病恋 -ヤミコイ- 作:やんやん
追記
設定や文章を追加しました
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俺の家はギャングである。そして俺は記憶喪失である。
俺の、というのは少し違うけど今住んでいる家は『ビーハイブ』という名のギャングのボスが住んでいる家だ。理由としては俺が孤児院にいてその時偶々やって来た男がギャングで、その時偶々外で遊んでいた俺にギャングとしての素質があるとかどうとか言われ今に至る。
記憶喪失というのは俺が家族や兄弟の事を何一つ覚えていないから。小さな頃俺は交通事故に遭い、目覚めた時には知らない場所にいて、医者に自分は記憶喪失と知らされた。
何週間何ヶ月待っても両親が俺の病室に来る事は無かった。要するに捨てられた訳だ。捨てられた理由は分からないし記憶喪失だから両親の顔も分からない。俺は涙を抑える事しかできなかった。
その時にやってきたのが今の義理の親、つまりはアーデルトさんだった。アーデルトさんは引き取り手がいない俺を快く受け入れてくれると言ってくれた。まぁ後からギャングだと言われた時には驚いたけど。それから俺をヒットマンとして育てるという事が決定し、クロードさんに教わる事になった。
ギャングに入ったのだから当然、人を殺したこともある。それは必然とも言えたけど、やはり人を殺すという行為は慣れない。いや慣れてはいけない物だけどそんな事をいうとクロード様に『そんな事を考えてしまうから貴様は未熟なのだ』とか言われそうので口には出さないで置く。あの人には色々感謝をしているけど、どうも俺への当たりがキツイ。
訓練の時にやたらと俺と組みたがりボコボコにして「まだまだだな」とメガネをクイッと上げながらいうのがもはやテンプレと化している。その理不尽な
……兎に角。今俺はその理不尽な愛を下さるクロード様に呼び出されていた。
「明日から貴様はお嬢と共に凡矢理高校へ入学してもらう」
「はぁ……?」
突然の提案に頭を傾げる。高校といっても俺は既にある程度の知識は身につけてるし高校へは行かなくていいと思うのだが、クロード様が冗談を言う訳ないので嘘ではないだろう。
「今ウチは集英組とヤり合っているのは知っているか?」
「はい。そりゃ勿論」
現に今怪我してますし。かすり傷だけど。
「今日聞かされた話だがボスがいうには集英組の一条楽と、お嬢が付き合っていると。現状その話の所為で集英組との抗争は止まっている」
「え!? お嬢がお付き合いを!?」
「あぁ。まだキスもした事がない清い関係らしいが、怪しいのだ」
確かにお嬢が異性と付き合う事なんて今までなかったし、あったとしてもクロード様が知っていない訳がない。
「私としては非常に心配なのだが、お前はお嬢の
「義兄って……俺とお嬢がですか?」
「貴様以外にいないのだ。同年代の男が」
「鶫はどうしたんですか?」
「あいつは今別の任務をやってもらっていてこの地にはいない。そこで選ばれたのがお前だ」
そんな余り物を選ぶみたいに選ばれたのか俺は。だがお嬢がお付き合いしているという一条楽が気になっているのも事実。断る訳にはいかない。
「転入日時は明後日。詳細は追って説明させるから準備だけはいておけ」
用件はそれだけだ。と締めくくるとクロード様は去って行った。
「しかし高校か……うまくやれる気がしないな」
俺の友人と言えばみんなギャングだし、年上ばかりだし同年代の奴は鶫とお嬢しかいない。鶫は近頃の流行とか知らなさそうだしお嬢に馴れ馴れしくそんな事を聞くわけにも行かないし……。というかお嬢には一条楽について聞いておかなれければいけないな。クロード様に写真貰ってないし。
「だがこれも任務。きちんとこなしてこそ一人前だ」
「なぁにが一人前なのよ?」
チョンチョンと肩をつつかれ振り向くとそこにはお嬢こと桐崎千棘がニヤニヤとしながら立っていた。そんなに俺はおかしな表情をしていたのだろうか?
