「……厄介な事になりそうだ」

 

 アレックスは頭を切り替え、近くにいるアイテルガンダムに向き直る。

 

 あの機体を見ると色々思いだしてしまうが、今はそれは極力考えないようにしながら、通信機のスイッチを入れた。

 

 

 

 

 

 

 その報告を聞いたリアンはため息をついた。

 

 アルドを含めた数名の同盟軍への奇襲。

 

 その成果は概ね問題ないものであったが一点だけ気に入らないところがあった。

 

 「所詮は『狂獣』か。機体の姿を晒すとは」

 

 今まで秘匿し続けてきた機体の姿を敵に晒してしまったのである。

 

 それでも任務をこなしただけ、十分といえるだろうが。

 

 リアンはそこに立つ機体を見上げる。

 

 そこにはオーディンを襲撃した黒い機体が並んでいた。

 

 ZGMF-FX090 『ヅダ・レムレース』

 

 Fシリーズ(フューチャーシリーズ)の次期主力量産機として企画されていた機体である。

 

 元々優秀なFシリーズ系譜の機体だけあって、高い性能を持ち、汎用性にも優れている。

 

 同盟の戦艦を襲撃した際に装着されていた黒い装甲は強襲用に開発された外部装甲である。

 

 「でも作戦には支障ないでしょう。なら問題はないわよ」

 

 ジェシカの言う通りだ。

 

 すでに準備は整いつつある。

 

 「そうね。こっちもようやく使えるようになった訳だし」

 

 見上げた先にはヅダとは違う、二機のモビルスーツが立っている。

 

 二人の戦意に応え、その機体もまた出撃の時を待ちわびているかのように佇んでいた。

 




ヅダは前作で頂いたアイディアを参考にさせてもらいました。
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