機動戦士ガンダムSEED moon light trace   作:kia

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第1話  運命の始まり

 

 

 

 C.E.71 

 

 地球連合が農業プラントに核ミサイルを撃ち込んだ『血のバレンタイン』

 

 それを切っ掛けにして起こった、地球、プラント間の武力衝突。

 

 戦いが開始されてすでに一年以上の時間が経過していた。

 

 地球連合とザフト。

 

 自然に生まれたナチュラルと遺伝子操作を施され誕生したコーディネイター。

 

 これら対立は深刻さを増し、続く戦いは泥沼の状態。

 

 戦火は拡大の一途をたどっていた。

 

 開戦当初、誰もが数で勝る地球軍の勝利を確信していた。

 

 しかし数で劣るプラントは人型機動兵器モビルスーツを投入。

 

 その性能によって連合を押し込み、戦局は膠着状態へ陥っていく。

 

 そんな中、一つの事件を切っ掛けに状況に変化が訪れる事になる。

 

 それが中立国オーブ所属のコロニー『ヘリオポリス』の崩壊である。

 

 コロニーで開発されていた地球軍新型機動兵器を奪取する為行われたザフトの作戦行動によって『ヘリオポリス』は崩壊。

 

 開発されていた新型機動兵器は免れた2機を除き、4機が奪取されてしまう。

 

 この機体を巡り、各地の戦火はより一層激しさを増し、そしてこの頃からモビルスーツの有用性は各所で着目されるようになった。

 

 地球連合とザフトは勿論、今後の主力兵器となっていく事を見越した者達によってモビルスーツ開発は急速に進められていく事になる。

 

 

 

 それは中立国であるスカンジナビア王国もまた同様。

 

 これから確実に訪れる戦火の波を乗り越える為に、『力』は絶対に必要なものなのだから。

 

 

 

 

 地球からそう遠くない暗い宇宙に浮かぶ金属で出来た円形状の物体。

 

 スカンジナビア宇宙ステーション『ヴァルハラ』。

 

 未完成ながら軍事ステーションとしても機能しているこの場所では連日、兵器開発や兵士達の教練が行われている。

 

 戦いが続く世界の現状は未だ終わる気配も無く、戦火は広がるばかり。

 

 いつ巻き込まれるか知れない。

 

 それに備える為の準備が日夜進められていた。

 

 そんなヴァルハラから少し離れた位置。

 

 そこで、複雑な軌道を取りながら、素早く動く物体がいた。

 

 鎧を纏う人型の巨人―――スカンジナビア初の量産モビルスーツSTA-S1『スルーズ』であった。

 

 この機体はヘリオポリスで建造されていた『GAT-X』シリーズ呼ばれるモビルスーツ群のデータとその時に得た技術をもって開発。

 

 オーブの主力機となるべく配備が進められているM1『アストレイ』と同等の機動性とそれ以上の防御力を有した機体として設計された。

 

 その巨大な騎士が片手にライフルやシールドを掲げ、背中と腰に装備されたスラスターを使って宇宙を高速で移動していく。

 

 それを追うように背後から迫るもう一機のスルーズがスピードを上げた。

 

 噴射されたスラスターの光が軌跡を描き、いつの間にか追っていた筈の機体を追い越した。

 

 「ハァ、ハァ、もう追いつかれた!? でも、まだ!!」

 

 コックピットに座るパイロットは息を切らし、歯噛みしながら前に出たスルーズにライフルを向けた。

 

 標的をロックするとトリガーを引く。

 

 確かな感触が指に伝わり、銃口からは弾が発射された。

 

 発射されたのは訓練用のペイント弾である。

 

 当たれば派手な黄色が機体装甲に広がり、めでたく整備班長から冷たい視線を頂く事になるだろう。

 

 それは出来れば遠慮したい。

 

 もちろん整備班長も訓練である事は理解してくれている。

 

 だからといってペイントを落すのは彼らの仕事なのだから、派手に汚れていれば面白くないのは当たり前だ。

 

 どうにか敵機から発射されたペイント弾を避けて見せると、連続でトリガーを引いた。

 

 しかしこちらの狙いはあっさり外され、最低限の回避運動だけでペイント弾を避けた相手は即座にライフルを向けてきた。

 

 「今のを避けるとか!!」

 

