言っておきますけどこれは肝試しです
明久side
『口が2つある女の人ってなんのお化けだっけ?』
『……ふたくち女』
坊主先輩を(トラウマを植え付けることで)撃退したムッツリーニと工藤さんは、Bクラスに入って辺りのお化けをゆっくりと見ながら進んでいる。
『じゃあ、あっちの身体が伸びてる女の人は?』
『……高女』
『そっちの毛深い男の人は?』
『……知らない』
あの二人も余裕で歩いてるみたいだな……
「ふぅん、この調子ならBクラスの突破とは言わずともチェックポイントまではいけそうね」
「いや、それは難しいかもしれないね?」
「?どういうこと?」
そう言って(抱きつきながら)質問してきた霊夢に答える。
そうか、霊夢は転校してきたばっかりだからね……。ムッツリーニのことをあんまり知らないのかもしれない。
「先輩達は『土屋康太』の名前は知らなくても『保健体育が異様に得意な人がいる』ってことくらいは知ってると思うんだ。だとしたら弱点も知ってるかもしれないし……」
「弱点?弱点って言ったって、土屋なら鼻血吹いて倒れるくらいじゃないか?最悪画面真っ赤にして情報をこっちに渡さず……くらい?」
「いや、悲鳴じゃなくてもあいつの鼻血の噴出音とか……」
「……どんだけの勢いで出せばいいんだよ」
ま、さすがにそれはないよね。悲鳴の大きさの定義からすると、かなり大きな音が出ないと無理だし……
ん?それよりもモニターの前方になんかの人影?でもチェックポイントまでは遠すぎるし、人数は一人だからそれはないかな……?
『……っ!(くわっ』
『ム、ムッツリーニ君?何をそんなに真剣な顔を…………って、ああ……』
徐々にその人の姿がはっきりと見えてきた。……女の人か。
その女の人は髪を結い上げた切れ長の目の綺麗な美人で…………色っぽく着物を着崩していた。
『『『『眼福じゃあぁぁぁぁ!!』』』』
教室の中から歓喜の声があがる。クールな表情や長い手足。タイプで言えば霧島さんが近いだろうか。そんな人が着物を着崩して色っぽく立っているのだから、皆が叫ぶのも無理はない
「なるほどね……これがムッツリーニ対策か」
「確かに有効だろうな……」
ヤバい。あれはあのムッツリスケベには有効すぎる!まさしく必殺の一撃だ!
『始めまして。3年Aクラスに所属しております小暮葵と申しますの』
先輩は伏し目がちに頭を下げて挨拶をしても、着崩した着物はそれ以上はだけさせない。なるほど、相手もムッツリーニ対策は熟知しているといったところかな?
『小暮先輩ですか。こんにちは。ボクは2年Aクラスの工藤愛子です。その着物、似合ってますね』
『ありがとうございます。こう見えてもわたくし、茶道部に所属しておりますので』
『あ、そっか。茶道って着物でやるんですもんね。その服装はユニフォームみたいなものですよね。着方はエッチだけど』
『はい。ユニフォームを着ているのです』
……ん?ユニフォーム?普通、ユニフォームとかって運動部くらいでしか使わないぞ?なんか違和感が……
『そうですか。それじゃ、ボクたち先を急ぐので』
『そして、実はわたくし……』
『?なんですか?まだ何か』
『新体操部にも所属しておりますの!』
ムッツリーニにとってトドメとなる一言をぶちこむと同時にはだけられた着物は完全に脱ぎ捨てられ、その下からはレオタードを纏う小暮先輩が現れた。
『(ブシューーーーーッッ!!)』
『ム、ムッツリーニ君!?大丈夫なの!?明らかに出血量が致死量を超えてるようにみえるんだけど!?血も止まってないよ!?』
『……我が生涯に……一片の、悔い……無し……(ガクッ)』
『ムッツリーニくうううぅぅんっっ!!血が、血が止まらなああああいいっ!!?』
