明久side
『坂本達の話だと、ここは何かよくわからん物を当ててくるらしいぞ』
『らしいな。さっきまで見ていたDクラスよりやりにくい』
今はFクラス突入部隊が警戒しながら進んでいるけど、僕は今はそれどころではない。
というのも相変わらずみんな(特にアリス)に抱きつかれてるため、周囲からの視線が突き刺さってすごく居心地が悪いのだ。
「ねえみんな、離れる気ってある?」
「…………無理。怖いもの」
「いや、アリスはそんなに怖いんならしょうがないけどさ…………ほか三人は大丈夫でしょ?」
「え、アリスもいいんなら私たちもいいだろ?」
「差別はダメです。平等にしてください」
「そもそも私は抱きついてないわ。裾握ってるだけよ」
ちくしょう、無理だったか……
しょうがない、周りの視線がちょっときついけど……。うん、役得だと思えばきっと耐えられる。現に今も柔らかい感触が……
『『うおっ!?』』
「ひゃあっ!!?」
押し当てられてるしいいいいいいっっ!!!??!!?
ヤバい、画面からの急な悲鳴に驚いたのかアリスがなお一層抱きついてきてお腹に柔らかいものが……
「だ、大丈夫だからちょっと離れようか。ね?」
「「「…………」」」
そう言いながらアリスの頭を撫でてるんだけど……なんで妹紅たちもそんな視線向けてくるの?僕はそんな視線向けられても興奮とかしないよ?
ガシッ×2
「…………なんで二人まで抱き締めてくるの?」
「「何となく(です)」」
そう言って腕を抱き締めてくる二人の表情はなんか少し満足そうだし……。
なに?なんなの二人とも?
ギュムッ
最後に霊夢まで後ろから首に手を回し、顎を肩に乗せながら抱き締めてくるし……。
「…………霊夢まで……」
「何よ………………悪い?」
「もう好きにしなよ…………」
うん、もう諦めよう。僕の負けでいいや、もう……。こうなったら周りから向けられる人を殺せそうな視線と嫉妬の怨嗟は我慢しよう……
『『『『ギャアアァァァァ!!』』』』
「!?」
そして諦めの気持ちで天井を見つめようと顔を上げたら、教室中とモニターから悲鳴が響き渡った。
な、何事!?もしかして何か仕掛けが!?ディスプレイを見るとそこには、暗い教室の一点を照らすスポットライトを浴び静かに佇む
全身フリルだらけのゴシックロリータファッションに身を包み、けばけばしい化粧をした坊主先輩こと夏川先輩がいた。
うわあ……あれは気持ち悪いを通り越して気色悪い……
やってることも心も絵面も何もかもが汚けらしい……
「え、な、なに?」
「アリス!見ちゃダメだ!見たらきっと立ち直れなくなる!」
ヤバい、あんなものアリスに見せたらきっと心が折られる。あれは絶対見せられない!
「さすがにあれは……気持ち悪いな」
「私もあれはちょっと……」
妹紅と咲夜も引いて目を逸らしてるし……
てか霊夢は無反応なんだけど……すごいな、これ見ても平静を保てるなんて……
カタカタカタカタ……
いや、ちがう!恐怖と吐き気で声出せないだけだこれ!ある意味一番ヤバいぞ!
「明久……ちょっと気分悪いんだけど……横になってていい?」
「あ、うん。どうぞ」
「……ありがと」
そう言うと僕の膝をまくら代わりにして横になる霊夢。大丈夫かな……?
「……突入部隊、全滅っ!」
うわあ……いつの間にか悲鳴に引き寄せられて他の突入部隊も全滅してるし。でもこれを責められる人がどこにいようか?
『坂本!仇を……!アイツらの仇を討ってくれ……!』
『俺からも頼む!このまま負けたら散っていったアイツらに申し訳がたたねぇよ……!』
教室中から仇を討ってくれと懇願される雄二。確かに僕も志半ばで散っていった彼らの無念を晴らして欲しい。
「わかっている。突入準備している連中を全員下げろ!ムッツリーニ&工藤愛子ペアを投入するぞ!」
『『『『おおおーーー!!』』』』
2人の名前を聞いて教室からは雄叫びが響き渡った。
『『『『ムッツリーニ!ムッツリーニ!』』』』
『『『『く・ど・う!く・ど・う!』』』』
鳴り止まないコールの中、工藤さんは緊張した様子もなくムッツリーニと談笑していた。
「あはは……期待されてるね〜、ボクたち。準備はいい、ムッツリーニ君?」
「……問題ない」
ムッツリーニと工藤さんを見ると、あの映像を見た後にも関わらず自然体だった。アイツらは化け物なのか?僕なんかよりもよっぽど人外じゃないのであろうか?