 動きが速すぎて、全く捉えられない。

 

 攻撃をかわしこちらが銃口を向けた時にはすでにそこには居なくなっているのだ。

 

 「だからって!」

 

 防御に回れば追い込まれるのは分かっている。

 

 ならばとフットペダルを踏み、一気に上昇して再びライフルを向けるが敵の動きはこちらの予測を軽く上回ってきた。

 

 上昇している内に位置を変えていた敵機は側面から狙いをつけてくる。

 

 「右!?」

 

 ギリギリのタイミングでシールドを突き出し、発射されやペイント弾を防ぐがその隙に回り込まれ、背後から直撃を受けてしまう。

 

 「甘いです」

 

 「嘘、教官の反応速すぎですよ!?」

 

 「貴方の反応が遅いだけです」

 

 「うっ」

 

 相手の射撃を防御してからの動きが全く見えなかった。

 

 もちろんそれだけの差がある事は承知していた。

 

 しかしこうして目の前に突きつけられると自信を無くしてしまいそうになる。

 

 「演習はここまで。ヴァルハラに戻りましょう」

 

 「了解です、ルティエンス教官」

 

 一矢報いる事もできないままやられてしまった事に意気消沈しながら、ヴァルハラの方へ機体を向かわせた。

 

 格納庫に入りモビルスーツハンガーにスルーズを設置するとコックピットを降りて、自身の機体を見上げる。

 

 「うわ、酷い」

 

 スルーズは見るも無残な姿と成り果てていた。

 

 コックピット周辺のみならず、脚部にも黄色のペイントがべったりと付いている。

 

 アレを落すのはさぞかし大変だろう。

 

 反面、教官の乗った機体は何の色も付いておらず新品同様で実に綺麗である。

 

 「ずいぶんと派手にやられたもんだなぁ」

 

 「あ、あはははは」

 

 案の定整備班長に冷たい視線を頂くが、相手が相手なのだから仕方無いではないか。

 

 誤魔化すように笑い、罪悪感を抱きつつ情けない言い訳を考えながら、訓練の疲れから床に座り込む。

 

 その時、パイロットスーツを着た女性が近づいてくるのが見えた。

 

 「セリス・ブラッスール!」

 

 「あ、教官!」

 

 慌てて声がした方へ振り返ったセリス・ブラッスールは教官であるレティシア・ルティエンスに敬礼する。

 

 彼女は『戦女神』と称されるほどの腕を持った元ザフトのエースパイロットだ。

 

 前プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの娘であるラクス・クラインと共に訳あってスカンジナビアに亡命してきた人物である。

 

 その際に腕前を買われて軍属となり、スカンジナビアで建造されたモビルスーツのOS開発やパイロットの訓練にも携わっていた。

 

 何故、二人が亡命して来たのかは明らかにされていない。

 

 だがその存在が極秘にされている以上、相応の理由があるのだろう。

 

 目の前に美しい金髪が広がり、穏やかに笑みを浮かべるその姿は、本当に綺麗だ。

 

 十人いれば十人とも美人であると答えるだろう。

 

 同性であるセリスですら憧れを抱くほどだ。

 

 「セリス、動きは悪くは無いけれど、もう少し相手をよく見なさい。それから―――」

 

 レティシアの口から次から次に今回の訓練に関する散々な評価が飛び出してくる。

 

 こんな一見優しそうな顔して教官としての彼女は死ぬほど厳しい。

 

 というか鬼だ。

 

 容赦のないの批評になけなしのプライドも完膚なきまでに破壊されてしまう。

 

 「分かりましたか?」

 

 「……はい」

 

 「そんなに気落ちしないでください。貴方はきっと強くなります」

 

 完膚なきまでに叩きのめされた後で言われても、いまいち説得力がない。

 

 「そうですか? 何か自信が無いです」

 

 気落ちするように俯くセリスにレティシアは苦笑しながら、頭を撫でる。

 

 「訓練ですから、手を抜いても仕方がないでしょう。それに戦場で敵は手加減してくれませんよ」

 

 「うっ」

 

 「もしもという時、自分の力不足を悔みたくなければ、しっかりとね」

 

 戦場では何が起こるか分からない。

 

 だからいかなる状況にも対応できるように訓練を積んでおく―――というのがレティシアの持論だ。

 

