◆
「GAAAAAA!」
本当にこれが人間なのか?!
強すぎる!
私達と互角、いやわずかに押されている。
迂回するにも、あまり離れると射線上に出てしまう。
人間を傷付けてはいけないとはいえ……………
「――――っ!」
危険な気配を察知し、咄嗟に躯を低く屈める。
瞬間、私の上で風を斬る音がした。
更に――――。
「「「ッギャ!」」」
部下の断末魔が、幾つか重なった。
どうやら私を討ち取ろうとした蹴りが、三匹の兵の胴体をまとめて両断したらしい。
血と腸が舞い、地面と私達の躯を濡らした。
その凄惨な光景を見て、一匹の兵が立ちすくむ。
目の前の人間………怪物が彼の隙を逃す訳もなく、右手で彼の頭を掴んだ。
「ガァァァ――――――っ!」
「やめてくれっ!」
私の懇願するような制止の声を、怪物が聞いてくれる筈もなかった。
ミシミシと、何かが軋む音が聞こえてくる。
怪物はそのまま、彼の頭を握り潰した。
「………貴様っ!よくも私の部下を!」
作戦も何もかも頭から飛び、怒りのまま目の前の怪物に跳び掛かろうとした時。
背後から銃声が鳴り響いた。
…………っは!何をやっている私は!
お陰と言ってはなんだが、どうにか正気を取り戻せた。
だが、何故銃声が?
まだ射線上に出てない筈。
残っている3匹の部下も、出ていない。
「何が……………っ!」
わずかに私の意識が怪物からずれた。
その隙を逃すほど、この怪物は甘くはなかった。
「GAAAAAA――――!!」
私の眼前に、もう避けることが出来ない距離に、怪物の魔手が迫っていた。
◆
俺たちは、いや俺だけは、絶対に生き残って成り上がる。
そんなことを考えながら、当馬は駆け続ける。
…………ざまあみろ! ざまあみろだ、馬鹿共! 正しいのは俺だ、生き残るのは俺だっ!
正義だなんだと宣う、奥羽の連中。
女の癖に、偉そうに俺の上にたっていること。
そして、捨て駒の様な部隊の、気味の悪い間抜けな男 。
その全てを嘲って、彼は走る。
だが――――
『―――――――――っ!」
この中の誰が知ろう。
侵入者たる人間達と、偶然か木々の拓けた場所ではち合わせになることを。
………何で、何で人間が此処にっ?!
一瞬で、当馬達の脚が硬直する。
お蔭か人間達はまだ気づいていなかった。
………ビビるな、落ち着け!どうやら、まだ天は俺を見離していないようだ。
人間達は、他の群に集中して当馬達の事にきづいていない。
今すぐ、気付かれないように静かに立ち去れば大丈夫だろう。
そう考え、ゆっくりと後ろ脚を戻す。
「お前ら、音をたてるなよ、ゆっくりだ………」
「ハァイ、帰レルト思ッタ?思ッチマッタ?残念ダッタネ此処デ止マッテネ!!」
不吉な声が背後から聞こえた。
とっさに振り向くが、誰もいない。
その際、少しばかり音をたててしまったが………幸いにも気付かれなかったようだ。
「誰だ…」
できる限り声を小さくし、謎の声主に問う。
だが、返事が返ってこない。
それどころか、何かが声主の琴線に触れたのか、くつくつと笑っている。
「何が可笑しいっ!」
「イヤァ、馬鹿ガ慌テフタメクノハ、観テイテ楽シイモンダネ♪
モウ少シ観テイタイケド………モウ時間ダネ」
当馬達には、何を言っているのか理解出来なかった。
「時間?」
「ソレジャァ、始メヨウカ――――――」
「何を言っている?!」と当馬達が言う前に、声主の咆哮が奥羽の山に響き渡った。
「っな?!!」
そんなことをしてしまえば……と、当馬達は人間の方を向く。
やはり違う方向に向いていた人間達が一斉に此方を向いた。
そして、当馬達に銃口が―――。
「っひぃ!」
「クソッ逃げろ!」
当馬は叫び、人間に背を向け逃げようとする。
だが人間は待ってなどくれなかった。
次の瞬間―――
「「「―――ッグハッ!」」」
深夜の森に、火花が咲いた。
◆
五衛郎。
元々山賊にして、現奥羽軍の部隊長。
彼の率いる部隊は、奥羽軍の部隊の中で異質の存在であった。
それも、彼女を除き、その全ての部下が謎に包まれているからだ。
その姿、名前、数すら不明。
常に裏で画策し、知らぬまに奥羽軍の劣勢をひっくり返してしまう。
加えて彼の容姿が、不気味さを助長させてしまっていた。
表に出ているのが彼と彼女だけなので、畏怖の視線と陰口が彼に集中してしまうのは自明の理。
私は陰口とかそういうものは嫌いだ。
その様な輩は、軽蔑こそすれ、仲間意識等持ちたくもない。
だから私の部下には言わせないし、言う奴もいない。
だが、他の者はそうもいかない。
よく聞くのは、化物やヒ犬。
ヒ犬が何かわからず、部下に聞けば………何とも馬鹿らしいものであった。
火傷から連想される火と、彼奴は犬ではないという非をかけたという巫山戯た蔑称。
………まぁ、部下でも仲間でもない奴に注意する義理はない。それに、私が言わなくても言うやつがいるしな。
五衛郎の部下で、唯一表舞台に出ている女……夏魅。
素晴らしい武勇を誇り、義侠の心を持っていると聞いているが………彼女は五衛郎に心酔しているらしい。
そんな蔑称を彼女が聞けば、どうなるか語るまでもないだろう。
ある意味有名な彼等だが、彼等の心根や性分を知らない。
私は、軍義以外で彼等と話したことがあまりない。
だから、目の前で起きたことが信じられなかった。
「――――大丈夫、か?」
窮地に陥った私の前に、彼が颯爽と現れた事が。
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