病恋 -ヤミコイ-   作:やんやん

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(´・ω・`)次は誰を書こう


2話

 

恐らく俺は彼女に一目惚れしたんだと思う。

 

中学生の頃は友達と呼べる友達が片手で足りる程度しかいなかった俺は、中学生時代休み時間などはほとんど空を見上げていた。クラスメートとは喋り掛けられたら返事をする、それくらいの付き合いだった。友達が欲しくなかったと言えばそれは見栄を張っているだけだと言われるけど当時の俺は本当に友達が欲しくなかった。理由としては俺自身の家庭環境が影響していた。

元から体の弱かった母は俺が小学校低学年の頃に他界し、父はそのショックで仕事もまともに出来ないくらい傷ついてしまっていた。父は少しずつ酒に手を出し始め最終的にはまだ幼い俺を叔父の家に預け、何処かへと消えてしまった。俺を叔父に預ける時のあの憂いを帯びた顔は、今も鮮明に覚えている。

 

高校生になった今でも俺は叔父の家に住まわせてもらっている。

叔父は優しかった。数年の間に父親と母親を無くした俺を何とか元気つけようと精一杯のもてなしをしてくれた。だけど、俺はそれでも立ち直る事が出来なかった。

学校へは何とか行ったが、家族の事をあまり触れられたくなかった俺は自然と周りと距離を置くようになった。周りの人の家族の話を聞いてしまうと無意識に拳を握っていたから。どうしてお前らは家族に恵まれて、俺は恵まれないんだ。と理不尽な怒りを覚えたからだ。

それ故なんだろう。俺は母性に飢えていた。あの母の様に包み込む優しさが欲しかった、だからこそ隣の席で優しい笑みを浮かべた小野寺(彼女)と母親を重ねてしまったのかも知れない……。

 

 

 

「聞いてんのかよ、おい」

「……ん?」

「ん? じゃねぇよ。今日何の日か知ってんのかって言ってんの!……話聞いてるか?」

「今日?」

 

今日は確か、何の日だっけ? 特別な行事があった記憶が無いし……。

 

「お前の誕生日?」

「ちげーよ! 俺の誕生日は6月だ! お前祝ってくれたじゃん忘れたのか?」

「あぁ〜……確かに」

 

去年は確か時計あげたっけ? 小野寺と一緒に回った様な気がする。……楽しかったなあの時は

 

「ってホントに分かんねーのか? 今日はバレンタインだぞバ・レ・ン・タ・イ・ン! 女の子がすきな男子にチョコを渡すっていうアレだよ」

「バレンタインか、今日は。道理で……」

 

周りの男子を見てみるとやたらと身なりを気にしているやつや露骨にチョコがほしいというやつが見えた。

……そういえば俺もチョコなんか貰った事ないな。

 

「もらえる奴は良いよなぁ……。俺なんか去年1個だったんだぜ?」

「貰えてるだけいいじゃないか。俺は貰った事ないぞ」

 

自分で言ってここまで虚しくなったのは初めてだ。

 

「いやいや、お前あの小野寺と仲良さげじゃん? もしかしたらワンチャンあるかもよ? 」

「いや無いだろ……確かに仲は良いと思うけど、俺と小野寺は精々友達止まりだ」

 

最近良く通学中にほぼ毎日小野寺と会うけどさ。高校に入ってから小野寺と喋るの機会なんてそれぐらいだ。すれ違っても目が会うだけでまともに話した事はない。

 

「ふーん。そうなのかぁ……俺てっきりお前と小野寺は付き合ってるのかと思ってたよ」

「……それこそ無理な話だろ。相手は小野寺だぞ?」

 

小野寺小咲はモテる。桐崎や橘、鶫と言った美少女たちに埋もれる事はあるが、あいつらが転校してくる前は男子の中でダントツの一位をキープしていた。修学旅行では必ず名前が挙がっていた女子だ。期待してしまう部分はあるけど、変に希望を持って落とされるより最初から諦めていた方が気持ち的には何倍も楽だ。