 毎回口癖のように言っている。

 

 流石に実戦を経験している者からの言葉だけあって、重みが違う。

 

 しかし初陣もまだのセリスからすれば実感が湧かないというのも事実なのだ。

 

 レティシアのありがたい批評を聞きながら肩を落としていると、整備班の一人が近づいてきた。

 

 「レティシアさん、アイラ様から連絡が入りました」

 

 「アイラ様から?」

 

 アイラとはスカンジナビア第二王女アイラ・アルムフェルトの事だ。

 

 王族でありながら軍事最高責任者という立場で、外交もこなす重要人物であり、セリスにとっても故あって馴染み深い女性だった。

 

 最近は地球で拡大している戦争を警戒しての情報収集や軍事関係の視察。

 

 オーブや赤道連合などスカンジナビアと同じく中立の国々との会談などで忙しく動いている。

 

 その彼女から直接連絡が入るという事は余程の事案なのだろう。

 

 「分かりました。セリス、今日の訓練は終了します」

 

 「あ、はい。ありがとうございました!」

 

 敬礼して通信室に向かうレティシアを見送ると、べったりと汗をかいている事を思い出し、シャワーを浴びる為に更衣室の方へ歩き出した。

 

 「あ~気持ちいい」

 

 暖かいシャワーが汗を落としてくれる感触に浸りながら、目を閉じる。

 

 至福の時間だ。

 

 これとおいしいデザートさえあれば、どこでも生きていける。

 

 「……でもさっきの何だったんだろ」

 

 アイラからの直接連絡―――

 

 セリスはシャワーを浴び終え、制服に着替えると通信室に向かう。

 

 特に用事がある訳ではないが、やはり先程の事は気になって仕方がなかった。

 

 「やっぱり、何かあったのかな」

 

 なんとなく嫌な予感を覚えながら通路を歩いていると、丁度部屋から出てきたレティシアと出くわす。

 

 その表情は硬く、予感通りに何かあった事は明白であった。

 

 「セリスですか。丁度良かった」

 

 「教官、何かあったんですか?」

 

 「ええ、詳しく話している時間はありませんが、私はこれから『X09A』と『X10A』でラクスと地球に降ります」

 

 「えっ、新型で地球にですか!?」

 

 『X09A』と『X10A』というのはヴァルハラで開発されたばかりの新型機である。

 

 正式にはZGMF-X09A『ジャスティス』

 

 ZGMF-X10A『フリーダム』

 

 形式番号から分かる通り、元々はザフトで建造される予定だった機体である。

 

 これらの機体がヴァルハラで開発される事になった経緯はレティシア達の件と同じく明らかにされていない。

 

 「それからアイラ様から貴方にもお話があると聞いています」

 

 「あ、はい。分かりました」

 

 直接話をするのは久しぶりだ。

 

 アイラに関しては言わずもがなだが、セリスも訓練をこなすので精一杯だったから、ここしばらくは碌に声も聞いていない。

 

 優秀なだけに無理する事もある為、少し心配でもあるが、久しぶりだから楽しみでもある。

 

 そんな事を考えながら部屋に入ろうとするが、その前に呼び止められてしまった。

 

 「セリス」

 

 「えっ」

 

 振り返るとレティシアが複雑そうな表情でこちらを見ていた。

 

 「あの、教官?」

 

 「……いえ、何でもありません。訓練はさぼらないように」

 

 「分かってますよ」

 

 「それからデザートも食べ過ぎないようにしてください」

 

 「……ぜ、善処します」

 

 クスクスと笑みを浮かべていた顔から一転し、真剣な顔に変わる。

 

 「セリス、先程も言いましたが、貴方は大丈夫です。自分を信じてください」

 

 「え、はい」

 

 そう言うとレティシアは格納庫の方へ向った。

 

 「教官?」

 

 先程の表情が気になりながらもアイラを待たせる訳にはいかない。

 

 すぐに通信室に入り、端末のスイッチを入れるとモニターに女性が映る。

 

 《久しぶりね、セリス》

 

 「はい! アイラ様もお元気そうで良かった!」

 

 アイラとセリスは年は離れているが、仲の良い姉妹のように育った幼馴染である。

 

 元々ブラッスール家はスカンジナビア王家の分家筋。

 

