零の部屋から自分の部屋に戻ってきたリーナは扉を閉めるなり床にへたり込んでしまった。
(なんかすごい疲れちゃった。……あれで、よかったのよね…)
大きな溜息を吐いて考えるのはつい先ほどまで話していた零のこと。
零の話を聞いていると、言い訳など自分の行いを正当化させるような言葉が一切なく全て自分で背負おうとしているようだった。そこでリーナが零を許すようなことを言ったところ、零は困惑しひどく取り乱した。
最後、黙ってしまった零に次から次へと言葉を捲し立てるだけ捲し立てて零の様子を見ることなく部屋を出ていってしまった。そのせいで今零がどんな気持ちでいるか察することもできない。
零の心に重くのしかかっている自責の念を少しでも軽くするために話しに行ったのに、結局どっちを選ぶかは零自身に委ねることにしてしまいそのことが気がかりだった。
だが決断を下すのには時間が必要であるだろうし、もう夜も遅くなってきているため、一度気にすることを止め今日はもう寝ようと就寝の準備を始める。
すでに夕食は済ませていたので入浴しに向かう。
身体の汚れを洗い落として湯に浸かる。浸かること二、三分。考えていたのはやはり零のこと。
塞ぎ込み、周りに助けを求めることもなく一人で背負おうとする零の性格に文句を言ったり怒っていたリーナだったが、突然顔が赤くなる。
(そういえば私零に告白しちゃってたじゃない…)
零との話し合いの中で勢いでしてしまった告白。零と話していたときはそっちに気を取られていて全然気づかず、部屋に戻ってからも忘れていた。
勢いで言ってしまったとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。それと風呂の熱も相俟って体が熱い。
リーナはすぐに風呂から出て寝間着に着替えるや髪を乾かさず走っていく。
部屋に戻るや否やリーナはベッドに飛び込みじたばたと悶える。
(もうなんであんなタイミングで言っちゃったのよ。いつもは言えないのに…
それに言うなら家族のくだりだけでも良かったじゃない。
もう明日レイにどんな顔をして会えばいいかわからないわ。)
一頻り
(わ、私告白よりも先にプロポーズ紛いのこともしたじゃない。
なによ『絶対隣にい続けるからね』って。恥ずかしすぎるわよ。
明日レイにあったら恥ずかしさで死んじゃうわよ…)
先ほどよりもさらに盛大に
◇◆◇◆◇◆◇
翌朝目を覚ましたリーナは自分の体調不良に気付く。
(体が熱いし、すごいだるいわね。なんか悪寒もするし…)
「くしゅん!」
(…それに咳、ね。これは風邪を引いたみたいね。
そういえば昨日は髪を乾かすのを忘れていたわね。)
風邪を引いた原因に思い当たり、そのきっかけとなった恥ずかしい言動を思い出す。
途端に真っ赤に染まった顔を、隠すように手で覆い、悶える。
(平常心、平常心よ…)
自分に言い聞かせて必死に気持ちを落ち着かせようとする。
徐々に赤みが引いていき、やっとのことで収めることができた。
しかし熱があるせいで完全には無くならない。
それに一度思い出してしまったら再び忘れることは難しく、朝の支度をしててもことあるごとに頭の中でリピートされる。そのたびに、平常心、と自分を落ち着かせる。
そのせいでいつもより余計に時間がかかり、支度を終えるころにはまた別のことを考えていた。
少しふらつきながらも朝食に向かっていると曲がり角でばったり零と出くわす。
再び呼び起される恥ずかしい言動の記憶、それに真っ赤に染まっていく顔。
「おはよう。」と言われしどろもどろになりながらもなんとか挨拶を返す。
レイに聞こえてしまうんじゃないか、と思ってしまうほどリーナの心臓はバクバクと早鐘を打っており、俯いて必死に落ち着かせようとする。
「どうしたの?」と聞いても自分を落ち着かせるのに必死なリーナの耳には届いていない。
