あまり時間が取れず何度も書き直すうちにこんなに遅くなってしまいました
『お久しぶりです』
「お久しぶりです。玲奈さん。それに優さんも」
『お久しぶりです、涼子さん』
「今日はどうされたんですか?」
『はい、零の事で…』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜、もうすぐ皆が寝始めていく時間。リーナも家族との団欒を終え、就寝の準備をしていた。
明日の用意も終わり、そろそろ寝ようとしたタイミングで来客を知らせるノックの音が響く。
誰だろうと思いながら返事をしてドアを開けるとそこには零が立っていた。
「遅くに悪いけどちょっといいかな?」
申し訳なさそうに訊く零。
特に断る理由もないのでリーナは部屋へ招き入れる。
「珍しいわね。どうしたの?こんな遅くに。」
互いが腰掛けて一息入れたタイミングでリーナが切り出す。
用事ならいつもはもっと早いタイミング。それこそ部屋に戻って就寝の準備を始めるような時間になる前に済ませる。それなのにこんな時間になって訪ねてきた事に疑問を抱く。
ただ、零が突然に思いついたことをするのはあまり珍しいことではないためあまり構えずに待つ。
「……話があるんだ。」
しかし零の真剣な雰囲気によって緊張の糸が張り詰められる。
あの事件から数ヶ月、零は立ち直ったように見えた。
しかしそれあくまでも表面的なことであって根本的な部分ーーー一人で物事を抱え込むことーーーが解消されたかはわからず不安があった。
だが今回零が自分から大切な話と言って話に来たことでやっと安心できると、少しばかりの嬉しい気持ちを覚える。
「俺、日本に帰ることになった。」
急降下するリーナの気持ちを反映するように部屋の空気が重くなる。リーナは言葉を発することを忘れてしまったように唖然としている。
それほどリーナにとっては予想だにしなかったことだった。
だがリーナに構わず零は話を進める。
「日本でお世話になっていた従姉妹の家から帰って来いっていうように言われたんだ。
リーナも知ってる通り俺は古式魔法の大家、その血筋の従姉妹の家に養子として引き取られた。
それに魔法を教えて貰ったり従姉妹の家族にはお世話になったから断ることもできないし、多分もうステイツには帰ってこれない。
だから、もうすぐリーナともお別れしないといけない。」
零が喋り終えたところでようやく理解が追いついてきたリーナは考えるように俯き、掠れた声で言葉を絞り出す。
「…ステイツを発つのはいつなの?」
絶対にされるとわかっていた質問であり、零にとって最も後ろめたかった質問だったため少し言葉を詰まらせる。
「…明後日の昼頃の飛行機で発つよ。」
「明後日!?いくら何でもそれは早過ぎじゃない!」
予想だにしないほど早すぎる予定にリーナは思わず立ち上がって声を荒げる。
たった二日、いやもう夜も遅く残った時間を考えるとほぼ一日しかない。そんな短い時間の中で荷物の整理や渡航の準備などをしていたらあっという間に過ぎてしまい他にできることが限られる。
明後日出発というのは流石に急すぎて、どんな緊急の理由なのかリーナは疑問を口にしようとするが、それは先に発せられた零の申し訳なさそうな声に遮られる。
「この知らせは本当は一週間ぐらい前に伝えられていたんだ。
だからこのことはみんなもう知ってる。
…リーナにだけ隠してた……ごめん。」
再び伝えられた衝撃の事実にリーナは固まる。
最初からずっと驚かされっぱなしで、そして信じたくもない話ばかりでもう全てから目を背けたくなる。
零が話しにきた時は頼ってくれることに嬉しさを感じていたのに今では驚きと隠されていたことへの落胆、悲しみしかない。
なんで今日になるまで黙っていたのか。結局零は自分を信頼していなかったのか。今まで零と一緒に過ごしてきた時間はなんだったのだろうか。様々な思いが頭を駆け巡る。
「…なんで、今まで言ってくれなかったの」
やっとのことで言葉にできたのはこれだけ。
零はなぜ自分にだけ隠していたのか、今最も辛く感じていることを尋ねる。
「リーナとはいつものように過ごしたかった。
多分リーナは俺が帰るってことを知ったら何か特別なことをして過ごそうとするだろ」
「!そんなの当たり前…」
リーナにとってそんなのは当然だ。