 昔から王家の人間を守るための護衛役として存在してきた家柄である。

 

 その為、代々王家に仕え、王族を守る為の護衛役として存在していた。

 

 無論、役目自体は強制ではない。

 

 しかし幼いころから王家の者と共に過ごす機会も多い事から自分でその道を選択する者が大半だ。

 

 そしてセリスもその一人である。

 

 その護衛対象こそ、今モニターに映っているアイラ・アルムフェルトなのだ。

 

 「……その、アイラ様、私が護衛から外れている間に何かありませんでした?」

 

 《う~ん、そうね。そういえば新しい服を買ったのよ。だから貴方に着せたいわね。それにセリスを思いっきり抱きしめられないから、少し寂しいかしら》

 

 「あの、私子供じゃないんですよ!」

 

 《そうよね。もう子供じゃないのよねぇ。昔のセリスはすごく可愛かったなぁ~》

 

 「もう、変なこと言わないでください! そうじゃなくて、その、危険な事とかなかったんですか?」

 

 思わず顔を赤くしコンソールを手で叩きながら、問い返した。

 

 彼女は時々こんな風にからかってくるのが玉に瑕だ。

 

 そんなセリスを見てアイラは楽しそうに笑みを浮かべている。

 

 《フフ、冗談よ。こちらは大丈夫。それより訓練は上手くいってる? レティシアからは十分な素養と適正があると報告を受けているけど》

 

 「あはは、教官にはいつも迷惑掛けてます」

 

 護衛役であるセリスが護衛対象であるアイラの元を離れているのはもちろん理由がある。

 

 これから先の戦いは人型兵器であるモビルスーツが普及し戦場の在り様も大きく変わる。

 

 その為、様々なノウハウというのは必要不可欠であった。

 

 パイロットの教育もその一つであり、セリスはその素養を見込まれモデルケースとして訓練を受けているのである。

 

 その成果―――出ているのかどうかは自分では判断がつかない。

 

 だがそれらはきちんと本国の方へ報告が行き、今も兵士達の訓練に生かされている筈だ。

 

 「それで今日は一体どうしたのですか? 世間話をしようという訳でもないのでしょう?」

 

 それはレティシアの様子を見ていれば分かる。

 

 《ええ。もちろん》

 

 するとモニターに新たな画像が表示された。

 

 それを読み取るとセリスは思わず目を見開いた。

 

 「これって―――」

 

 《ザフトの『オペレーション・スピットブレイク』よ。ただそれには不可解な点が幾つかあるの》

 

 『オペレーションスピットブレイク』開始直前での作戦目標変更。

 

 連合最高司令部である『JOCH-A』に対する奇襲であるにも関わらず地球軍パナマ基地の不気味なまでの沈黙。

 

 データを提示され、説明を受けると確かに不自然な気がする。

 

 「では教官達が出撃したのは、この件を調査する為」

 

 《そうよ。後はあの二機の実戦でのテストも兼ねているわ》

 

 一応、不必要な戦闘は避ける様に命令を出したらしい。

 

 しかしアイラ自身戦闘が避けられるとは思っていないようだ。

 

 《それでセリス。貴方にもすぐ地球に戻ってきてもらいます》

 

 「えっ、本国にですか?」

 

 《いいえ、行先はオーブよ。そこで今後起こるであろう戦いに備えてもらいます》

 

 それはセリスの初陣がすぐそこまで迫っている事を意味していた。

 

 

 

 

 

 ザフトにとって戦局を決するとも言える重要な作戦である『オペレーション・スピットブレイク』

 

 これは残された宇宙港パナマ基地を落とす事で、連合軍の戦力を地上に封じ込めるという主旨で実行される予定だった作戦である。

 

 しかし連合最高司令部である『JOCH-A』を強襲するというのが本当の狙いだった。

 

 この作戦が開始されようと準備が進められ、地上、宇宙に着々と各戦力が集結していく。

 

 そんな中、一隻の艦が地球へと近づいていた。

 

 ナスカ級『ダランベール』

 

 エスクレド隊の母艦として運用されている艦である。

 

 そのブリッジで隊長であるアシエル・エスクレドが腕を組み、真剣な表情のままオペレーターに指示を飛ばしていた。

 

 「エスクレド隊長、もうすぐ目標地点です」

 

 「うむ」

 