 

「小野寺のチョコ……一度でいいから食べて見たいぜ」

「そうだな」

 

 

 

━━━なんて事を朝話していたのを思い出した。

 

結局チョコを貰う気配すら無かった俺は1人寂しく下駄箱に向かい自分の靴を取ろうとしたとき、一枚の手紙がひらりと落ちた。はじめはドキッとしたが、どうせ隣の奴と入れ間違えたのだろう。と半ば諦めながら手紙の裏を見てみるとそこには俺の名前が書いてあったのだ。

ドキドキしながら手紙の中身を取り出すと『放課後、体育館裏で来てください。』と綺麗な字でそう書かれてあった。

 

そして今俺は手紙の通り体育館裏にいるわけだけど……。

 

「来ないな……」

 

呼び出されてからもう30分以上経つ。学校の生徒はほとんど帰宅し、今学校にいるのは部活に励んでいる生徒くらいだろう。

 

「……まさか、嵌められた?」

 

30分も待ち続けるとそんな不安が浮かんでくる。よくよく考えると手紙の差出人も不明だし、時間の指定も無かった。俺は俗にいうドッキリに嵌められてしまったのではないか? と。ここまで来ると後は誰かが「ドッキリ大成功〜!!」という掛け声と共にやって来る筈だ。そう思うととてつもない虚しさがやって来た。

 

「ハァ……そらそうか。俺にチョコを渡したい奴何か今までいなかったもんなぁ……」

 

17歳になる今までチョコなんか貰った事が無い俺に、この手紙の存在はとても嬉しかった。どんな子がくれるんだろう、どんなチョコをくれるんだろうとここに来る途中何度も妄想した。だが現実は違った。2月のまだ寒い中震えながらずっと手紙の主を待った結果がこれだ。目の前には人の気配はおろか葉の落ちた木が生えているのみだ。

 

「帰るか……」

「待って!」

 

これ以上居ても虚しくなるだけだと帰ろうとした時。俺にとっては見知った、あの子の声が聞こえた。

 

「……小野寺?」

 

白い息を吐きながらやってきたのは中学校から変わらない、俺が想いを寄せるあの少女だった。

 

「はぁ…はぁ……ごめんね、遅くなって」

「え?……あ、あぁ。大丈夫だよ」

 

予想だにしていなかった小野寺の登場に俺の心臓は今までにないくらい高鳴った。まさか、小野寺が俺にチョコをくれるのか? という考えが頭の中に埋め尽くされた。

 

「ごめんね、準備に長引いちゃったから、こんな時間まで待たせちゃって……」

「いいよ、別に。今日は暇だったから」

 

小野寺は走ってやってきたせいか息が荒く、顔もほんのりと赤く染めていた。そんな小野寺を見てドキッとしながらも俺は何とか平常心を保つ。

 

「良かった……遅くなりすぎたから、もう帰っちゃったのかと思って……」

「ははは……」

 

実際帰ろうとした俺は何も言えなかった。

 

「えっとね、手紙…読んでくれたの?」

「あぁ。でも差出人の名前が書いて無かったから、俺はてっきりドッキリか何かかと……」

「えぇ!? もしかして、私名前書き忘れてたの?」

 

手紙を出しながらそういうと小野寺は素で忘れていたのか顔を赤くして恥ずかしそうに俺から手紙を奪うように取り、数秒手紙を見た後ゆっくりポケットの中へとしまった。

 

「……」

「……」

 

僅かな沈黙。このままでは行けないと思い呼び出した目的を聞くことにした。

 

「えっと……それで、呼び出した理由っていうのを聞きたいんだけど」

「そうだよね…えっと、呼び出した理由っていうのはね、渡すものがあったんだ。……ちょっと後ろ向いてもらっていいかな?」

 

