神の舌を超える者   作:匿名希望者

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目指すは飯テロ小説です。


神の舌を超える者2

 海原士郎と薙切えりな――――二人の間柄が犬猿の仲である事は周知の事実である。遠月学園で生活する上で人間関係に興味無い人間でも耳にした事がある位にはそれなりに有名な話だ。

 

 とはいえ何故、二人の仲が悪いのか。詳しい事情を知っている者はいない。勿論、面白半分に憶測で色々と噂が流れていたりする。例えば、全てが料理で決まる学園において料理人でないにも関わらず、特例として十傑と同等の権力を与えられている事が気に食わないとか。十傑として提案するえりなの案を士郎が悉く反対するからとか。同じ至高の味覚を持つ者同士の敵対意識とか。まあ、他にも色々とあるのだが、本当の理由はもっと単純明快。

 

 単純に性格が合わないだけなのだ。言い換えれば、育ちによる考え方の相違とも言える。

 

 薙切えりなは全てにおいて恵まれた才女である。幼い頃からその才能を存分に発揮して、周囲の後押しもあり才能を研鑚し続けた天才だ。

 

 海原士郎はほぼ全てにおいて凡人である。ただ味覚という一点に全ての才能が集約された鬼才。母親が学園の卒業試験まで生き残るという十傑に片足を突っ込んでいるような実力を持つ料理人である事以外は本当に普通の生活を送ってきた。

 

 料理において必ず存在する雑味。えりなは存在する雑味を許す事が出来ず、至高の料理しか認めない舌の持ち主であるが士郎は違う。その辺のコンビニに売っている雑味だらけのカップ麺でも十分に美味しいと思える。

 

 えりなと士郎では美味いの許容範囲が圧倒的に違い過ぎる。えりなは至高の料理を食べて育ったが士郎は違う。母親の料理は十分、えりなに通じるレベルかもしれないが母親は小料理屋を経営していた。店が繁盛していた為に士郎の食べる料理が手抜きになった事は数えきれない。だからこそ、料理を作ってもらう事に感謝を忘れないし、至高の味でなくとも出された料理は必ず完食する。店の裏側を見てきたからこそ卸などで働く人達の頑張りも知っている。そんな経緯があるからこそ、士郎の美味いと思う基準はえりなが許容出来ないレベルに低い。

 

 お互いに絶対認めたりしないだろうが二人は互いの味覚が並び立っていると本能で理解している為、馬が合わないのだ。

 

 

□ □ □

 

 

 目の前に提出された料理を見て、ちゃんこ鍋研究会の主将、豪田林先輩へ視線を送る。その表情に陰はなく、先輩の誇りや自信、腕を惜しげもなく盛り込んだ料理だと一目で分かった。

 

「ちゃん研特製魚介ちゃんこでごわす」

 

 豪田林先輩の持つ鍋には山と海が広がっていた。赤く染まった伊勢海老や牡蠣と言った海を住処にする食材は勿論、魚の切り身をすり潰したつみれに彩りを鮮やかな緑で華やかにする長ネギ、スープのだしでありながら食材としても優秀なしいたけ、そして山と海を繋ぐこしの強いうどん、それら全てを包み込む山と海の旨味を閉じ込めたスープ。

 

「――――いただきます」

 

 手を合わせて食材に、料理人に、ここに来るまで関わった全ての人に感謝して箸を伸ばす。勿論、この料理が不味い訳が無い。茹で上がり鮮やかな赤色を見せる伊勢海老の身はぷりぷりとして、あたかも自分が海に居るのではないかと錯覚させる。ネギやしいたけといった山の幸を口に放り込めばたちまち海の中から空気の澄みきった山の中へ誘われる。

 

 そして全てを繋ぐうどんと全ての旨味が集約されたスープが不味い訳が無い。だけど――――いや、止そう。

 

「――――御馳走様でした」

 

 ――――完食。もう一度全てに感謝する。

 

「フハッハッハッハ、どうでごわす。薙切えりな。貴様を超える舌を持つ海原は特製ちゃんこを完食したぞ」

 

「あら、知らないんですか、豪田林先輩。出された料理はどんな味であろうと完食する。それは彼のポリシーなんですよ?」

 