様子が変だと感じた零はリーナの顔を覗き込む。
急に目の前に現れた零の顔に驚き顔を上げる。
顔は耳まで真っ赤に染まっていて熱でもあるんじゃないか、と心配した零は熱を測ろうと顔を近づける。
確かに熱はあるが顔が赤いのはほとんど羞恥心によるもので「大丈夫だから」とリーナは顔を背けようとするが、両手で顔を押さえられ逃げ場が無くなる。
零の顔はどんどん近づき、ほとんんどゼロ距離になったところで、リーナの羞恥心は限界を迎えてその場で気絶してしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
目を覚ましたリーナの視界に映ったのは見慣れた自室の天井だった。
体を起こすとタオルが落ちてきた。タオルは冷たく湿っていて、額が少しひんやりとしているため誰かが看病してくれいたのだろう。と、思い当たったところでドアの開く音がする。
「あ、リーナ。起きたんだ。」
入ってきたのは皿の乗ったトレイを持つ零。
零の顔を見た瞬間リーナの脳裏に、昨夜からの羞恥の原因や先ほど至近距離まで零の顔が近づいて急に倒れてしまったことがよぎる。
また顔を真っ赤に染め上げるが、零は気付くことなくタオルを替えたりなどテキパキと世話をする。
「大丈夫なの?急に倒れるからほんと心配したんだよ。」
「もう大丈夫よ。ごめんなさい心配かけちゃって。」
零の様子を見て冷静になり、落ち着きを取り戻したリーナは迷惑をかけたことを謝罪する。
「体調が悪いならあまり無理しちゃダメだよ。ちゃんと誰かに言っとかないと。」
「うん。次からはそうするわ。」
一度会話が途切れ少しもどかしい時間を過ごす。
零から渡されたスープを飲むが零のことが気になって集中できず全然進まない。
することが終わったのかリーナの方へ近づいていくためリーナは慌ててスプーンに口をつけていく。
ベッドの側に持ってきた椅子に腰掛ける。
「リーナ、昨日はありがとう。」
唐突に感謝の言葉を口にした零にリーナは一瞬何が何だか分からなくなり手を止める。
「え?な、なにが?」
「ほら、昨日の夜俺の部屋に話しにきたでしょ。」
「昨日の夜」というフレーズでようやく合点がいく。
そういえばそうだったのだ。零の様子が事件の後からおかしかったため昨夜リーナは零のもとへ話をしに行っていたのだった。
普通ならこんなことは忘れようもないのだが、普段通りの自然な会話だったので全く違和感なく話してしまっていた。
こんな風に以前のような雰囲気ならば昨夜結論を出させずに零自身にどうするか委ねた答えはリーナの期待している通りになっているだろう。
だがそう思っていても一抹の不安は拭いきれない。
その不安を片隅に追いやり、できるだけ声を抑え零が以前のように戻っていてほしいという期待を隠して話す。
「ああ、そうだったわね。
てことはレイはどうしていくのか、決めた、ってことよね。」
緊張が走る。
もしも零が自分を許せなかったらどうしよう、そんな思いを胸にリーナは零の言葉を待つ。
「うん。もうリーナを助けに行ったことを後悔するのはやめたよ。
そのことを後悔していたら今頃リーナと会えていないかもしれないし、あそこにリーナ以外に誘拐されてた人がいたのが本当ならその人たちにも失礼だしね。
でも、やっぱり人を殺してしまったことは忘れないし反省する。
忘れてはいけないことだと思うんだ」
零は最後まで真剣な表情で話し終え、その様子を見てリーナは一安心して、短い、ホッとしたような返事をする。
「そう。
なら、もう魔法を使わないなんてことはしないのよね?」
「うん、それはもちろん。
ごめんね、今まで心配かけちゃって。」
その後、リーナの熱が上がってもいけないのでそこそこに談笑した後零は自分の部屋へと帰っていったのだった。
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