「頼んだぞ2人とも。なんとしてもあのゴスロリ坊主を突破して、Cクラスをクリアしてくれ」
雄二が真剣な面持ちで話している。
教室の広さからいって、あのゴスロリ先輩を突破すれば残りはチェックポイントだけのはず。Cクラスに配置されているのは保健体育の先生らしいから、そのままCクラス制覇だってあの2人ならできるはず。
「ん〜。約束はできないけど、やってみるよ」
工藤さんは飄々とした口調で雄二に答える。その口調には余裕すら伺える。
「ああ、頼む。ムッツリーニ、いけるな?」
「……問題ない」
静かに、小さく頷くムッツリーニ。
その面持ちには仕事人か何かの貫禄さえ感じる。
「……あの坊主に、真の恐怖を教えてやる」
そう言いながら教室を出るムッツリーニの背中は、小柄なあいつからは考えられないほど大きな背中に感じられたのであった。
「もうすぐ、あの映像がくる!各員、衝撃にそなえろ!」
雄二の指示が教室に響く。
ムッツリーニと工藤さんの持つカメラが例の場所に近づいていく。来るとわかっても耐え難い恐怖。モニター越しでも叫び出したくなるほどのプレッシャーだ。
「みんなも目を瞑ってなよ?分かってるとはいえ、アレはキツイからね」
「……もし、これでダメだったらどうする?」
「だ、大丈夫ですよきっと……」
「……私は無理ね。絶対に」
みんなは僕に抱きつきながらそう言ってくるけど……多分ムッツリーニたちなら平静を保ちながら素通りできるだろうから問題ないだろう。そうすればあのクラスにはもう入らなくてもいいし……
さて、ムッツリーニ達はっと。
『ムッツリーニ君。あの先だっけ?さっきの面白い人が待ってるのって』
『……あれが面白いかどうかはともかく、準備はできてる』
2人の立ち位置からして、カメラを構えているのは工藤さんで、ムッツリーニはゴスロリ坊主先輩の対策だろうか何か別の物を抱えている。
「やっぱりまた真っ暗になってるね」
「突然現れる方が効果があるだろうからな。タイミングを見計らってスポットライトを入れるんだろ」
闇の中でカメラがぼんやりと人影を映している。
つ、ついにあのグロ画像が……
「そろそろくるぞ」
「うん……!」
くっ……落ち着け、落ち着け僕……
頑張ればきっと耐えられる!
バンッ!←スポットライトのスイッチが入る音
ドンッ!←ムッツリーニが大きな鏡を置く音
ケポケポケポッ←坊主先輩が嘔吐する音
なるほど……鏡か。てかあの先輩も自分の姿を見て吐いちゃってるよ……
『て、テメェ!いきなりなんてもの見せやがる!思わず吐いちまったじゃねぇか!』
『……吐いたことは恥じゃない。人として当然のこと』
『くそっ。想像を絶する気持ち悪さに自分で驚いたぜ……。どうりで気付けをやった連中が頑なに鏡を見せてくれねぇワケだ……』
気付けしていた先輩方もさぞかし吐き気を我慢するのが辛かっただろうね。
てかゲロ吐くなよ……。ムッツリーニたちがクリアしてくれないと僕たちがあのゲロロード通らないといけないからね……
『って待てコラ!テメェなに人のこんな格好を撮ろうとしてやがるんだ!』
『……海外のホンモノサイトにUPする。それにもうすでに2ダース分は撮ってる』
『じ、冗談じゃねぇ!覚えてろぉお!』
坊主先輩はダッシュでその場から去っていった。これでCクラス最大の脅威は取り除かれただろう。
でもサイトにアップは止めてね?いろいろ苦情が来るだろうからさ……
『……先に進む』
『多分チェックポイントまであとちょっとだよね』
坊主先輩が走っていった方向に歩き出す2人。パーティションで作られた通路を少し歩くと、その先で3年生らしき2人が待ち構えていた。予想通り
『『『『試獣召喚《サモン》っ!』』』』
