病恋 -ヤミコイ-   作:やんやん

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文を追加しようとしたら間違えて削除してしまいました。ホントにすいません


小野寺小咲
1話


case1 小野寺小咲

 

 

「━━━あっ、おはよう!」

 

 

朝、何時ものように支度をして学校へ行くと途中で声を掛けられた。声の方向へ振り向けば其処には同じクラスの女の子『小野寺小咲(おのでら こさき)』が花の様な笑みを浮かべながら此方の方に小走りで寄ってきた。その笑顔に応える様に俺も笑顔で「おはよう」と挨拶をした。

 

「今日も早いね」

 

額に流れる小さな汗拭いながら彼女そう言った。

 

小野寺小咲は一言で表すなら美少女だと言える。それも、最近転校してきた桐崎千棘(きりさき ちとげ)と同レベルかそれ以上に。和菓子屋「おのでら」の娘で妹も一人いるとかいないとか。クラスでは桐崎千棘が動ならば小野寺小咲は静という風に言われているらしい。小野寺は誰にでも声を掛け、誰にでも優しくするから友達も多く、その整った容姿や温和な性格から男子にはひそかな人気を集めていたりしている、俺もその一人だ。

そんな小野寺とは中学の頃からの付き合いになる。中学生の頃はまだお互い同じクラスの人程度の認識だったが、時間が経つにつれて喋る機会も増え、いつの間にかこうして登校中などに雑談の様なものをする事が普通の関係になっていた。俺としてはそれ以上の関係に進みたいが、現状に満足してしまっているヘタレだった。

 

「ふふっ……何だか楽しいねっ」

 

空を見上げながら小野寺は言う。今日の空はいつも通り。見ていてこっちも気持ちよくなれる様な、そんな青空だった。

 

━━━何が?

 

「ううん。何でもないよっ」

 

彼女に意味を尋ねたがまたはぐらかされた。最近こんな事が多い気がする。

彼女といる時間は決して短い訳ではないが、彼女は時々空を見上げながらこんな事を言う様になった。理由を聞いてみてもいつもこんな返事が返ってくる。その時に見せる彼女の笑顔はとても楽しそうで、何時も以上に綺麗だった。

 

「あのね……ーーくんって、好きな人とかって……いたりするの?」

 

不意に小野寺は立ち止まり、そんな事を言った。先程までは笑顔だった彼女は何処へ行ったのか、小野寺は感情を抜き取ったかの様な無表情で俺に尋ねた。

 

━━━いや、別に……。

 

「いるの? いないの? どっち?」

 

その場で立ち止まり回答に渋っていると目の前に小野寺の顔が鼻と鼻がぶつかりそうな位近くに迫っていた。思わず顔を背けてしまいそうになったが、彼女の表情は何時になく真剣で、回答にもたつく俺に少し怒っている様だった。だが、幾ら何でも今日の彼女はおかしい。彼女は恥ずかしがり屋で、ここまで積極的な性格では無かった筈だ。それなのに今は何故かこう、アプローチが強いというのか、押しが強い。何でだ?

 

━━━━ 一応、いるにはいる……かな。

 

何故突然小野寺がいきなりこんな質問をしたのかはわからないが、それなりの付き合いの彼女に嘘をつく訳にはいかず、渋々と言った感じで質問に答えた。決して彼女が嫌いだとかそんなのじゃない、むしろ好きだ。だから恥ずかしかった。こんなムードもへったくれもない朝の通学路で告白するなんて俺には無理だった。俺の答えを聞いた小野寺はそっか……と一瞬俯いたものの、次の瞬間には彼女の顔には笑顔が咲いていた。いつも通り……なのか?

 

「あっ…! 私用事があったんだ。ちょっと先に行くね!」

 

ハッとした様子でそういうと小野寺は駆け足で俺を追い抜きそのまま学校の方へと走り去って行った。

 

……はぁ。

 

そんな彼女(想い人)の後ろ姿を見ながらため息を一つ吐いた。

小野寺が走り去った方角をぼーっと見つめる。頭の中は彼女の事でいっぱいだった。決して下心的なそんな意味ではない。ただ純粋に疑問だっただけだ。今日の彼女の様子はどこかおかしかったというか、何処か焦っている様に見えた。

あの時に、小野寺が好きだと言えていれば今の関係は少し進んでいたのだろうか?