渡すもの。という事は、俺はチョコレートが貰えると期待してもいいのだろうか? もしかすると今から渡すチョコは本命で、あわよくば……なんてラッキーが起きるのではないか? 何て希望を抱きながら俺は小野寺の言う通り後ろを向いた。背後でなにやらガサガサと音が聞こえるので準備をしてくれるのだろう。

 

「も、もういいか?」

「━━━もういいよ」

 

「あ……れ?」

 

ゆっくりと、自分の左胸を見る。そこには真っ直ぐと突き抜けている包丁の姿があった。

 

「ふふっ。また失敗しちゃった」

 

その声と共に俺の胸から包丁が引き抜かれる。引き抜かれた場所から血がドクドクと溢れ始めそこから走る猛烈な痛みに耐えることが出来ず、俺はそのまま重力に逆らうことなく地面へと倒れた。

何でだ。何で俺は小野寺に刺されたんだ。彼女の理解出来ない行動に俺は混乱した。

 

「お、のでら……?」

 

あまりの痛みに意識を失いそうになるのを何とか耐えながら彼女に問いかける。だが彼女は無表情だった。まるで人を殺すのが当たり前の様に、淡々と作業をする様に血の付着した包丁を手に持ち地面に倒れた俺を見下していたのだ。

 

「まだ喋れるんだ。今回(・・)はしぶといんだね」

 

今回は、というのはどういう意味なんだ。小野寺はなにを言っているんだ? 彼女はなにをしているんだ? 目の前がだんだん暗くなり、小野寺の声も聞こえずらくなってきた……あぁ。俺はもう死ぬのだと理解してしまった。

 

「貴方はいつもそう。最初は興味を持ってくれても、最後には私から離れて行っちゃう……いつまでも、いつまでも振り向いてくれない貴方に、私は結局こうしてしまうの。またやり直せるから、またあの頃に戻れるからって……」

 

理解できなかった。理解しようが無かった。

 

「前は千棘ちゃん。その前は鶫ちゃん。その前は万里花ちゃん。そして今回はるりちゃん……いつもいつも貴方は私を見てくれないの。だから━━━」

 

 

 

 

 

 

━━━━またやり直そうね。

 

 

 

 

 

 

 

「━━━ッ!……な、なんだ夢か」

 

何だかとてつもなく長い夢を見ていたような気がする。夢の所為なのかまだ春なのに寝巻きが汗でびっしょりと濡れていた。

こんな事は初めてだ。

 

『〜〜〜♪』

 

そんな事を思いながら着替えていると枕元に置いてある携帯が鳴り始めた。こんな朝っぱらから誰だ、と眉間にしわを寄せながら確認するとそこには幼馴染(・・・)である小野寺小咲の名前が表示されていた。

 

「……もしもし? なんか用か?」

 

いつもならメールでおはよう! と簡素なもので済ましている彼女が電話をするなんて珍しいな……。

 

『おはよう。今日もいい天気だね』

「は? いやいや、今日は曇りだぞ? 何処がいい天気なんだよ」

『ううん。とってもいい天気だよ? 』

 

彼女は一体何を言っているのだろうか? 窓の外を覗いてもそこには太陽の姿はなく、雲がびっしりと敷き詰められておりとてもというかいい天気とは言えなかった。

 

「寝ぼけてるのか?」

『違うよ? とってもいい天気だよ?』

「……もう切るぞ」

 

ピッ。

 

彼女は完全に寝ぼけてる。そう判断した俺は彼女の答えを聞かず通話を切った。今日はただでさえ新学期が始まる日だというのに付き合っていられない。彼女が怒っていたなら学校で謝ればいいどうせ同じクラスになるんだし。

 

「傘持ってった方が良さそうだな」

 

着慣れた学生服に腕を通し、カバンに教科書と水筒、弁当を適当に放り込んだあと俺は自分の部屋を後にした。

 

 

 

 

 

これから俺の新しい中学校生活が始まる。

 

 

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