 ブリッジに居る全員が緊迫感を共有し、真剣な表情で役目に従事している。

 

 だがそれは決して悪い空気ではなく、良い意味の緊張感で満たされていた。

 

 その雰囲気は隊長であるアシエル・エスクレドが作り出しているものだ。

 

 彼はプラントでも指折りのエースパイロットであり、上層部からの信頼の厚い。

 

 冷たい印象はあるが、信頼できる隊長というのが同じ部隊に所属している者たちからの声である。

 

 本人がそれを聞けば的外れな意見に苦笑していただろうが。

 

 「周囲に敵影は?」

 

 「ありません」

 

 地球軍もこちらが動いている事は承知している筈。

 

 だからこのタイミングで何かしら仕掛けてきてもおかしくはないというのが防衛部隊の共通認識。

 

 だからこそ警戒は怠れないのだ。

 

 「……重要な作戦前だ。周辺の警戒を怠るな」

 

 「了解!」

 

 アシエルが一通りの指示を出し終えた丁度その時、ブリッジに赤服を纏った三人の少女が入ってくる。

 

 「エスクレド隊長」

 

 「来たか」

 

 今回の作戦に合わせ、エスクレド隊にもある特別な任務が与えられた。

 

 それに伴い戦闘で消耗してしまった戦力を増強する為、部隊に補充人員が配属される事になっていたのだ。

 

 三人が一斉に敬礼するとそれに合わせこちらも敬礼を返す。

 

 「部隊を率いるアシエル・エスクレドだ。君達を歓迎する」

 

 「リアン・ロフトです!」

 

 「ジェシカ・ビアラスです!」

 

 「ニーナ・カリエールです」

 

 予め知らされていたとはいえ、向かい合うように立つ三人の少女達を見て、複雑な気分になる。

 

 アカデミーの成績やここに配属するまでに小競り合いとはいえ戦闘を経験している事から実力的に疑問はないの

 

 だが正直にいえば少々やりづらい。

 

 年頃の少女達を戦場に向かわせるというのも、非常に強い抵抗感があった。

 

 さりげなく事前に渡されたプロファイルと重ね合わせ目の前に立つ少女達を観察する。

 

 まずこの中でリーダー格らしきリアン―――短めの青みがかった髪にこちらを見つめる真っ直ぐな瞳は使命感に満ちている。

 

 それ故に融通が利かない。

 

 そして中央にいる赤いウェーブのかかった髪のジェシカはどこか妖艶な雰囲気を持ち、挑発的な表情を浮かべていた。

 

 彼女は上昇志向が強く、上官の命令にも従わない傾向にあるようだ。

 

 そして最後に長い黒髪を持つニーナは二人から一歩引いた位置で冷静に物事を観察しているように見える。

 

 非常に冷めた物の見方をしており、同僚とも反りが合わない事があるらしい。

 

 雰囲気から察するに彼女がこの中のブレーキ役ということのようだ。

 

 どうやらプロファイルにあったように全員が癖のある人物だ。

 

 「……面倒な面子がそろったようだな」

 

 これからの事に若干の不安を感じながらも、気持ちを切り替えこれからの任務について説明する事にした。

 

 「さて、ここに来るまでにある程度の説明は受けているだろうが、我々には特別な任務が与えられている。それが特務隊『フェイス』の支援だ」

 

 特務隊『フェイス』とは国防委員会と最高評議会議長に戦績や人格など優れていると認められた者が任命されるトップエリートのような存在だ。

 

 各個人が行動の自由や通常指揮権よりも上位の命令権を有している。

 

 そんな立場である為に普段は隊を組んで行動する事はない。

 

 だが現在は少し事情が違っている。

 

 その為、今後は彼らの支援を効率的に行うため、エスクレド隊が配下として付く事になったのだ。

 

 「特務隊は今回、とある任務を遂行する為、地球に降下する。当然、我々もまたそれに追随し、地球に降りる事になる、準備は入念に行っておけ」

 

 「その任務の詳細を聞いても大丈夫でしょうか?」

 

 ニーナの質問にアシエルは一瞬だけ目を伏せると、すぐに口を開いた。

 

 「……投入される新型機を用いた『足つき』いや、アークエンジェルの撃沈と『白い戦神』及び『消滅の魔神』の撃破だ」

 