もしかするとこれから一生会えないかもしれないのだ。少しでも零の記憶に残る楽しい思い出を作りたいのは当然だろう。
しかしその思いは零が言葉を続けることによって発せられない。
穏やかだがどこか悲しみの孕んだ声にリーナは聞き入ってしまう。
「確かに、それも楽しいだろうけどそれよりも俺はいつもと同じように過ごしたかった。特別なことをして記憶に残すより、いつもと同じようにリーナと過ごしてそれを記憶に残したかったんだ。
リーナには笑っていて欲しかった。一週間も時間が空いたらそのうちリーナは泣いちゃうだろ?それは嫌だったんだ。
好きな人を泣かせたくなかった」
「…、……え?」
穏やかな調子で突然告げられた零の告白にリーナは動揺する。
聞き間違いだろうかと思い、黙っていると零は照れたように頰をかいてもう一度告げる。
「俺は、リーナのことが好きだよ。だからリーナと一緒に居たかった。いつものリーナの笑顔を見たかった」
リーナはみるみるうちに顔を赤く染め零が言い切った頃には茹でダコようになって、口からは「え、あ…あぅ」などと言葉にならない声が漏れ、ついには俯いて黙り込んでしまう。
しかし零はリーナの様子に見向きもせずに立ち上がる。
「いきなりでごめん。それと、このことはもう気にしなくていいから」
そう言って足早に部屋の外へ向かう。
零の言葉に顔を上げたリーナは状況についていけず、扉に向かって行く零を眺める。
そして零が扉に手をかけたところでやっと状況を理解し零を呼び止める。
「待って!」
しかし立ち止まらずドアを開く零に、涙目になりながらリーナは駆け寄って手を掴む。
「わ、私もレイのことが好きよ!」
少し上擦った声で零の気持ちに応える。
しかし零はリーナの方に向き直ると平坦な声で告げる。
「ごめんリーナ。嬉しいけどその気持ちに応えることはできない。自分から言ったことだけど」
リーナは困惑する。
零に好きと言ってもらって一瞬驚いてしまったがそれ以上にとても嬉しかった。だから自分もそれに応えようと告白したのだ。
それなのに零は自分の気持ちには答えられないという。
「な、なんでよ」
「だってさっき言ったじゃないか。俺は明後日には日本に帰るんだ。
きっと会うこともなくなる。
それなのにこれ以上関係を進めてどうなるんだ。
俺はけじめとしてリーナに告白しただけだ。だからこれ以上どうこうする気もない」
早口で諭すように捲したてた零はこれ以上話すことはないと言うように扉へと向き直る。
なんでもないように話した零だが扉に向けた顔はさっきと打って変わって苦しげに歪んでいて別れを我慢していることがわかる。
「俺はもうこの気持ちを忘れる。だからリーナも忘れたほうがいい」
「…によ、それ」
リーナの手を振り解こうとする零。
だがそれはリーナが零の腕を強く引っ張ったことで遮られた。
「待ちなさいよ!何が忘れた方がいい、よ。自分の気持ちばっかり押し付けてそれで終わり!?ふざけんじゃないわよ。
別にいいじゃない!恋人になったって。
それなのに!なんなのよこれ以上どうこうする気はない、って自分から言い出したんじゃない」
己の気持ちを吐き出したリーナは荒い息を吐き出しながら涙目で零を睨む。
滅多にないリーナの怒る姿を目にして一瞬圧倒された零だがすぐに口を開く。
「だって仕方ないだろ!元々ステイツに来たのは日本でのトラブルのせいだったんだ。日本に呼び戻されたってことはトラブルが解決したってことでもうステイツに戻ってくることも余程のことがない限りはないんだ。
リーナと今恋人になったってどうしようもないだろ」
リーナと同様叫ぶように話した零だが、最後は諦めたような声で言葉を漏らす。
リーナから目を逸らし、奥歯を噛み締めた零は腕を掴んでいるリーナの手を軽く振り払おうとするが思いの外力が強く手が離れない。
「行かないでレイ。
まだ話は終わってない」
「もういいだろこれ以上何があるっていうんだ。
どうせもう会えないのに」
リーナの腕を振り払うのを諦めた零は溜息をついてリーナが腕を離すまで待つことにする。
しかし腕を離す気配はなく、返ってきたのは先程の怒ったような口調ではなく毅然とした口調だった。
「なら!会えるようになればいい。
そしたら今零と付き合っても無駄なんかにならない」
「馬鹿なことをいうなよ!
