一発ネタですので続きません、ご容赦ください。
仕事中に突然思いついたので短編作品として描いてみました。
本当に勢いだけで書いたので山もなければ谷もありませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
武内P以外のキャラについてはあとがきにて簡単に紹介します。
「――武内、先輩?」
街中で突然自分の名前を呼ばれて振り返ると、彼にとって懐かしい顔の男がいた。
「――お久しぶりです、川村君」
「ご無沙汰、してます」
アイドルの女の子たちから目つきが悪いとされる自分をも凌ぐほど目つきが悪い後輩、川村ヒデオはそう言って小さくお辞儀をした。
二人は高校時代の知り合いだが、そのきっかけが何を隠そうお互いの目つきの悪さにあった。
廊下の角で出会い頭にぶつかった二人は、まず互いにその目つきの悪さに並ならぬシンパシーを感じた。
「……先輩。苦労、してますか?」
「……それは、君もではありませんか?」
なにで、とは言わない。それこそこの二人には愚問だろう。
そんなやり取りからはもう流れるように意気投合した。
やれ挨拶をしただけでクラスメイトのみならず一部の教師にまで引かれるわ、やれ買い物に来ただけで警察に笑顔で肩を叩かれるわ、高校生が受けるにはハードルが高い扱いを受けたこともあったと愚痴をこぼしあうほどに。
そんな当時をしみじみと思い返し、二人はゆっくり話そうと近くの公園へと移動し、ベンチに腰掛ける。
「川村君は今、何をしてますか?」
「……いわゆる、宮仕えを、しています」
「宮仕え? それは凄いですね」
「まあ……いろいろ、ありまして。 ……先輩は?」
少々歯切れの悪い答え方だったが、彼は自分に向けられた質問に答える。
「私は、346プロダクションでアイドルのプロデューサーをしています」
「…………凄い、ですね」
驚いた風に目を丸くし、ヒデオは二重の意味で感想を述べる。
一つは大手企業に就職したこと。もう一つはアイドルのプロデューサーをしているということだ。
別に自分が上京してから累計44社連続で書類審査段階で弾かれたことと比べて普通に就職している彼を妬んでいるつもりはない。むしろ目つきの悪い人間でもちゃんとした企業に就職出来るのだと言う、ある種の希望すら感じられるのだ。
そしてもう一つが、目の前の人には縁が無さそうなアイドルのプロデューサーという仕事についてだ。
才能ある女の子たちの命運を握っているという相当なプレッシャーが容易に想像できるだけに、内心で自分にはとても出来そうにないと付け加えて改めてヒデオはその姿を眺める。
カバンと一緒にパンフレットと書かれたプロダクションの封筒を携えており、おそらくこれからアイドルとしての勧誘に向かう途中だったのだろう。
「凄い、ですか……私自身、まだまだ未熟だと感じていますが」
何かを思い返すように目を伏せる姿を見てやはりアイドルのプロデューサーは大変なのだと思うと同時に、地雷を踏んだかとヒデオは内心で焦った。
「未熟なのは。僕も同じです。就職して日が浅いので、職場の先輩に言われたことをしようと、必死になっています」
「それは新人にとって、避けては通れないことですね」
「はい。先輩がその業界に入って。どれほど立つのかわかりませんが……未熟者だと思うのでしたら、未熟者同士、精進していきましょう」
「――――川村君」
ヒデオの真摯な言葉に感じるものがあったのか、彼の表情が幾分か柔らかくなる。
――しかし、その先の言葉は続かなかった。
「あー、君たち。ちょっといいかな?」
突然第三者の声がかかり、二人は同時に前を向く。
「公園に不審者たちがいるって通報があってね。少し、そこの交番まで同行してもらえるかな?」
警察という名の
◇
互いにあの手この手で誤解を解くことに成功し、二人は交番の前で別れることになった。
「それでは、私はこれで。川村君、今日はありがとうございました」
「いえ。こちらこそ。 ――大変だと思いますが、頑張ってください」
「そちらも、頑張ってください。 では」
小さく頭を下げ、プロデューサーの顔になった彼は勧誘をしている少女を説得するべくその場から立ち去る。
去っていく彼の後姿を眺め、ヒデオも用事を済ませるべく踵を返す。
「やっほー、ヒデオ君」
と、突然聞いたことのあるやかましい音と共に見慣れたディアブロが止まり、開いた窓からこれまた見慣れた二人が顔をのぞかせていた。
運転席に座っている若い男はかつて勤めた会社の社長で、助手席に座るもう一人は同じ会社のトップにして職場の先輩の姉である。
表側だけ語るならこの程度で済むが、裏側を語れば少し面倒なことになるので割愛しよう。
ヒデオが二人に会釈をすると、女性が身を乗り出して尋ねる。
「なんかあったの? ヒデオ君ほどじゃないけど目つきすごい人と一緒にいたけど」
「あの人は。高校の時の、先輩です」
「ほう、君のいた高校はあんな目つきをしたやつがごろごろいるのか?」
「いやいや、ご主人様。あんな目つきができる人がごろごろいたら木島連隊がとっくに目をつけてますよ」
木島連隊なるものがどういった組織か知らないが、あまり普通の組織ではないだろうと判断してヒデオは質問をする。
「お二人は、どちらへ?」
「何、少しうちの社員が取り立てに梃子摺っていると聞いてな。ストレス解消も兼ねてお話をしようというわけだ」
「そのついでにちょ~っと、鉄臭いトマトが飛び散っちゃうかもしれないけどね」
「そう、ですか」
危ない発言が漏れてもヒデオは動じない。なぜなら、彼らがどういう組織なのかをよく知っているからだ。
「できれば。穏便に、してください」
「無理だな。なんせうちは――」
「『悪の組織』だからね」
それだけ言い残し二人を乗せたディアブロは爆音を上げて走り去る。
ヒデオは彼らに楯突いた人に合掌をして、今度こそ用事を済ませるべく歩き出した。
最後の二人はノリで出てきました。
特に深い意味はありません。
川村ヒデオ
林トモアキ氏作『戦闘城塞マスラヲ』並びに続編『レイセン』の主人公。
『レイセン』におけるヒキニパ神の下りは作者の腹筋を容易に破壊した。
ここでは高校時代に目つきの悪さから武内Pと意気投合したという設定になっています。
ディアブロの助手席にいた女性
本名は名護屋河鈴蘭(ボイスシアターCV:猪口有佳)。
『戦闘城塞マスラヲ』の前作に当たる『お・り・が・み』の主人公。
悪の組織『伊織魔殺商会』の会長にして影の総帥、そしてメイド長。
途中から常識が超電磁鈴蘭となってかっ飛んでしまった。
ディアブロの運転席にいた男
本名は伊織貴瀬(ボイスシアターCV:小西克幸)。
悪の組織『伊織魔殺商会』の社長。通称たぁくん。
携帯電話の着メロが『巫女みこナース』であることが『お・り・が・み』で発覚した。