そして4人は同時に召喚獣を呼び出した。
ムッツリーニの召喚獣は……ヴァンパイアかな?ほとんどムッツリーニ本人と変わらないからよく見ないとわからない。
工藤さんのは……
「えっと……あれってのっぺらぼう?」
「まあ顔がないしな。だとすると特徴は……『素顔を見せない』ということか?」
素顔を見せない。それはつまり自身の本心をさらけ出さない、ということか?Aクラスで一緒に授業とか受けたり、イベントでもそこそこ関わってるけどそんな感じはしなかったし……
でも少し心配のような……
「そういえば、以前演劇の題目の候補として怪談話を探しておったのじゃが、その中に『のっぺらぼうの尻目』というものがあっての」
「尻目?」
「うむ。そののっぺらぼうはなんでも、人に会うと全裸になるそうじゃ」
……どうやら無駄なことに考える時間を費やしてしまったようだ。
それよりも勝負は……
保健体育
『3ーA 名波健一 306点』
&
『3ーA 市原両次郎 303点』
おっ、結構高い。僕もあれよりちょっと上なくらいだけど保健体育は受験の科目じゃないんだからもうちょっと手抜きしても良さそうなのに。やっぱりAクラスだけあって真面目なのかな?
『ムッツリーニ君。先輩達の召喚獣、なんか強そうだね』
『……確かに強い』
対するムッツリーニと工藤さんの点数は、
『2ーF 土屋康太 513点』
『2ーA 工藤愛子 383点』
『ーーーが、俺と工藤の敵じゃない』
『そうだね』
一瞬。瞬きしたら見逃してしまいそうなほどの時間でミイラ男とフランケンは地に臥した。
「なあ明久。今の勝負、何があったんだ?」
「早かったからね。はっきりと見えたわけじゃないんだけど……ヴァンパイアの方は、一瞬で狼に変身してフランケンを切り裂いて、また人型に戻っていたよ」
妹紅からの問いかけにそう答える。
僕も動体視力はかなりいい方だと自覚はしてるが、ムッツリーニの攻撃速度もなかなかのものであった。
「それではのっぺらぼうの方は?」
「えっと……これもはっきりと見えたわけじゃないんだけど……一瞬で全裸になってミイラ男をボコボコにしてまた服を着ていたね」
さらに咲夜からの質問に若干戸惑いながらもそう答える。
何故だ、何故服を脱いだんだ。その必要は無いはずだ。むしろ防御力が下がる可能性すらあるはずだ。
「ちなみにムッツリーニはその一瞬で出血・止血・輸血を終わらせていたね」
あの早業は日頃の訓練の賜物だろうね。実際に自分の命が懸かってるんだもん。救急隊員も真っ青なスピードだったね、アレは。
「それよりも明久…………見たんですね?」
「……………………ナンノコトカナ?」
「もちろん愛子(の召喚獣)の裸のことだな」
その言葉に質問してきた咲夜や妹紅だけでなくアリスと霊夢からも圧力が放たれる。
ヤバい、みんなから感じられる圧力に潰される……
「……ま、まああくまで一瞬だけだよ」
誤魔化してもどうせバレるし……うん、喋っておこうか。隠す方が怒られるからね……
ムギュッ×4 ←みんなの抱きつく力が強くなる
なんでえええええええっ!!??いや、アリスは素で怖いんだろうけどさ……他三人はなんで!?
死ぬのか?今日、ここで、死ぬのか!?最後にいい思い出をという気遣いなのか?
『じゃあ、Cクラスもクリアしたし、次に行こっか。次は……』
『……Bクラス』
『りょーかい。……で、ムッツリーニ君。どうして鼻にティッシュを詰めているの?』
『……さっきチョコレートを食べ過ぎた』
『ふぅ〜ん、ヘぇ〜』
そう言って鼻に赤く染まったティッシュを詰めながら必死に言い訳をしているムッツリーニは、先ほどまでとは違いとてもかっこ悪かった……