 俺が完食した事を喜んでくれている豪田林先輩に薙切が小さく皮肉を告げる。相変わらず性格の悪い女だ。

 

 豪田林先輩のちゃんこ鍋は確かに美味かった。勿論、気になった点はいつくかあるがそれはまたこの食戟が終わった後にアドバイスしよう。それよりもまずはこの食戟に集中しよう。この食戟は豪田林先輩――ひいてはちゃん研の未来が掛かっている。

 

「次は私の番ね。公正な審査をお願いしますね」

 

 わざわざ三人もいる審査員の中から俺の方を見る薙切。俺が最後までちゃん研との食戟に反対していた事を随分と根に持っているみたいだ。イラッとしたが彼女も敬意を払う料理人である事には変わりない。少し微笑み、小さく頷く。笑顔が引き攣っているかもしれないがそれはまあしょうがない。

 

「ラビオリ・ド・ラングスティーヌ。これが私の料理です」

 

 ラビオリとは小麦粉を練って作るパスタ生地の間に食材を挟んで、四角形に切り分けたパスタの事で、イタリア料理の一種だ。まあ、だいぶ違うが方向性は餃子と同じだと思えば間違いない。

 

 ――――白い皿の上に乗っているソレはラビオリでありながらもっと別の何かだと勘違いしてしまいそうなほど精練された美しさを持っていた。それでありながら嗅覚をくすぐる濃厚なソースの芳醇な香り。見た目と香りで人間の本能(しょくよく)を刺激する。

 

 目の前に置かれたラビオリへフォークを突き刺す。フォークを突き刺す時のプリプリとした感触に期待値が急上昇しているが表面上は冷静に。これは奴の作った料理だ。勿論、料理に罪は無い。公正な評価を下す。

 

 ラビオリを一口、――――やはり美味い。

 

 確かな弾力を持ち合わせて蒸し上がったラビオリの中からプリプリとした感触を持つ手長エビの旨味が口に広がる。そしてその手長エビという食材の旨味を最大限に引き出す為だけに作られたソースが旨味を何倍にも膨れ上がらせている。

 

 …………ああ、ダメだ、俺。落ち着け、落ち着くんだ。これを作ったのはあの薙切えりなだぞ。公平な評価を、評価をしなければならないのに、こんな美味い料理を食べさせられて、心が揺らがない筈が無い。

 

 ――――そう、まさにこの感情は。

 

「好きだー、愛してる! 結婚してくれー!」

 

 まさしく愛だ!

 

『で、出たー! 《世界平均(イコール・ザ・ワールド)》、海原士郎の《告白》だー!』

 

 

 

□ □ □

 

 

「――――その名も食戟」

 

「……食戟」

 

 食戟と呼ばれるこの学園伝統を聞いて小さく呟く創真。

 

「だから、創真君も十傑に挑むならそれ相応の対価か、相手が逃げ出せないほどの名声を得る事から始めてみたらどうかな? 幸い、この寮には最高の味見役もいるしね」

 

「最高の味見役? ふみ緒さんが?」

 

 隣に座るふみ緒の方を疑り深く見る創真の態度に一色が苦笑して首を振る。

 

「違うよ、創真君。この極星寮には学園で唯一、一切料理の出来ない生徒が入寮しているんだ。まだ学園外には名前が広がってないから知らないと思うけど――――」

 

「あ、海原ってこの寮に住んでるんすか?」

 

「あれ? 海原君の事を知っているのかい? えりな君の事を知らないくらいだからてっきり――――」

 

「いやー、アイツのおかげで編入試験の時に薙切が美味いって言ってくれたんで。一度、ちゃんと礼を言っておきたかったし、ちょうどよかった」

 

 はっはっはー、と呑気に笑っている創真の言葉を聞きながら、一色は薙切えりなが創真の料理を美味いと認めた事を知り、少し驚く。

 

 数か月前、ルンルン気分で士郎が寮に帰ってきた時に理由を聞いたら、面白い編入生が入ってきますよ、と言っていたのでまさかとは思っていたが創真の料理は確かに味覚に置いて頂点に君臨する二人が美味いと認めたのだ。

 

 面白い子が入ってきたと一色は小さく微笑んだ。

 




べ、別に主人公のキャラづけに困ったりとかウィッチャー3に嵌まってた訳じゃあないんだからね!
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