やはり俺の高校生活は気付かれないまま終わりを告げる。   作:to110

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やってまいりました最終章。って言っても前書きを書いてる時点では終わるかわかってませんからね(主に私が)。
最後の彼ら彼女らの行動にご注目を。
ついに幕が降りる長篇シリーズ最終話、では、どうぞ。


最終章 彼ら彼女らはそれぞれの解を見つけ出す。

「雪ノ下、ひとまず話そう」

 

 

「話すことなんてないわ」

 

 

彼女は顔を伏せている。顔を見られたくないのだろう。だが、それは無駄なことだ。俺は今、疲れて座っているのだ。顔が赤く眼が赤く、今にも泣き出しそうな、そんな顔を俺は見ている。

 

 

「俺はある。だから話をする」

 

 

「ずいぶんと傲慢なのね」

 

 

「俺はいつだって傲慢さ」

 

 

「なら、何を聞きたいのかしら?」

 

 

「そう結論を焦るな。ただ、話をするだけだ。まぁ、その中に聞きたいことは含まれてはいるが」

 

 

「では何?世間話でもするのかしら」

 

 

「まぁそんなところだ」

 

 

「ただの時間の浪費よ。無意味だわ」

 

 

「俺はお前と、お前たちと、過ごした時間を無駄だと思ったことはないけどな」

 

 

「あなた…らしく…ない…わね…」

 

 

「感情を騙す必要なんてないさ。笑いたければ笑えばいいし、叫びたいのなら叫べばいいし、泣きたいのなら泣けばいい」

 

 

「…………そう。前言を撤回するわ」

 

 

「ん?」

 

 

「あなたらしいわ、やっぱり。その雰囲気は、あなたのものよ、間違いなく」

 

 

「そりゃどうも。んで、とりあえずこっちに来い」

 

 

「いや、よ」ニコッ

 

 

そんな顔で返されても……………

 

 

「はぁ………んじゃそのままでいいや。雪ノ下さんとの話で出てきた、お前ののんだ条件ってなんだったんだ?」

 

 

「そうね。私が母に逆らったこと、覚えてるいかしら?」

 

 

「ああ、覚えてる」

 

 

「結婚相手を母に勝手に決められて、それに逆らったのよ。好きな人がいるから、と。そしたら比企谷君の退学、よ。姉さんからの条件は母への謝罪。そして、この場合の謝罪はすなわち、婚約を認めることになるわ」

 

 

そこで話を切った。口が渇いたか、落ち着きたいか。まぁなんにせよ、

 

 

「これでも飲め」ホイッ

 

 

決まっている。水を投げた。

 

 

「あら、この中にはなにが入っているのかしら」

 

 

「水だ。毒も睡眠薬も入っちゃいない」

 

 

「そう。ならいただくわ」ゴクゴク

 

 

雪ノ下が飲む、ゆっくりと、ゆっくりと。そして

 

 

「ありがとう、美味しいわね」ニコッ

 

 

「そうか…………」

 

 

なんでそんな風に笑っているんだ……………

さっきの泣きそうな顔はどこにいったんだよ……………

 

 

「なんでお前はそんなに笑ってんだよ」

 

 

「あら、楽しいのに笑ってはいけないかしら?」

 

 

「お前が今からやろうとしていることは決して笑えない」

 

 

「ならば、眼を瞑ってなさい」キュッ

 

 

「おい!まて!」

 

 

なんでそうなる。

どうしてそうなる。

 

 

「比企谷君、由比ヶ浜さんに伝えてほしいことがあったわ。伝えておいてくれるかしら」

 

 

「そんなもん自分で伝えろ!」

 

 

俺はこんなに足が遅かったか?

なんで彼女との距離がこんなにあるんだ。

 

 

「……………結衣っ。楽しかったわ。ありがとう」ニコッ

 

 

「おい!雪ノ下!」

 

 

手が届かない。伸ばしても伸ばしても。

 

 

そして彼女は視界から消えた。

 

 

「……………さよなら」

 

 

そんな声が最後に聞こえた。

 

 

俺は救えないのか。

彼女を救えないのか。

なぜ救えなかったんだ。

 

 

後悔は後だ。俺にはやるべきことがある。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……………結衣っ。楽しかったわ。ありがとう」ニコッ

 

 

「おい!雪ノ下!」

 

 

彼が走ってきてる。でも、彼は運動不足ね。全然こちらに近づいてないもの。私が今までで最高の笑顔を見せたのに彼は気にしてくれないのね。ちょっと、ほんのちょっとだけ、悔しいわね。

そして、彼に聞こえるかどうかの声で言う。

 

 

「……………さよなら」

 

 

彼が視界から消えていくわ。比企谷君……………由比ヶ浜さんとお幸せに………………

 

 

私は眼を瞑り地上を迎える。

楽しかったわ。人といることがこんなに楽しく感じられる日がくるだなんて、思ってなかったもの。

 

 

………………んっ…………………

 

 

ここはどこかしら。死後の世界ってあるものなのね。そんなもの信じてなかったけれど。

 

 

……………………下!