 

 

 

 

 

私と彼の出会いは決して少年漫画に出てくる様なヒロインがピンチの場面に颯爽と現れるヒーローの様な出会いでも、少女漫画の様にロマンチックなものでは無かった。ただクラスが一緒になり隣の席になった。それだけだった。

彼と私の席は窓側の席で、彼はいつも授業中空を見上げていた。最初はあまり気にならなかったけど、彼は先生に怒られても空を見上げる事は辞めなかった。休み時間もクラスの人達と喋らず、空を見上げている彼は何処か近寄りがたい雰囲気を出していたから、クラスの人達も進んで彼に声を掛けるような事はしなかった。だからこそなのだろう。私がそんな彼の事を少しづつ気になり始めたのは━━━。

 

それから私は彼の事を頑張って調べた。あの時は取り敢えず仲良くなりたいから話題作りの為に、と彼の事を調べてみる事にした。

 

例えば昼食は甘いものを食べてる事が多いとか、バスケットボールが上手とか、捨てられていた猫を拾っていたとか。

学校では無口な彼とはまた違った彼を見れて嬉しかった。誰も知らない私だけが知っている彼。そう考えると顔が心なしか熱くなり、胸の鼓動が早くなる事に気がついた。私はこの感情が何なのか分からなかった。

 

それから一ヶ月。彼と私は少しだけど喋る様になった。喋る様になったと言っても、『おはよう』とか『さようなら』とか事務的なものだったけど私にとってはその一言を交換し合えるだけでとても嬉しかった。彼との距離が少し縮んだ気がしたから。

 

「あの……ずっと前から好きでした! 良かったら私と付き合って下さい!」

「…………」

 

ある日の放課後。教室に忘れ物をして、取りに帰ると教室からそんな声が聞こえて来た。

 

ゆっくりと教室を覗くとそこに居たのは黒くてさらさらした綺麗な髪の女の子と、カバンを肩に掛けている彼だった。女の子は顔を真っ赤にしながら彼に手を差し出していた。対する彼の表情には戸惑いが見られた。多分、いきなりの告白に驚いているんだろう。

 

━━━━もし彼があの女の子と付き合ったら……?

 

そんな考えが頭に浮かんだ。もし彼があの女の子と付き合う事になれば、私と彼の関係はどうなるのだろうか? 挨拶程度しかしない私は、彼に忘れられてしまうんじゃないか?

私しか知らなかった彼が全部彼女に奪われてしまうんじゃないか?

悪い考えがどんどん溢れてきて気づけば私は拳を握りしめていた。

彼の隣には誰もいて欲しくない。彼の隣には私が居たい!

 

(そっか、私は……)

 

ようやく自分の気持ちに気付いた。私は彼に恋してるんだ。彼が他の女の子に取られてしまうかも知れない何て嫉妬から気付いた気持ちだけど、この気持ちが恋だと知った瞬間。心がポカポカしてくるのと、あの女の子に対する黒い感情を自覚した。出来れば今あの告白を邪魔してやりたい。そんな考えが私を支配した。

 

(何考えてるんだろう、私……)

 

あの女の子だって、勇気を出して彼に告白したんだ。その告白を私が邪魔するなんておかしいだろう。でも彼と付き合う事は許せなかった。

 

「━━━ごめん。その告白は受けられないよ」

「そう……ですか」

 

彼の答えはYESでは無くNOだった。女の子は綺麗な顔をくしゃりと歪ませながらも何とか答えていた。その答えに安心してしまった私は嫌な人なんだろう。人の不幸を喜ぶなんて最低だ……けど。

 

(彼の好きな人って、誰なんだろう?)