 

 

 

 アシエルと挨拶を済ませた三人は『ダランベール』の艦内を見て回りながら、雑談に興じていた。

 

 今までいたナスカ級と内装は変わらないので、各箇所に居る者達に顔見せするというのが主な目的である。

 

 「しかし特務隊の目標が『白い戦神』と『消滅の魔神』とは思ってなかった。てっきり『スピットブレイク』に関する事だとばかり思ってたし」

 

 「不思議な話じゃないわ。あの二機はクルーゼ隊ですら、どうにもならなかったんだから」

 

 『白い戦神』と『消滅の魔神』

 

 それは地球軍の新型モビルスーツGAT-X105『ストライク』とGATーX104『イレイズ』に対して名付けられた異名だ。

 

 最初に接敵した部隊から広まった『ガンダム』という名称でも知られる機体。

 

 エリート部隊と言われたクルーゼ隊を追い込み、バルトフェルド隊、モラシム隊を壊滅させたその戦果はザフト内においても最上位の脅威として認識されている。

 

 「確かオーブ沖で襲撃かけて、返り討ちにあったんだっけ。情けないわね」

 

 「ジェシカ、命懸けで戦った仲間にそう言う言い方は―――」

 

 「私は本当の事を言っただけよ。こちらも同じ性能を持った機体がありながら、ナチュラル相手に後れを取るなんて」

 

 確かに追撃を行ったクルーゼ隊はストライクやイレイズと同性能を持った機体をヘリオポリスから奪取し、使用している。

 

 若干の特性など違いはあるがほぼ同じ条件でありながら戦って負けたという事は、ナチュラルに後れを取ったという事に他ならない。

 

 自然に誕生したナチュラルと遺伝子操作を施され誕生した自分達コーディネイターとでは基本的なスペックが違う。

 

 リアンとしてもコーディネイターとしての自負はあるし、正面から戦って負けるというのが信じ難いというのは理解できる。

 

 しかしそれはその場にいなかった自分達がとやかく言う事ではない。

 

 熱くなって言い返そうとした所に、呆れたような声でニーナが水を差した。

 

 「二人共、喧嘩はやめて。配属されたばかりで恥を掻くつもり?」

 

 白い目を向けるニーナにバツが悪そうにそっぽを向くと二人は矛を収める。

 

 「ハァ~でも特務隊か」

 

 「どうしたの、リアン?」

 

 「うん、特務隊って一部じゃ良い噂聞かないから」

 

 今の特務隊は優秀で多大な戦果を上げていると上層部からの評判は良い。

 

 しかしその反面一部からは良い噂は聞こえてこない。

 

 無論、人格まで評価されて特務隊に選ばれるのだから、荒唐無稽なただの噂話だとは思うのだが。

 

 「関係ないわね。私達は任務を遂行し、自分の実力を示せば良いだけよ」

 

 「ジェシカは相変わらずだよね」

 

 彼女は自分の技量に絶対的な自信をもっている。

 

 無論、それだけの実力がある事はリアンも認めていた。

 

 だがこう自信過剰ともいえる言動には少々不安になるのだ。

 

 この件に関してはニーナも何も言わないので余計にだ。

 

 彼女曰く「私とジェシカは絶対的に合わない」という事で、何も言わないようにしているらしい。

 

 そのようなやり取りをしている内に格納庫に辿り着いた三人は一機のモビルスーツに目を奪われた。

 

 自分達も知っている機体とよく似た特徴を持っているが、細部は別物、武装も見知ったものとは違っていた。

 

 ZGMF-515b 『シグーディバイド タイプⅠ』

 

 砂漠でのアークエンジェル隊との戦闘で実戦投入されたシグーの改修機である。

 

 急造の改修を施された機体としては非常に高い性能を持っており、武装もビーム兵装を搭載されている。

 

 このお陰で実体弾を無効にできるPS装甲を持った『ガンダム』とも互角に戦う事が出来る。

 

 「これがアシエル隊長の機体……」

 

 「凄いわね」

 

 「ええ」

 

 何時かこんな機体に乗ってみたいと三人は目を輝かせ、シグーディバイドに見入っていた。

 

 

 これから先の結末など想像する事も出来ず、彼女達の戦いもここから始まる事となる。

 

 

 ―――運命は此処から動き出す。

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