「お、お嬢……驚かさないで下さいよ」
「ごめんごめん。で、クロードと何話してたの?」
「えっと……」
話していいものだろうか? いやしかしこれはクロード様に直々に言われた物。お嬢とは言え簡単に話していい物ではないな。
「私には言えないことなの?」
キュルルンという効果音が付きそうな風にお嬢は言った。その仕草や声色はぶりっ子と断言できるものだったが、桐崎千棘がやるとそのあざとさがまた魅力的に見えてしまった。いやダメだダメだ。彼氏がいるお嬢にときめいてしまうなんて! これでは任務に支障が出てしまう。
「いやこれはクロード様から直々に言い渡された任務であって、そ、そう簡単にお嬢にいう訳にはいかないというか━━━」
「プッ……アハハハハ! もう、そんなに慌てなくてもいいじゃない! 内容くらい私も知ってるわよ。あんたが私の義兄として学校に行くんでしょ?」
「し、知ってたんですか?」
「当たり前でしょっ。私はあんたの事なら何でも知ってるんだから!」
胸に手を当て高々というお嬢。流石だ、部下の事を把握しているのは当たり前という事か。ボスとハナさんの血を引いているだけはあるな……天性の才能という奴だろうか?羨ましいがあの両親から生まれたなら自然と納得できる。
「さ、流石ですお嬢」
「それと! 私に隠し事しないって前言ったでしょ? 私との約束を破る訳? いえ……違うわね。またクロードに言わないように言われたんでしょ? あいつ、私に対して異常に過保護だから。ホントめんどくさいわね〜」
はぁ……と日頃のクロード様を思い浮かべたのかため息を吐くお嬢。
確かにお嬢のいう通りクロード様は異常というに相応しいくらいお嬢に対して過保護である。学校に行く時も警護をしたりして周囲に人を寄せ付けないようにしていたりその他にもお嬢に近づこうとする人間のデータを調べ上げ安全かどうか確かめたりするほどだ。これを過保護と言わないで何という。
「まぁまぁ。クロード様はお嬢を心配してやっている訳ですし、そこまで言わなくても……」
「……何よ。あんたクロードの味方するっていうの?」
「い、いえ…別にそういう訳じゃ━━━」
お嬢の機嫌を損ねると後が怖い。前に俺が仕事で女の人と一緒になって、その後食事でもと誘われたのがバレた時お嬢は一週間口はおろか目線すら合わせてくれなかったのだが、その日から何故か俺の食事だけお嬢特性の手料理で埋め尽くされていた。正直お嬢の料理はお世辞にも上手とは言えない。もはや料理と呼んでいいのか分からない代物で一口食べたあの衝撃は今も忘れない。色んな料理をミキサーにかけた後調味料をありったけかけた様な衝撃を……。しかも俺の前には常にクロード様が座っており目線だけで何を言っているのか分かった。
『もし残してみろ……殺すぞ』
そんな事があってから極力お嬢を怒らせない様に心がけてきた。
「まーいいわ。あんたと一緒ってだけで安心したわ。クロードがいちいち付いてくる事ももないでしょうし」
「はい。クロード様に代わり精一杯私が任務を務めさせていただきます!」
「あぁ〜そんな堅苦しいの無し無し! あんたと私の関係は義兄妹になるんだからいちいち敬語になってちゃおかしいでしょ? だから私の前だけは敬語なし!」
「わかりま……わ、わかった」
「それじゃあこれからよろしくねお
悪戯っ子の様な笑みを浮かべお嬢は自室へと向かっていった。お嬢は結局なにをしに来たのか、まぁ多分俺をからかいに来たんだろうけど最後のおにいちゃんとは反則だ、不意打ち過ぎる……。
「あ……お嬢に話を聞くの忘れてた」
❤︎ ❤︎ ❤︎
月日は流れて某日。俺はお嬢もとい千棘と共に凡矢理高校へと足を踏み入れた。何故お嬢の事を千棘と呼んでいるかというとそれもまたお嬢からの要望であった。確かに妹
の事をお嬢と呼ぶにはいささか無理があるから当然といっちゃ当然だが、やはり呼び慣れないので咄嗟にお嬢と呼んでしまいそうで不安である。
そして現在。俺は担任の教師に連れられ自分の教室になる場所へと向かっていた。担任によると教室は3ーBらしい。3年生になってからの転校生とは珍しいと言われたがそこは家庭の事情という事にしておいた。一教師に俺はギャングです。と言ってしまえば一条楽の様に変に目立ってしまい監視が困難になるためだ。
教室に近づいてくると教室内から生徒達の声が聞こえてきた。転校生が来るというイベントにみんながワイワイと喋っていた。「どんな人なんだろう」とか「女の子がいいな」とかそれぞれの思いをいい合っている。当然それは俺にも聞こえているわけで……。
(変な期待を持たれると困るんだけどな……)
「はいはい静かに! えー……昨日も言った通り、今日は転校生が来ている。3年生になって転校してくるのは珍しいが家庭の事情という事なので、そこらへんは配慮する様に」
やはり家庭の事情という事にしておいて正解だった。これならお嬢との関係に色々言われなくて済むだろう。
「おーい。入って来なさい」
「はい」
担任に呼ばれたので教室に入ると視線が一斉にこちらに向いたのが分かった。
「アメリカから転校してきた桐崎です」
なるべく違和感のない様に自己紹介をする。苗字が桐崎なのは兄妹なのだ当然と言っては当然だ。
「終わりか? ほら、もうちょいなんかあるだろ? 好きな食べ物とか、好きなスポーツとか……」
今の自己紹介はいけなかったのだろうか? 俺としては当たり障りないものだと思ったのだけど……。
俺が無言になったので担任は慌ててクラスの生徒に俺と仲良くするように。と一言告げると俺に空いている席に座るようにと言ってきた。その指示に従い席に向かう。
(……視線が痛いな)
席に向かう途中ほとんどの生徒が俺を穴が空くくらい見つめてきた。確かに珍しいかも知れないが見世物になっているみたいで気にくわない。
俺の席は窓側の一番後ろで前には女生徒となりには坊主頭の男子生徒がいた。前の女生徒はチラチラとこちらを見てくるし隣の男子生徒はそわそわとしている。
「えっと……よろしくな? 桐崎」
「あぁ」
そわそわしていた男子生徒が話しかけてきた。だが俺はあまり仲良くする気は無いので適当に返事をした。男子生徒は会話が続かないと判断したのか若干落ち込みながら教卓の方へ向いた。
(休み時間は早速監視についた方が良さそうだな……)
担任の話を右から左に聞き流しながらそんな事を考えていた。