 

その言葉がぐるぐると私の頭の中を回っていた。

 

 

「俺の好きな人は、宮本だよ」

 

ガラガラと何かが崩れて行く気がした。宮本? 宮本ってまさか……。

 

「宮本るりさん……ですか?」

「あぁそうだ。宮本るり、だよ」

 

気づけば私はその場から逃げ出していた。そこから先は聞きたく無かったから。彼が惹かれていたのははいつも私といたるりちゃんだった、その事実を認めたく無かったから。何で、何でるりちゃんなの? 何で私じゃないの? ━━━━何で?

 

「こんなの、あんまりだよ……」

 

神様は何て残酷何だろう。好きな人がよりにもよって自分では無く自分の親友に恋する何て……。

 

「嫌だ。嫌だよ」

 

彼に好かれたかった。彼と一緒に空を見たかった。彼と一緒に遊びに行きたかった。でも、もうそれは叶わない。彼が好きなのはるりちゃんだったから。

 

━━━━るりちゃんさえ居なくなれば。

 

「ち、違う!」

 

私は何て事を考えたんだ。よりにもよってるりちゃんに当たる何て……るりちゃんは何も悪く無い。悪いのは魅力的じゃなかった私だ。私が悪いんだ。

 

「もっと、可愛くなれば」

 

そうすれば彼は見てくれるんじゃないか。そうすればるりちゃんより私を好きになってくれる。そうだ、きっとそうだ。私が可愛くなれば見てくれる彼の瞳には私が映る筈だ、空を見上げている時の様な穏やかな表情で私を見てくれる筈だ。臆病な私を見てくれる筈だ。

 

━━━━きっと、私だけを見てくれる。

 

 

 

 

 

━━━告白なんかされたのは初めてだった。

 

いつも通り空を見上げながらぼーっとしているとHRは終わっていたらしく俺の周囲には誰もいなかった。当然それを指摘してくれる友人などいるわけも無く。唯一話すであろう隣人の姿も無かった。だからこそこうして今一人でいる訳だが……。

 

「あの……!」

 

カバンを肩に掛け立ち上がった時だった。目の前には一人の女子生徒が頬を赤く染めながら俺の方を見ていた。

 

「……何?」

 

見知らぬ女子に声を掛けられ、つい冷たく答えてしまう。女子生徒はびくりと体を震わせ、軽く深呼吸をすませるとその右手を差し出してきた。

 

「ずっと前から好きでした! 良かったら私と付き合ってください!」

「…………」

 

多分今の俺はとても間抜けな顔をしていただろう。誰かが俺をドッキリにでも嵌めようとしているのかと思った。普段人とあまり喋らない俺に告白なんかする物好きいないと思っていた。だけど、この女子生徒は真剣だった。差し出した手は震え、表情こそ見えないが多分とても勇気を出して言ってくれたんだと感じさせてくれた。

 

カタッ。

 

俺と彼女以外の場所から小さな物音が聞こえた。チラリと物音の方を探る様に周りを見渡すと、そこには見知った彼女の横顔が見えた。

 

(そういう事か……)

 

優しい彼女は、多分この女子生徒の付き添いとして来たのだろう。この告白を見守る役として。だがそれは俺に対して興味がないという事を遠回しに言われている気がした。

 

「━━━ごめん。その告白は受けられないよ」

「そう……ですか」

 

そういうと差し出された手はゆっくりと下げられ、顔を上げた女子生徒の顔はとてもじゃないが平気そうじゃなかった。それはそうだろう彼女はたった今想い人に振られたのだから。

昔の俺ならば、もしかすると結果は変わっていたかも知れない。人生で初めて告白されたんだ、舞い上がって了承していた可能性だってあった、だがそれはあくまで昔の話。今となってはその可能性はあり得ない。だって俺は彼女(小野寺)が好きだから。

 

「俺の好きな人は、宮本だよ」

 

こういう時に限って俺は度胸がない俺は小野寺が好きだと言えず、その友人である宮本るりの名前を出してしまっていた。

 

「宮本るりさん……ですか?」

「あぁそうだ。宮本るり、だよ」

 

 

この一つの嘘が俺の人生を狂わせる事も知らずに。

 

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