………………………ノ下!

 

 

この声、懐かしいわね。今も耳で聞こえる。彼の声は耳に残るものなのね。どうやら、死んでも彼は私を離す気はないらしいわね。

 

 

「雪ノ下!」

 

 

「えっ⁉︎」

 

 

名前を呼ばれて眼を開く。意識して開けたわけではない。それから、眼の前には白い背景と、比企谷君と由比ヶ浜さんが………………

 

 

「やっと眼が覚めたか」

 

 

「ヒッキーが無茶するからだよ」

 

 

「どう………して………………」

 

 

わけがわからなかった。なぜ彼らがここにいるのかしら。

 

 

「ふっ、今回の種を教えてやろう」フッフッフッ

 

 

「ヒッキー、きもいよ」ニコッ

 

 

「えー、そんなにきもくないだろ」

 

 

「あなたの気持ち悪さは一級品よ」

 

 

「なんでこんな状況でお前がそのセリフを吐けるかが謎だ………」

 

 

「ほらほらヒッキー、説明してあげなよ」

 

 

「俺が学校に行く前に由比ヶ浜に連絡して、マットを置くように言った」

 

 

「人集めるのとかチョー大変だったんだからね〜」

 

 

そういうこと、ね。つまり比企谷君の策略にまんまとはめられたわけね。

 

 

「ということだ。まぁ、俺が止めるのが最高のかたちだったんだがな。…………っと雪ノ下も眼が覚めたし、雪ノ下さんに報告してくる」

 

 

「ヒッキー」

 

 

「ん?」

 

 

「ありがとね」

 

 

「なんのことだか…………」ポリポリ

 

 

ガチャ

 

 

彼は外に出ていった。

 

 

「由比ヶ浜さん、その……………」

 

 

「………いやーゆきのんが貧血で落ちちゃうなんて驚いたよ〜」

 

 

「……………えっ?貧血?」

 

 

「そうそう。やっぱり記憶ないんだね」

 

 

「いえ、私は……………」

 

 

「貧血だよ!」

 

 

「」ビクッ

 

 

彼女らしからぬ、そんな大声で放った言葉の意味がわからない。貧血という単語ではなく、叫んだ意味が。

 

 

「ゆきのんが……………自分から……………落ちる……………なんて……………そんなの……………私……………私は……………」ポロポロ

 

 

私はこんなに、こんなに大切な人を傷つけていたのね。

 

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。由比ヶ浜さん」ギュッ

 

 

「ゆきのん……………ゆきのんがいなくなったら……………私は……………いやだよ……………」ポロポロ

 

 

「ええ、いなくならないわ。私は」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

俺は外でそんな会話を聞いていた。すると、

 

 

「比企谷君〜、報告はどうしたんだ?」ニコッ

 

 

「盗聴でもしてたんですか……………」

 

 

「いやだな〜。妹とは深〜い絆で繋がってるんだよ?だ・か・ら、わかるの♪」

 

 

「まぁ、なんにせよ。そちらが来てくれるのは計算内ですので、計画どおりですよ」

 

 

「あはは〜。比企谷君の計画に引っかかっちゃったか〜。悔しいな〜」

 

 

「んで、なんで近づいてきてんですか?」

 

 

「私、比企谷君に惚れちゃった」

 

 

「……………は?」

 

 

「おいおい〜。美人からの告白をそんなふうに返したらいけないぞ〜」

 

 

「いや………なぜ?」

 

 

「比企谷君かっこいいも〜ん」

 

 

「いや、でも…俺は…」

 

 

「雪乃ちゃんかガハマちゃんのどちらか、でしょ?」

 

 

「⁉︎……………ええ、そうです」

 

 

「あ〜あ。私の初めての告白が振られちゃったな〜。比企谷君、頑張ってね」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

だが、ここで終われない。絶対にしなければいけないことが、残っている。

 

 

「雪ノ下さん」

 

 

「ん〜、なにかね?未来ある若者よ」

 

 

「なんすかその言い方。大して歳変わらんでしょ」

 

 

「だって私は振られて傷物になっちゃったんだもん」

 

 

「……………流していいですよね?」

 

 

「……………うん、いいよ」

 

 

本当に悲しそうな顔をしている。そんな、そんな彼女を見ているのはあまり悪い気はしなかった。

 

 

「雪ノ下がこんなことしたんですから、結婚の件は……………」

 

 

「ああ〜、それは大丈夫。お母さんが諦めてくれたわ。それから……………」

 

 

ためてるな。よっぽどのことがあったのか?