どうやって?国が違うんだよ。魔法師の出入りは厳しいことだって分かってるだろ」
到底実現が不可能であろうリーナの言葉に思わずカッとなって言い返す。
しかしリーナから発せられる言葉には確信のようなものが篭っており迷いや躊躇いが感じられない。
「今はわからない。でもそれしか方法がないんだからやるしかないじゃない。
私はやるわよ。絶対に零に会ってみせる」
全く引く気配のないリーナの口調。
零は逸らしていた視線をリーナに向ける。
鼓動が跳ね上がる。リーナの顔に浮かんでいたのは怒りではなく前向きなことを窺わせる笑みだった。
零にはその表情に今言っていることを実現できるといった確信が含まれている気がした。
「…どうしてそこまで」
「レイが好きだからに決まってるでしょ。さっきから言ってるじゃない。
みんなに無理だって言われても諦めないわ。
知ってるでしょ、私の諦めの悪さは。絶対にやってみせるわ」
即答だった。
両手を腰に当てて自信たっぷりの声でリーナは宣言する。
リーナの言葉を反芻する。
リーナが言っているのは単純なこと。たった一つしかやることがないならそれを実現すればいい。
たしかに単純なことだが現実を認識する頭を持っているせいで最初から選択肢になく諦めていた。
自分の頭が固かったことを零は理解する。
そして同時に嬉しさが溢れてくる。
「ハハハッ!」
「どうしたの!?いきなり笑いだして」
零が急に笑いだした状況についていけずリーナは驚きの声を上げる。
どうしたものかとリーナが頭をひねっていると落ち着いた零が顔を上げ笑顔でリーナを見つめる。
そしていきなり抱きついた。
急な展開に驚いたリーナは零の胸を押して離れようとするが微動だにしない。
リーナが少し痛みを感じるほどの力で抱きしめる零はふふっと小さく笑いを漏らしリーナに礼を言う。
「ありがとう。そうだよね。諦めるようなことじゃなかったね。
俺も日本に帰ってもリーナに会いにいけるように頑張るよ」
驚き、安堵、そして遅れてやってきた嬉しさでリーナは涙を流す。
頬をつたう涙を拭いながらよかったと呟くリーナの両手を取る。
「だからリーナ、何度も言ってることを変えて申し訳ないけど日本に帰るまで、俺と付き合ってくれない?」
涙の流しながらリーナは無言で何度も頷く。
そんなリーナを見て微笑みゆっくりと抱き寄せる。
今度はリーナも零の背中に手を回し零の肩に顔を埋める。
そのまま泣き続けたリーナが落ち着くまで零はリーナの頭を撫でていた。
数分後リーナが落ち着いたためそろそろ寝ようと部屋を出ようとすると制止の声がかかる。
「どこに行くの?今日ぐらい一緒に寝ましょう?」
「え、いやでも…」
「いいじゃない、恋人同士なんだから」
「………」
「ね?」
リーナから出ているものすごい剣幕に頷くしかなかった零だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
自分の就寝の準備を終えて再びリーナの部屋に戻ってリーナと一緒にベッドに横になった零はここ最近起きたことを思い返す。
事件の時リーナが連れ去られたと聞いて憤りを感じ、それ以上にリーナと離れ離れになると想像した途端言いようのない不安に駆られた。
そして助け出した時に心を満たした安堵に自分の気持ちの正体を見出した。
だがその気持ちも自分のしたことへの罪の意識に苛まれて己の心の内にしまうことにした。
本音を言えばシールズ家を離れられたらよかったのだが生憎自分は居候の身。迷惑をかけるわけにもいかない。
だから努めてリーナには家族として接するようにしてきた。何をするにしても、これは家族愛故のものだ、と自分に言い聞かせながら。
そしてつい先日日本の家族から帰ってくるようにと言い渡された。
元々なぜUSNAに引っ越すことになったのか、その理由は知らなかったが何かしらの問題があり、そのせいで避難するような形でUSNAに来ることになったことは理解していた。
日本に呼び戻されると言うことはその問題が解決したということだ。
そして戻ってしまえば滅多なことがない限りUSNAに戻ってくることはない。
今、世界情勢は不安定で魔法師の出入国は厳しく制限されている。
それに自分を引き取ってくれている九ノ瀬の本家のこともある。
だからUSNAに帰ってこれることはないと考え、そうなる前に最後に自分の気持ちだけは伝えておこうと思った。
そう、零にとって今回の告白はけじめをつけるものだった。
だから答えを聞くつもりはなかったし自分にはその資格もないと思っていた。
リーナを困惑させてしまうだろうが一晩も経てば切り替えて忘れてくれるだろうと考えてすぐに去ろうとした。
だけどリーナはそんな零の考えを全て覆した。
離れ離れになるならまた会えるようにがんばればいい。それがどんなに難しいことでも諦めなければ可能性はある。
いつも自分では考えつかなかった視点から物事を見るリーナ。
横を見るとつい先程恋人になった彼女がいる。
さしあたってとりあえずUSNAを発つまでの残り一日、リーナを大事にしようと誓った零だった。
今年は受験なのでおそらく3月ぐらいまで更新できないと思います
ちょっとした時間に少しずつ書いてはいきますがなにせ遅筆なもので…
お読みいただきありがとうございました