そしてムッツリーニが倒れ伏し、それを見た工藤さんの声によってメーターのラインが赤になり失格となる。
くっ……また一人、逝ってしまったというのか……
「くそっ!やってくれたな……!ムッツリーニの本能の前には、はだけた着物だけでも限界ギリギリだってのに、その下に露出満点のコスチューム!?アイツがそんなもんを直接見て耐えられるわけがねぇ!!」
『大変だ!土屋が倒れた!助けに行ってくる!』
『待て!1人じゃ危険だ!俺も行く!』
『俺だって土屋が心配だ!』
『俺も行くぜ!クラスが違ってもアイツは仲間だ!見捨てるわけにはいかねぇ!』
『『『『うぉぉおおおお!新体操ーーーー!!』』』』
…………ウチの学園の男子はバカばっかりだ。なんでほとんどの奴らが逝くんだよ。入った瞬間にアウトになったじゃないか
「くそっ!あんなん突破できる男子は明久くらいだぞ!他の奴が行くと全滅だ!」
「え?なんで僕?てか雄二はダメなの?」
「前後左右を女子に抱きつかれていても平然としているお前ならいけるだろうさ。あと俺は……」
「……雄二、直で見るならオシオキ」
「こういうわけだ」
なるほど、雄二が霧島さんと行くと目潰しをされて悲鳴をあげてアウトになるということか。
てか僕の行けるって理由酷くない?でも確かに行けそうだけど……
「じゃあまた僕が行こうか?」
「いや、ここはお前を温存しておく。突入準備をしている奴らを全員下げろ!木下姉妹ペアを突入させる!」
なるほど……秀吉には色仕掛けも通用しないだろうし、安心できるね。
それに姉の木下さんはAクラス上位だしチェックポイントのクリアも充分射程範囲内だ。
「雄二、お主今姉妹と言わんかったか?ワシは男じゃぞ!」
「よし、頼んだぞ秀吉、木下姉」
「はあ……気が進まないけど行くわよ、秀吉」
「待ってくれ姉上、ここで誤解を解いておかんとワシは、ワシはあああっ!」
そう叫びながら、秀吉は連れ去られていったのであった。
『はあ……ワシは……ワシは……』
『ホラ、いつまでクヨクヨしてんのよ。さっさと行くわよ。アタシこんなの得意じゃないのに』
『姉上、何か踏んでおるぞ』
『あ、気付かなかったわ』
Bクラスに入った二人は何の抵抗もなく進んでいく。未だ悲鳴の一つもあげようとはしていない。
あとそろそろあの先輩のところか……
『あら?女の子同士のペアですか。それなら私にはどうしようもありませんね』
おっ、最初から色仕掛けが通用しないというのかすんなりと通してくれた。
これなら……
『待ってくれ』
いや、伏兵……ってモヒカン先輩か。
でもモヒカン先輩はただ立っているだけで、ゴスロリ坊主先輩のような奇抜な(汚らしい)格好というわけでもない。召喚獣もたしか、牛頭だか馬頭だかだったから悲鳴を上げる要素が見当たらない。
『む?』
『来たか、木下。待っていたぞ』
『んむ?ワシを待っていた?どういうことじゃ?』
『秀吉、なんだか知らないけど早く済ませてよね』
『そうじゃの。手短に頼むぞい』
『ああ。大丈夫だ。時間は取らせねぇ。……いいか、木下秀吉』
『なんじゃ』
画面の中、モヒカン先輩が真剣な顔で秀吉に一歩近づく。あれ、なんか嫌な予感が……
「ヤバい!みんな、嫌な予感がする!耳を閉じて目をつむるんだ!」
「え、え?」
「ど、どうしたんだ?」
「早くするんだ!さっきのゴスロリ坊主並に嫌な予感が……」
しかし忠告は遅かったようでモヒカン先輩ははっきりと、聞き間違えようのない口で、秀吉に告げた。
『俺は………………俺は………お前のことが…………好き、なんだ……』
『ーーーーー』
僕は、僕らは出会って初めて、秀吉の本気の悲鳴を耳にした。