明久side
予選が終わり、特にやることもないので教室の手伝いをしようと思い、更衣室で執事服に着替えて教室に戻る。
「ただいま〜」
「あ、おかえりなさい明久。帰ってきて早々頼みたいことがあるんだけど……」
「どうしたのアリス?困った顔して……」
迎えてくれたアリスの顔はあまり芳しくない。何かあったのだろうか……?
「実は今お店にしつこいお客さんが来ていて……」
「しつこいお客さん?それって……」
『おいおいおい!いつまで待たせんだよ!』
『こちとらもう10分も待ってんだよ!』
そう中心のテーブルで叫ぶモヒカンとボウズの先輩の二人組み。
「えっと……あれ、だよね?」
「うん、さっきから5分ごとにああやって大声で文句言ってて……。それ以外のときもうるさいし」
「……あの二人が頼んだ料理は?」
「結構時間のかかる料理を頼んでたわね……。多分あと5分はかかると思うわ」
アリスはそう言いつつ調理場の方を見ながら答える
「そう、じゃあ僕がとりあえずなだめてくるよ」
「分かったわ。気をつけてね」
「はいはい」
そう言うと僕は手をヒラヒラと振りながらそう答えた。
「お客様、当店に何かご不満な点でも?」
僕はできるだけ丁寧にそう聞く。
少し演技がかっているが、まあいいだろう。
「ああん?なんだてめえは?」
いきなりそうボウズの客が返してくる
「これは失礼いたしました。私は当店のホール長を務めさせていただいております吉井明久と申します」
「吉井……それってどっかで……」
そうモヒカンの客は訝しげに僕を見てくる。ボウズの方も同様にだ
「それよりも先ほどから当店にご不満があるようですが、詳しくお聞かせ願えますか?」
「おおう、それなんだけどもよ、料理が来るのがおせえんだよ!」
「そうだぞ!先輩の俺たちをもてなすってのに、お前たちは何やってんだ!」
え、この人たち先輩だったの?
それにしては品がないな……
「先輩でしたのですか?それは失礼しました。よろしければお名前をお聞かせ願えますか?」
「おう、俺は3ーAの常村だ。んでこっちが……」
「同じく3ーAの夏川だ」
なるほど、ボウズの方が常村先輩でモヒカンの方が夏川先輩か……
だけど最高クラスであるAクラスか……
3年生も末だね、こんなやつらがAクラスなんて……
「失礼ですがご注文なさった料理の品名をお聞かせ願えますか?」
「ああん?それなら確か……」
そして注文した料理はどうやら結構時間のかかる料理だった。
「確かホールを担当させてる者にはその料理は時間がそれなりにかかるという旨を伝えるように言ってたはずですが……お聞きになってませんでしたか?」
一応接客業だしあんまり待たせるのも悪いから、こういう確認は徹底させてたんだけど……
「ああ、確かに言ってたけどよ、それにしては時間がかかりすぎじゃねえのか?」
「そうだぞ!もっと早くしやがれ!」
ちゃんと確認していたのに文句言ってくるって……
「しかしながらホールの者はちゃんと確認し、あなた方はそれをちゃんと受け入れた、ということですよでね?しかし急に文句を言い始める……」
「な、それは……」
よし、上手く戸惑ってくれているぞ
「さらにそれを言っているのは、学園の顔とも言える最上級生である3年生、しかも最高クラスであるAクラス……」
僕はできるだけ気づかれないように声を大きくしていく。
できるだけクラスにいるお客さんに聞こえるように
「それにこちらとしてもきちんと加熱を施すなどしなければなりませんからどうしても調理には時間がかかります」
さすがに生で提供するわけにはいきませんからね、と付け加える。
よし、このまま追い詰めるか……
「先輩方、もちろんそれを理解しての行動ですよね?」
そう言って先輩たちの顔を見るとこれでもかというくらいに歪んでいる。
やばい……笑そうだ……
「大変お待たせいたしました。ご注文の品でございます」
しかしそこで頼んでいたであろう料理が運ばれてくる。
ちっ、ここからが面白いところなのに……
「……おう」
「……置いといてくれ」
そして料理が置かれると僕は料理を持ってきたクラスメイトに下がるように合図する。
ちょっと物足りないけどここで仕上げにするか……
「先輩方……」
僕はさっきまでとは違い、小さく、低く、冷たい声音で二人に話しかける。
「料理を食べたらすぐさま出て行くことをお勧めします。それとまた当店の迷惑となる行為をあなたたちがした場合、速やかに教師に連絡がいきますのでご注意下さい」
すると二人が羞恥や怒りなどが混ざった顔になる。
「それではお食事をゆっくりとお楽しみください」
僕はそう言って頭を下げると待機場所に戻っていった
「よし、これで良いね」
「どこがよ」
そう言って後頭部に衝撃が走る。
どうやらアリスに叩かれたようだ。
「明久……あなたもっと穏便な解決ができなかったの?」
「うん……私も見てたけどあれはやり過ぎだと思うぞ……」
いつの間にか近くにいた妹紅にも呆れたようにそう言われる。
「充分穏便だったじゃないか」
「「どこがよ(だよ)」」
「いやだってさ、本当はあの二人をもっと挑発して僕を殴らせてから正当防衛で叩きのめそうと思ってたんだよ?ちなみに全責任をあの二人に押し付けて」
それに比べたら充分穏便だったと思うんだけど……
「……それやってたらすぐさま説教してたわね」
「ええー……」
「ええー、じゃないわよまったく……」
「ごめんごめん……次からは気をつけるよ」
「いつもそればっかりよね、あなたって……」
「そして改善された例はないしな」
そう言ってさらに二人に呆れられる。
「明久、話してないでこれ12番テーブルに持ってってください。妹紅とアリスも働いてくださいね」
そう言って咲夜が料理を乗せた皿を差し出してくる。
「了解、じゃあ僕はこれで」
そう言って僕はいち早くこの場を離れようとする。
「明久、あとでお説教しますから覚悟しといてくださいね?」
ただし、後ろからかけられた声は無視しておくことにした……