 

 

「すごく喜んでた。私に逆らうだなんて………みたいなこと言いながら、すごい楽しそうだった。だから、心配しなくていいよ。比企谷君は比企谷君の気持ちに従ってね」

 

 

「ええ、そうさせていただきます。ありがとうございます」

 

 

「じゃ、中の話も終わったみたいだし、私はそろそろ行くね。ばいば〜い」

 

 

「さようなら」

 

 

ガチャ

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

ガチャ

 

 

ヒッキーが入ってきた。ありがとう、二人で話せるタイミングを作ってくれて。

 

 

「んで雪ノ下、体調は大丈夫か?」

 

 

「あなたの腐った眼を見て悪くなったわ」ニコッ

 

 

「ヒッキー、早く眼を瞑って。ゆきのんが体調崩しちゃうよっ」ニコッ

 

 

「俺にそんな力はねーよ」フッ

 

 

これだ。この三人でこうやって楽しくやりたかったんだ。やっぱり三人が楽しい。この空間は一人でも欠けたらいけないんだ。

 

 

「ヒッキー‼︎」

 

 

「なんだ?」

 

 

「まだやらなきゃいけないことが残ってるよっ」

 

 

「え?なんかあったか?」

 

 

ふふっ。ヒッキーはわかりやすい。ほんとはわかってるくせにね。ヒッキーは言い出しにくいから私たちのどっちかに言ってもらおうとしてる。

 

 

「私はヒッキーのことが好きです。だから、私と付き合ってください‼︎」

 

 

「由比ヶ浜さん、抜け駆けはずるいわよ。

比企谷君、あなたのことを誰よりも好きです。私と付き合ってください」

 

 

そして間を置かずに

 

 

「ヒッキー‼︎」

「比企谷君!」

 

 

「なんだ?」

 

 

「返事は月曜日に部室で聞かせてね」

「返事は仕方ないから月曜日でいいわよ」

 

 

「……………ああ、しっかり考えておく」

 

 

「言っとくけど、どっちか片方を選んでも私たちの関係が変わるなんてないんだからねっ」

 

 

「ええ、その通りよ。だから比企谷君は自分の気持ちに、素直にね」

 

 

「俺に素直なんて形容は合わないな」

 

 

「そうかしら?」

 

 

「ヒッキーはいつでも素直だよ。それから、すごくかっこ悪い」

 

 

「なんで?俺チョーかっこいいだろ」

 

 

「へへっ、そうかな?」

 

 

「そうかしら?」

 

 

「……………んじゃ、俺はそろそろ。」

 

 

「ああ待ってヒッキー‼︎」

 

 

「雪ノ下はお前に言いたいことあるみたいだし、俺がいたら恥ずかしくて言えないからな」

 

 

「そうなの?」

 

 

「え、ええ」

 

 

「んじゃ」

 

 

「ばいばいヒッキー」

 

 

「さようなら比企谷君」

 

 

ガチャ

 

 

「ゆきのん〜。言いたいことって何〜?」

 

 

「あの、その…あれよ…」

 

 

ゆきのんかわいい。おどおどしててかわいい。

 

 

「ゆ…ゆ…」

 

 

ゆ?お湯でも飲みたいのかな?

 

 

「…ゆ…結衣!」

 

 

「えっ?」

 

 

「……………だ、だめかしら?」

 

 

「嬉しいよゆきのん〜」ギュッ

 

 

ゆきのんが名前で、名前で呼んでくれた‼︎やったー‼︎

 

 

「やっぱり恥ずかしいわね」

 

 

「うん、最初はね。でも少しずつ慣れていこっ」

 

 

「そうするわ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ちゃんと言えるんだな。雪ノ下も成長したということか。なら、俺も決断しよう。どちらを選ぶか真剣に。あの日は戸惑っていた。どちらかを選べば壊れると。ならどちらも取らず、俺そのものがいなければ、と。そんな大回りで遠回りな道を辿ってようやく今だ。この一連の件は決して無駄じゃない。雪ノ下は人のことを考えられるようになり、由比ヶ浜は時間を大切にするようになり、俺は、美少女二人に告白されてそれを心から喜び、そして、それに対して胸を張れる。あの日とは違う。どうしていいかわからなかったあの日とは。まずは小町にでも自慢するか。

こんな環境で過ごせて、俺はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーーーー幸せものだ




お読みいただきありがとうございます。いや〜、なかなかいい話だと思います。てか、4000字オーバーってなんだよ。無理に押し込みすぎだろ。2000字前後に抑えられなかった。
結局、無難でかついい終わりにしました。いやー、いろいろと結論考えてたけど、これが一番しっくりきたんですよね。というか、八幡はこの終わり方が似合ってるかなっと。笑
今までお読みいただきありがとうございました。
次回シリーズをお楽しみに!ではでは!
ちゃんちゃん。

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